多くのゲームファンがどよめいた2015年6月のE3でのトレイラーデビューから2年足らず、一度の延期を経て3月2日に日本での発売を果たす『Horizon Zero Dawn(以下、ホライゾン)』の製品版をプレイする機会を得た。プレイ内容はスタートからチュートリアルを経てストーリーの大きな展開を見せる手前まで約1時間、そしてオープンワールドを自由に歩きまわれる状態の1時間である。
E3でのトレイラーを見ていた時のSNSの情況を思い出した時、グラフィックの美しさに対する賞賛の言葉と共に思い出されるのは、人類文明の荒廃から遥か未来の世界と、機械の獣、そして狩猟の混合という、今までありそうでなかった世界観のイメージが想起させる「未踏の大地での大冒険」への期待の声だった。それから先、完全新規IPにも関わらず発表後から今日までずっと本作には同様の期待が寄せられ続けてきた。結論だけ述べれば、無論プレイ時間の範囲内という留保はあるものの、『ホライゾン』ばプレイヤーが刺激されたその冒険心を満足させるに足る内容だった。
物語の冒頭からわずか1時間程度の時間で、人類滅亡から千年後の世界へ自然と足を踏み入れた感覚を抱く導入部分は、物語の背景に隠れた深みを感じさせるものであり、世界観を理解すると共に主人公アーロイに感情移入していくのに充分な内容だ。説明過多を避けつつもプレイヤーを突き放すことなく、ダイナミックさを感じさせる物語とはかけはなれた丁寧さで描かれている。
ゲームプレイのユーザーインターフェースや操作感もわずらわしさを極力廃した、直感的なものになっており、そこにも本作全体に通じる作りこみの丁寧さを感じさせる。たとえば狩りの中、アーロイの使う道具や弓の矢などは、アイテムホイールにセットされているものならわざわざオプションメニューを開いて作成する必要はなく、ゲームを中断することなくそのままの画面で作ることができる。さらにオーバーライド(機械獣をハッキングして支配するシステム)して騎乗できるようになった機械獣はもちろん自分で操作可能だが、ほっておいてもボタンを押しっぱなしにすれば道なりに進んでくれたりする。これらの細やかな気配りは、とにかくゲーム内でプレイヤーがプレイ中に感じるストレスをどこまで削れるかという、強いこだわりを感じるほど考え抜かれたものであり、余計な中断がない分ゲームプレイの没入感が高まるという効果を生んでいる。
戦いではなく、狩りであるという感覚
機械動物の生態も本作の興味深い点だ。たとえば「ウォッチャー」は小さくてさほど強い動物ではないが、こちらを見つけると襲い掛かってくる。「ストライダー」は「ウォッチャー」より大きくて強靭に見えるが、人間を見つけると逃げていく。「ソウトゥース」などは凶暴そのものであり、群体で生息しているものもいれば、「トールネック」のように巨大で単体で行動する種もいる。
恐らく本作でもっとも重要視、また期待されているゲームパートは、機械動物の「狩り」の部分であろう。基本的にアーロイは常に持っている弓と、近接戦闘用の槍で狩りをすることになるのだが、それはもともとの印象よりはるかに「弓」に依存しなくててよいものとなっている。もちろんR3ボタンボタンの押し込みで発動するスキャンによって弱点を探し出して、そこを弓で射抜いていくという方法もある。ただし小型の敵なら気づかれずに近づいてステルスキルすることも可能ではあるし、また「トラップキャスター」などの電磁式の罠に敵が掛かった時は、近づいて槍で殴った方が効率が良い場合もある。同じ矢でも火矢でスリップダメージを狙う方法もある。
共通して言えるのは、このゲームにおける「狩り」は、その複合的な段取りそのものにゲーム性の本質が込められているということだ。機械動物たちの習性と特性を知り、その知識から段取りを組み立て、計画通りに上手くいった時の快感が間違いなく面白さの本質である。『ホライゾン』の狩りというのは、単なるアクションシューティングではなく、つまりそういった類の「狩り」だ。最終的に弓で止めを刺すにしても、必要とされるのは知識と知恵。実際の狩猟など、ほとんどの人間が経験したことがないと思われるが、本物の狩りというものが単純に火力に頼るものではないのを直感的に理解できる。同じように罠や弓を使うにしても、基本的なベクトルが『モンスターハンター』の狩りとずれているという意味でも、『ホライゾン』の狩りは真新しさを感じさせるものだ。
1000年後の現実世界がどうなっているかは想像力の中にしかないが、本作の世界の中の自然環境は実に美しく豊かだ。実は現代でも見られるような野生生物も存在しているし、人間は原始時代に戻ったような生活をしているが、それなりに暮らしていけているようである。広大なフィールドには過去の人類の文明を彷彿とさせる建造物があったり、あるいは「古の輝く腕輪」などという名称の「腕時計」などがアイテムとして登場したりと、要所要所でこれが原始時代ではなく未来の世界なのだと認識させてくれる。今回アンロックされていない部分のマップがどういったテイストで味付けがなされているのかはわからないが、サブクエストで訪れる古の遺跡などの描写のユニークさを見るに、おそらくプレイヤーに飽きがこないような設計がなされているのだと思われる。点在するサブクエストをこなしていくのも良いだろうし、武器や服装のカスタマイズや、商人から買い物をするために素材を集めていくのも良いだろう。自由に遊びまわる為に細心の注意を払って作られた未知の新世界は、歩き回るだけで充分に発見に満ちたものであり、何よりその世界を「知る」ための仕掛けがあらゆるところに張り巡らされている。望んでいたものが「未踏の世界での冒険」であるかぎり、『ホライゾン』はその要望を裏切らない。
非常に先が気になる物語
オープンワールドであれば作りや話に粗が見えても許される時代はとうに過ぎ、成功するオープンワールドゲームには、快適なゲーム性と優れた「物語」は必要不可欠な時代になった。どこでなにをやってもいいという、広い「自由度」と濃縮された「物語的な盛り上がり」という一見矛盾する二つを両立しなければならない困難は、察するに余りある。しかし、もちろんたかだか2時間程度のプレイで分かることは非常に少ないにせよ、今回の体験会で見た中だけでも、少なくとも序盤の展開だけで「これからの展開が気になって仕方ない気持ち」という感情を醸成させる結果になったのは、『ホライゾン』というゲームの期待値を上げる好材料だ。ただし、物語はその結末をみるまで評価を下してよしとはできないものではあり、発売後に1人のプレイヤーとしてあらためて検証したい大きな一つのテーマである。
期待を込めて
体験会という特殊な状況下だけで判断するならば、『ホライゾン』は間違いなくファーストトレイラー時の興奮をそのままゲームとして落とし込んだ、今後のAAA級タイトルとしての展開が強く期待されるゲームであったのは間違いない。ほぼ問題点は見つからなかったのが現状ではあるが、逆にその中だからこそ唯一目立ったのが、「対機械動物」ではなく「対人間」との戦闘の練りこみの足りなさだ。確認不足の可能性もあるので断言はできないが、人相手にサイレントテイクダウンが取れない、ヘッドショット判定がない、敵の投擲物がいつどんなタイミングで自分にあたってるのかの判断がしづらいなど、ストレスを感じる部分がある。他の部分でしつこいほど丁寧に作ってあるからこそ目立つ粗が対人戦にはあるように見受けられた。これは全体のクエストの分量の中で人間と戦うシーンがどれだけあるかによって評価が変わる問題だとは思うが、人間と戦うシーンが比較的多い場合には、作品の評価そのものを落としかねない部分と言えるかもしれない。
【UPDATE 2017/2/17 17:00】 「人相手にサイレントテイクダウンが取れない」と記載しておりましたが、実際には人間相手のサイレントキルはスキルを入手することで可能となっています。背後から、上空から、ぶら下がり状態からのサイレントキルが可能となっており、ヘッドショットの判定も設定されています。これらの情報について誤った記載があったこと、訂正しお詫び申しあげます。
ともあれ、全ての判断を下すための材料はまだ何も揃っていないが、今年もっとも注目される新規IPの一つとしての『ホライゾン』には、注目されるだけの「価値」がきちんと備わっていることだけは安心していい。期待されていた「狩り」の面白さと「胸が高鳴る冒険譚のプロローグ」は確実に存在している。あとは製品が発売された後、自分を含めプレイヤー各人が判断することになる。
最後に、ここはごくごく個人的な意見なので無視して構わない部分だが、体験会の会場だった表参道のやたらとオシャレな空間でゲームをプレイしているという認識を忘れるほど、筆者は『ホライゾン』に没頭したことを付記しておきたい。