仮に、宇宙皇帝になったとしよう。100を超える惑星の統治。強大な諸外国との外交。海賊や非文明種族の襲撃。それら諸問題に対し皇帝の時間は有限だ。広大な宇宙をひとりで取り仕切るのは無理があり、有能な官僚の手を借りるしかない。だが、その官僚たちが帝国収入の20%も横領していたなら、君はどうする? 皇帝に忠誠を誓わず反乱をもくろんでいたなら。解任したとして次の官僚が無能であれば。さらに、彼らが派閥をつくりあげたとしたら? 『Stellar Monarch』が描くはるか未来の君主制は、ままならない楽しさに満ちた妥協の連続だ。
『Stellar Monarch』
開発 Silver Lemur Games
発売日 2016年12月5日
価格 19.99ドル
プラットフォーム PC(Windows)
ターン制宇宙4Xゲーム『Stellar Monarch』は、もともと「Pocket Space Empire」の名で開発が進められた。発売後、タイトルのPocketがスマートフォン用ゲームを想起させるという理由で改名したが、元のタイトルは本作の開発コンセプトを完璧に言い表している。ファイル容量は約62Mb。チープなグラフィックで通常時のBGMは1曲しかない、ポケットマネーでつくったかのような宇宙帝国である。
だが、ポケットから飛び出た宇宙はプレイヤーの野心を飲み込むほどのサイズに膨れあがる。惑星数は標準サイズで500もあり、ゲームクリアに要する時間は約8時間。十分すぎる大きさだ。そうした広大な宇宙帝国の統治は驚くほど簡単で、プレイヤーはわずかばかりの指示をだすだけでよい。勝利条件をはじめ、意欲的に新要素を導入した『Sid Meier’s Civilization』系ではない4Xゲームだ。
皇帝の最初の仕事は内閣大改造である
『Stellar Monarch』の魅力は、広大な宇宙を治める管理手法が新たなプレイ体験を生み出した点にある。多くの4Xゲームは、国土の拡大とともに操作項目が増える。4Xゲームはユニットや都市の効率的な運用を競い合うゲームであるため、プレイヤーに膨大な手数を課してしまう。「マイクロ管理」と呼ばれるこの問題を回避すべく、これまでさまざまな手法が編み出されたが、本作はその中でもかなり極端な手法で対処した。
マップ上での仕事は、どの惑星に入植し、艦隊でどこを防衛・侵攻するか、を決めるだけでよい。惑星の発展や、軍備の増強はすべて自動化されており、帝国全体の産業出力の配分を定めるだけだ。艦隊の移動指定も自動設定でき、「方面軍」とすれば国境へ駐在する。これらの徹底した自動化によって、膨大な施設建設リストを作成したり、工業力の高い惑星を探して艦船建造ボタンを連打したりといった操作を廃除した。そもそもそういった操作すらできないので作業する必要がもとからない、というワケだ。
本作の独自性は、単調作業の自動化と帝国運営を切り離した点にある。ゲーム勝利の鍵となる効率化を、すべて皇帝の執務室に集約したのだ。そこでは内閣を管理する。内閣の大きさは常に一定で、国土が拡大しても管理に要する手数が増えることはない。皇帝の仕事とは、もっとも有能で、もっとも忠実で、もっとも腐敗していない人々に、帝国のしかるべき地位を与えることである。最初のターンでやることは、ズバリ、内閣大改造だ。
無能な役人の首を刎ねろ!
本作では皇帝が細部まで指示をだすのではなく、間接的に宇宙の統治を官僚にまかせることになる。プレイヤーがマイクロ管理をしなくてもよい本作の仕様は設定的に不自然なく盛り込まれ、さらに単調な管理作業には背信や汚職、派閥争いが渦巻く腐敗した内閣を立て直すという「人間味」が加えられている。
プレイヤーが管理する内閣には、6つの部門、3階層の計18席の高級官僚が在任している。官僚はそれぞれ「完遂」「忠誠」「汚職」値と「派閥」をもち、上の役職になるほど国力への影響が大きくなる。部門の完遂値が低ければ税収や戦闘力といった効率がさがるだけでなく悪いイベントの発生率があがる。忠誠値が低ければ反乱度があがり反乱軍が出現する。汚職値は毎ターンの収入から着服する「公金横領」を左右する。さらに、官僚の派閥が偏ると、反乱度があがり横領額も増える。プレイヤーは人事ポイントを消費し、無能な官僚を降格、異動、そして解任し、有能で忠実でそしてクリーンな内閣を目指すのだ。
帝国のガンとなる官僚を排除しても、内閣の改造は終わらない。10数ターンごとの「会議」でさまざまなイベントが発生するのだが、その中には、暗殺やテロ、陰謀や裏切りなど、官僚の不徳にまつわる事件も含まれる。疑わしい部門をすべて粛清するか。背信や汚職が広がるのを放置するか。といった悩ましい選択が盛り沢山だ。会議ごとに人事ポイントが回復するので、内閣を改善し続けよう。
本作の勝利条件は大まかに言えば“善政であること”であり、内閣システムのコンセプトとマッチしている。敵対国家の廃除ではなく、他分野にわたる銀河的偉業の複数達成を目指すのだ。「反乱の防止」「惑星の忠誠度(内閣を改善すると、惑星知事の汚職を一斉摘発するイベントがおきる)」「皇帝への敬意」や、「所持惑星数」や「人口数」。さらに「ストーリーの達成(会議のイベントで進展する)」などなどが、帝国を治める内閣を治めるプレイヤーの手腕にかかっている。効率化に具体性をもたせ、明解な目的を与えることに成功した。
サイズは1/5でよかった
『Stellar Monarch』は管理項目を内閣と会議に集約することで、宇宙帝国の管理を簡潔にまとめあげた。こうした簡略化で内政要素が犠牲になっていない点も見どころだ。惑星への入植は、産出する食料やガスなどの資源、希少物資、母星からの距離による影響力を考えねばならない。帝国方針の指定、研究項目も多数ある。ターン経過で時代経過し、文明国、非文明種族、海賊が強化される。チープな見た目からは想像できないほど本格派のつくりである。
しかし、本格派志向が裏目に出た点もある。それはゲームのコンテンツ量に見合わないマップサイズだ。通常サイズで500惑星、最小でも300惑星あるが、一度に征服活動できる惑星は2、3個に限られている。ゲームを手早く終わらせることができず、本作の不出来な部分と向き合う苦痛を招いている。チープなグラフィックに1曲しかないBGMと、画面から得られる感動はほとんどない。内政管理画面はGUIではなくコマンド選択で、官僚をどこに動かしたのか分かりづらい。艦隊は自動化の都合で作成や解散ができず、軍備を自由に再編できない。ゲームが手短に終わるなら我慢できるが、筆者実測の8時間ともなると、筋金入りのストラテジーファンでなければ耐えられないだろう。
本作は4Xゲームであると同時に、官僚管理ゲームである。一番楽しいのは、会議で官僚の陰謀が発覚し、手塩に掛けて築き上げた内閣を自ら粛清する、「泣いて馬謖を斬る」かどうか悩むときだ。これが手軽に味わえるよう、惑星数や他国の数、会議の頻度といったゲーム設定の選択幅を広げてほしかった。リリース予定の拡張で、プレイ体験の密度を維持しつつゲームサイズが見直されることに期待する。
総評
内閣管理を通じて間接的に宇宙を統治するもどかしさ、ままならなさ。そこに本格派志向の内政要素がかみ合い、『Stellar Monarch』は妥協を繰り返して改善しつづける喜びに満ちている。ゲームコンテンツに見合わない宇宙の大きさが、チープなアートワークとお粗末なユーザインタフェースのマイナス印象を増幅したのが残念だ。元のタイトル名どおり、ポケットに収まるサイズで遊びたかった。