実績1708個。実績解除ラッシュという新しい快感を生んだ物理パズル『Zup! 3』をシリーズの流れの中で考える
物理パズル『Zup!』シリーズは、パズルの内容よりもその脅威の“実績数”によって注目を浴びている作品だ。ゲームを立ち上げメニューをクリックするだけで実績解除の通知がなだれ込む。ステージクリアごとに十数個単位で実績が解除されるため通知表示が追いつかない。シリーズ1作目・2作目はいずれもクリアまでに要する時間は15分から30分と短いが、実績数はそれぞれ118個、229個という大作級の数字を残していた。しかも定価はわずか98円。圧倒的なコストパフォーマンスだ。1月12日に発売されたシリーズ3作目『Zup! 3』でも倍々に増えていくのかと思いきや、実績数1708個という急激なインフレを起こした。
FPSの銃撃やハクスラの斬撃とは異なる、いわば実績解除ラッシュとでも呼ぶべき快感を生み出した『Zup!』。ゆえにイロモノ扱いされているのもまた事実。パズルの中身について語られる機会は少ない。本稿では実績数を作品価値の一部として取り込んだイロモノとしての『Zup!』を認めつつ、極めて真面目な物理パズルとしての『Zup!』にも目を向けていく。
自らに課した制約との戦い
実のところイロモノゲー『Zup!』としての側面は、エスカレートしつつある実績数で区切りがついている。パズルの設計自体は極めて素直かつシンプルであるからだ。1作目で確立したルールから大きく逸脱することなく、自ら課した制約の中でプレイヤーを退屈させないパズルをいかに量産するか。開発元のQuiet Riverはこうしたストイックな姿勢を貫いている。1作目のリリースが2016年10月、2作目が同年12月、3作目が2017年1月と、短い開発スパンで大量のパズルをひねり出すさまには週刊誌・月刊誌並みのスピード感がある。
イロモノとして振り切るのであれば、新しいギミックを次々と導入することで奇抜路線を突き進むことだって可能なはずだ。それはそれで話題になっただろう。Quiet Riverが初代『Zup!』で定めた枠組みを守り続ける姿勢からは、パズルゲームの開発者としてのプライドを感じ取れる。しかも開発ペースが早いだけあってパズルづくりの苦悩すら見えてくる。前作よりもボリュームを増やすためにステージの焼き増しを図ったり、新しいギミックを用意するものの使い切れずに終わる点がよい例だろう。『Zup!』は無機質なミニマルデザインを採用しているが、ちょっとした人間臭さも秘めているのだ。
ここで『Zup!』のルールを説明しておこう。各ステージには4種類の基本ブロックが登場する。マウスでクリックすると爆発する「赤ブロック」、爆風で吹き飛ばせる非固定型の「黄色ブロック」とそこから連鎖して動く「青ブロック/青玉」、そして爆風にも耐える固定型の「紫ブロック」である。プレイヤーの目的は「青ブロック/青玉」を目的地である「緑タイル」に運ぶことだ。そのためには「赤ブロック」の爆風をうまく利用する必要がある。プレイ中に行き詰ったり「青ブロック/青玉」が画面外に落ちた際はブロックの配置をリセットできる。また一部のステージでは特殊なギミックとして移動型の「緑ブロック」が登場する。「緑ブロック」はほかのブロックに触れると動きが止まる。
「青ブロック/青玉」という書き方をしているのは、2作目で四角いブロックが円形の玉にマイナーチェンジされたからだ。よって2作目以降は「青ブロック」ではなく「青玉」と呼ぶのが適切だろう。運ぶブロックを四角形から円形に変えるというのは些細なようで、実のところパズルの可能性を大きく広げる革新的な仕様変更であった。後述するように「玉を転がす」ことで動きのあるパズルをつくりやすくなったからだ。
マイナーチェンジにとどまった2作目と異なり、『Zup! 3』ではクリックすると消える「白ブロック」と「青玉2つのステージ」という2つの新ギミックが追加された(厳密には「白ブロック」は初代『Zup!』のDLCで登場済み)。本シリーズのようにルールを固定しながらもボリュームを増やすタイプの続編は、どうしてもマンネリ化という問題に直面する。パズルの数は1作目から44個、66個、77個と着実に増えており、4種類のブロックでこれだけのパズルを構築するには限界がある。ギミックの追加は新しい体験を届けるためには不可欠だったのだろう。とはいえ突拍子のないギミックを放り込むのではなく、ルール改変を最小限に抑えている点にはこだわりを感じる。
似ているようで洗練されつつあるパズル
これまでパズルの構成要素であるブロックと玉について触れてきたが、続いてパズルの種類を分類してみる。正解の「赤ブロック」を当てるワンショット型、タイミング型、「赤ブロック」を押す順番を考える順序把握型、箸休め的な爽快バースト型。大きくはこの4つに分けられる。もちろんゲームの後半ではこれらをミックスした応用編のステージが増える。
基礎を教えることにゲームの大半を費やした1作目と異なり、2作目では13ステージ目という比較的早い段階でタイミング型が姿をあらわす。順序把握型は12ステージ目で登場する。以降、「赤ブロック」をタイミングよく、かつ順番に押すという応用ステージが続く。1作目よりもペース配分が早くステージ数も多いのは、「青ブロック」を「青玉」に変えることで「玉を転がす」という挙動を追加し、パズルの幅を広げることに成功したからだろう。「赤ブロック」をビリヤードのキュー、「黄色ブロック」を白玉と見立てて「青玉」を突くパターンが繰り返される。そして中盤の45ステージ目からは「緑ブロック」のお出ましとなる。1作目では4ステージでしか使われなかったが、2作目では計16ステージで役目を与えられている。動きのある「青玉」にマイナーチェンジしたことで、同じく動きのある「緑ブロック」との相性がよくなったことも関係しているのだろう。
3作目は2作目とペース配分が似ている。12ステージまではワンショット型、13ステージ目から順序把握型、15ステージ目からタイミング型が登場する。そこから先はしばらく2作目の焼き増しが続く。ただし前作の難点を修正しており、パズルとしての完成度は上がっている。というのも、2作目のパズルには「青玉」の落下が急であり、タイミングをとるのが難しいステージが存在した。カジュアルなパズルゲームにしてはタイミングがシビアすぎたのだ。3作目ではその点を緩和している。落下しはじめるまでの青玉の動きを緩やかにする、または落下しきるのを待ってもよい設計にすることで「赤ブロック」をクリックするタイミングを取りやすくしたのだ。
1作目で使いこなせなかった「緑ブロック」を2作目で有効活用し、2作目で荒削りだった「青玉」パズルを3作目でブラッシュアップした『Zup!』。前作で得た学びを次回作へと確実にフィードバックしている。そうなると気になるのが3作目で(ゲーム本編としては)初登場となる「白ブロック」と、「青玉2つのステージ」の存在だ。2つとも簡単な使い方しかされておらず、ポテンシャルを発揮できているとは言い難い。「白ブロック」が登場するのは10回、「青玉2つのステージ」は6回のみ。両方がセットになったステージは1つもない。新ルールを使いこなせずに終わっている。だがシリーズ1作目から3作目までの流れを踏まえると、次回作では新ルールをうまい具合に発展させてくれるのではないかという期待をいだける。
『Zup!』シリーズは天井知らずの実績数によりイロモノとしての性質が強まっているが、同時にパズルデザインも洗練されつつある。このまま成長を続け長寿シリーズとして定着すれば、イロモノであることと良質な物理パズルであることの両立を図れるだろう。ただしパズルが複雑になりすぎると実績解除ラッシュの爽快感が薄れるため、ほどよいバランスも求められる。いずれ実績数が1万を超えても不思議ではない作品だけに、膨れ上がる実績数と釣り合うシンプルかつ良質なパズルを量産できるのか。次回作があるとすれば、これまで以上にパズル製造機としての資質が問われるだろう。