『ヒーラーは二度死ぬ』レビュー。ヒーラーとは司令官だ、管理・情報処理能力が試される後衛シミュレーター
『ヒーラーは二度死ぬ』は2016年6月にSteamとPLAYISM、PlayStation 4で発売されたPon Pon Gamesによるリタルタイムヒーリンストラテジーゲームだ。本作はRPGのパーティーにおける後衛のひとり「ヒーラー」を操作し、騎士とともに迷宮脱出を目指すことが目標となっている。ヒーラー自身には体力の概念がなく、前衛がゲームの鍵を握っている。前衛が死んでしまうとゲームオーバーになり、はじめからやり直しになるので、ゲームシステムとしてはローグライクゲームに近い。プレイヤーはサポート役として騎士を回復させたり、スキルをレベルアップしたりしながら騎士が敵を倒す手助けをしていく。敵は4匹ずつ横に並んでおりそれぞれの列の先頭を倒すと後ろに控えている敵が前に進んでくる。プレイヤーは敵を攻撃することができないが、一方で戦況を大きく左右する役割を担っている。それが本作のテーマである回復だ。
とにかく胴体を守れ
回復はスキルを用い、マナを消費しておこなわれる。騎士の体は頭、右腕、左腕、胴、両足と5つの部位に分かれていて、それぞれに体力が設定されている。胴以外の4つは戦闘不能になっても包帯かスキルで回復することが可能であるが、胴の体力がゼロになるとそれ以上冒険を続けることはできない。胴を優先して守ることはもちろんのこと、それ以外の部位が戦闘不能にならないようどの部位を優先して回復するかということも重要だ。各部位が戦闘不能になってしまうと、その部位に対応して攻撃力などのステータスが低下するのだが、プレイしていて特にこの部位を倒されたらまずいと感じることもなく、部位ごとの役割の差別化はあまりできていないように感じた。部位ごとの役割がもっと明確になっていたならば、さらに戦術性が高まっていたと考えると惜しい。
回復はマナを消費するスキルに加え、アイテムのポーションでもおこなえるので、マナが足りていないときには積極的に活用したい。また、夜間はマナが、朝は体力が自動的に回復していくので、時間にあわせた戦術を練る必要がある。スキルは全部で10種類あるが、そのうちの8種類を解放・レベルアップさせることができるようになっている。こうしたスキルのなかからどれを優先して上げていくかも迷宮を脱出する上で重要だ。やや残念なのは、スキルを解放する際に時間を止めることができないことだ。慣れないうちはスキルの効果を理解するのも一苦労で、スキル自体を無視しながら進めて行き詰まり、ゲームオーバーになりがちだ。こうしたスキルを覚えていくことで「プレイヤースキル」が上がっていくことを実感できるものの、たとえ難易度を下げる原因になったとしても、プレイ中にじっくりスキルの効果を確認できるような措置はほしかったところだ。
ダメージ源を断て
このゲームにおいて、癒やすことと同様にどの敵を狙うかということも重要になる。たとえば、序盤にはスライムとゴブリンが出現するが、ゴブリンの方が攻撃力が高いため、先に片付ける必要がある。優先順位を決めて倒していかなければすべての列にゴブリンがいるといった事態に陥りかねない。敵の選択が重要な理由は、このゲームの鍵となるアイテムの存在にある。アイテムは、敵の群れの中にランダムで配置されている。前方にいる敵を倒せばそのアイテムを入手できるという仕様になっているが、前から3列目までしか視認できないため、視界に入るまでは手当たり次第に敵を倒していくしかない。「時間がかかるだけで、結局は全部倒していけばいいのではないか」と思うと大間違いだ。というのも、このゲームには厳しい時間制限が設けられているのだ。
生命よりも大事な松明
迷宮の中は非常に暗く、騎士たちは常に松明であたりを照らし続けている。しかし松明には限りがあり、悠長にしているとすぐに燃え尽きてしまう。松明がなくなればそれ以上進むことができなくなり即座にゲームオーバーとなる。そうならないためには、敵の群れのなかにまぎれて落ちている松明を回収しなくてはならない。この松明は実質的に時間制限になっており、ゲームにほどよい緊張感をもたらしているというわけだ。ちなみに、本作はとにかくよくゲームオーバーになるが、途中で死んでしまってもポイントが手に入り、そのポイントを使ってヒーラーのポテンシャルや能力を強化していける。この点はカジュアルなローグライクをプレイしたことがあれば馴染めるだろう。
松明は、最初のうちはすぐに見える場所に落ちていたりするが、奥へと進んでいくと敵を倒しても現れなくなってくる。松明を求めて手当たり次第に敵を倒していくか、ひとつの列を集中的に片付けていくか。どちらの方法を選んだとしても、松明があらわれるとは限らない。松明が尽きかけているなか、ちまちまと敵を攻撃しているときの絶望感はすさまじい。そうならないために少しでも時間短縮をしたいという際に役立つのが宝珠だ。宝珠は赤い玉のようなアイテムで、これを使うと数秒後に目の前の敵が一掃される。したがって宝珠を用いることで状況を一変させ、大幅に時間を短縮することが可能になるのだ。しかし宝珠を使うことでほかのアイテムも消し去られてしまうので、使うタイミングにも注意しなけなければならない。
それぞれのステージにはひとつずつ松明と宝珠が配置されている。どちらかを拾えないだけで大きな時間損失となってしまう。効率よく、そしてより長く進めるためにはまず松明を確保してから宝珠を使って敵を片付けなければならない。より早い段階で両方を手に入れることができれば、心にも時間にも余裕ができ、その後は戦って経験値を稼ぐも宝珠を使ってさっさと進むも自由だ。いち早く松明や宝珠をゲットし、さらに攻撃力をアップさせるアイテムなども余裕を持って手に入れたあとに宝珠で敵を一気になぎ払う感覚は爽快だ。この気持ちよさが本作の最大の楽しみといっても過言ではない。
ちなみにこの松明は、ほかのアイテムを燃やすことで火を長く持続させることができる。アイコンの右下にカーソルを合わせると×ボタンが出現し、これをクリックすると燃やすことができる。ただ注意したのは、この×ボタンはとにかく誤ってクリックしてしまう絶妙な位置に配置されていることだ。誤って宝珠を燃やしてしまった日には立ち直ることができなくなるので、マウスとキーボードで本作を遊ぶ際には注意してほしい。
ほかにも本作には落とし穴といえるような不親切な点がいくつかある。その代表が、チュートリアルと呼べるようなものがほとんどないことだろう。ゲームを始めると、プレイヤーはわけのわからないままゲームに放り出されてしまう。回復方法などはなんとなく理解することはできるものの、基本の流れをつかむまで時間がかかってしまう。アイテムの説明などもされることがないので、リアルタイムで戦闘が進んでいくなか、よくわからないまま使うことも多々ある。そのために、このゲームの面白さに気付くのに時間を要することになった。前述したスキルも同様であるが、もう少し親切なチュートリアルがあれば入り込みやすかっただろう。
ヒーラーとは司令官だ
このように『ヒーラーは二度死ぬ』は非常に忙しく、情報処理能力や判断能力を問われる作品だ。とにかく管理することが多く、前衛に細かく指示を出し、戦況全体を掌握するという点では、ヒーラーというより司令官と言ったほうがふさわしいだろう。はじめのうちは操作もアイテムの使い方もわからないままに放り出されすぐに死んでしまうかもしれないが、何度も何度も試行錯誤してプレイを重ねていくうちに敵の倒し方や回復、アイテム使用のタイミングといったコツがつかめていく。
ゲーム説明が不親切な面は確かにあるが、プレイを重ねて少しずつ生き延びる時間が長くなっていく感覚は病み付きになる。見たことのない敵やステージに出会ったときの高揚感はローグライクならではの魅力だ。プレイヤーは後衛という騎士のサポート役でありながら、戦況を大きく左右できるというところに本作の醍醐味がある。戦うことに飽きた人もそうでない人も、一度ヒーラーになって冒険してみてはいかがだろうか。