スマートフォン向けのゲームは操作が比較的簡単だ。慣れれば慣れるほどゲームプレイのペースは上がり、プレイヤーは自由なテンポでゲームを遊ぶことができる。『Buriedbornes』は、悩ましい局面の連続を楽しませる反面、繰り返しの退屈さに陥りがちなレトロターンベースRPGを、そんなスマートフォンのデザインにうまく落とし込んだ意欲作である。1回のゲームオーバーごとにほぼすべての能力がリセットされ、またダンジョンの構成も変化するタイプのゲームで、気がつけば何度も突入してはやられてを繰り返している。

プレイヤーはゲームオーバーになるたび、クラスや所持品を調整し、新しい「ぼうけんしゃ」を作成してダンジョンにのぞむ。ダンジョンの進み方はつねに、ふたつ用意された右か左の部屋をタップして進んでいくというものだ。部屋のなかにはアイコンが表示されており、そのアイコンが部屋のなかに進んだときに発生するイベントを示す。

この作品のシステムの基盤となっているのは、5つまで所持できるスキルと、3つの装備の組み合わせだ。新しい装備はすべて、ダンジョンのなかにある「なきがら」から得ることができる。「なきがら」とは、先に行って死んでしまった、他のプレイヤーが育てたキャラクターの亡骸のこと。彼らの遺志を継ぐように、スキルや装備品を回収していけるわけだ。ちなみに本作にインベントリはなく、スキルも装備も予備のものを持っておくことはできない。所持しているものと取り替えるべきかどうか。悩ましい装備が見つかったとき、その判断はつねに一回限りの、取り戻すことができないものとなる。

それぞれのスキルの威力が依存するパラメーターは、基本的に「きんりょく」「ぎりょう」「まりょく」「しんこう」の4つに大別される。自分が持っているスキルに合わせた装備品を選択していくことで、レベリングよりも効果的にキャラクターを強化することができる。また、さまざまな特殊効果をもたらすパラメーターも存在しており、敵に状態異状を与えたり、自身のスキルのクールダウン時間を短縮したりと、多彩な戦略を取ることができる。装備とスキルの素晴らしい組み合わせが実現できれば、軽快にダンジョンの深層へと進んでいくことができるだろう。

ダンジョンを進み、「まもの」のアイコンが表示されている部屋に入ると、すぐに戦闘が始まる。音とキャラクターの動き、テキストのポップアップだけで表現された戦闘は、グラフィカルなエフェクトを一切使用しないことで、とても早いペースを作ることに成功している。装飾を取り払うことで、キャラクターが持っているパラメーターに集中してプレイすることができるのだ。各階層に存在する「ボス」を倒すと、つぎの階層に進む。レベリングによって得られる恩恵があまり大きくなく、低い階層で得られる装備も強力ではないので、キャラクターの強化のためにずっとおなじ階層に留まりつづけるような退屈なゲームプレイが助長されないのも好ましい。

階層が進むにつれて一筋縄ではいかない敵が多くなり、先述した装備とスキルの組み合わせをよく考えていく必要がある。とはいえ、手に入れられる装備の効果は完全にランダムなため、強いビルドを作るためには運も必要になる。周回プレイでスキルやアイテム、各部屋に表示されたアイコンについて学び、だんだんと慣れていくことで、ある程度運のなさをカバーできることは確かだ。それでも大した装備が出なければ簡単にやられてしまうのは、ローグライク型のゲームにとって仕方のないところだろう。キャラクターの強さが完全に運によって決定されてもつまらないし、かといって毎回同じ装備が配られるのであれば周回性の魅力が薄れてしまう。このバランスについて、本作は最高峰の仕事をしているとは言い難いが、充分に満足できる仕上がりになっている。

戦闘画面。エフェクトを除くことで、非常に早いペースを作ることに成功している。
戦闘画面。エフェクトを除くことで、非常に早いペースを作ることに成功している。

本作で評価したいのは、プレイヤーがテンポよく遊ぶことができる快適な進行ペースだ。本作にはど派手な演出どころか、ひとかけらのアニメーションすら存在していないが、それがかえってうまい引き算となっている。ただでさえ周回性の高いものが多いスマートフォンのゲームで、見慣れた演出やエフェクトを何度も何度もくりかえし見て、退屈してしまったことはないだろうか? 本作はそういった「ユーザーが参加しない要素」を徹底的に短縮することで、装備とスキルが織りなすパラメーターの美学にプレイヤーを集中させ、軽快なプレイフィールを作りあげることに成功しているのだ。

筆者はすでに10時間ほどプレイしているが、解法されていない職業や、まだ見ていないスキルの多さから計算すると、本作にはまだまだ多くの要素が残されているようだ。公式の攻略Wikiの内容も非常に充実しており、特定のパラメーターの効果が気になれば、いくらでも参照して理解を得ることができる。プレイヤーに驚きを与えてくれるような、ささやかなイベントがもうすこし多く用意されていればいいなとは思うが、綿密に計算されたパラメーターとゲームバランスの美学だけで、本作を続けてプレイする理由には充分だ。通勤通学のお供として、硬派ながら親しみやすく生まれ変わったターンベースRPGに再帰してみてはいかがだろうか。