『We Happy Few』早期アクセスに
触れて分かったこと。ローグライク風味とサバイバルが引き立てるパラノイア

Compulsion Gamesが開発中の一人称視点サバイバルアドベンチャー『We Happy Few』。12月9日にはPC/Xbox One向けの大型アップデートが配信されたばかりということで、これを機にあらためて本作を紹介していく。

Compulsion Gamesが開発中の一人称視点サバイバルアドベンチャー『We Happy Few』。12月9日にはPC/Xbox One向けの大型アップデートが配信されたばかりということで、これを機にあらためて本作を紹介していく。本稿の執筆にあたりプレイしたバージョンは大型アップデート適用後のAlpha v34540(PC版)である。

まず何より理解が必要なのは、本作はまだ早期アクセス段階であり、ストーリーが実装されていないということ。早期アクセスの長とも呼ぶべき『DayZ』がゲーム説明文の冒頭で「開発をサポートする意欲があり、深刻な不具合やプレイの中断に直面する覚悟がある方だけ購入してください」と大文字で強調しているように、未完成であることを受け入れ、積極的にフィードバックする気持ちがなければ早期アクセス中のタイトルは購入すべきではないだろう。とくに本作は「プロシージャル生成された世界の中で芯の通った物語を語ること」を特色としており、その核となるべき物語が実装されていないのだから尚更である。

現行バージョンでも一部のクエスト、ドキュメント、身のまわりの環境から世界観や設定の一部を読み取れるが、メインストーリーに関わる核心の部分は除かれている。とはいえサバイバルおよびローグライクのようなゲームプレイは実装済みであるため、これらの要素に惹かれる方は早期アクセス版でも楽しめる可能性はある。E3 2016のトレイラーで公開された『Bioshock』風の物語だけに惹かれた方は、作品が出来上がっていく過程を楽しみたい場合を除けば、正式リリースを待つのが無難だろう。プロシージャル生成やサバイバル要素自体が新鮮なのではなく、その中でリッチな物語を語ることが本作の醍醐味なのだから。

 

偽りの幸福に溺れたディストピア

アンクル・ジャックはいつだって正しい
アンクル・ジャックはいつだって正しい

『We Happy Few』の舞台となるのは1964年、イギリス西南部に位置する架空の街ウェリントン・ウェルズ。本作の世界では第二次世界大戦時にドイツ軍がイギリスを制圧。ウェリントンの人々は戦争が招いた苦痛から逃れるため精神高揚剤のジョイを発明し、強制的な躁状態に浸ることで辛い過去を忘れようとしていた。この喜びの麻薬を投与された住民たちは副作用として記憶喪失と軽い精神疾患を起こしながら、偽りの幸せの中に囚われていく。

プレイヤーが操作するのは、ある出来事をきっかけにジョイの効果が切れ、抑圧されていた過去を取り戻したアーサーという男性である。彼は新聞記事の検閲機関で働く細身の内勤マンであり、よみがえった家族の記憶を心の支えとし、麻薬漬けのディストピアから脱出を図る。内気な性格で、人を殺めるときには「本当はこんなことしたくないんだ」「君のことは嫌いじゃなかったのに」という傷心しきった独白を漏らす。なお早期アクセス版で操作できるのはアーサーのみだが、正式リリース時には3人のプレイヤブル・キャラクターが予定されている。3人の物語はそれぞれ異なり、相互に織り交ざっていくという。

アーサーの物語は、彼が薬の効果が切れた「ダウナー」であることを同僚に気づかれ、職場から逃げ出すところから始まる。12月9日に配信されたアップデートにより、オープニング後にはチュートリアルが挿入されている。ここで操作方法とクラフトシステムの基礎を学び、アーサーの隠れ家となる地下シェルターにたどり着く。安全地帯であるシェルターでは金庫に余分なアイテムを預けたり、ベッドで睡眠を取ることができる。ひとたびシェルターから飛び出せば、荒んだウェリントンの街に躍り出る。ウェリントンでは戦後の再建に向けて最先端テクノロジーの研究と開発に注力した結果、荒廃した街並みと未来的な建造物やデバイスが並列するという奇妙な「レトロ未来街」が誕生した。

ウェリントンは複数の区域に分かれており、早期アクセス版ではそのうち5つの区域を訪れることになる。人間が暮らしている区域は3つ。わけあってジョイを摂取できないダウナーズが住む貧困街「The Garden District」、疫病が蔓延る「Lud’s Holm」、そしてジョイの影響下にあるウェリーズの居住区「Hamlyn Village」。「Hamlyn Village」では警察官(ボビーズ)が巡回しており、異分子であるダウナーズには容赦なく警棒が振り下ろされる。ダウナーズを忌み嫌うウェリーズも同様に、アーサーの正体を知れば攻撃を仕掛けてくる。街中のTVにはジョイにコントロールされた現状を肯定する「アンクル・ジャック」のプロパガンダ番組が流れている。なお当番組は早期アクセスの段階で32エピソードが存在し、正式リリース時には20エピソードが追加される予定である。明るい狂気を感じる「アンクル・ジャック」の番組はぜひとも足を止めて見入りたいところだが、後述のサバイバル要素があるのでそうもいかない。

 

ローグライク風味とサバイバルが引き立てるパラノイア

持ち物を一目で把握することが難しいインベントリ。ソート機能が欲しいところ
持ち物を一目で把握することが難しいインベントリ。ソート機能が欲しいところ

本作のマップはプロシージャル生成となっており、ウェリントンの街並みはニューゲームを始めるたびに様変わりする。アイテムの配置やクエストの種類・発生場所も変動するため、周回プレイ時にはフレッシュな気持ちで挑めるはずなのだが、いかんせん建物や街道のバリエーションが乏しい。高低差のないフラットかつグリッド状のエリアが目立つ。飽きやすいマップデザインではあるが、将来的には勾配のある自然な街並みになるとのこと。今後のアップデートに期待したい。ちなみにBGMの自動生成システムも開発が進んでいる。シチュエーションにあわせて複数の楽曲から任意でメロディラインを選択し、混ぜ合わせるという。

ローグライクな要素としては、プロシージャル生成のほかにパーマ・デスがある。一度死亡するとセーブデータが消されてニューゲームからやり直しになる制度である。パーマ・デスが好みに合わなければ、死亡後も続きから復活できる「Second Wind」オプションを選択できる。このオプションを適用するとトライアル&エラーによるペナルティが極端に緩くなるため、緊張感のあるゲームプレイを求めるならば避けた方が良い。

本作では上記2つのローグライクな要素に加えて、サバイバルゲームではお馴染みのシステムがいくつか見られる。体力、空腹度、喉の渇き、眠たさのステータス管理が一例だ。体力はNPCや街の監視システムから攻撃を受けることで減少し、医薬品を使うことで回復する。空腹度は食料を口にすることで、喉の渇きは水分を摂取することで対処できる。食料は家屋や住民から盗むことになる。ただし貧困街では食料が十分に行き渡っておらず、手に入るのは腐った食材やスープばかりである。運が悪ければ食中毒によるめまい、吐き気を催す。症状が酷ければ胃の中が空になるまで嘔吐し続け、脱水症状を招くこともある。意識を失うまでに水分を補給できなければチェックメイトだ。そのほかの状態異常としては、腐敗した遺体に触れることで感染する疫病や、攻撃を受けると発生する出血状態があり、いずれも素早い処置が求められる。このように本作では各種ステータスをこまめにケアしながら探索を進めることが何より重要となってくる。

サバイバルゲームには欠かせないクラフトも多用することになる。街でかき集めたジャンク品や植物を合成して医薬品、武器、衣類、各種ツール、化学薬品を作り出せる。レシピ(ブループリント)は新しい材料を手にしたりクエストを進めることで手に入る。ほとんどのクエストでは材料収集とクラフティングが求められ、探索にかなりの時間を費やすことになる。クエストNPCが欲しがっているアイテムAを作るために材料Bが必要になり、材料Bを作るために材料Cを探しまわるといったサイクルが続く。このように食料とクエストアイテムの確保に奔走しながら脱出条件を揃えることがゲームプレイの中核となっている。時間がかかるだけあってゲームオーバーになった際のショックは大きい。バランス調整によりクラフトに必要な材料の数が緩和されたとはいえ、似通った街並みと家屋の中を繰り返し探索し続けることになる。サバイバルゲームが苦手な方は注意した方がよい。

失敗は許されないパーマ・デス制度、何が待ち構えているか分からないプロシージャル生成マップ、こまめなステータス管理、そしてアイテム収集に追われ続けるストレス。本作はプレイヤーの心を緊張下に置き続けることで、NPC、とくにウェリーズとボビーズから嫌疑をかけられることに対するパラノイアを助長している。本作がローグライクとサバイバル要素を組み合わせた意図はここにあると考えている。異分子狩りを逃れ麻薬漬けの街から脱出するという物語とも調和が取れる。ただしこのパラノイアが真価を発揮するにはNPCの脅威を高めることや、サバイバル要素が冗長になりすぎないようなバランス調整が必要だろう。特にNPCについては人数や行動パターンに限りがあり、そこまでの脅威とはなっていない。開発陣は敵対NPCや監視システムの配置数を増やすことでの高難度化を検討しているということで期待はできそうだ。サバイバル要素についても定期的にバランス調整が入っている。

 

禁断症状としてのメランコリア

ウェリーズに溶け込む術を学べば、ウェリントンからの脱出がスムーズになる。まずは貧乏くさい背広を捨て、ウェリーズの暮らしに相応しい衣類を着用しよう。言動にも注意したい。声をかけられたら礼儀正しく返事すべし。不用意な住居侵入はできるだけ避けたい。警察官に賄賂(アルコール)を渡すのも世渡りの一環だ。だが一番手っ取り早く馴染む方法は、やはりジョイを服用することである。薬を飲めば自然とウェリーズそっくりの身の振る舞いになるからだ。注意したいのは、ジョイの服用量に応じて主人公の幸福度は上がるものの、効果が切れるとゼロに戻るという点である。すると禁断症状として急度の空腹と喉の渇きが訪れる。またウェリーズからも疑いの目を向けられやすくなる。

いざウェリーズに正体がバレると問答無用で殴打される。人前で盗みを働いたり不審な行動に出た日には、さきほどまで笑顔だった住民も武器を構えて執拗なまでに追いかけてくる。かつての惨めな生活を想起させるダウナーズの存在は、ウェリーズにとって忘れ去りたい過去の象徴であるからだ。戦闘に突入すればプレイヤーは「攻撃」「ブロック」「両手で押す」という3通りのアクションを取れる。近接攻撃がメインだが投擲武器もある。とはいえ本作は戦闘を中心としたゲームではないため、爽快感を求めてはいけない。特に複数の警察官を相手にヒット&アウェー戦法を取ると地味な長期戦にもつれ込む上に、武器の耐久度が持たない。囲まれる前に逃げたり隠れることも戦術の内である。戦闘を避けつつキルしたい場合はNPCの背後から忍び寄ってステルスキルを実行しよう。

このように『We Happy Few』はローグライク風の要素、サバイバル、ステルス、脱出ゲームを組み合わせた風変わりな作品なのだが、冒頭で述べたようにストーリーはまだ実装されていない。早期アクセスの時点で楽しめるかは、本稿でピックアップしたゲームプレイの部分が好みであるかに左右されるだろう。パフォーマンスの面では不安定さやバグが散見される。地形に挟まって動けなくなったり、コンパスに表示される目的地の方角が信用ならなかったり、NPCが「ロンドン橋落ちた」を口ずさみながらムーンウォークをはじめたり。だがデベロッパーによる精力的なアップデートは続いており、公式サイトのブログも2015年6月にKickstarterキャンペーンを実施してから毎週欠かさず更新されている。コミュニティと共に最後まで走りきるんだ、という気概を感じる。2017年内に予定している正式リリースまでにどこまでゲームプレイを磨き上げ、ストーリーへの期待に応えられるのか。そして早期アクセス版でも片鱗を見せているパラノイアは活かしきれるのか。開発の行方が楽しみである。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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