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魔法の名前、それは誰もが憧れてやまない魅惑のワードだ。名は体を表すという言葉のとおり、名前は、その魔法がどのような効果を持つものかを自然に説明するものでなければならない。トート・タロットの考案者であり儀式魔術者のアレイスター・クロウリーは、「すべての書かれたものは、人類へむけた神からの言葉である。もしそうでなければ、それは公表されるべきではない」と断言した。魔法体系とは、科学と同様かそれ以上の厳密な規則に基づいて実践される、ある種の学問ないしは求道行為のひとつだ。その習得には才能も大いに関わる。筆者もかつて魔法を学んだ経験があるが、お話にならないほど素養がなく、落胆した思い出がある。

『魔法の女子高生』においても魔法の体系は学ぶものであるという原則は変わらない。それどころか、その原則をうまくゲームプレイに落とし込んでいる。本作においては、プレイヤーが入力したテキスト(日本語版では片仮名のみ使用可)がそのまま魔法の名前となり、またその効果を決定する。古代ギリシアの自然哲学者であるエンペドクレスが提唱したとされる「四元素」、すなわち火・風・水・土(ゲーム内の呼称では灼・嵐・露・壌)が基本的な属性として用意されており、プレイヤーはこれらの概念を心に留め、能動的に学びながら、新しい魔法を命名していく。

本作における命名のシステムは「属性をあらわす語彙+効果をあらわす語彙」を組み合わせて魔法を創造するもので、さらに効果を強めたり弱めたりするための副詞を含めることで威力をコントロールすることができる。たとえば「メガファイアアンカー」という名前は、「威力の高い火属性の貫通弾」の魔法を精製する。つまり、この虚構世界における魔法生成学のルールから外れた魔法、たとえば「レグレスインフィニトゥム」とか「サモンパラケルスス」とか「ツァイトウンドゼイン」といった奔放すぎるものは、形にはなるのだがそこまで強力にはならない。

プレイヤーは、この魔法命名のルールを実践的に学びながらダンジョンを攻略していく。基本的なゲームシステムは「不思議のダンジョン」シリーズの影響が感じられるターン制のアクションRPGだが、独特なのはHPとMPの概念である。本作におけるゲームオーバー条件は、MPが0になること。MPはターン毎に少しずつ回復するのだが、逆にHPはターン毎にすこしずつ消費され、HPが0になるとMPの回復はストップしてしまう。つまり、われわれが普通に考えるようなHPは体力、MPは魔法を使うための消費エネルギーという概念が、本作においてはMPに統合されているのだ。さしずめ、HPは満腹度といったところだろう。威力が高く簡単に敵を排除できるからといってMP消費の高い魔法ばかりを乱発しているとすぐにMPがなくなり、思いがけない攻撃を一発受けただけでゲームオーバーとなってしまう。自分の器に見合った威力の魔法を作ることが、攻略の鍵となっているわけだ。

デスペナルティはそこまで大きくなく、レベルの巻き戻りもなければ装備のロストもない。しかし上記のようなゲームシステムのために、ダンジョン内で入手でき、ゲームオーバーで失われてしまう回復アイテムの価値が大きく上がっており、またその使用感も独特なものとなっている。ふだんは駆け足でマップを探索し、ピンチになるとひとつひとつのコマンドを慎重に入力していく感覚は、「不思議のダンジョン」シリーズの緩急の効いたプレイフィールをうまく再現している。そのうえに、回復と攻撃に必要なパラメータを共通させたことで、攻撃を取るか守備を取るかというユニークな戦略性が生まれている。マップや敵キャラクターの単調さが個人制作の限界を感じさせるものの、持てるリソースをゲームシステム自体に大きく投入した形跡が認められ、うまい具合に抑えの効いた仕事に仕上がっている。

本作のユニークな魔法のシステムについてもうひとつ触れておかなければならないのが、魔法同士を合成する要素だ。先述したとおり、本作の魔法体系はかなりしっかりとした規格を持っている。適当に合成した魔法がたまたまものすごく強力で、しかも消費MPが少ない、といったことはあり得ない。つまり、オーバーキルになりすぎないように配慮しつつ、ぎりぎり1ターンで敵を殺してしまえる程度の威力を持った魔法を、計算して作る必要がある。おなじ魔法を使い続けることによる魔法自体のレベルアップの概念もあるのだが、遅々として即効性がない。

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そこで活用されるのが、「魔女の村」での魔法の合成である。これはひとつめの魔法の射程範囲を維持しつつ、ふたつめの魔法の属性と効果を適応するもので、合成された魔法はしばしば合成前より高い威力をもつ。この手法を活用することで、たとえば命名したものの思い通りの効果がつかなかった魔法などを再活用し、理想的な魔法に仕立てていくことができる。この合成では、状態異状などの要素の引き継ぎに加え、二属性付与なども可能だ。たとえば筆者が所持している「ストームカオスクジキリ」は、合成による組み合わせで「灼/灼」の直線貫通効果を付与した魔法で、これを灼属性魔法の威力をアップする「ねっけつクロス」を装備した状態で放てば、消費MPを抑えながらかなりの威力をもって敵を殲滅することができる。はっきり言って、これはとても楽しい。

かなり熱っぽく魔法のことばかり話してしまったが、ゲームシステムのいい味付けとなっているフィクション性についても触れておこう。本作の主人公であり、プレイヤーキャラクターの月見里あかり(やまなし、と読む姓名らしい)はごくふつうの女子高生だが、通学路の帰り道で奇妙な格好をした魔女らしき人物を助けたことから、モンスターが巣くうなぞの世界に迷い込む。とはいえ、それは彼女がいつも使っている通学路と大きな違いはない。ただ、道筋がいつもランダムに生成され、家々の塀に門はなく、なぜか魔法を撃つことができ、モンスターに倒されると夢から覚めるだけだ。

夢オチ。
夢オチ。

各ダンジョンに配置されたボスを倒すたびに少しずつ物語は進展していき、どうやら主人公が、(彼女の)現実世界でなんらかの悩みを抱えるたびに、この奇妙な世界に迷い込んでしまうらしいことがわかる。ボスを倒すたびに、彼女の現実世界における悩みのタネはうまく消化されていく。どうやらモンスターたちの強さは、彼女が現実世界で抱える悩みの大きさに比例しており、それぞれが悩みのタネ自体を表象しているようだ。ちなみに、本作3つめのダンジョンの名前は「恋慕の帰り路」である。

とはいえ、本作のフィクションは意図的にささやかなものにされている感があり、あくまでゲームプレイを盛り上げるための副菜のようだ。かわいらしく親しみやすいグラフィックはそれだけで充分鑑賞に値する上質なものだが、あくまで主菜はゲームプレイなのである。このゲームシステムとフィクションのバランス感覚も「不思議なダンジョン」シリーズの小気味のよさと共通するものがある。個人的には、「魔女の村」の魅力的な住人たちとの協力なんかが描かれてもいいんじゃないかなと思わないこともないが、デザートがないからと言ってすばらしい料理に文句をつける理由にはならない。

短い紹介では言及にとどめることしかできないが、プレイを工夫して通貨を貯めることによって購入でき、攻略に役立つ種々の効果を発揮する「バッヂ」や、装備することで魔法の威力を変化させる「クロス」など、アイテムを集める楽しさも充分に確保されている。古典的名作の魅力をしっかりと踏襲しつつ新たな楽しみを加えることに成功した本作は、熟年のターン制アクションプレイヤーを充分に満足させる快作と言っていいだろう。

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