『スマブラ』で一番を目指すプレイヤーたちの歴史がここに。EVO参戦後に急成長を遂げた競技シーンの軌跡(第2回 運営編 後編)

今回は「Evolution 2013(以下、EVO)」への競技種目採用が決定し『スマブラ for 3DS』が発売された直後から、急速に成長を遂げる国内外の競技シーンについて。高度経済成長期のように成長していくかたわら、新たに生まれていく競技シーンのストーリーや人気が沸騰するゆえの問題、そして日本のesports全体への話を触れていく。

世界と日本の差、登場する新たな新星

――海外では数百人から2000人規模の大会が年に20回ある。一方で日本はどうでしょうか。

エルさん
もっと大きな大会がなければならないと思います。大きな大会の回数が増えれば、たぶん「ZeRo」のような強豪プレイヤーにも勝てるのではないかと。

アユハさん
大会があればプレイ時間も変わってきますよね。「Apex 2014」で見た、このままだと日本は引き離されるって思いは、結局いまも引きずってる。

――数百人規模の大会が国内でも何度も開催されていますが、それでも差は縮まっていない。

アユハさん
むしろ差は広がっているようにすら感じます。

エルさん
一部のトッププレイヤーがなんとか食らいついている。

Rainさん
環境が足りていないです。まず練習時間もそうで、アメリカのプロ選手はフルタイムでやっているのに、日本では学生や社会人が空いている時間にやっているレベル。世界と日本のesportsの事情の違いですよね。それでも一応の活躍ができているのはすごいと思うんですが。

アユハさん
向こうの環境はすごいですよ。選手にメンタリストもマッサージ師もついている。

Rainさん
これは『スマブラ』だけではないですよね。いま、日本は格闘ゲームが強いですけど、近い将来は勝てなくなる時代が来るんじゃないかと心配になる。日本のesportsシーンが盛り上がって、さらに選手をサポートしないと。

アユハさん
もうアメリカ住むしかないんじゃないですかね。テニスの錦織圭選手もそうですよね。サッカーならヨーロッパのクラブチームに行ったり、野球ならメジャーリーグのチームに入るとかしないと、競技人口が多いスポーツでは勝てない。

――世界ランクができた2016年、その後はいかがだったでしょうか。

アユハさん
関西では「スマバト for The Big House」が開催されましたね。優勝するとアメリカで開催される「The Big House 6」に行けるという大会で、アメリカのスタッフが全面的に優勝者の古森霧選手を支援してくれました。ほかにも、2016年5月の「KVO(※例年ゴールデンウィークに関西で開催される格闘ゲームファンイベント)」で優勝した「かめめ(※)」さんが、あまり海外では知られていない日本の強豪プレイヤーだったので、初めて「EVO」に海外遠征しました。その初の海外大会で大活躍して準優勝しましたね、この時期では最強に近い位置にいたと思います。

※かめめ: 現在は「DetonatioN Gaming」に所属するプロ『スマブラ』プレイヤー。『スマブラ for 3DS/Wii U』では「ロックマン」使いとして知られる。

――その強さは、「ZeRo」や「Nairo」と比較しても?

アユハさん
「EVO 2016」では「かめめ」さんが「ZeRo」に完勝しましたね。ちなみに、このときの試合のカメラを見るとわかりますけど、すごくかっこいいんですよ。王者の威厳がすごくて、ゲームをプレイしてる2人がすごく強いオーラをまとっている。

※「EVO 2016」『スマブラ for Wii U』 ZeRo vs. かめめ(Kamemushi)

――強者のオーラですか。

アユハさん
その辺りは大事なんですよね。ほかのゲームを見てすごいなって思うのは、実はゲーム画面だけじゃなくて、そのゲームをプレイしている人が強そうかどうかも大事だと僕は思ってます。むかしは日本では顔出しなんて絶対NGでしたけど、いまはむしろ出してくれという人もいるぐらいですね。

ほかにも2016年はモチベーションがある人が増えてきたのか、大会を主催したいっていう話が増えてきましたね。この年に大学での『スマブラ』シーンが躍進し始めて、早稲田大学立命館大学京都大学なんかで「スマサー(『スマブラ』サークル)」が生まれたり、青山学院大学近畿大学は任天堂から公認を取ってやっていたり。大学のコミュニティハブとして機能しはじめましたね。

――ほかの対戦ゲームとくらべても、『スマブラ』は若い人がやっているという印象が強いですね。

Rainさん
そこが『スマブラ』の強いところなんですよね。ほかのゲームって若い世代を入れるのが難しくて、若手が入ってこないという話をよく聞きます。『スマブラ』は新作が毎回ミリオンセールス以上を達成しているので、そこで新しいプレイヤーが入ってくる。気軽にやっているプレイヤーが多数いて、そのなかからプロを意識する選手が出てくる。

アユハさん
2016年は北海道から沖縄まで、日本国内で125回の『スマブラ』大会があったんですよ。全国で開催されたおかげで、地元の大会に行くというチャンスも増えたので、この年に『スマブラ』コミュニティが強く根付いた印象ですね。これに「EVO 2016」での「かめめ」さんの準優勝もあった。その流れに乗って、翌月の8月に「ウメブラSAT」がありました。これは「the second anniversary tournament」の略称ですね。この大会には「Nairo」が来たんですけど、日本の「KEN(※)」さんが防衛してくれて、日本勢が優勝することができました。

※KEN: 世界最強の攻撃的なソニック使いとして知られる『スマブラ for Wii U』プレイヤー。なお『スマブラDX』の「Ken」選手とは別人。

※「ウメブラSAT」Ken vs. Nairo

エルさん
「Nairo」みたいな世界の強豪が来日し、日本人が防衛して優勝できたという大会ですね。

Rainさん
数の暴力っていうのもありましたけどね。

エルさん
320人がエントリーしてて、トップ8では3位と2位が海外勢なんで、やっぱり強いですよね。

アユハさん
やっぱり大きな大会の経験者って安定感が違うんですよね。こういう大会でもベスト8に残る可能性が高い。

アユハさん
「ウメブラSAT」のあとは、また「闘会議」の公式大会があって、予選は関西・関東だけじゃなくて6地域でやる大規模なものになりました。むかしの公式大会を復活させたような内容ですね。それと並行して2017年1月の「Genesis 4」でベスト8に日本人2人が食い込んだんですけど、やはり世界の壁は高くて、その上メキシコの「MkLeo(※)」という新人選手が優勝してしまう。「MkLeo」は15歳で、それまでビザの関係でアメリカの大会には出てなかったんですけど、「Echo Fox」というプロチームが彼をスポンサーシップ契約を結んで一位になってしまう。この時は「CaptainZack」という4位の選手も、15歳でしたね。

※MkLeo: 15歳の新星『スマブラ for Wii U』プレイヤー。後述するように、「Genesis4」では「ZeRo」「Ally」両選手を打ち破って優勝をもぎ取っている。

――若き新星が突如現れて上位に食い込み始めている。

アユハさん
その後、「MkLeo」はずっと最上位に君臨し続けてます。

エルさん
いま日本で一番強い「KEN」さんも若いプレイヤーで、『スマブラ for Wii U』から始めているんで、今までの蓄積はないんですよね。彼は「ウメブラ」のランキングでも、ほかの日本ランキングでも一位です。

アユハさん
これらのイベントの最中に「ウメブラ Japan Major 2017」をアナウンスして、ゴールデンウィークに二日間かけて開催しました。日本人の上位勢には必ず来てほしいと声を掛けて、海外からもなるべく招待してやろうと思ってたんですけど、このころから大会が多すぎて入院するプレイヤーもでてしまうなど、スケジュールがけっこう厳しくなってきました。ただ、「ウメブラ Japan Major」は途中で大会ランクAの認定がでましたね。

「ウメブラ Japan Major 2017」の模様 image by official site

エルさん
これまで2015年、2016年と日本選手が世界中を飛び回って大活躍したんで、世界ランクに日本勢がけっこう入っているんですよね。そのおかげで英語圏からの認識もあって、さらに動画もたくさん残っていて、生配信の同時視聴者数は1万2000人いきました。

アユハさん
2017年上半期だと、世界でも5番目に大きな大会なんですよね。「Genesis」「Civil War」「CEO」「Naior Saga」ときて「ウメブラ Japan Major」。コミュニティの形成とか大会のノウハウを積み重ねてきて、ようやくこれだけの大会を日本で開けるようになった。でも優勝は「MkLeo」に持っていかれたんですよね。

※「ウメブラ Japan Major」決勝戦 Ken vs. MkLeo

Rainさん
残念だったね。

アユハさん
ちなみにこの「ウメブラ Japan Major」の前の「Civil War」は、『スマブラ for Wii U』専門の大会としては、最大規模の700人のエントリーがありました。『スマブラ』の大会のためだけに生きているというような選手を集めた大会で、予選を突破するのすら困難で、「ZeRo」や「MkLeo」といった強豪選手がトップ32前で消えました。予選を突破したのは半分、日本人でしたね。

この個人トーナメント後に、事前選抜メンバーが「ZeRo」チーム対「Ally」チームというエキシビジョンのチーム対戦に参加するんですけど、ここで『スマブラ for Wii U』に「ZeRo」対「Ally」っていう世界ランク1位と2位の対立構図ができましたね。で、日本勢は「ZeRo」チームに関西勢が、「Ally」チームに関東勢がついて。

エルさん
南北戦争やろうとしてたのに戊辰戦争みたいになってると言う人もいましたね。

アユハさん
この「Civil War」とその前の「Frostbite」で、日本人本プレイヤーは海外で一気にファンを増やしましたね。一試合終えるとフォロワーが数千人増えるといったこともあったり。王者の「ZeRo」、そして「Ally」「Nairo」、さらに新星「MkLeo」がいて、そのあとに日本勢がついてくる。

Rainさん
2016年の後半からは、アメリカのプレイヤーが日本人を呼んでくれるようになりましたよね。

エルさん
招待される頻度がものすごいですね。ドネーションもあるし、大会で誰を招待するかっていう投票もあるけど、日本のプレイヤーは常に上位にある。

――日本の『スマブラ』勢も世界に周知されてきたなかで、7月14日からは、ついに「EVO 2017」が開幕という流れになりますね。日本勢の活躍に期待しています。それでは最後に、『スマブラ』やe-esportsシーンについて、今後こうなっていって欲しいという考えなどがあればお願いします。

エルさん
競技としてプレイヤーのほうは仕上がっているんですけど、大会を見る側がまだ日本はついて来れていない。観客が盛り上がって界隈を盛り上げようっていうのは強制するものではないんですけどね。

もう1つは、プレイヤーとしてシーンを盛り上げようとする人はいるんですけど、スタッフや実況など、裏方で盛り上げようとする人はまだまだ少ないんですよね。写真を撮って盛り上げてくれたり、実況で有名な方とか、ツールを整備することで知られる人が海外ではいるんですけど、そういう人が日本でも生まれてきてほしいなと思いますね。

Rainさん
日本では企業が理解が浅いまま大会をやろうとして失敗しているケースが多い。ユーザーが大会の運営を先行してやっている状況から学ばないんですね。ノウハウを備えているのは、むしろユーザー主催大会のスタッフなので、大会を始めるのならもう少しそちらの意見を取り入れたり、経験あるスタッフに手伝ってもらったりと、そういうことをしないとダメだと思います。いきなり大会を始めますと言っても、ユーザーは協力するわけはないし、失敗するに決まっている。企業の強みには資金力がありますし、それを正しく活用できるよう考えてほしい。

アユハさん
ちょっと前までesportsを魔法の言葉だと思っている人が多かったんですけど、最近はコミュニティを魔法の言葉だと思ってる人が多い。

僕はメディア面に要望がありますね。1つは生放送とか動画の技術が日本は遅れてます。最近あった大きな格闘ゲーム大会などを見ていると、あのクオリティのものを10分の1の予算でできる。知識やノウハウをアメリカから輸入するか、あるいはコミュニティに改善部分を相談するか、後者の方が簡単だと思うんですけど、日本の企業はそういうのが苦手な印象です。よりかっこよく、わかりやすく、ゲーム大会を見せるのを学んで欲しい。

それともう1つ、ぜひ「ZeRo」のTwitterアカウントを見て欲しい。彼は「俺は一番いいチームに入るまで妥協しない、なぜなら俺が入ったチームが他のプレイヤーの指標になるから」と断言したり、大会についてもここが良かった悪かったというのをはっきりと言う。プロゲーマーになるならば自身でコンテンツを発信できなければならないとか、プロになるヒント、プロゲーマーとはどうあるべきかということをしっかりと語っている。自分で動画を投稿して、写真も露出するし、自分のキャラクターを打ち出して、ブランディングがしっかりしている。その辺りが日本のプロゲーマーには不足しているのではないかなと。

エルさん
自分で発信力があってアピールしているかは、ちゃんと企業側も見ています。

アユハさん
Twitterのフォロワー数も見ている。実際プロになるんだったら、自分でも自分をプロモーションできないとダメなんですよね。「ZeRo」が言ってたことですけど、「プロになってからブランディングを始めるんじゃなくて、プロのブランディングができる人がプロになる」。

Rainさん
日本は今は逆ですねよね。フルタイムのプロなら毎日配信できるはずだし、その日のベストバウトを動画でアップロードしたり、海外に行くなら動画を撮って旅日記を作ったりすることも可能なはず。本当は絶対できますよね。もっと意識を高くして動いていけば、チームの貢献にもなるし、自分にも返ってくる。Win-Winなんですよね。

エルさん
フルタイムでやっていたら、もっと色々とできることがあるって思う人はいるでしょうね。

――最後は『スマブラ』の話というより、日本のesports全体の話になりましたね。

エルさん
『スマブラ』勢がesportsについていろいろ考える状況になってるんですよね。ほかの界隈で大会をやっている人が『スマブラ』の大会に来ると、びっくりされたりする。

Rainさん
仕上がってると言われますよね。ある意味不遇なタイトルだったので、その逆境のなか頑張っていた結果じゃないのかなと。

アユハさん
『スマブラ』をもてはやしてくれるような第三者がいなかったんですけど、ようやく注目されるようになった。スポンサーもつくようになってきた。ゲームがどうこうというよりも、『スマブラ』をプレイしていない人たちの見方が変わってきたんだと思います。

――初代『スマブラ』の黎明期から最新作まで、いったいどのような歴史があったのか、ゲームメディアとしては初めて歴史順にお聞きすることができたのではないかと思います。長時間にわたるインタビュー、ありがとうございました。

 

第1回 「EVO参戦までの国内競技シーンを紐解く
第2回「EVO参戦後に急成長を遂げた競技シーンの軌跡」
※「運営編」に引き続き「プレイヤー編」となる第3回、第4回は7月13日と7月14日に掲載予定

[取材・執筆 Nobuhiko Nakanishi]
[取材・編集・撮影 Shuji Ishimoto]

Nobuhiko Nakanishi
Nobuhiko Nakanishi

大学時代4年間で累計ゲーセン滞在時間がトリプルスコア程度学校滞在時間を上回っていた重度のゲーセンゲーマーでした。
喜ばしいことに今はCS中心にほぼどんなゲームでも美味しく味わえる大人に成長、特にプレイヤーの資質を試すような難易度の高いゲームが好物です。

記事本文: 50