弊誌ではこれまで、2016年12月に開催された「RTA in Japan」取材企画として、走者インタビューを複数回に分けて掲載してきた。インタビュー記事ではゲームの楽しみ方の一つとして存在するRTA(リアルタイムアタック)の魅力に触れてきたわけだが、聞き手・読み手ではなく実践者としてRTAに挑戦し、そのうえで初心者でも再現できるよう攻略手順を解説していこうというのが本稿の趣旨である。
2月には『バイオハザード7』本編のRTA入門記事を執筆したが、今回のお題は本編ではなく「Banned Footage Vol. 1」DLCに含まれている「ベッドルーム」、一部では「ババァチャレンジ」と呼ばれているコンテンツである。「ババァチャレンジ」という日本語の響きからネタ扱いされがちなRTAであるが、実操作時間3分から4分の間で純粋な操作速度と精度を競い合うことから、一瞬の気の緩みも許されない緊迫感を味わえる。
ただし「ベッドルーム」には敵との戦闘が含まれていないことから、『バイオハザード 7』のRTAとしては好みの分かれる題材だと思われる。そのため本稿では広い意味での「ババァチャレンジ」として、マーガレット・ベイカーが最終ボスとなる「イーサン マスト ダイ」(「Banned Footage Vol. 1」同梱)と「ベッドルーム」の2つに挑むことにした。
なおスピードランの監修は、先日『プロゴルファー猿』の走者として弊誌インタビューに応じてくださったバカンダさんが引き受けてくれた。『バイオハザード』シリーズのRTAを複数タイトルこなしてきたベテラン走者からアドバイスを頂けるという、これ以上なく心強い布陣で挑むことができたわけだ。ではさっそく「ベッドルーム」のRTA攻略編に進んでみよう。
※以下の文章・映像には『バイオハザード 7』の「Banned Footage Vol.1
DLCに含まれる「ベッドルーム」および「イーサン マスト ダイ」攻略のネタバレが含まれております。
「ベッドルーム」攻略:婆の訪問回数を減らせ
「ベッドルーム」とは、ベイカー家本館の寝室に監禁されたクランシー(「ビギニングアワー」にも登場したカメラマン)が、マーガレット・ベイカーの目を盗みながら脱出を図る「脱出パズル」系コンテンツである。大きな音を立てるとマーガレットが見回りにくるため、マーガレット訪問までの制限時間内に脱出工作の証拠を隠滅し、仮病を装った子供のように、何事も無かったかのようにベッドに戻る。これを繰り返しながら徐々に脱出パズルを解き、最終的には部屋から脱出する。
「ベッドルーム」のRTAでは、ロード画面で決定ボタンを押してからクリア後のメニュー画面が表示されるまでの時間を計測する。RTAのポイントは、物音を立てたのち証拠隠滅だけ済ませてベッドに戻るのではなく、制限時間内に可能な限りパズルを解き進めることでマーガレットの訪問回数を減らすことである。パズルを極めれば、それだけ腰を痛めた婆やの負担を減らしてあげられるわけだ。なお自力での記録は7分05秒が限界であったが、バカンダさんの助言により6分39秒までタイムを伸ばせている。下記は多くのアドバイスをもとに導き出された解答例である。
1:06 正直が一番
会話の選択肢は2番目の「こんな料理食えるか」を選ぶと、1番目の「すごく美味しそうだ」と比べて4秒ほど時間を短縮できる。
1:38 前半のタイムは開始30秒の動きで決まる
本作のパズルは、スタート開始から進められる寝室フェーズと、マーガレットが訪問時に持ってくるコンロとフォークがないと進められない物置フェーズに分かれている。前半のゴールは、操作開始からできるだけ速くマーガレットを呼び出し、彼女が部屋に訪れるまでの1分間で寝室フェーズのパズルを終わらせておくことである。つまり、1)マーガレットを呼び出す最速の方法、2)コンロとフォーク無しで進められるパズルの範囲を把握することが早解きの鍵となる。この2点を理解すればスピードラン入門編はクリアしたも同然だ。
1)マーガレットを呼び出す最速の方法としては、ベッドから起き上がりランタンを手に取ったら、そのままベッド横の時計を動かし「折れた時計の針」を入手。振り子時計の解錠に向かい「無題の絵画A」を手に入れよう。すると時計が鳴り出し、マーガレット訪問までのタイマーがカウントダウンを開始する。2)前半で進められるパズルの範囲としては、まず絵画パズルを解いて「裁縫針」を入手し、ベッド横の時計をセットすること。続いてライターとナイフを回収し物置のロックを解除すること、さらに余裕があれば物置内の投写機をナイフでこじ開けるところまで済ませられる。なおインベントリ画面のカーソル初期位置は前回プレイ時の状態を引き継ぐ仕様があり、こちらを利用することで初回操作を速めることが可能である。
4:24 後半が始まったら物置まで一直線
マーガレットが立ち去ったらコンロとフォークを頂戴し、ランタンをもって物置まで直進する。物置奥のクローゼットにフォークを差し込み、待ち時間を使って投写機にランタンをセットしておく。クローゼットが開いたら固形燃料を入手し、コンロと合成。続いてフォークの影絵パズルを済ませ、ランタンを持ってワインオープナーを取りに行く。2つのランタンフックを壁から外し、もう一つの影絵パズルを解いてヘビのカギを入手。あとはマーガレットをナイフで刺し、床下の隠し通路から脱出すればクリアだ。
動画では6分39秒かかっているが、移動経路を最適化し、影絵ギミックやインベントリ画面の操作を極めていくことで6分台前半まで記録を伸ばすことが可能だろう。運に左右される心配がなく、純粋な操作速度・精度だけで勝負できるRTAなのだ。
「イーサン マスト ダイ」ナイフ縛り攻略
「イーサン マスト ダイ」とは、即死トラップとモールデッドだらけのベイカー家本館内をぐるりと一周し、最後にグリーンハウスでマーガレットと戦う高難度コンテンツである。敵の攻撃および各種トラップから受けるダメージ量が多く、凡ミスによるゲームオーバーが多発する。入手できるアイテムがランダムというのが最大の特徴であり、クリア難度はある程度アイテム運に左右される。ゲームオーバーになるとスタート地点からやり直しとなるが、前回死亡した場所には「女神像」が配置され、救済処置として死亡時に保有していたアイテムのうち1つをランダムで取り戻せる。
女神像の使用有無でタイムに大幅な差がつくことから、「女神像有り」と「女神像無し」のランは別々の記録としてカテゴライズされている。「女神像有り」の場合は、事前に「アルバート-01R」を持った状態で死亡し、記録挑戦ラン時に序盤で拾えるように準備しておくのが基本である。「女神像無し」の場合も、「アルバート-01R」や「マグナム」といった強力な武器を揃えた状態でマーガレット戦を迎えることが良い記録を出す上で必須条件となっている。
こうした通常のRTAは、アイテム取得の運に左右される部分が非常に大きいことから、ほぼ実力だけの勝負となる「ナイフ縛り」でのクリア時間を競い合うコミュニティが存在する。本稿でも運に翻弄されずに済む「ナイフ縛り」の入門記事として記載を進める。「ナイフ縛り」といっても初期装備の「ポケットナイフ」に限定するものと、攻撃力の高い「サバイバルナイフ」を併用する広義でのナイフ縛りとで分かれている。もちろん「サバイバルナイフ」を入手できるかどうかも運次第である。本稿では、より高難度な「ポケットナイフ縛り」と「ナイフ縛り(サバイバルナイフ有り)」の両方に挑戦することで、どれほどタイムに差が出るのかを検証しながら解説を進めていく。
「イーサン マスト ダイ」は、タイムを競う以前に「ナイフ縛り」でクリアすること自体が難しいコンテンツである。そのため回数をこなすには、敵の配置や攻撃パターンといったランダム要素を排除し、可能な限りルーティーン化を図ることが重要である。また本コンテンツでは、アイテム運に見放されてもクリアできるように計算されてトラップが仕掛けられている。開発陣の意図を汲み、トラップを自身のアドバンテージとしてフル活用することも本RTAの特色である。トラップの存在は「避けなさい」ではなく「使いなさい」というメッセージなのである。
以下1つ目の動画が「ポケットナイフ縛り」、2つ目の動画が「ナイフ縛り(サバイバルナイフ有り)」のプレイ内容(PS4版)である。解説は「ポケットナイフ縛り」の動画を参照しつつ、「ランダム要素を排除する方法」と「トラップをフル活用する方法」を中心に進めていく。
0:00 基本操作:ナイフさばきとハンドパワー
木箱はナイフで破壊すると同時に決定ボタンを押すことで、中のアイテムを素早く拾うこと。アイテムの確認や合成は数か所で訪れる待機ポイントで行う。慣れてくると、クリアするのに必要な回復薬の数が分かり、壊す木箱の数を減らせるようになる。ドアは押して開けるよりも少し手前から決定ボタンを押して開ける方が速い。ところでドアと接触せずにどうやって開けているのだろう。やはりイーサンのハンドパワーなのだろうか。
0:24 地下加工場。すり抜け術とトラップの活用方法を学ぶ
1階通路の敵は防御ですり抜ける。安全重視でいくならば、羽虫の巣を破壊して地下通路への扉を過ぎたらドアを閉めておこう。加工場のモールデッドは地下通路にある神経ガス発生装置まで誘導するとダメージを負うことなく確実に倒せる。死体保管庫への扉を塞いでいる大型モールデッドも、うまく誘導して吐瀉物を吐き出している間にすり抜ける。タイミングを覚えると動画と同じ行動を取らせられるようになる。
2:16 ボイラー室。足元をじっと見つめる
ボイラー室まで進むと部屋がロックされ、2体のモールデッドを倒し切るまで先に進めなくなる。うまく2体を誘導しつつ神経ガス発生装置の手前で待機。カメラを下に向けておくと、うしろからモールデッドに押されてイーサンが前に進み始めるのが分かる。このタイミングで前方にダッシュすることで2体セットでダウンさせられる。とどめを刺すときに胴体ではなく頭部にナイフを切り込めば、敵の息がすぐに途絶え、ロック解除までの時間を短縮できる。
3:44 2階娯楽室から1階食堂前まで、2つのルート
最短ルートは、娯楽室を突っ切り、2階通路のモールデッドを防御ですり抜けて1階に落下するもの。この場合、モールデッドからの攻撃でダメージを受ける上、1階食堂にモールデッドが複数体ワープしてくる可能性がある。動画のように2階の敵をワイヤートラップとタレットで倒してから進むと、20秒ロスするかわりに1階食堂に出現するモールデッドの数が0体か1体になり、攻略手順を安定させやすい。慣れないうちはタレットを使った迂回ルートを、本格的な記録挑戦時には最短ルートを辿るとよいだろう。なお動画では1階食堂の敵をワイヤートラップで倒しているが、リビングルームのタレットで倒した方が速い。
5:25 リビングルームのロックダウン・イベント
部屋がロックされたらリビングルームのタレット横で待機。動画では失敗しているが、大型モールデッドの吐瀉物は弧を描きながら飛んでくるので、うまく左にズレることで回避できる。あまり左に寄りすぎるとモールデッドがタレットの射線から離れてしまうので、避け切ったら素早くタレット横に戻ること。
6:10 1階通路の四足歩行型モールデッド2体
1階通路の四足歩行型モールデッド2体は1つ目のワイヤートラップに引っ掛けるのがベスト。経験則としては、動画の6:21地点で攻撃を誘うと成功しやすい。仮に失敗してもバックアップ用のトラップが残されているため、諦めずにガレージ階段横のワイヤートラップやリビングルームのタレットを駆使して突破しよう。
6:50 中庭の大型モールデッド、本作最大の恐怖体験
個人的には「イーサン マスト ダイ」のRTAどころか、『バイオハザード7』本編や他DLCを凌駕する恐怖体験スポットである。中庭の門を塞ぐ大型モールデッドの足元を1分間ナイフで切り刻み続けるその最中、2体のモールデッドがうめき声を上げながらイーサンの真後ろにぴったりとくっついている。背後の敵は大型モールデッドの吐瀉物を受けて動きが止まっているため、運がよければ攻撃される前に大型モールデッドの足を破壊しきれるのだが、運が悪ければ背後からの振り下ろし攻撃で即死となる(攻撃が当たらない位置があると思われるが検証しきれていない)。
よって運頼みではなく確定ルートにするためには、モールデッドのうめき声に耳を澄まし、真後ろまで来たと感じたら振り返って一撃加える必要がある(吐瀉物で弱っているため一撃でダウンする)。ただし厄介なのが、振り返った瞬間にイーサンの位置判定がズレて吐瀉物に当たってしまう可能性があること。振り返るのであれば、吐き切った後でなければならない。また背後のモールデッドを倒すのが早過ぎると、より強力なモールデッドがスポーンし始めるため、イーサンが攻撃を受けるギリギリまで我慢する必要がある。
恐怖に耐えきれず振り返るのが早過ぎると、さらに危険な状況に陥る。こんな恐ろしいシチュエーションがあるだろうか。自分が暗い中庭の隅っこで座り込み、吐瀉物にまみれモールデッドに囲まれながらナイフを振り回している姿を想像すると失禁しそうになる。何度リトライしても、この場面だけは恐さが衰えない。毎回「こないでくれ、お願いだから後ろのお前こないでくれ!」と頭の中で悲鳴を上げながらR2ボタンを連打している。作り手が想定していたシチュエーションではないにしても、ホラー好きであれば、この感覚を味わうためだけでもナイフ縛りプレイに挑戦して頂きたいものだ。
なお、既にお気づきかもしれないが、中庭にくるまでは木箱と羽虫の巣を破壊する以外にナイフを使う場面がない。「ポケットナイフ縛り」と「ナイフ縛り(サバイバルナイフ有り)」とで差が出るのはここから先である。大型モールデッドの撃破タイムは、「ポケットナイフ縛り」の場合、約1分(ナイフ攻撃100回前後)、「ナイフ縛り(サバイバルナイフ有り)」の場合、約20秒(ナイフ攻撃34回前後)である。
8:45 婆狩りの時間だ
さて、ここからが本番である。マーガレット戦についてはパターン化の方法が複数存在し、「これがベストだ」と答えることは難しい。ただ彼女との戦闘に慣れていない間は、できるだけ攻撃圏内に入らない戦術を採用するとクリアまで持ち込みやすいだろう。基本的にはナイフだけで倒そうとすると時間がかかるため、タレットとワイヤートラップを可能な限り活用する。接近する際は動画12:30で実践しているドアを挟んだ立ち回りや、階段の踊り場を使ったハメ攻撃を使うと安全に戦える。
ただし安全であっても最速ではない。タイムを伸ばすにはトラップを使いつつ攻撃の手を緩めない真っ向勝負に挑む必要があるだろう。二足歩行時は下腹部を攻撃しつつ、マーガレットが攻撃モーションに入った瞬間にしゃがみこむ。マーガレットが腕を振り終えたら自分も立ち上がり、次の攻撃モーションに入るのを待つ。四足歩行モードに切り替わったら、相手の背後に回り込みつつ攻撃を加えていく。マーガレットの攻撃を避ける場所や時間がないと悟ったら無理せず防御スタンスを取ろう。
筆者の動画では、階段での初回エンカウンターから計測を開始すると、「ポケットナイフ縛り」でのマーガレット撃破タイムが6分20秒、「ナイフ縛り(サバイバルナイフ有り)」での撃破タイムが4分15秒と、2分近く差が出ている。単純にナイフの攻撃力が違うだけでなく、長期戦になると攻撃を受ける機会が増え、慎重になってしまうことも遅れが生じている原因である。
以上がナイフ縛りプレイの要所解説となる。実のところ、ナイフ縛りでも回復薬とハーブの入手量という大きなランダム要素が残されているため、限りなくピュアな技術力勝負を挑みたい場合は「ノーアイテム・ポケットナイフ縛り」に手を出すのが良いだろう。筆者もこちらに挑戦しているのだが、一度も失敗が許されないというプレッシャーでコントローラを握る手が震えてくる。木箱を壊す工程がなくなるため、本来ならば通常の「ポケットナイフ縛り」(15分01秒)よりもタイムが縮まるはずなのに、マーガレット戦で慎重になりすぎて15分57秒と悪化している。
ナイフ縛りRTAに挑戦してみた感想としては、グリーンハウス到達までは安定したタイムを出しやすいことが分かった。2階娯楽室から1階食堂到達までの最短ルートを選び、壊す木箱の数を減らすだけでも30秒近くカットできるだろう。問題はマーガレット戦である。スピードラン走者の動画を眺めていると、平均して5分から6分(ポケットナイフ縛りの場合)で倒しきれており、筆者もここさえマスターすれば13分台に乗せられるはずとの感触を得ている。
ただ言うは易く行うは難しである。スピードラン走者の記録にまったく届かないタイムのまま締め切り日を迎えてしまい意気消沈している。それでも記事本来の目的である「ベッドルーム」&「イーサン マスト ダイ」スピードラン入門の手引きとなっていれば、もしくは本作におけるスピードランの魅力をわずかにでも伝えられたならば幸いである。
最後に、本稿の監修役を引き受けてくれたバカンダさんに感謝の言葉を述べたい。「ベッドルーム」「イーサン マスト ダイ」両方において丁寧かつ的確なアドバイスを頂けなければタイムを伸ばせなかっただけでなく、途中で心が折れてギブアップしていたことだろう。バカンダさん、お時間を割いていただき、誠にありがとうございました。
[監修 バカンダ(幣紙インタビュー)]