目が見えなくても『ストII』はできる。視覚障害者がいかにビデオゲームを楽しむのかを伝える「第10回 アクセシビリティキャンプ東京」レポート
セミナー形式ではなく、参加者が主催側とともににアクセシビリティを考えるイベント が「アクセシビリティキャンプ」だ。世界的におこなわれている同イベントは、日本では「アクセシビリティキャンプ東京」の名で定期的に開催されており、10回目が去る3月25日、東京ガーデンテラス紀尾井町ヤフー株式会社にて「障害者も健常者と同じくらい楽しめる世の中をつくるきっかけを見つける 」というテーマで開かれた。「目が見えなくともスト2はできる。全盲ゲーマーと対戦!」と銘打たれた第10回イベントは、ビデオゲームのグラフィックスから情報を得ることができない視覚障害者たちが、普段どのようにビデオゲームを楽しんでいるのかがテーマとなっている。今回はそのトークセッションの内容と共にイベントリポートをお送りしたい。
まずイベントでは、およそ25分間にわたり「俺達はこんなゲームをやってきた」というテーマでトークセッション(その模様は記事後半に掲載)が実施された。ファシリテーターの伊原 力也さん(株式会社ビジネス・アーキテクツ)を司会役に、それぞれ視覚に障害を持っている登壇者の中根 雅文さん、辻 勝利さん、伊敷 政英さん、諸熊 浩人さんが話を披露。それぞれ中根さん、辻さん、諸熊さんが全盲、
【UPDATE 2017/04/10 9:40】 記事初版にて「それぞれ中根さん、伊敷さん、諸熊さんが全盲、
この中でも特筆すべきは、やはり全盲、弱視の方々によるゲームプレイだろう。中根さんの『ロードランナー』や、辻さんと伊敷さんの『ストII』、諸熊さんの『ポケモン』など。詳しくは記事後半にも掲載しているトークセッションで、彼らがどういう感覚でプレイしているのかが語られているので確認して欲しいが、その理屈は聞いていても実際に見ると驚きを隠せないレベルだ。
また興味深かったのは、かなり長い時間を割いて全盲の辻さんと参加者が対戦していた『ストII』にて、途中から晴眼(視覚に障害がないこと)の参加者が自然に「見えない」状態でプレイするとどういった感じになるのかを知りたくなったという点だ。ファシリテーターの伊原さんが試しに挑戦してみたのを皮切りに、お互いが画面を見ないで対戦するという場面が多くなっていった。取材した我々も、どうしてもその「ブラインドで対戦する格闘ゲーム」を経験してみたくなり辻さんに挑んだが、ほとんど何が起こっているか分からないままに惨敗した。ゲームを介しての交流が、自然と「障害を持つ方と同じ感覚を知りたくなる」効果を持つ。イベントの中、同じゲームをプレイしながら「こうすれば一緒に遊べる」「感覚を共有してみたい」と、自然に考え実践する。参加者たちが自然にアクセシビリティに興味を持ち、さらに会場の雰囲気が終始楽しげであったことは、今後決して忘れられない印象的な経験だった。
トークセッション「俺達はこんなゲームをやってきた」
伊原さん:
アクセシビリティキャンプ東京実行委員の伊原と申します。トークが25分しかなくて、あと全部ゲームなので、雑談として聞いてもらえればいいかと思います。私は実行委員として、裏方としてやっているような形です。好きなゲームは『MOTHER2』と『バーチャロン』です。よろしくお願いします。それでは最初は、自己紹介を中根さんから順番にお願いします。
中根さん:
中根と申します。普段はIT関連のことをやったりやらなかったりしてます。アクセシビリティの情報サイト「AccSell」を主催しています。ゲームは最近のものにはとことん疎いんですけど、かつてはかなりハマった時期があって、イベントのご案内のところにも書いてあるんですが、たぶん一番時間を使ったのはおそらく『電車でGO!』じゃないかと思うんですね。あとでやる『ロードランナー』というファミコンのゲームに関してもかなり時間を使ったと思います。あとはUnix系のサーバの管理を仕事上やってるんですけど、その合間に『NetHack』というゲームを始めたらかなり面白くて、いつの間にか『NetHack』の合間にサーバー管理をやる感じになってヘマをしたり。それが大体20年ぐらい前になりまして、ほんとに時間を使ったゲームはそれぐらいなります。全盲です、よろしくお願いします。
伊敷さん:
こんばんは、伊敷と申します。僕は今日のパネラーの中では唯一ロービジョン(弱視)で、少し視力があります。僕自身もゲームは小学校3年生くらいの時に、4人兄弟の総意として親に頼んでファミコンを買ってもらったというのが最初ですね。そこから『マリオブラザーズ』をやり、『スパルタンX』をやり、『アイスクライマー』をやり、中学生になって『ドラゴンクエストII』にハマり、ロンダルキアへ続く洞窟の落とし穴に落ち、高校生になったら『ストII』にはまり。今日は辻さんを倒しにきました。最近のゲームに関しては得意じゃないというより、ほとんど手が出せてない感じです。
辻さん:
新宿で働く全盲のエンジニアの辻と申します。普段はあまりゲームの話をすることがないので、すごく楽しみにして来ました。僕はもともとファミコンの頃からずっとゲームをやってたんですけど、中根さんが話してくれた『電車でGO!』とか、今日伊敷さんを倒すためにやり込んできた『ストII』などが好きでやっております。あとは2000年の初めごろに、海外の視覚障害者向けに作られたゲームをローカライズをしたことがあって、そういった関係でゲームのアクセシビリティには興味を持っていて、自分ができるゲームを探し続けているところです。今日はよろしくお願いします。
『電車でGO!FINAL』では、車内放送を頼りにタイミングよくブレークを入れる。
諸熊さん:
諸熊と申します。私は全盲なんですが、中学二年までは見えていて、それから中途失明しました。好きなゲームは失明する前に遊んでいたゲームで、RPGを中心にやってました。『ドラクエ』とか『聖剣伝説』とか『ロマンシング サ・ガ』とか……ゲームやり過ぎで失明したとは言えないんですけど(笑)。多分勉強のしすぎです。失明したあとは『ポケモン』を、マップを丸覚えしたというのもあるんですけど、結構できるということがわかって、ずっとやってました。今回やろうと思っているのが『ポケットモンスター』の「オメガルビー・アルファサファイア」という、私が失明して全盲になってから自力でクリアした初めてのゲームなんで、達成感をもう一度味わいたいなと感じてます。あと個人的にゲームを作ることもやってまして、個人サイトでゲーム配ったりしてます。やっぱりRPGが遊びたかったで、RPGをどんどん作って配っている感じです。よろしくお願いします。
伊原さん:
さらっとクリアしたとかですね、いろいろおっしゃられているんですけど。今日のイベント名が「目は見えなくてもスト2はできる。全盲ゲーマーの対戦」といことで、その当事者である『ストII』をやりこんでいたという辻さんにお話をお聞きします。ぶっちゃけ、どうやるんですか。あとで見ればもちろんわかると思うんですが、まずなんでやろうと思ったかとか、どうしてハマるまでやったかとか、どのようにやってるかとか。
辻さん:
もともと『ストリートファイター』というゲームが好きでした。格闘技系のゲームなんで、CMの激しい動きの音とか声とか、すごく興味をそそるなと思っていて。それで始めたんですけれども、画面上を動いているキャラクターの情報がどの辺にいるかとか、どっちに向かって進んでいるかなどが、音でも把握できるようになったというのも、このゲームにハマるきっかけになりました。そのあと学校も休み、親に怒られ、ずっと徹夜しながら三度のご飯も食べられずにパンを食べて続けてまいりました。
伊原さん:
だいたいどういう風に『ストII』をやってるかは僕も同じでした。こういうのはファミコン時代と比べてステレオになって音で状況がわかるようになったっていうのが大きいということですかね。
辻さん:
はい。もちろんファミコンの時代にやってたゲームもいろいろあったんですけど、たとえば『スーパーマリオ』だったら僕がクリアできるのは1-1までで、そこから先には行けなかった。でも『ストII』であれば、もしかしたらこれは自分でも高みに登り詰められるのではないかという期待を持ってやり始めました。
伊原さん:
僕が結構衝撃だったのが、アクション系のゲームに手を出されるというのが想像もしてなかったので、今日はそれが見たくてイベントを開いているところもあります。それから今日は中根さんに、音の情報がそんなに豊ではなかった時代のゲームをプレイしていただこうと思ってます。『ロードランナー』というゲームなんですけど、当時どんな感じでやってらっしゃいましたか。
中根さん:
最初兄貴がやっていて面白そうだなと感じていて、でも僕はできないかなと思ってたんです。マップというか、面の構造がわからないから。そう思ってたんですけど、なんとなくふと思いたって十字キーを右と上を同時に押してみた。そしたら右に歩いてた奴が勝手にハシゴを登ったんですよ。で、この手を使えばどこに道があるかわかるじゃないかと。そっからひたすら一マスづつ潰していくがごとく探していくことを始めて、記憶力と時間をふんだんに無駄遣いしまして。あとでやりますけど、なぜか41面が好きで、これはほぼ独力でクリアできるようになった唯一の面になります。
あとは『ロードランナー』は、音でどれだけ落ちてるかとか、歩いてるところが下に落ちるところなのか、はしごなのかとか、そういうのは全部わかる。唯一わからないのが地面が掘れるか掘れないかなんですけど、でもそれも掘ってみればわかる。結構シンプルに作られている割には、音が何種類かちゃんとあって。斜め方向の操作と音があれば、見つけられないと思ってたものが見つけられることがわかって、どハマりしました。
伊原さん:
右上ではしごが登れるとか、歩いているところの音が違うとか、言われるまで気づいてませんでした。楽しみですね。続いて伊敷さんがこの中では唯一弱視ということで、見える部分がある中でどういう風にゲームと関わってきたかを教えてください。
伊敷さん:
あとで見ていただくたんですが、僕はとにかく画面に近づくんですよね。顔をくっつけるようにして画面を見ると、なんとなくキャラの動きだとか、ノコノコが歩いてるとこは見えて、それでなんとかやってたんですね。でも僕は兄弟がいっぱいいまして、弟と一緒に『マリオブラザーズ』やるとですね、画面の半分僕が占領しちゃうんですよ。そうすると「兄ちゃん見えないよ」って言われて、よくそれで喧嘩をしました。あとはですね、『ファミスタ』という野球のゲームがあったんですけど、あれは守備を自分で操作しないといけないですよね。ゴロは画面に近づくと見えるですけど、フライは見えない。フライは影を追いかけるんですね、でも影と黒の緑のコントラスト比があまり取れてなくて、見えないのでフライが取れない。取らないと弟には勝てないということで、弟にノックでフライを打ってくれと頼むんですけど、なかなかフライが打てない。『ファミスタ』でフライを意図的に打つのが難しいらしくて。練習したんですけど、結局最後までフライは取れなかったです。みたいな感じで、弟と喧嘩しながら『ストリートファイターII』も鍛えてもらったりとか、ひたすら昇竜拳の練習とか。なので弟に鍛えられたという感じです。
伊原さん:
伊敷さんは対戦するとき画面を隠すという技が使えるんですね。今日はモニターが二台あるので喧嘩になることはないと思います。あとはアクションゲーマーが多い中、諸熊さんはRPGよりということで、どういうゲームをやってきたかとかお聞かせいただけますか。
諸熊さん:
僕は育てて戦わせるRPGが単純に好きで、いちおう格ゲーとかもやっていたんですけど、やっぱりRPGをやっていた時間が一番長かったなと感じます。で、どういう風にやるかっていうと、『ポケモン』とかですと、壁にぶつかると音が鳴るんですね。あと建物に入ったりとか、階段見つけたりすると音が鳴るので、それを頼りにマップを塗りつぶすように歩いていけば、どこに何があるかというのはそこそこ予想ができる。
最近のゲームはウェブ上の攻略サイトがすごく充実してて、攻略サイトを見れば大体何をすればいいのかがわかるようになってます。かつ実況動画なんかも結構普及してて、ゲームの実況動画と攻略サイトを見れば、今いる場所で何をしなければならないかと、やったときにどうなるのかっていうのは、ほとんど知ることができるんですね。それを頼りに自分で試行錯誤してやってみて、ちゃんと進められたかどうかを考えてみたり。
あと『ポケモン』ですと、基本的には出てくるポケモンの鳴き声を聞けば、だいたい何が出てきたってな区別できるので。僕、第7世代のポケモンはやってないのでそっちの鳴き声は把握してないですけど、ほぼ700種類くらいはいけるのかな。鳴き声だけを動画にしてるやつを見て、鳴き声全部をダウンロードしてきて、聞き比べられるように名前つけたりとか色々しました。結構鳴き声が聞きづらいのもあるんですが、そういう苦労してでもRPGが好きだったのでやってました。
伊原さん:
言葉で聞くとなるほどねという感じなんですけど、ものすごい執念を感じるんですよね。ゲームやるってのは、そもそも修行みたいところがあるかなと思うんですけど、皆さんをゲームに駆り立てるものって、なんなのかなっていうのが気になります。自分自身もゲームが結構やってた方なんですけど、何が楽しくてそこまで自分を追い込むのかを教えていただきたいなと思うんですが。
伊敷さん:
できた時の達成感はやっぱりありますよね。ロンダルキアの城まで落ちずに行けたとか、大灯台とかクリアできたとか。
伊原さん:
辻さんはいかがですか。
辻さん:
僕は苦行のあとのご飯がおいしいのはもちろんなんですが、昔からゲーム音楽が好きで、エンディングで鳴ってる曲とか、この曲はどうやったら自分でも鳴らせるんだろうとか、そういう入り方が多かったです。とにかくエンディングの曲が聞きたい。実際聞いてみると、大した事なかったりとかあるんですけど、やっぱり達成感でしょうね。あと格闘ゲームとかだと、全然やられずに最後までいくと隠しキャラみたいのが出てきたりするんですが、そういうのはすごく達成感がありました。
諸熊さん:
私は単純に『ポケモン』とかもそうなんですけど、育てるのが好きなんですよね。『たまごっち』とかやってたし、『ドラクエV』で魔物をひたすら育てるのやってて、はぐれメタルが仲間にならないよとか言ってましたね。そいつが育ったらどうなっていくのかな、それが見たい思いでやってました。で、そのあとで戦わせるなら、同族には負けたくないなと。『ポケモン』だと、どうしても同族と戦わなければいけない場面があるので、それを勝ち抜くためにはより強くするための手段を取らなければいけない。なので厳選とかもしたりします。実際厳選してるしてないで勝てる勝てないが出てきたりするんで、負けるのは悲しいなと思う気持ちでやってます。
伊原さん:
こういう話を聞いてると、視覚障害がどうこうではなく、ただゲーマーがなんでゲームが好きだって言う話をしてるに過ぎないって感じもしますね。中根さんいかがですか。
中根さん:
暇なんでしょうね、多分。まったくできないってなると、すぐにあきらめるんですけど、なんとなくできそうだなって始めて、なんとなくできると、もうちょっとでできそうだなと思って、もうちょっとやるんですね。で、暇なんですよ。そういうことだと思うんですよね。達成感って確かにありますけど、それで時間を潰せて、何かできなかったことができるようになって、兄貴に自慢して、どうだすごいだろうと言える。それだけだったんじゃないですかね、子供の時とかは特に。
伊原さん:
なんとなくできそうっていうのは、どういうあたりでどういう要素があると、比較的自分で進められそうっていう感じになるんですか。
中根さん:
自分が取ったアクションに対して明確な音のフィードバックがあるかどうかがひとつですね。あと『バンゲリングベイ』とかは画面の端がなかったんですけど、そういうゲームでは自分が全体の中のどこにいるかっていう想像がまったくできなくなった。これはお手上げだと思いました。
諸熊さん:
ゲームの必要なことって、フィードバックもそうなんですけど、やり直しが効くかどうかっていうのもすごく重要なことなんですよね。探索とかを必要以上にやったり、画面端から落ちちゃったり、それでゲームオーバーになったり。そこからの復帰が簡単であれば別のルートを試してみようとがすぐに思うんですけど、2時間ぐらい苦労に苦労を重ねてゲームオーバーなって、また2時間やってここまで戻らなければならないとなると、すごく億劫になる。『ポケモン』は落ちる場所があるんですけど、どこでも大体セーブを書くことができてすぐにやり直しができるという意味では、とてもやりやすかったです。
イベントの前に登壇者にさらに詳しくお話を伺ったインタビューは後日掲載予定。視覚障害者の方々がどのようにビデオゲームをプレイしてきたのか、またゲームとアクセシビリティに対する考え方などをお伝えしたい。
[取材・執筆 Nobuhiko Nakanishi]
[取材・撮影・編集 Shuji Ishimoto]