2016年12月末に開催された「RTA in Japan」取材シリーズ。最後を飾るのは、非常に“独特な”ゲームとして一部で名高いWii用ソフト『プロゴルファー猿』の走者バカンダさん。誰が得をするのかわからないRTA、ネットスラングを混じえて言うところの「誰得RTA」という、RTAの面白さの側面ともいえる楽しみ方を追求する人物だ。今回は『プロゴルファー猿』『黄龍の耳』などのマイナーゲームのRTAの面白さについて存分に語っていただいた(※ なお同インタビューは実際に『プロゴルファー猿』のRTAに挑戦する前日に収録したものです)。

──まず単刀直入にお聞きしたいのですが、どうして『プロゴルファー猿(以下、猿)』でRTAをやろうと……?

バカンダさん
主催のもかさんがすごくクソゲー好きでして、たびたびゲーム交換でクソゲーをいただいて、その都度やらしていただいてたんです。今回『猿』はエンディングまですごく短いってことに気づきまして、RTAイベントの運営上10分弱で1本クリアできるってのは、わりと助かるんじゃないかって着眼点ですね。

──『猿』RTAの攻略ポイントは。

バカンダさん
自分がミスショットをしなければ最低限引き分けには持ち込めます。で、エンディングを見る条件が4勝0敗か3勝1分けなので、最悪1分けしてもいい。いわゆる残機でいうと1機あるみたいなものがあるんで、ちょっと余裕はあるんですけど、2勝2分けを繰り返してクリアまでずるずると泥沼にはまってしまうのが、一番見てててなんやねんこいつって感じになるポイントになるんですよね。カメラに映ってるんで、すごい焦ってる自分の顔が映るんじゃないか怖いですね。

──『猿』RTAにおいて難しいポイントはどこにありますか。

バカンダさん
こちらが使っているクラブを壊すキャラクターとか、強制的にドライバーを破壊するとか、敵によって必殺技があるんです。正直効果はわかんないんですけど、RTA的にはその演出を見せられてるとタイムロスになってしまう。天候によって出たり出なかったり、僕も条件を全て把握はしてないんですけど、突然出してくる時とかありますね。

明日も見栄え的には、こちらもできるだけ必殺技を出して不可思議なショットを見せたいです。あるコース(竜の尾)では間欠泉みたいな所に飛ばすと、ものすごいショートカットができて400ヤードくらい飛ぶんで、そこに当たれば明日は見た目的にも面白いんじゃないかと。

『猿』ではコースは最初の1つだけ自分で選べる権利があるんですけど、あとはランダムなんです。相手の池ポチャがあると勝てるんですけど、1オンされると心が折れそうになる。一発勝負なんでリセットができない。記録狙いだとリセットできるんですけど、そこは一発勝負の怖いところですよね。

──RTAってテクニックや研究で攻略していくイメージなんですけど、今のお話を聞いていると、『猿』は運に任せるしかない印象ですね。

バカンダさん
ゴルフゲームっていう見た目ですけど中身は「すごろく」で、ショットが成功するとここまで進むってのが決まってるんです。300ヤード飛ばさなきゃいけないところ200ヤードとかで飛ばしてしまうと、主人公の猿なんかはそこで詰む。サンドウェッジとかが使えなくて、ドライバーとパターしかないんで、刻めない。だからランダムの敵キャラクターで猿が当たると僕はラッキーですね。ドライバーで飛ばすしかないし、ドライバーで弱く打つってめちゃくちゃ難しいんで、弱すぎるとOBの判定になっちゃう。

──明日攻略できる見込みは。

バカンダさん
対戦相手が運だったり、コースが運だったりするんで、明日は正直やってみないとわからないってのが非常に怖いんです。相手がミスするかどうかも全部運だったりするんで。「クソゲーオブザイヤー」でも話題になりましたし、それが伺える内容だと思います。

──RTA走者の方にお話を聞いていると、実際にゲーム遊んでみてほしいという人が多いんですけど、『猿』もやってほしいですか?

バカンダさん
僕が知る限りでは、『猿』のRTAやってる人は世界に2人しかいないですね。ニコニコ動画に世界一の人がいらっしゃるんですけど、確か8分16秒というすごく早い記録で、僕は全てショートコースで9分ジャストです(※ 「RTA in Japan」終了後、自宅で8分31秒に自己ベストを更新)。ロングコースだと、相手がミスしまくって逆にタイムロスみたいな所があるんで、RTA的には難しい。それで2時間半くらいやりなおしてやりなおして、自分なにやってるんだろ?って思うようなゲームです。

ただそうですね、最終的に記録が出たときの快感ってのはタイムアタックの醍醐味だと思いますし、RTAのなかではお手軽にエンディングが見られる短いゲームなんで、腐らずにモチベーションは保ちやすいですね。ミスしたらリセットすればいいだけですし、そいいう意味ではRPGの方が失敗したときは引きずってしまう気がします。数時間かかってラスボスで強かったら積んじゃうみたいな。そういうのが『猿』にはないんで。

2008年に発売されたWii用ソフト『プロゴルファー猿』。プレイヤーはWiiリモコンで狙いをつけ、振ることでボールを打つ。2ちゃんねるのとある板にて開催されている「クソゲーオブザイヤー」のノミネート作品に選ばれるなど、インターネット上ではいわゆる俗称の「クソゲー」として注目を集めた

──RTAを始められたきっかけはどういったものでしたか?

バカンダさん
暦としては長いですね。僕は最初『バイオハザード4』から始めて、色んな種類のRTAに手を出す感じでやってきました。でも『猿』はその中でもキワモノ系になりますね。今回のイベントではラインナップ的にわりと有名どこが多いと思いますんで。その中でクソゲーが入ってると目立つと思って。

──「RTA in Japan」に参加した経緯を教えていただきたいなと。

バカンダさん
いろんな界隈がありますけど、最大の理由はこのクソゲーを放送してみたかったっていうのがあります。有名タイトルの中にクソゲーがあるのをみんなに見てもらいたかった。お手軽そうに見えて、実は僕は初見でクリアまでに二時間くらいかかったんです。ショットがまともに打てるまでに時間かかっちゃう。狙いをつける場所とショットするタイミングが非常に難しくて、音が広がった瞬間に打つとナイスショットになるんですけど、ゲーム内でその説明がないんです。だから感覚で覚えるしかない。敵は何食わぬ顔でナイスショット連発されて、こちらはプラス8打とかで絶対負ける。

そんな初見だったんですけど、徐々に普通にショットが打てるだけで気持ちよくなってしまって。RTAもあんまり苦にならなったっていうとこですね。クソすぎるとやりたくなくなるんですけど、『猿』はやっててそんなに苦じゃない。ストレートで4連勝できたりすると、気持ちいいゲームだと思うんで、それを上手いこと見せて皆を罠にかけたいんです。難しいとかクソゲーとか思われてるんですけど、実は面白いんじゃないかって勘違いをさせたい。ただ、明日は一発勝負なんで怖い。

──『猿』にはいろんなキャラクターが登場しますよね。

バカンダさん
主人公の「猿」はドライバーのみになりますね。自分は未確認ですけど、ボールがグリーンに乗ってもドライバーを使う可能性があります。「竜(ドラゴン)」っていうキャラクターは、クラブがヌンチャクしか使えない、敵に回ると楽な方ですね。「ジェロニモ」はコーラのビンを使って強弱が打てるキャラクターなんで、最初の敵として当たるとキャンセルしたいなって感じですね。

「ドラゴン」は見た目がヤバい上に、一打目でヌンチャク振り回す時があるんで注目ですね。ヌンチャクで打つ奴とコーラのビンで打つ奴の対決は見ごたえあります。「紅蜂」と「猿」は普通にゴルフクラブで打ちますからね。僕は明日は「ジェロニモ」でやってくれっと言われたんで、練習してきました。上手くいけば三回くらい必殺技だせるんで、コースとか運もありますけど、魅せたいですよね。単純に打ってパターを決めてだと面白くないんで、どっかで「なんじゃこりゃ」っていう必殺技を絡めて。

──魅せることも意識したRTA。

バカンダさん
やってると運だらけなのがわかるんですけど、ただのプレイを見せているだけだと『猿』の運要素は伝わらないんですよね。たとえばコースの選出はほぼ決まってるものが選ばれるんえすけど、じゃあこのコースだけ練習しとけばいいやと思ってたら、いきなり別のコースが選ばれたりするんで。明日不安なのが、難易度が一番高い崖みたいなコースがあるんですけど、それが選ばれると一番怖いですね。ちょっとでもずれるとすぐOBになって、一回OBを出したらほぼ負け。相手はOBをださない。ずるいやん。なんでやねんみたいな。敵はバンカーには入れるんですけど、99パーセントOBはださないですね。ショートコースは一打で乗せでパター決めるで終わるんで。

アメリカから来日しプロゴルファーを目指す「ジェロニモ」。コーラの瓶の中に入っているコーラの液体量によって打ち方を微調整するという謎の技術を持つ

──『プロゴルファー猿』のことをここまで語れる方と会ったのは初めてです……。

バカンダさん
僕もびっくりするほど語れています。

――『猿』はこれでまでどれくらいプレイしてこられましたか。

バカンダさん
日々の練習とか初見とか入れると20時間くらいです。ただ、まだ練習してるといろいろ発見があるんですよね。ここに打ったら必殺技が出るとかあると思うんですけど、いかんせんプレイヤーが少なすぎて、攻略情報をほぼ一人で調べてる感じなので手探りですね。世界記録を持ってる方を参考にしても、そのコースが当たるかどうかも分からないんで。このまま終わってしまうのも悲しいので、誰か続いて欲しいですね。ただ僕のやってるRTAって、誰もやってくれないんですよね。

──ところで、『猿』という呼び方、面白いですね。

バカンダさん
僕の一個前のゲームが『耳』で、『耳』、『猿』、『髭(スーパーマリオブラザーズ)』ですね。

──『髭』はわかるんですけど、『耳』とはなんですか?

バカンダさん
『黄龍の耳』ですね。通称『耳』と呼ばれてます。僕もやったことあるんですけど、30分くらいかかります。明日挑戦される方は世界記録保持者なんですけど、17分でクリアします。とんでもないのが明日見られるかと思います。人間業じゃないような感じの。僕が解説するんですけど、解説が間に合う自信がないです。

『黄龍の耳』。大沢在昌氏によるライトノベル作品。1990年代に漫画版やOVA版なども制作され、1995年にはスーパーファミコン向けに同名タイトルがリリースされた

──『黄龍の耳』とはどんな作品なのでしょうか。

バカンダさん
とにかくタイトルのインパクト、見た目の面白さが凄いですよね。実際やると、あれもものすごく面白い。初見は壁破壊したくなるくらい、ものすごくイライラするんですけど。ベルトアクションなんですが、敵が空中コンボとか足払いをかけてきて、銃もバンバン撃ってくる。回復アイテムが存在しないんですけど、特殊能力の通称「耳パワー」というのがあって、敵を倒していくとゲージが上がって、それを使った時に体力が半分回復する要素と、ラウンドの前半が終わったら体力が全回復するという特殊な仕様があったりとか。僕も初見でクリアするのには結構苦労しました。

──全体で何面あるんですか?

バカンダさん
全5面です。それを17分って、すさまじい早さなんですよ。経験者だから分かるんですけど、パンチ、キック、追い込んで前蹴り、そして銃を撃つっていう4コンボを叩き込んで即死させていくことが必要になる。敵のHPが3ヒットから4ヒットしたら死ぬくらいの調整なんで、敵を如何に床に這いつくばらせずに追い込んでいくかっていうのを突き詰めていく、かなり考え抜いた高度なゲームになってきてます。実際やってみたら、まずクリアしたときの快感が凄くて、それをどんどんミスせずやっていくことが楽しいゲームです。

──クリア後も詰めていく面白さがある。

バカンダさん
不思議なことに初見クリアした方は、だいたいRTAをやる。経験を生かしてタイムを縮めたくなる。3時間から4時間かかっていたプレイヤーが、次は1時間でクリアできるようになる。ただ、解説のポイントとしてテキストを貰ったんですけど、運要素というか敵のボスの攻撃が多段すると厳しい場合もあったり。敵の行動はこっちが一方的に攻撃できるようにはなってなくて、最終面は左右から敵がワラワラ沸いてくるんで、何をしてくるかわからない情況で荒れる可能性が非常に高い。かつ、緑、赤、青っていう敵の種類で挙動が変わってくるんです。緑って言うのが射程が長いスライディングを急にしてくるんで、それが来ると他のキャラクターが何をやってくるのかに意識配分するのが難しくなります。一方的に敵が右からやってくるなら、その方向だけみてればいいんですけど、ボス戦に関しては左右なんでちょっと事故が起きちゃう可能性がありますね。

──バカンダさんは他にどんなRTAをやられてますか。

バカンダさん
今年ですと『北斗の拳3』っていうゲームがありまして、それを。現時点で世界記録、3時間強くらいで。

──前作までアクションゲームだったのに、『3』で突然RPGになりましたよね。

バカンダさん
あと『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』のRTAは尋常じゃない時間かかりました。19時間くらいかかちゃって。それRTAやるゲームじゃないだろって、つっこまれましたね。めげずに『EVE burst error』もやったら、29時間かかってもう死にかけました。

──それってテキストを流してるだけですよね……?

バカンダさん
そうです。ただ、僕がやってたのはセガサターン版ですけど、飽きさせないために音声をスキップしないっていうプレイをしてました。全部聞いてたら思いのほか時間が掛かってて吐きそうになったんですけど。それでも、好きなゲームでRTAやってみたいって気持ちは、みんな同じなんじゃないかと。有名なタイトルかどうかは別にして。

──『YU-NO』とか『EVE』は、普通に考えるとやろうと思わないですよね。

バカンダさん
『YO-NO』ではヒロインを助けずに宝玉を集めたら次のルートに進むってのがあって、それがRTAっぽい感じでしたね。詰めに詰めたら、一人だけ途中で宝玉をくれるキャラクターがいて、それが時短につながりました。そこはRTAですよね。

セガサターン版『YU-NO』

──RTAを実際に始められたのはいつごろですか。

バカンダさん
早かったと思います。2006年の8月くらいからですかね。クソゲーばっかりやるイベントを見ていて、それを僕もやってみたいっていうのが始まりですね。

──いわゆる世間一般的にいわれるクソゲーのみを選ばれている?

バカンダさん
有名なタイトルだと誰がこうやってたからとか、皆やってるんで参考にする人もいたりタイム縮めやすいんですけど、クソゲーは中々ないところが面白いんじゃないかなって。参考にできないというデメリットでもありますけどね。

『スーパーマリオブラザーズ』とか有名なのもやってますけど、有名な人にはタイムは及ばないんで、器用貧乏にやってる感じですね。突き詰めた奴があんまりなくて、新しいゲームを探しにいくみたいなプレイヤーですね。未知の領域に踏み込んで、こんなタイムでクリアできるよっていうのを探していく。既存のものに挑むよりは、変わった奴を選んでる感はありますね。

――今回の「RTA in Japan」の趣旨として、横のつながりを作るというのがあります。

バカンダさん
それでもまだ知ってるコミュニティで固まってて、僕も声かけづらいんで、プレイを終えて声かけてもらえれば嬉しいですね。なので明日も10分くらいの『猿』を飽きさせないように全力で。もしかしたらミスショット連発で焦って負けて、また最初から泣きそうになりながらやってるかもしれないですけどね。一発勝負ってそういう部分がありますよね。誰しもが完璧にってわけにはいかなくて、僕もプレッシャーにあんま強い方ではないので。対戦する形式だとまた気持ちも違うんですけどね。隣で一緒に『猿』を始めるとか。でも、今は『耳』の解説の方が大変な気がしてます。『耳』の度肝を抜くプレイ、ぜひ見て欲しいですよね。解説2人でやる予定なんですけど、その方も「耳ランカー」です。

──「耳ランカー」。

バカンダさん
『耳の先駆者』って感じです。

──今後「RTA in Japan」はどういう風に続いてほしいと思いますか。

バカンダさん
今回はクソゲーですけど、抽選に漏れた方もたくさんいらっしゃるんで、もうちょっと幅広い方が参加できるような。夏にぶち抜きで5日間とか、できるようになればいいなと思いますね。僕もできれば変なゲームで参加したいって感じですね。いちおう、3タイトル応募したなかであとの二つは、『戦場のヴァルキリア』と『バイオハザード4』っていうわりと真面目なタイトルだったんですけど、このイベントだと50時間っていう縛りがありますし、その中で3時間ってけっこう重いんで。『猿』だと10分くらいで一本ゲームができるってのが重要でして、ただ長いのばっかりだとだれるし飽きちゃうんで。

──最後になりますが、バカンダさんにとって「RTA」とはなんでしょう。

バカンダさん
プレイして面白かったゲームがどのくらいの尺で終わるのか、という純粋な興味です。『マリオ』とか有名タイトルだと、もう大体わかっちゃってるじゃないですか。だから誰も知らないようなやってない奴を選んで、そのタイムがどれほどのものか知っていくのが楽しいです。『猿』も誰もやってないと思ってたんですけど、他の人もやってたんでびっくりしましたし、それがモチベーションになった部分もあります。

──ありがとうございました。

 

[編集・撮影・取材 Shuji Ishimoto]

[執筆・取材 Nobuhiko Nakanishi]