「バイオ7もってるよね、ちょっとスピードランやってみてよ」。本稿はそんな編集長の一言から始まった無謀な企画である。いや、筆者自身も「素人がどこまでタイムを伸ばせるのか」という点には前から興味があった。初心者が努力でどこまでの記録を出せるのか、市民マラソンでいう4時間の壁は、本作では何時間何分に値するのかという疑問だ。

e-Sportsがチームスポーツならば、RTA(リアルタイムアタック)は陸上競技に近いだろう。寸秒の差を埋める他者との競争であると同時に、プレイヤー自身との戦いという側面が大きい。「クリア時間」はプレイヤーの成長を図る上で、この上なく目標にしやすい指標であり、徐々にタイムを削っていく過程には、自らの成長を実感する喜びがともなう。それになんといっても、初回プレイ時に10時間前後かかったであろうゲームを、ものの数時間でクリアするのは気持ちが良い。

こうした効率化が生む快感はスピードラン動画を視聴するだけでも間接的に味わえる。では「プレイヤー」としてスピードランを楽しむことはできないのだろうか。趣味の範囲でスピードランに挑むことは無謀なのか。いや、そんなことはないはずだ。本稿が目指すのは、できるだけ習得時間が短く簡単なテクニックだけを使った『BIOHAZARD 7 resident evil』(以下、バイオハザード7)スピードラン入門ガイドである。世界記録を目指すのではなく、趣味として気軽にスピードランを試してみたい方の参考になれば幸いである。

※本稿には『バイオハザード7』攻略に関するネタバレが含まれております。ご注意ください。

 

スピードランの下準備

今回挑戦するのは、一番取り組みやすい「カジュアル」難易度、「ニューゲーム+」「Any%(やりこみ度を考慮しない)」という条件のスピードランである。PC版ではなくPlayStation 4版を使用。スピードラン挑戦にあたり必須となるクリア特典アイテムは、「アルバート-01R」「無限弾」「丸鋸」の3つ。「アルバート-01R」は初回クリア、「無限弾」は「マッドハウス」難易度クリア、「丸鋸」は難易度問わず4時間以内クリアで入手できる。

エブリウェア人形全破で手に入る「ウォーキングシューズ」についてはランク上位者でも使用する派・使用しない派で分かれている。「ウォーキングシューズ」が速めるのは徒歩と武器構え時の移動速度であって、走る速度には大きな差がなく、プレイスタイルによっては恩恵が少ないからだ。本稿では「ウォーキングシューズ」を使用しないルートを辿っている。

下準備の段階で、まず「マッドハウス」難易度のクリアを億劫に感じる方もいるだろう。だが『バイオハザード7』が届ける恐怖をフルに体験する上では、一度プレイしておいて損はないモードである。弊誌レビューで言及したように、2週目以降はあらゆるものが「未知ではなくなっている」ため心に余裕が生まれる。だが「マッドハウス」だけは違う。難易度がシビアになっているだけでなく、1周目でパターンを把握し「恐怖を克服」した気になったプレイヤーの心境を逆手に取り、「自分が知っているはずの展開じゃない」という新しい角度からの恐怖でプレイヤーの自信を崩しにかかる。「マッドハウス」が届けるのは、一度経験したからこそ活きる恐怖なのだ。

 

参考にしたトップランナーたち

筆者が参考にしたスピードランナーは3人。uhTrance氏、Distortion2氏、xer1aN氏である。本稿で使用するのは、いずれも彼らの動画から学んだテクニックのうち、少ない練習量でマネできるものばかりである。特に歴代バイオハザードシリーズのスピードランナーとして有名なuhTrance氏のスピードラン動画から得たものは多い。

uhTrance氏は『バイオハザード7』の発売当初、クリア特典に頼らない「ニューゲーム」のスピードランで世界記録を樹立。確かな実力を証明した上でクリア特典ありの「ニューゲーム+」に活躍の場を移し、連日記録を更新していった。スピードランでは練習量が大事なのはもちろんのことだが、それ以上に最短ルート・時間短縮方法を発見する過程の方が大変だと筆者は考えている。ゆえに発売初期から独自のテクニックを編み出し、「How To」動画として自身のYouTubeチャンネルに攻略方法をアップロードしていたuhTrance氏には高い関心を抱いていた。Distortion2氏は『Dark Souls』シリーズのスピードランで有名。『仁王』のスピードランでは2月24日に1時間25分25秒の記録を出している。

またつい先日、日本人の動画配信者「AAAA8」氏がPlayStation 4版での世界記録を達成しており(Any%、NG+、記録1時間32分38秒)、そちらも参考になる。なおPC版の記録は、本稿執筆時点ではxer1aN氏の1時間30分07秒となっている。

 

スピードランの基本

回復モーションは防御ボタンでキャンセル可能

当たり前すぎるかもしれないが、移動は走りが基本になる。銃撃は腰だめ撃ちが好ましいが、慣れないうちは照準を合わせて確実に狙っていこう。またインベントリーの管理時間も馬鹿にできない。待ち時間を使ってインベントリー画面上のカーソルを次に使うアイテムに合わせる一手間を忘れずに。またインベントリーに空きがなく、キーアイテムを拾えないという事態は絶対に避けねばならない。

使用する武器は「丸鋸」「アルバート-01R」「ハンドガンG17」「グレネードランチャー」の4つ。本稿ではエイム力を問わない「丸鋸」を積極的に使っていく。「ハンドガンG17」はジャック戦1回目で拾う。「グレネードランチャー」は「カラスのカギ」で本館資材庫を開くのではなく、ゲーム終盤の廃屋で手に入れる。クリア特典の「無限弾」を使用するため、銃弾を拾う必要はない。回復薬も拾わなくて良いのだが、失敗したときのリカバーが利かなくなる。心の安定剤として、タイムの邪魔をしない範囲で拾っておこう。

 

攻略Part 1 トレーラーは触れるだけ

以下では筆者のスピードラン動画を参照しつつ、詰まるポイントと時短テクニックを中心に解説を加えていく。特に注意が必要なセクションは太字で記載している。なお、どのテクニックも今後のアップデートで変更される可能性がある。

9:50 豹変後のミア
動画内では地下室から階段を登ったのち通路奥まで進んでいるが、実際にはお手洗いに足を踏み入れるだけで地下室からの物音をトリガーできる。またミアを押しのけたあとは、彼女に向かって直進することで数秒だがタイムを縮められる。

12:00 ミア戦1回目
ミアの攻撃を防御しつつオノを振りかぶる。攻撃一本で押し切るよりも時間がかかるが、初見でも真似しやすい。オノが通路側に落ちるようポジショニングできれば理想的。ミアを倒したら、電話から数歩はなれた場所で待機しよう。

15:20 ミア戦2回目
スピードランの第1関門。オノだけで戦うため、途中の銃は拾わなくてよい。屋根裏のハシゴから降りたら、隣にあるテレビ台の側でしゃがんで待機。いざミアが降りてきたら、ひたすらお尻を狙おう。背後に回りこんでいればチェーンソーに当たらない。なお、うまく攻撃を当てることでミアを数秒で撃破する方法もあるが、コツをつかむためには練習が必要となる。

ミアのアイーン15:56

19:30 通路でのジャック回避
ベイカー家との晩餐を楽しんだら、通路奥にある「床下へのカギ」のもとへ一直線。ジャックの攻撃はタイミングよくしゃがんで回避する。攻撃を避けられなくても焦らず防御。また警察官との会話イベントをトリガーするため、この時点で半獣プレートの扉に触れておくこと。セーブルームに到着したら、ゾイの電話に出たのち、ボックスから「アルバート-01R」「丸鋸」「無限弾」の3つを取り出す。「アルバート-01R」は忘れず強装弾に切り替えておく。

23:23 ジャック戦1回目
戦闘開始と同時に「丸鋸」でジャックを切り刻む。ジャックが振り返ったらに車の側まで退避。「アルバート-01R」を撃ち込む。ジャックが車に乗り込んだら再び「丸鋸」で攻撃。十分なダメージを与えていれば一回目でクラッシュするので、車体を回り込んで「ハンドガンG17」をゲット。ハシゴ落下ポイントまで戻り、ジャックが立ち上がるまでの空き時間で強装弾に切り替えておく。

26:20 ジャックとの鬼ごっこ&影絵パズル
2Fトイレで「木製のスタチュエット」を入手したらジャックとの鬼ごっこ開始。鬼ごっこのポイントは、ジャックの壁破りイベントを阻止することである。動画内ではバスタブをぐるりと迂回しているが、直進しながらジャックの足を撃つことでも突破可能。時計に振り子を設置してから銃を乱発しているのは、ジャックの注意を引くためである。ジャックがプレイヤーの真後ろをついてくるように仕向ければ、壁破りのイベントをスキップできる。通路奥にたどり着いたら振り返ってジャックを倒しておこう。その後の影絵パズルだけは、どうしても慣れが必要。スピードラン挑戦前に何度か練習しておくとスムーズにこなせる。

29:22 ジャック戦2回目
初回プレイ時には苦戦した方もいるであろうジャック戦2回目。「丸鋸」があると一気に難易度が下がる。ヘッドショットで初回ダウンをとったら「丸鋸」で攻撃。ジャックがチェーンソーを手に取ったら、あとは「丸鋸」で攻撃し続けるだけ。とはいえ、2回目以降も「アルバート-01R」のヘッドショットでダウンさせてから「丸鋸」に切り替える方が圧倒的に速い。エイムに自信がある方は、そちらの方法を試してみよう。回復が必要な場合は、ボス撃破後の待ち時間を利用してボス部屋奥まで拾いにいく。

33:29「丸鋸」で旧館ロック解除
旧館で「石のスタチュエット」を入手したあと、ゾイ&ルーカスのイベントは無視してよい。虫の巣がある部屋に戻るとマーガレットが扉をロックするが、直後に「丸鋸」のL2+R2攻撃で扉を切りつけると、ロックがキャンセルされる。攻撃位置が高すぎても低すぎても失敗する可能性があり、トップランカーでもよくここで失敗している。下手に右スティックでカメラを操作せず、左スティックだけで扉に向かって直進しよう。

36:52 マーガレット戦1回目
マーガレットがノックバックする前にすばやく「ハンドガンG17」の強装弾で5発撃ち込むとタイムを縮められる。

39:22 マーガレット戦2回目
スピードラン第2の難所。攻略法はスピードランナーによっても多少異なる。初見で理解しやすく、かつ失敗してもリカバーが利きやすいポジションは2F屋内ハシゴ横だろう。階段の窓から飛び出してくるマーガレットを回避し、攻撃せずに2Fまで登る。そしてハシゴ横の天井穴にカメラを向ける。するとプレイヤーの視野に入っていない下方の穴からマーガレットが飛び出してくるので、ひたすら「丸鋸」で攻撃する。可能な限り下腹部の弱点を狙うこと。マーガレットが天井に移動した場合は銃で撃ち落とすか、少し離れて待機する。2F暖炉の穴に逃げ込まれたら、高確率で1F暖炉から姿を現わすため、ハシゴ穴から落下して攻撃を再開しよう。仮に最速攻略を狙うのであれば、マーガレットが窓から飛び出してくる段階で数発撃ち込んだ後、1F奥の天井から顔を出すのを待つ。

43:13 トレーラーは触れるだけ
警察官の遺体イベントを発動させるのに、トレーラー内まで戻る必要はない。トレーラーの外装に身体をこすりつけて、そのまま本館の方に方向転換しよう。成功すればトレーラー内から電話の音が鳴り響くはずだ。なお国内版では遺体の横に「ヘビのカギ」が置かれているが、海外版では遺体の体内に埋め込まれている。切断された首から手を突っ込んでカギを取り出すわけだが、国内版ではこのシーンがカットされているため、12秒ほど得をしている。グロ規制の恩恵と言えよう。

 

攻略Part 2 丸鋸を取るか、丸腰で挑むか

4:30 大型モールデッド攻略
攻略方法は2種類。ひとつは大型モールデッドがエレベーターから降下してくる段階で「アルバート-01R」によるヘッドショットを繰り返す方法。エレベーター開放後も撃ち続ければ短時間で倒せる。もうひとつは、エレベーターが開くと同時に足を撃ち、ダウンさせる方法。5発撃ち込んでダウンしたら「丸鋸」で頭を狙う。動画では前者の方法に失敗したため、後者に切り替えている。

11:15 ジャック戦3回目
第3にして最後の難関。ボス戦開始と同時にジャックの右手を「丸鋸」で破壊したのち、懐からステージ下部に落下する方法が速いが、慣れないとジャックの身体に引っかかる。よって動画では手堅く左側の穴から降りている。8つある急所のうち、もっとも破壊に手こずるのが腹の下部に隠れた目玉だ。尻尾のすこし上、11:44で切りつけている箇所に目玉がある。残りの7箇所は銃で撃つか、「丸鋸」で順番に削っていく。動画では銃での突破を試みているが、エイムがぶれることで時間をロスしている。「丸鋸」での破壊ルートを覚えればタイムが安定するだろう。回復薬が足りない場合は、ボス撃破後の待ち時間を使って木箱を破壊しておく。「ミアかゾイか」の選択は必ずミアを選ぼう。

34:20 ミア編 丸鋸を取るか、丸腰で挑むか
ミア編でボックスを開けて「丸鋸」を取るか、丸腰のまま進むか。もちろんボックスをスルーした方がタイムは縮まるが、ダメージを受けるリスクが高まる。とくに四速歩行型モールデッドの回避に失敗すれば瀕死状態に陥ることも。無難に進めたい場合はボックスからアイテムを回収しておこう。

42:30 廃屋到着 アイテムの取り忘れに注意
廃屋に到着したら「グレネードランチャー」を確保。アイテムボックスからは各種武器と回復薬を忘れずに取り出そう。動画内ではハンドガンを取り忘れたため、20秒ほどロスしている。また廃坑へのエレベーターを降りたら、先にワイヤートラップを撃って破壊しておこう。

45:57 最後のストレッチ
廃坑最後の一本道。「丸鋸」でモールデッドの頭を狙っていく方法が一番安全であるが、少々時間がかかる。銃で確実にヘッドショットを取っていくのが理想的だが、動画のようにしくじればタイムロスとなる。ここはエイム力との相談だろう。最後に待ち受ける大型モールデッド2体とはまともに戦わず、両方に当たる位置に神経弾を一発だけ撃ち込む。するとハシゴを登り終えるまで麻痺状態となる。神経弾をはずし、ハシゴから落下したところを集中攻撃されるとゲームオーバーもあり得るので、慌てずに対処しよう。

49:25 エヴリン戦
少女エヴリンの攻撃を1回で終わらせるか、2回で終わらせるかでタイムが数秒変わる。欲張って攻撃を食らってしまうと時間を大幅にロスするため、手堅く防御していくのが無難だろう。変形後エヴリンとの屋外戦では、右足を刺されるまで撃ち続ける。宙づり状態になったら素早く「丸鋸」に切り替えて足元を攻撃する。間に合わないとエヴリンの攻撃が入り、タイムロスとなる。最後は本物の「アルバート-01R」でトドメを刺して終了。

 

1時間40分が壁となる

最終タイムは1時間37分59秒。プレイを振り返ってみると、インベントリー画面の操作ミス、ルート間違い、豪快なアイテムの取り忘れ、廃坑でのもたつきなど、大幅にタイムロスした箇所が目立つ。これらを改善して完璧なランを目指すことも可能だが、それではもはや初心者の域を超えてしまう。ミスしながらでも目指せるタイムは1時間40分前後といったところ。このあたりが初心者とスピードランナーとを隔てる壁となるだろう。

ただ、いくらクリアタイムを縮めたからといって、筆者がやっていることはスピードランナーの真似事に過ぎない。それでも初回10時間前後かかった作品を2時間足らずでクリアするというのは気持ちが良いものである。スピードに取り憑かれたプレイスタイルの先には、縛りプレイとは一味違うスリル、そして単純にクリアするだけでは味わえない達成感がある。本編をクリア済みで、恐怖が消失したあとも緊張感を持って楽しみたい方は、一度スピードランに挑戦してみるのも良いだろう。そのままズルズルとスピードの沼にはまってしまえば、それこそしめたものだ。

 

※「Gamer Pick」は、知られざるゲーマーの存在を紹介したり、ゲーマーの視点を通じてゲームについて語ったりする、毎週日曜日に更新の連載企画。なぜゲームをそこまでやり込むのか、どんなゲームをプレイしているのか、どうゲームを楽しんでいるのか。さまざまな楽しみ方、遊び方をもってしてゲームに熱意を持って取り組むゲーマーたちの姿を、インタビューやコラムを通じて伝えていく。