フリーゲーム『新約・帽子世界』紹介。6+1人の少女による物語を、戦略性の高いバトルで描いた長編フリーシナリオRPG

フリーゲーム『新約・帽子世界』は、管理人の数だけ存在する世界を舞台に、6+1人の主人公が織りなす長編RPG。同作の魅力を紹介する。

『新約・帽子世界』は、管理人の数だけ存在する世界を舞台に、6+1人の主人公が織りなす長編RPG。2013年に公開された『帽子世界』をベースに、主人公ごとの個別シナリオを追加。新たな登場人物やPTメンバーを3人から4人へ変更するなど、多数の要素を追加したもの。『サガ フロンティア』に影響を受け、同作風のシステムが搭載された作品でもある。そのゲーム内容を、かいつまんで紹介しよう。

本作の舞台である帽子世界は、管理人によって創造された多数の世界を内包するもの。時空列車ユグドラシルが未来へとひた走る時の世界。人形やオモチャたちが暮らす玩具の世界。命の世界、戦の世界、法の世界、夢の世界、情熱の世界など、創造の力を持つ帽子と、その所有者である管理人によって形作られた世界には、帽子によって作られたデコイと、帽子を持たない少女たちも暮らしている。

しかし、このファンタジー世界群は平穏とは言い難い。管理人だけがかかる不治の病であり、最終的に死に至る「過帽子症候群」を始めとした、帽子世界7大迷惑と呼ばれる問題が存在しており、少女たちを悩ませている。そんな中、ソフトボール部に所属していたという制服姿の少女白坂洋子が帽子世界に現れ、少女たちの命運を賭けた物語が幕を開ける。

具体的なシナリオとしては、過帽子症候群の解決策を求め、帽子を集める命の世界の管理人ラヴィ編。7大迷惑の一つ、自分食いと対峙する戦の世界の管理人ジャニス編。世界を欺き、過去へ向かう時の世界の管理人シキ編。6人の主人公たちの、残酷な世界の仕組みに立ち向かう戦いは、異なる6編のストーリーによって紡がれていく。帽子とは何なのか。帽子世界とは何なのか。世界の謎や仕組みが明るみとなり、少女たちを取り巻く状況がはっきりしていくわけだ。

ゲーム開始時には、主人公候補の中から1人を選択。選ばれなかった主人公候補とは、基本的に帽子を賭け、相手の世界で戦う。それぞれが世界の管理人として、強力なボスとして立ちはだかるわけだ。世界の価値観が反映されたフィールドを踏破し、管理人を撃破し、帽子の奪取に成功すると、行動順の可視化、戦闘終了後のHP回復、オーパーツの解放など、主人公に選んだ際の能力も獲得でき、有利に戦いを進められるようになっていく。管理人の攻略は、基本的に好きな順番で行えるため、相手の強さや手に入る能力を考えて、自由な順番でゲームを進行できる。

戦闘は、ターン制のコマンドバトルが採用されている。武器ごとに設定されたアーツ、場に満ちたマナを使って詠唱する魔法、行動順と向きで成立するコンボ、火力が上昇しHPが回復するオーバーソウル、補正値や特殊効果を持つ陣形を駆使して敵と戦う。本作にレベルの概念はなく、戦闘中に技をひらめいたり、装備品の鍛錬度やマスタリー、STR・DEX・ライフなどのステータスが上昇することで、キャラクターが成長していく。

戦闘勝利時には、帽子世界のリソースであるクリスタルが手に入る。これをジェムに割り振りると、各確率・威力の上昇や、新たなジェムが解放されてキャラクターの幅が広がる。ジェムは、4つの枠にセットすると効果を発揮。中には強力なものもあり、味方への単体物理攻撃を確率で無効化する「セイブブロッキング」を4人に装備し、高確率で物理攻撃を無効化したり、魔法の発動を無効化する「ジャミング」をPTに複数用意し、相手に魔法を使わせないことも可能。魔法にも戦況を一変させるようなものがあり、特に時魔法には強力な呪文が揃っている。また、1ボタンで前のターンと同じ行動を選択できるため、雑魚戦がストレスフリーな点は特筆しておきたい。

上記のように、装備品やオーパーツも含め、キャラクターを自由にカスタマイズでき、幅広い戦術が実現できることが本作の特徴の一つだ。上手く組み合わせると、マナを全て消費する強力な魔法を連発したり、敵の攻撃によるダメージを9割近くカットすることも可能。反面、各シナリオの終盤には、設定がシステムへと落とし込まれた強力なボスたちが待ち受けている。彼らとの戦闘は一筋縄ではいかず、初見での撃破は難しいが、しっかり攻略の糸口が残されており、シナリオや演出も含め、とてもやり甲斐のあるバトルに仕上がっている。また、6人の主人公を攻略した後には、引き継ぎを前提としたヨウコ編がプレイ可能となり、これまで以上の戦いや、6人のシナリオで描かれてきた全てに立ち向かう物語が紡がれていく。

本作を開発したのは、RPG探検隊のえぬ氏だ。2019年4月に一般公開された後、2019年9月にヨウコ編が追加されてVer2.0に。2013年に公開された『帽子世界』の開発期間も含めると、12年の歳月を経て完成へ至った「RPGツクールVX」製のフリーゲーム作品となる。幻想的なものから、恐怖心を煽るものまで、幅広い世界を表現したグラフィック。シーンごとに、しっかりイベントを盛り上げるBGM。個性的で強大なボスとの戦い。帽子世界の抱える問題と謎。愛すべきキャラクターたち。『サガ フロンティア』裏解体新書に掲載されていたヒューズ編に衝撃を受け、RPGで育てた先の妄想を形にしたい―――そんな思いが結実した『新約・帽子世界』は、長い年月を賭けた作り込みにより全体のクオリティが高く仕上げられていて、RPGらしい魅力に満ち溢れている。

筆者が全編クリアまでにかかった時間は60時間ほど。『 新約・帽子世界』は、現在ふりーむ!にてフリーゲームとして公開されている。

また1月30日には、シンプルかつお手軽なTRPGを目指し、帽子世界を舞台にした『帽子世界TRPG』が公開された。ルールブックは公式サイト上で閲覧できるほか、オンライン上でTRPGをプレイするための補助ツールの一つ、ユドナリウム用のルームデータと汎用NPC駒などを収録したスターターセットも用意されている。

Keiichi Yokoyama
Keiichi Yokoyama

なんでもやる雑食ゲーマー。作家性のある作品が好き。AUTOMATONでは国内インディーなどを担当します。

Articles: 2515