4月8日に起こる呪いを解き、荒田集落の謎に立ち向かうADV『死月妖花~四月八日~』。 200万字以上のボリュームを誇る国産フリーノベル

『死月妖花~四月八日~』は、4月8日に発生する不可思議な殺人事件と、世界の謎を解き明かしていくホラー・サスペンスノベルゲーム。PC用(Windows)フリーゲームとして公開中となっている。

『死月妖花~四月八日~』は、4月8日に発生する不可思議な殺人事件と、世界の謎を解き明かしていくホラー・サスペンスノベルゲーム。創作サークルNew++のさつき氏によって開発された作品で、ふりーむ!フリーゲーム夢現にてPC用(Windows)フリーゲームとして公開中となっている。正式版の一般公開日は2019年4月2日。開発期間は3年半にも及んでおり、2017年3月に公開された『死月妖花~四月八日~(先行配布版)』及び2016年2月に公開された『四月八日の魔女(試作版)』の完成版にあたる。プレイ時間は50時間から120時間ほど。なお、筆者はクリア後のエクストラシナリオまで含めて約100時間かかっている。

「古郡なつみには直感がある。そして物事には理由がある」

舞台となるのは、桜を観光資源に住人を増やしつつある佐波県元木町。2020年4月8日の明け方、御神木のある中央公園で、赤い死体が発見されたことをきっかけに、陰鬱な事件が幕を開ける。四月病と季節限定の予知能力。12年前、中央公園で起こった事故。4月8日に起こる常軌を逸した殺人事件。赤い装束に能面を被った殺戮者と、魔女の呪い。奇妙な危険察知能力を持つ古郡なつみ、その幼馴染で一つ上の高校3年生新村春花、小柄な体躯に大人顔負けの頭脳を詰め込んだ天才少女五島絵梨奈、3人の女子高生が中心となり、真相を追い求めていくのが最初の物語である「呪殺編」だ。

本作は多数の編によって構成されていて、視点を新村春香に変えて「呪殺編」で描かれた事件により深く迫る「明徴編」。赤い死体が発見されるよりも前の時系列を舞台にした過去編「詫言編」。元木町ではなく、2020年4月の荒田集落で展開する「死月編」。バッドエンドやハッピーエンド後の世界を描写した「真・呪殺編」など、9つ以上あるifの世界を巡り、独特の風習を色濃く残す一族や共通認識によって醸成されていく狂気、その裏側に潜む怪異や呪殺の真相を明かしていく。メインストーリーのテキスト量は170万字。メインのストーリー以外にも、作中で登場した書籍や場所、メモの内容などを記したリファレンスや事典。赤装束に能面を被り、本作の案内人を名乗る謎の人物と雑談する要素もあり、単純に物量が膨大だ。

「元木町にあるファミレス・ザッハの名物、ロシアンたこ焼きを巡る戦いの一幕」

100時間という長いプレイ時間の背景にはこうした物量があるのだが、単にボリュームがあるだけではなく、つい背後が気になってしまうような演出や、コミカルなシーンの楽しさ、短時間でも遊べるように章が短く区切られていることなど、完成度の高さが本作の魅力だろう。演出面では、いわゆる一枚絵がシーンごとに用意されていたり、本編のシナリオ以外でも恐怖を掻き立てる演出が用意されていて、随所にプレイヤーを楽しませようという工夫が見られる。

「仮面と赤装束の彼女との雑談は、憩いの瞬間だ」

また、シナリオ自体の質も高く、魅力的なキャラクター達が常軌を逸した事件に立ち向かい、推理と論理で呪い解き明かしていく様や、集落に残された謎と因習に挑み、根本に佇む大いなるものと対決していくストーリーは、過去の名作を思い起こさせるほどだった。50時間から100時間かけて、プレイヤーに最後まで読ませるだけの力がこのシナリオにはある。ただしボリュームがあり、手を出しづらいこと自体は事実だ。週末に元木町へ旅行するような感覚ではクリアまでたどり着けないので、まずは「呪殺編」をプレイしてみて面白ければ続きを遊んで見ることをオススメしたい。

Keiichi Yokoyama
Keiichi Yokoyama

なんでもやる雑食ゲーマー。作家性のある作品が好き。AUTOMATONでは国内インディーなどを担当します。

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