Steamにて1万件以上の好評価を集めた無料の恋愛ADV『Doki Doki Literature Club!』紹介(ネタバレなし)。海外開発者が描くお約束の向こう側

独特の警告文と、「精神的恐怖」というゲームタグ。そして一部ウィルス防止ソフトに誤検出されてしまうような仕組み。明るい恋愛アドベンチャーとしか思えない『Doki Doki Literature Club!』は、ゲームの中身にほとんど触れることなく、付随情報だけでその実態を示唆することに成功している。
「このゲームは、お子様や、心が傷つきやすい方には適さない内容となっております」

この警告文と、「精神的恐怖」というゲームタグ。そして一部ウィルス防止ソフトに誤検出されてしまうような仕組み(プレイ中、ゲームディレクトリ内でとある変化が起きる)。パッと見た感じでは明るい恋愛アドベンチャーとしか思えない『Doki Doki Literature Club!』は、ゲームの中身にほとんど触れることなく、付随情報だけでその実態を示唆することに成功している。

本作は2017年9月にSteam/itch.io(Windows/Mac)にて無料配信された米国産の恋愛アドベンチャーゲームである(日本語は非対応)。Steamでのユーザレビューは現時点で「圧倒的に好評」。配信から1か月で好評数1万500件以上と絶大な支持を得ていることからも、国産恋愛アドベンチャーの「リスペクト作品」として終わる代物ではないことが窺い知れる。だが、開発者自身がゲームの内容をぼかしていることからも分かるように、ネタバレ抜きで本作の魅力を語ることは不可能に近い。本稿では出来るだけ詳細を伏せて、ゲームの表面の部分だけを紹介していく。気になった方は、ぜひ実際にプレイしてみてほしい。

主人公は、とある高校に通う男子学生。ひきこもりがちな主人公を心配した幼馴染のサヨリ(Sayori)は、彼を文芸部に誘う。見学にきた主人公を出迎えてくれたのは、文武両道のカリスマ部長モニカ(Monika)、漫画好きでちょっぴりツンデレな後輩ナツキ(Natsuki)、はずかしがりやで内気な文学少女ユリ(Yuri)、そして副部長のサヨリをふくめた部員4人。かわいい女の子たちに囲まれた主人公は、「こんなハーレムな学園生活を送れるのならば」と入部を決意する。

文芸部の活動内容は、読書と自作ポエムの感想交換である。主人公は1日の終わりにポエムを書き、そこで使われた単語の傾向から、女の子たちの好感度が上下する。プレイヤーが全文を完成させるのではなく、画面上に表示される英単語のリストから、使用するワードを選ぶことになる。ユリ狙いならば知的な、ナツキ狙いならばポップでかわいらしいワードを。サヨリ狙いならば喜怒哀楽を率直にあらわすシンプルなワードを選んでいく。

つくったポエムは翌日、ほかのメンバーに披露して感想を交換することになる。自らの作品をシェアすることはもちろんのこと、彼女たちが書いたポエムを通じて、普段の会話中には表れてこない意外な一面や、心境の変化を把握することができる。互いを知り尽くしていると思っていた幼馴染のサヨリだって、例外ではない。通常の会話パートと、ポエムパート。この2つを通じてキャラクターを描写している点が、本作の特徴のひとつである。こうした日々の部活動と、数日後にせまった文化祭の準備を進める中、とある異変が主人公の恋路を邪魔しはじめる。

本作を開発したTeam Salvatoは米国の3人組デベロッパーであり、シナリオからイラスト、BGMまで彼ら自身で制作している。海外産ながら恋愛アドベンチャーとしてのお約束をしっかりとカバーしており、英語が苦手でも、シチュエーションから内容を推測しやすいつくりとなっている(少なくとも、前半部分は)。「べ、別のあなたのために作ったわけじゃないんだからね!」といったベタなセリフや、「ちょっとモニカ、そのジョーク、英訳したら通じなくなるわよ」という、まるで日英訳した作品であるかのような演出も含まれている。最初から英語で書かれたであろうシナリオであるにも関わらずだ。シナリオだけでなく、丁寧なイラストから王道のBGMまで、日本の恋愛ゲームに対する愛情にあふれた、見事なこだわりようである。

こうしてプレイヤーは、ゲームのキャラクターである男子学生の立場でプレイし、恋愛の攻略対象である女子学生との交流を楽しむ。ベタな設定、ベタな展開の中で。ただし冒頭で触れたように、ありふれた恋愛アドベンチャーで終わらないからこそ、お約束の向こう側に秘めたるものがあるからこそ、1万件以上の好評価を得ているのである。ここから先は、プレイヤー自身で確認してもらうしかない。

最後に、文芸部の部長であるモニカは、作中でホラー小説について語る際、このような言葉を残している:

「ほんの少しだけ、ズレている。それよりもゾッとすることなんてないわ。どんなお話になるのか、予想できるような展開に持っていって……途中からその期待をひっくり返して、ずたずたに引き裂いていくような、ね」

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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