「教化作戦(Convert This)」は、弊誌執筆陣のなかで意見が分かれていたり実力差がついていたりするタイトルについて、先行者が後進を”教化”する不定期連載企画。最終的に改宗成功するかどうかは、やってみるまでわからない。
前回からおよそ1年と10ヶ月。第3弾は5月20日にSteamでリリースされたばかりのPC版『恋姫†演武(以下、恋姫)』をピックアップする。今回はライターの「野村 光」を師匠に、同じくライターの「空山 緑郎」と編集デスクの「河合 律子」の2人がたわわに揺れる萌え三国志の世界を行く。はたして3人は『恋姫』の真髄に触れ、真の三國無双となることができるのか。
参加ライター
[野村 光]
今回の企画を発案したラクダ乗りもといAUTOMATONライター。宇宙ストラテジーと格闘ゲームを好む。『チェンジアブレード』大会での入賞経験アリ。編集部内で誰よりも早く『恋姫†演武』の魅力に気づいた師匠として、2人を教化する。
[空山 緑郎]
AUTOMATONライターの1人。格闘ゲームをふくめ幅広いジャンルの作品を遊ぶが、女の子がいっぱい出てくるゲームは苦手。ちなみに彼がプロフィール画像でつけているマスクはVectrexの3Dメガネ”3D-IMAGER”である。
[河合 律子]
AUTOMATONの編集デスク。マッチョなジジィが素手で殴りあうゲームが大好き。格ゲーに関しては、幼い頃に親指から血が出るまでひたすら昇竜拳を出し続けた日々が黄金時代。今でもたまにゲームセンターで葉巻を吸いながら『鉄拳』をやっている。
初見: 地味な美少女格闘ゲーム
じゃあ1戦、ひとまず空山さんと。
あ、これみんな三国志の武将なんだ。
そうですね。三国志の武将をモチーフにして女の子化したのが『恋姫』になってます。ちなみにキャラセレは武将を選んで軍師を選ぶというかたちですね。軍師はパワーゲージ1ゲージを消費して放つ、自分が先に動ける飛び道具です。
『マブカプ』でいうアシストみたいな感じですか?
アシストですね。ゲージを使うアシストです。
なるほど。
あと攻撃ボタンは3つあって、それぞれ弱、中、強。4つ目のボタンは投げです。投げが1ボタンででる便利なゲームです。
[試合開始]わりとオーソドックスな、空中ガードとかもないっていうゲームで。
あれですね、ダッシュで大足刺して、そこから浮いてっていうゲームじゃないんですね。
そうですよ。ガチで『スト2(ストリートファイター2)』やらされるゲームです。
[試合終了]これ……なんか今どき、めずらしいゲームをしてる気がする。
『スト2』というか、『ストリートファイターV』に近いですね。
コンボゲーではない?
コンボゲーではないですね。
意外だなあ。
最近でたSteam版『Melty Blood』(※)みたいなゲームと思ったかもしれないですけど、オーソドックスなゲームですよ。くせになるオーソドックスさ。
これを3ボタンでやるのが「ふーん」って感じがする。
いやあ、これが馬超かあ。今持ってる馬超のイメージとは結びつかんなあ……。
キャラセレ画面でキャラクターがどんなリーチの武器持ってるかってのがわかったら、もっとわかりやすかったかなあって思うんですけどね。もうなんか顔で選ぶしかないっていう。
顔で(笑)
いや、ホントですよ。――それでは2人でやってみてください。特に目押し攻防とかもないんで、中攻撃のあとに昇竜拳とか入れて。あと必殺技と弱中同時押しでEX技がでますね。波動拳と投げでさっきの軍師が来ます。
[試合開始]あ、そうか。ジャンプ空ダなんていうのはないんだ。
あ、空中ガードでけへんの。
このゲーム、空ダも空中ガードもないようですよ。[試合終了]――これ地……すごいなこれ(笑)こういっちゃなんですが、すっごい地味っすね。
いまのご時世にようだしたなと。じゃあもう何戦かやってみましょう。
でてくるのが全員女の子というのを除けば、相当古風な内容をやっている気がする。
[カコーン] あ、なんか実績解除された。
このゲーム、一部の技がカウンターヒットすると、”カコーン”って音がしてコンボ入れ放題になるんです。この辺は次で具体的に説明しますね。
これすっごいなあ。
見た目自体はおっぱいぷるるんぷるるんしてるんですけど、想像以上に地味で。硬派ともいえる。
ああ、その単語がどうしてもでてこなかった。
わたしアレ思いだします、スーパーファミコンの頃に「セーラームーン」の格ゲー(※)あったじゃないですか。あれに似てる感じ。
いまあのゲーム相当攻略進んでるんですけどね……。
あのゲーム、たぶん河合さんが知らない進化をとげているので……。
初歩: カウンターを放ち”カコらせる”
ほんまスーファミの『スト2』をやってるみたいな感じやったと思うんですけど。
立ち中を振り合うゲーム。
具体的にゲームのシステムを説明していきましょう。まずレバーを前に押しながら中攻撃すると「中段技」、前斜め下と強攻撃を押して「足払い」、前斜め下と中攻撃で上に対しての「対空技」がでます。こんな感じですね。
はい。
で、この「中段技」と「足払い」と「対空技」は、相手の攻撃が発生している時にカウンターヒットすると”カコーン”って音が鳴ります。河合さん、やってみてください。
[カコーン] これですね。
で、これ”カコーン”ってなると、けっこうな時間、敵が行動不能になるんです。このあとに連続技が入ります。
なるほど。
ではもう1度”カコーン”ってさせてみてください。ちなみ正式名称は「崩撃」っていうんですけどね。
[カコーン]。
そこから中段技か対空技だと相手は上に跳ねます。通常攻撃からのコンボだと1.5割ぐらいしか減らないんですけど、崩撃からのコンボは3割ぐらい減るんですね。――つまり、『恋姫』はカウンターを取っていくゲームですね。
ひとまず”カコーン”の練習やってみてください。
“カコーン”の練習……。
『恋姫』勢は「カコる」って言いますよ。
浮かせどうのってのは、この時だけなんですね。
カウンターが入った時だけですね。ちなみに上手い人だと、”カコーン”入ってからの連続コンボで7割減らしたりすることができます。じゃあ次は空山さんやってみましょう。カコらせよう。
……張飛これかあ。
いやそれ張飛じゃなくてリンリンです。
リンリン……?
夏侯惇なり夏侯淵なりちゃんと名前はついてるんですけど、女の子の名前もついてるんですよ。なんでか知らんけど。で、それは親しい間でしか呼べない名前らしい。原作の設定では。
魂の名前的な。
そうそう。真名(しんみょう)って書いて”まな”って呼ぶらしいです。
(まな……?)
……カコらせる練習の時は、馬超なり趙雲は槍を持ってるんで、リーチが長くてわかりやすいですよ。趙雲で普通に中攻撃振ってみてください……このリーチよ、どう思う?強攻撃はもっと長いですよ。
ひどくないですかこれ。でも飛ばれると死ぬのか。
その辺りはあとで対策教えます。趙雲は前振り強攻撃の方が割り込みやすいかもしれない。[カコーン] そこから浮かせて、浮かせて、最後に必殺技で〆る。
あーなるほど。コンボに移るまでけっこう余裕がありますね。
相手がダウンした後でも当たり判定が残ってるんで。
ヒット確認はそれほどシビアではないんですね。
中段技や対空技で浮かせ直して、横強攻撃でふっ飛ばして、最後に波動拳か昇竜拳コマンドでダメージ取っていったら簡単に3割減る。――あるいは4ゲージ溜まったら、波動拳コマンドで中強ボタンを入れてみてください。4ゲージがあって崩撃中のみにでる超必殺技がでます。超必殺技は崩撃中以外にはでません。これで半分は減ります。
ほおん。
なるほど。コンボ要素もあるのはあるんですね。
そうですね、崩撃中のはちょっと練習しないと。浮かせて浮かせて最後必殺技で〆てっていうので3割いくので、これは覚えて欲しいですね。5分ぐらいあればできます。7割減るのは相当な練習量がないと無理なんで、諦めてください。
ちなみに崩撃は、投げがスカッている時でも発生します。自分の投げがスカって崩撃を食らうと、実績で「恋姫演舞にようこそ」って出る。
(笑)
これ結構大事で、「小パン2発こすった後に前ステして投げる」っていう格ゲーによくある戦略あるじゃないですか。これに対して投げ返しとか出の早い小パンをこすりたくなるんですけど、そこに中段技食らうと”カコーン”ってなっちゃうんです。
かなり上級者向けですね……。
「恋姫演舞にようこそ」の実績って、ようやくゲームのコアな部分に触れましたよっていうことなんですよ。
ずいぶん遠いチュートリアルだなあ。でもこのゲーム、実は面白いのでは……?
ここまでくると面白さがわかるんですよね。”カコーン”ってやられると熱くなれます。
かなり印象が変わりました。あともっとシンプルかなって思ってたんですが。
シンプルではあるんですけど、攻撃周りの駆け引きがアクセントになってるんですね。
次の段階: わからなかったらガード
もう2人とも『恋姫』の魔界の入り口に入ったところだと思います。
魔界……?
(まだ入り口……?)
では『恋姫』の第2ステップに入りましょう。このゲーム、まだまだ面白くなります。では河合さん、僕が技を振るので、ガードしてから中攻撃を振ってみてください。
はい。
崩撃技をガードすると、中攻撃が確定するんです。だからわからなかったら、ガードしてしまうといいんですよ。そんで中攻撃からは波動拳とか昇竜拳コマンドの技が入る。手痛い反撃を食らわせられるんです。
なるほど。
実は『恋姫』って、だいたい他の技もガードした方が有利なんですよ。――試しにガードしてからレバーを上に入れてみてください。僕も同じように最速でレバーを上に入れてるんですけど、遅れてますよね。つまりこのゲーム、ガードがめっちゃ強いです。
『ソウルキャリバー』のガードクラッシュに近いもんですね。
もうほぼそれに近いです。たいていの格闘ゲームってガードさせて有利か微不利ぐらいの技を強い技として振り回していくんですけど、このゲームはガードした側が絶対先に動けるって仕組みになってるんですね。フレーム調整でそういうゲームにしてるんです。相手が崩撃ここでどうせ入れるんだろって思ったら、ガードして中攻撃からコンボを入れる。
たとえば趙雲だとすげえわかりやすいです。空山さん、ガードしてみてください。
リーチが長い長い。これだけ遠いと、ガードして攻撃は刺さらないですね。届かない。
そうですね。なんで次は、ガードしてからこちらへ歩いてみてください。近寄れますよね?これで近づきつつ攻撃が刺さる距離になったら、攻撃をこすってる相手をおしおきするわけです。あるいは相手が放ったのが強攻撃とかだと、ガードした時点で中攻撃の反撃が確定します。
なるほど。
最終試練: 2つの3すくみ
じゃあこれを知ると崩撃技が振りにくくなってくる、というところで次のレクチャーです。実際どこで崩撃技を放てばいいのかということを教えます。
はい。
まずガードが強いゲームなんで、何度かやりましたけど前ダッシュして投げるのも強いんですよ。そこで河合さん、僕が小パン2発こすった後にダッシュで投げるっていうのをやるんで、下がって中段技で狩ってください。
はい[カコーン]。
こういう風に、中段崩撃技は小パンとか投げを狙う行動に勝てます。下段ガード不可なので、中下の択を迫れます。
なるほど。
あとはヒットレベルの話ですね。弱攻撃は中攻撃に負ける、中攻撃は強攻撃に負けるんです。崩撃技は中攻撃なんで、相手が小パンをこすってるなら中攻撃が一方的に勝つんですね。――投げがくるなら後ろに下がって崩撃、動くようなら中攻撃で暴れる、ガードで近づいてくるなら下段攻撃を振るって感じです。
前ダッシュからガードするのがこんなに強いゲームあまり知らないですね……ちょっとこのゲームに触れた気がします。
闇に?
闇に。崩しの攻防も割とハッキリしてて、いろいろとわかって来ましたよ。
1時間半ぐらいレクチャーしてきましたが、ようやくこれで入り口に立てるわけなんですね。
さらに『恋姫』はここから上があります。これをやると格闘ゲームの真髄がわかります。純度100パーセントまじりっけない最高の地上戦になるんです。
ほう。
ガードが強いし崩撃技があるので飛び込めない、すると地上戦になってしまう。でもこのゲームって中攻撃と強攻撃が横に長いんで、どうしてもガードしたり後ろに逃げてしまうことになる。すると画面端に追い込まれて、相手にいいようにやられてしまう。――では地上戦でどう戦えばいいのか、そこには『ストリートファイターII』から脈々とあった地上戦があるんですね。
はい。
地上戦は基本的に3種類の中攻撃を使い分けます。相手にガードさせる「当て技」、当たらない距離で相手が動くこと前提に振って判定を置いておく「置き技」、最後に相手が空振った中攻撃に当て直す「差し返し」。「刺し返し」>「置き技」>「当て技」>「刺し返し」……という感じです。
これが格闘ゲームにおける基本の3すくみの地上戦なんですね。「刺し返し」は聞き慣れない言葉ですけど、『ストII』リュウの大足合戦で知られています。この打撃の3すくみと、打撃とガードと投げの3すくみ、2種類があるんです。この2つの3すくみを駆使して相手をどんどん画面端に追い込みます。
これでようやく『恋姫』の登竜門をくぐり抜けたところです。
(まだ登竜門なのか……)
結論: ハードコアな地上戦が隠れていた
格ゲーとしての面白さはすごくわかりつつあるんですけど、ちょいちょい美少女ゲームっぽさが自分にブレーキを掛けますね……いいと思うんですけど。
そこやねん、そこみんなジレンマを抱えているから。このゲームすごくハードコアな地上戦が楽しめるんだけど、見た目がこれだから……。あとはチュートリアルがないから、いままで説明したようなところをwikiとかで自分で調べてみないといけないってところがある。でもその辺がわかってくると、このゲームがどんどん奥深く見えてくるし、意識しながら対戦すると練習になる。
元ネタを聞いた時に、原作も三国志もわからなかったんで、キャラゲー的に見えるわけですよね。1ミリも知らないから。でも実際にプレイしてみるとすごく奥深くて、ギャップがすごい魅力的だなって思いましたね。アニメのかわいい女の子で、ちゃらちゃらしてる空気をだしながら、実際にはめちゃくちゃなんか奥が深くて。
泥臭くて(笑)
やりこめばやり込むほどもっとやりたくなりました。もっと練習したくなりました。あと攻撃ボタンが3つだけっていうのもシンプルでいい。だから『バーチャファイター』的なのかな。シンプルだけど奥が深い。『ストリートファイター』よりもシンプルだけど、同じぐらい奥が深いってのが率直な感想です。
けっこう食わず嫌いが発生するゲームなんですよね。でも奥が深いし、シンプルだしっていう。
この企画でプレイしてみるまでまったくこのゲーム触らなかったんですけど、たしかにシステムはすごく面白いです。これは完全に食わず嫌いだったと思います。懐にダッシュで飛び込みつつのガードが強いとか、崩撃の攻防に『バーチャ』っぽいところがありつつ、背筋がビシっと伸びてる。アーケードでコイン入れてみるべきだったかなあ。
どの距離からでも投げとガードと打撃の3すくみが発生するっていうゲームですから。
差し合ったりしながらカコッたら見せ場を作ると。だから意外とわかりやすかったなあと。まずカコらせましょうというところから始まって、相手にはカコらせないために強いガードで様子を見ましょう、投げで逃げましょうと3すくみを覚えていって、それへの布石としての牽制や刺し合いをやっていくと。攻防のスタートとゴールに崩撃というキーがあるのはいいですね。
崩撃がこのゲームの独自性を生み出しているんですよね。崩撃がなかったらこのゲームはここまで流行らなかったと思う。崩撃があるおかげで変な行動をしたらカコッて死ぬっていう恐怖があって、そのおかげでガードしがちになったり、崩しが難しくなったり。そこでカコーンっていう独特の効果音と共にコンボが発生するとすごく楽しくなるっていう。
あとは間合いの考えがちょっと変わってるなと思いました。最近は『ストV』やってるから思考がそっち寄りなんですけど、普段は基本的に最初に先っぽを意識するんですね。お互い中足のこの辺まで判定があるから、ここより外側か内側かでお互いの有利不利が変わってくるんで、そこでまず話をしましょうみたいな。このゲームはとにかくお互いに踏み込んで崩撃技を当てたい、もしくはガードさせてもらって反撃を刺したいってところがスタートで、普段遊ぶタイプの格闘ゲームとは地上戦とか間合いの考え方がかなり違って面白いです。
確かに近寄らないと始まらないし確反が取れないので、踏み込みがちになるんですけど、そうすると牽制が生きてきて、それをどうするかっていう感じになるんですよね。そこで相手の攻撃が活きてくる。
いやあ~……見た目がなあ……。
見た目かわいいじゃないですか。
かわいいですよ。
いやたしかにかわいいんですけど……私は前の(※)が稼働してる間、ど~~~してもコイン入れられなかったんです。だから情報も特に追ってなくて、こういう続編が出てますってのも家庭用に移植されるかどうか位の時期で。
見た目で食わず嫌いの人は発生してたんですが、格闘ゲーマーのあいだではこのゲームの魅力に惹かれた方がいて、その方々が布教して広まっていったんですよね。『恋姫』は見た目がアレだけど硬派、ズルさせてくれないゲームだって。あと2人ともいろいろなキャラクターを使ってたんですけど、誰かが不利とかは感じなかったと思うんですね。
そうですね。
自分がそのキャラクター合わなかったていうのはあると思うんですけど、一方的に不利っていう調整がなくてですね。まあ数年開発しているのでバランス調整が取れてまして。どのキャラクターを使っても報われるっていうのも、魅力の1つとなっています。まあ、ある程度のキャラバランスはありますけど……。
――以上が、この日行われた教化作戦の内容である。その後、本記事の収録後も日を開けずにSteam版をプレイする空山の姿が確認された点からみて、教化は成功したと言っていいだろう。曰く「Steam版発売前で人が居ないので家庭用版の購入を本気で検討した」ということだ。
本記事で講師役を務めた野村のレビュー合わせて、本作に興味を持つ一助となれば幸いである。恋姫演武へようこそ。
[作戦参加者 Hikaru Nomura, Rokurou Eyama, Ritsuko Kawai]
[記録係 Shuji Ishimoto]