あなたが見逃すべきではない 2014年発売のビデオゲーム10選

大作のプロモーションに隠れつつも、陰で光り輝いていた小粋な作品たちを見逃してはいないだろうか。本稿「2014年 あなたが見逃したかもしれない10本のビデオゲーム」では、お節介にもそんな作品たちを紹介してゆく。

ついにPS4とXbox Oneが日本国内でもローンチされ、次世代への移行における節目の年となった2014年。今年もプラットフォームを問わず様々なトリプルA級タイトルが発売され、有名シリーズはいつもどおり華々しい売上を記録した。しかし、そんな大作のプロモーションに隠れつつも、陰で光り輝いていた小粋な作品たちを見逃してはいないだろうか。本稿「2014年 あなたが見逃したかもしれない10本のビデオゲーム」では、お節介にもそんな作品たちを紹介してゆく。

 


一般市民の戦争サバイバルシュミレーション『This War of Mine』

 

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11 bit Studiosは設立から『Anomaly』シリーズをタワーオフェンスとして売りだしてきたが、凡庸な評価を迎えるに留まった。しかし、2014年末に登場した『This War of Mine』は、彼らのどこか冴えない作品イメージを払拭する良作となった。同作は敵軍に占拠された街Pogorenを舞台にした、シングルプレイヤー専用のサバイバルゲームだ。プレイヤーが操作する生存者たちは、反乱軍のリーダーでもなければ、特殊部隊の英雄でもない。名もなき一般市民たちである。彼らを率いるプレイヤーに課せられた目標は”生きのびること”。食料不足と飛びかう弾丸の恐怖に怯えながら、いつ来るともわからない戦争の終わりを、ただひたすら待たなければならない。

『This War of Mine』では、食料も資源もすぐに底をつく。決断は常に過酷であり、キャラクターとプレイヤー双方の精神を追いつめる。空腹のあまり、他人の目を盗み食料を奪うのか。病気を治すため、老夫婦を殴り殺し薬を手に入れるのか。あるいは公然秩序と道徳を守り、仲間を死に追いやるのか。

またゲーム内には各キャラクターごとに「感情パラメーター」が存在し、プレイヤーの決断と行動が大きな影響を与える。非人道的な行為ばかりを繰りかえせば、生存者らは人としての心を失い、最終的にはみずから死を選択してしまう。”極限状態における人間ドラマ”をシステム的にも実現した『This War of Mine』は、氾濫気味のサバイバルゲームにおいて、同ジャンルの魅力が何であるかを、あらためて知らしめてくれる作品である。ゲーム的な単調さがありながらも、今年もっともプレイすべき作品の1つだ。

 

 


ヤギの陰に隠れた素敵な冒険譚『A Story About My Uncle』

 

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A Story About My Uncle』の開発はGone North Gamesが担当している。販売元は今年『Goat Simulator』でヤギフィーバーを巻き起こしたCoffee Stain Studiosだ。ヤギでひとしきり馬鹿笑いしたのなら、しっとりとした王道冒険モノを楽しんでもいいタイミングだろう。『A Story About My Uncle』の雄大な世界観とまったりとしたアクション要素は、『Goat Simulator』とは正反対の満足感を与えてくれる。

『A Story About My Uncle』は、右手から出るビーム縄で3D空間を飛び回るジャンプアクションゲームである。類似作を挙げるならば、『海腹川背』や『バイオニックコマンドー』、あるいは『Mirror’s Edge』などになるが、『A Story About My Uncle』のアクション性はより緩やかだ。とはいっても退屈なわけではない。はるか上空へ飛び上がったり、遠く離れた島へ飛び移ったり、まるで巨人が腕を振り回すように、ゆったりとしながらも雄大なアクションが同作の魅力である。

ゲームのナレーションを担当するのは、眠りにつく娘に昔話を語る父親だ。ゲームの主人公も父親であり、彼が若き頃に失踪した叔父を探す冒険譚が、父と娘の会話のなかで展開されてゆく。『A Story About My Uncle』は突飛なアイディアや個性を有しておらず、ゲーム史に残る特別な作品とは言えないかもしれない。しかし、プレイし終わったあとには心がほっこりする作品 だ。青年向けの王道冒険小説のような展開と、素晴らしく温かい世界観は、ヤギに毒された心をきっと癒してくれるだろ。

 

 


オープンワールド推理ゲーム『The Vanishing of Ethan Carter』

 

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The Vanishing of Ethan Carter』は、2013年2月にポーランドのスタジオThe Astronautsが正式発表した作品だ。The Astronautsは、FPS『Painkiller』を生んだPeople Can Flyが前身のスタジオである。とはいえ、本作には交通事故にあった主人公も、醜悪な化け物も、過激なガンプレイも登場しない。むしろ本作は、賛否両論をよんだ怪作『Dear Esther』に通ずる部分すらある、わびさびの効いたゲームだ。

同作は一人称視点のミステリーアドベンチャーゲームである。プレイヤーは、過去を垣間見る私立探偵Paul Prosperoを操作する。彼に手紙を残し失踪した少年Ethan Carterを追い、一連の殺人事件の真相を解明しなければならない。少年Ethan CarterとPaul Prosperoを待ちうける結末とは。オカルト要素あり、どんでん返しあり。謎だらけの探偵物語がプレイヤーを待ちうけている。

ただし、本作を素晴らしい作品に昇華しているのは、このオカルト探偵の設定でも、視覚的な推理シーンでもない。”余韻”だ。同作のゲームプレイは、1つの巨大マップ上でシームレスに進行する。プレイヤーが操作するProsperoは、事件現場から次の事件現場へと、かなりの時間をかけて徒歩で移動することになる。Unreal Engine 3で構築された美しい秋の風景と、頭のなかで静かにささやかれる独白が、ゆったりとした極上の推理時間を提供する。『Dear Esther』と同じく、同作の移動シーンには「プレイヤーが感じ入ることができる余白」が上手く仕掛けられている。

『The Vanishing of Ethan Carter』は、『Painkiller』の開発者らが本当に開発を担当したのか、疑問が残るほど渋いタイトルだ。探偵でも雇って、真相を調べてみるべきだろう。

 

 


ローグライクとリズムゲームの融合『Crypt of the NecroDancer』

 

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Crypt of the NecroDancer』は、2014年内でもっともインディーゲームらしいソウルを持った作品だ。現在はSteamにて早期アクセス販売中であり、ゲームはまだ完成していないのだが、それでもオススメしたいタイトルである。特異なアイディアを実現させたインディーの成功作として、今からプレイしても早過ぎるということはない。

ゲームジャンルはローグライクではあるが、リズムアクションを組み合わせたというのが本作の謳い文句だ。BGMの拍子に乗って行動するとコンボが発生し、敵が落とすコインが増えてゆく。逆に拍子にあわせず行動しようとすると入力が無効化され、1ターン休みとなってしまう。いかに曲に乗りながらコンボを繋げられるか、次々と登場する敵と罠に対処してゆくかが楽しい作品だ。

ローグライクとリズムゲームの融合により、刹那の決断を連続して下さなければならず、ほかの同ジャンルの作品とは違った魅力を放っている。リズムゲームのような連続入力の緊迫感に、ローグライクの「次のターンになにをするか?」の戦略性が混ざり合っており、唯一無二のタイトルに仕上がっているのだ。もしいままでにプレイしたことがないようなゲームを遊びたいというのなら、『Crypt of the NecroDancer』は適役だろう。まだ未完成とはいえ、初心者から上級者までをターゲットにしており、受け口は広い。

 

 


安価ホラーゲームの決定版『Five Night at Freddy’s』

 

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Steam Greenlightの登場以降、特に1人称視点アドベンチャーを中心に、ホラー作品が爆発的に増えた。インディーデベロッパーが『Amnesia: Dark Descent』を真似て、敵との戦闘やコリジョンを用意しない作品が増えるのはいいが、どれも似たようなタイトルばかりである。映画の歴史を見ればわか るように、低価格ホラーはチープさをいかにアイディアでおぎなうかのジャンルだ。『Five Night at Freddy’s』は新しいスタイルを持っており、チープさを上手く隠しつつ、プレイヤーに笑いと恐怖を提供することに成功している。『Amnesia』 よりも安くチープに。だが面白い。低価格ホラーの新ホープだ。

『Five Night at Freddy’s』は、アミューズメント施設と融合したピザ屋Freddy Fazbear’s Pizzaが舞台となるホラーゲームだ。プレイヤーは夜間アルバイトとして雇われ、夏の5日間、警備の仕事に就くことになる。自動プログラミングされたマ スコットキャラクターロボットたちが、プレイヤーを新たな”おともだち”にしようと襲い来る。監視カメラや電気ドア、通路を照らす照明を駆使して、彼らの 進行を感知しなければならない。有限の電力を消費しつつ、朝を迎えることができるだろうか。

よくよく見ると、『Five Night at Freddy’s』はアセットが非常に少ない、良い意味での手抜き作品である。「だるまさんがころんだ」システムの名のもと、監視カメラから見える映像は ほぼ静止画で、扉から顔を覗かせる敵も止まったままだ。しかしそれらをアニメーションにする労力をなくし、複数のシーンへと全力を注いでいるのである。初 代の登場からわずか数か月で続編が登場したのが、効率を重視した証拠だろう。だが静止画とアニメーションの緩急の差により、本作には素晴らしいホラーのテ ンポも生まれている。

本作こそ、低価格ホラー作品とその開発者たちが目指すべき境地である。『Five Night at Freddy’s』への入場料はわずか500円。ただし命の保証はない。

 

 


うつ病の開発者が心をさらけだした『Neverending Nightmares』

 

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Matt Gilgenbachは、ゲーム開発者である。プログラマーの父親を持ち、子供のころから『フロッガー』のクローンゲームなどをプレイしてきた。9歳のころにはQBasicに手をだし、テキストアドベンチャーゲームを作った。エンジニア・プログラマーJustin Wilderと共に、2008年に24 Caret Gamesを設立した。2009年には、リズムシュータージャンルの第1弾タイトル『Retro/Grade』を発表した。夢のゲーム開発者となったGilgenbachは、新婚の妻がいるにも関わらず、寝る間も惜しみ、パートナーと14万ドルをも費やし、血肉をもってして同作を完成させた。

なぜGilgenbachの生涯を記しているのかというと、『Neverending Nightmares』は、彼自身のゲームだからである。正確には、うつ病や強迫性障害を患っている、彼の心の闇を写しだしたホラーアドベンチャーゲームである。

Matt Gilgenbachは、2013年に発売した肝いりの『Retro/Grade』があまりに売れず、持病の強迫性障害を悪化させた。「最悪を下回った」が彼の率直な感想だ。闘病日誌が公開されているわけではないが、2013年に海外メディアPolygonへ開催された記事には、彼の気の滅入るような発言が並んでいる。しかもこの記事は、Matt Gilgenbachへのインタビュー記事ではなく、『Neverending Nightmares』の存在を発表するアナウンス記事である。前作の売りあげが悪かった話題から始まるゲームのアナウンスなど、前代未聞だった。

ゲームは横スクロールタイプのアドベンチャーゲームだ。悪夢から抜けだすことができない主人公を操作し、夢想の世界を延々とさまよう。何度も闇に襲われ、何度も狂気に包まれ、そのたびにベッドから起きあがる。いつまでも終わらない悪夢を描いた同作は、Matt Gilgenbachが日々感じてきた苦悩を記した、彼の日記でもある。鬼気迫る狂気の演出と、エドワード・ゴーリー風のグラフィック、さらに雰囲気を盛りあげる重厚なサウンドも見逃すとはできない。深淵を覗きたいのであれば、『Neverending Nightmares』はうってつけの片道キップだ。

 

 


対戦の本質が光る生贄格闘ゲーム『Nidhogg』

 

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今年もっともオススメの格闘対戦ゲームを挙げろというならば、私は一分の迷いもなく 『Nidhogg』の名をだそう。ただ本作をどういった作品か一言で説明するのは難しい。ミニマルなグラフィックと珍妙な世界観だけで、すでに強烈な作品 だ。さらに『プリンス・オブ・ペルシャ』のような剣アクションは、見た目以上に理解しやすく、中毒性が高い。見る者とプレイした者、どちらも虜にしてしま う。だが馬鹿っぽく「ミニマルな『プリンス・オブ・ペルシャ』風ゲームです」とは言いたくはない。『Nidhogg』にはそれ以上のなにかがある。

北 欧神話に登場する蛇の名を冠する『Nidhogg』は、1vs1の横スクロール型対戦格闘ゲームだ。プレイヤーはそれぞれ自身の身を神に捧げようとする 「生贄の戦士」となり、対戦相手よりも先に”神に食われる”ことを目指す。剣で刺されようとも、奈落の底に落ちようとも、戦士たちは死なない。唯一死ぬの は、神に召されたときだけである。

古いバレーのサーブ権のようなルールは説明しづらいが、刺すもよし逃げるもよしの戦いは、一度触れれば即 座に理解できるだろう。開始1分も経たない内にプレイヤーたちの脳細胞は沸騰し、画面上は生贄の戦士の血肉で溢れかえる。馬鹿っぽい言い方が許されるのな ら、本作は「対戦が面白いゲーム」だ。相手の思考にどう対処するか、どう戦えば裏をかけるのか。基本戦略がすぐわかるのに、奥深く熱中できる。奇妙なだけ でなく面白い対戦ゲームを探しているのなら、『Nidhogg』に己の身を捧げるべきだ。

 

 


発掘された古典作品ゲーム『Shovel Knight』

 

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Shovel Knight』は、Yachet Gamesが2014年6月に発売した2Dアクションゲームだ。ここ最近流行のファミコン時代、スーパーファミコン時代のレトロ感やノスタルジーを売りにした作品である。Kickstarterでオールドスクールやゴールデンエイジといった言葉が乱舞する時代だけに、初見の読者が警戒する気持ちはよくわかる。だがYachetは、黄金期の作品を心の底から崇拝しており、高い完成度で同作を仕上げている。『Shovel Knight』は古典を忠実に掘り起こしており、その名に傷をつけたりはしていない。

プレイヤーが操作するのは、Shovel Knightと呼ばれる小さき騎士だ。悪のEnchantressとの8人の騎士を倒し、消息の途絶えた相棒Shield Knightを救いだすことが目的となる。ゲームは『スーパーマリオブラザーズ3』風のマップで進行する。各ステージは『ロックマン』や『悪魔城ドラキュラ』のようなデザインだ。かつて見たような仕掛けやトラップ、アイテムが多数登場するが、ベースとなる作品のクオリティが安定しているため、嫌な気持ちを抱くことなく懐古にひたることができる。

ショベルを中心にすえたアクションを評価したとしても、『Shovel Knight』に真新しい要素はほぼない。だがいい意味で、『Shovel Knight』は1980年代に存在していてもおかしくなかった作品だ。古典名作の後継者を騙り、2Dドットグラフィックの皮を被ったような駄作に飽きたというのなら、同作でタイムトラベルしてみるべきだろう。

 

 


古典作品へのラブレター『まもって騎士 姫のトキメキらぷそでぃ』

 

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『Shovel Knight』を発掘された古典作品とするならば、『まもって騎士 姫のトキメキらぷそでぃ』は古典作品への未来からのラブレターだ。『イース』などの開発に参加した古代祐三氏が設立したエインシャントが手がけており、サウンドは折り紙つき。さらにグラフィックや様々な演出も素晴らしく、ゲームプレイも楽しく中毒性があるのだから文句のつけようがない。ここ最近のオールドスクールを崇拝した作品のなかではトップクラスの出来栄えであり、なによりも80年代や90年代ビデオゲームへの愛があふれている。

ゲーム内容を一言で表すならば、タワーディフェンスの要素が色濃いDota系やMOBAタイトルとなるだろうか。プレイヤーは姫を守るため、城に迫り来る敵を倒してゆく。敵を倒して資金を獲得すれば、キャラクターのレベルアップ、砲台やバリケードの設置といった防衛力の強化が可能になる。レベルはMOBAと同様にステージ毎にリセットされるため、キャラクターのレベルアップか砲台か、どちらを優先すべきか頭を悩ませることになるだろう。4種類のアクティブスキルとパッシブスキル、さらに装備する武器を事前に選択でき、アクション自体はシンプルだが戦略性は奥深い。

ファミコンカートリッジの端子口に息を吹き込む演出は、前作『まもって騎士』から続くものだ。公式サイトに掲載されているどこかで見たようなゲームコミックや、ゲーム中に表示される説明書が醤油で汚れてゆくなどの小粋なネタは、1990年代前後のゲーマーたちの心に突き刺さるだろう。『まもって騎士 姫のトキメキらぷそでぃ」は、レトロゲーマーに送る愛のラブレターである。これほど熱い愛を語った手紙をもらって、恋に落ちない者はそうそう居ないだろう。『大乱闘スマッシュブラザーズ for Nintendo 3DS』に熱中して見逃していたのなら、きっちりと愛の告白を受けるべきだ。

 

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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