ゲームにさほど詳しくない人でも、ほとんど知らぬ人はいない格闘ゲームの金字塔、『Street Fighter』シリーズ。 本作はその最新ナンバリングタイトルである。PC版はリリース直後にDirectInput式のコントローラが動作しない問題が持ち上がるなど不穏な空気も見られたが、やはり注目度の高さもあり、情報のまとめや攻略記事には事欠かない。すこし検索するだけでも十分な量の情報が得られる。プレイ人口、モチベーションは非常に高いものとなっているようだ。
本稿はそういった攻略記事やレビューではなく、”格闘ゲームに再入門するためのタイトル”という位置づけで『Street Fighter V』を捉え直してみたい。「格闘ゲーム見てると楽しそうだけど……」「昔はやってたけど最近のにはちょっとついていけなくて……」といった不安をなるべくわかりやすい情報で払拭し、実際に格闘ゲームに触れ、楽しむためのいくつかの視点を提供する試みである。筆者もめっぽう格闘ゲームが強い、というわけではない。ひいき目に見ても下の上ほどの腕前である。しかし、こうした視点からでも楽しみ方は模索できるのではないか、というひとつの提案だ。
もちろん本作を機会に、本当に初めて格闘ゲームに入門する方もぜひ参考にしてほしい。逆に、すでに経験豊富でバリバリ対戦で勝っている、という方には少々冗長な内容となるかもしれないが、復習がてら、もしくは新規にプレイヤーを誘う際の教導資料として、少しでも役立てていただければ幸いである。
コンボ出来ないと厳しいんですよね?
前作、『Street Fighter IV』シリーズではいわゆる「目押しコンボ」が重要度の高い技術だった。さほど難しくないレベルの連続技でも、フレーム単位(60分の数秒)でのボタン入力精度が求められ、できるのとできないのとではダメージ期待値に大きな差が生まれる。これはルールに「数フレームでの目押しができる=上手い」と書かれているにほぼ等しい。もちろん、本当に上手い人や飲み込みの早い人は、格闘ゲームで勝つための要素はそれだけではないとわかってはいる。しかし、このハードルを明確に越えなければならない、という条件だけで練習意欲を削がれてしまったプレイヤーは相当数いたはずだ。
しかし本作は通常技にも先行入力が可能となったため、コンボそのものの難度は大幅に緩和された。従来までピッタリのタイミングに押さなくてはつながらなかったような通常技から通常技のつなぎも、早めにボタンを押しておけばちゃんとつながってくれる。決してこのゲーム自体が簡単だ、ということではないが、コンボの難度だけでもかなりハードルは緩和されたと言っていいのではないだろうか。
さらに本質的な部分に言及すると、そもそも、
と、
は厳密には別問題である。後者は必ずしも正しいとは限らないのだ。もちろん上位ランカーやプロプレイヤーの間では、難しいコンボが決まる決まらないで勝敗が決してしまうような極限状況も発生するし、そのような状況を制するために上級者は日々難しいコンボを失敗しないよう練習している。だがカジュアルな、特に仲間内での対戦では重要度はかなり下がってくる。なぜならよほど上級者でもない限り、「対戦経験などで得られる伸びしろ」は「難しいコンボによって強くなる幅」よりも圧倒的に大きいからだ。
「できるようにならないと強くなれない」と捉えてしまい、難しいコンボのトレーニングモードで意気消沈してしまった方もいるのではないかと想像する。しかし、難しいコンボは後回しでいい、直感的な立ち回りを優先していいと考えるだけで、対戦に挑む心持ちもかなり変わってくるのではないだろうか。
別ゲームのようにトレーニングモードを「遊ぶ」
「そもそも基本的なコンボからして安定しない」というプレイヤーが真っ先にするべきはトレーニングモードだが、勝利のためにストイックに練習できるプレイヤーは元から素質があるといっていい。普通はゲームをプレイするために練習する、というのはそれだけでかなり難度が高いものだ。
そこで、上達している楽しみを実感するために、細かくハードルを設定するという練習法を提案したい。先述したように「難しいコンボができないと強くなれない」という前提を取り払い、基本的なものをチョイスしたうえで、練習>実戦投入のサイクルを作るのが目的だ。
* 基本連続技を失敗せず10回連続で成功
* 飛び込み攻撃から中足>波動拳を成功
* キャラクターのすべてのコマンドを把握
* 連続技のレシピを把握する。全て覚える必要はなく、できそうなものから
* 簡単なところから順に連続技を一連の流れで成功できるようにしていく
こういった「自分内実績解除」をしていくことで、実戦でも出せるように、安定するようになっていく。もちろん練習だけでなく、時々実戦で試してみた方が理想的だ。実戦といっても最初のうちは必ずしも対人戦である必要はなく、CPU戦やサバイバルモードでの立ち回りの中で試してみるだけでもかなり効果があるはずだ。
そもそも全然勝てなくて……
一方的な展開。ゲームをさせてもらえない。腕に差があると特に起こりがちであり、何もできずボコボコにされると、「もっと強くなって出直せ」と言われている気分になり、落ち込んでしまう。多少被害妄想が入っているかもしれないが、似たような経験で格闘ゲームから離れてしまった方も結構な数いるのではないかと思われる。実際に筆者も一時期そういった状態だったことがあった。
しかし、これは考えてみれば当たり前のことである。最初のうちは勝てないのが道理なのだ。将棋などに例えると、段位持ち相手にコマの動かし方もおぼつかない状態で挑むようなもの。格闘ゲームは直感的な操作なので実感しづらいが、実際にはそんな腕の差で勝てることは非常に稀だ。
では「強くなって」とは一体何だろうか。強いプレイヤーに聞いても、そういった既に強いプレイヤーは「強くなる」ことを感覚的にやってしまっており、明確な回答が得られない事が多い。もしくはひたすら練習しろと言われる。意味がわからず反復練習だけしてもなかなか勝てない。これが悪循環のもとである。
元凶は「負け=失敗」という強固な固定観念にある、と筆者は考えている。過程がどうあれ、負けてしまったらすべてダメなことだったという、ある種の完璧主義的な考え方こそが、この悪循環を生んでいるのではないか、という視点だ。もともと最初のうちは勝てないのだ。それを失敗と断じてしまっては、ゲームを楽しむ機会を得ること自体が難しくなってしまう。
もちろん、完璧主義が悪い、ということではない。しかし、負けを負けとして消化し、ストイックに練習ができるような殊勝なプレイヤーは、すでに最初のハードルを自力で乗り越え、かなり強くなれているはずなのだ。
ここで提案したいのは、先述のトレーニングモード同様「細かい成功を評価する」というプレイ方法である。もちろん勝利することが最大の成功であることに疑いはない。だが負けていたとしても、自分のプレイがどうだったか、細かい部分の成功を一点だけでいいので、見つけるのである。最初のうちはかなり細かくていい。たとえば本作だと、
* 相手の昇竜拳などの隙にちゃんとクラッシュカウンターを決められた。
* ジリジリした技の差し合いからコンボをちゃんと一回決められた。
* 自分は投げ抜けが下手だが、一回ちゃんと相手の行動を読んで投げ抜けができた。
試合には負けていても、これらは「成功」なのだ。強いプレイヤーがどうやって強くなったか、の背景にはこういった「自分を褒める」要素が多分に絡んでいると筆者は想像する。上手いプレイヤーは自分を褒めるのが上手いのだ。こうした成功部分をより確実なものにすることで、ゲームとして強くなる過程を具体的に踏んでいけるはずだ。
そして、逆もまた然り。「コンボを失敗してしまった」「投げ抜けできなかった」などの具体的な弱みをトレーニングモードなどで段々と克服していくことで、より勝敗のみに関わらないゲームを楽しめるはずである。
それでも負けるとイライラしてしまって……
こういった感情のコントロールを「Anger Management」と呼ぶこともあるが、さほど複雑に考える必要はない。考え方を少し変えるだけで全く違ったものに見えるはずだからだ。以下に一例を示そう。
人間は無意識に最適化を行っている。「A→(間にいろいろ)→B」を「A→B」と認識することで間の思考力を節約し、最適化をはかる。これは人間の基本機能といっていいだろう。脳が最適化を行っている、最善手をとっているはずなのに実際には負けていると、そのギャップが人を苛立たせ、怒りに陥るのだと推測される。
思考力節約を意図的に避けなければならない。最適化とはパターン化であり、格闘ゲームでは完全に読まれるだけの、負の要素だからだ。脳は無意識に「だいたいこうしていれば勝てる」という手段を探すための最適化をしてるが、「だいたいこうしていれば」の時点でもうパターン化の陥穽に落ちている。常に相手の動きを観察し、工夫をしていくことで、こういった苛立ちはかなり抑制されるのではないだろうか。
基本的すぎることを上手い人に聞くのは恥ずかしい……
もっと気軽に弟子入りしていい、弟子をとっていいのではないか、と筆者は常々思っている。人は基本的にはものを教えたがっている。人に教えるという過程を経ることで、自分にも発見と再確認があり、よりゲームに強くなる可能性があるからという理由ももちろんある。しかしなにより、人に真摯に話を聞いてもらえるのは気分のいいことなのだ。だから人はゲーム情報を収集し、取り入れ、教え合っている。
友人でも知人でも、攻略掲示板でもいい。もっと気軽に「この行動、強いですけど確定反撃あるんですか?」「こういう時の対処って何かありますか?」「投げ抜けが下手なんですがコツってありますか」などと聞いていけない理由はない。聞かれた側がそれを知らなかったとしても、知らないことを恥じる必要は全くなく、「これはこうだと思う(感じる)けど、実際はどうかな」と調べるきっかけにするのがベストだろう。
こういった話ができるのも、志を同じくする者同士でのみ許された、ある意味最もゲームらしいやりとりといえるのではないだろうか。
必要入門資格:なし
ここまで本作、『Street Fighter V』特有の話ではなく、どちらかと言えば一般論的な話に終始してしまったが、最後に「格闘ゲームに入門(あるいは再入門)するのに遅すぎるということはない」ということを強く主張しておきたい。本作でカプコンはそのための門扉を大きく開いているといっていいだろう。現段階ですでにかなり作りこまれたトレーニングモード、対戦待ち受け設定、まだ改善が必要な部分は色々とあるとはいえ、対戦自体は概ね快適といえるネットワーク対戦。新キャラクターの実装予定も十分にあり、始めるのは今が好機、と言い切ってしまっても差し支えない。
本記事を機会に、一人でも多くのゲーマーが「格闘ゲーム、始めてみようかな」という思いを抱いてもらえたのであれば、これに勝る幸甚はない。