ゲームと真摯に向きあう

ゲームとは、そしてゲームの世界とは一体だれのものでしょう。弊誌 UnFreeMan は「ユーザーは、ゲームを購入した以上自由に破壊する権利をもっている。ただしその対象はあくまで自分のゲームであって、他人のゲームを破壊していい権利 ではない」と論じました。私も物心ついたころから身近にあった、また多少なりともそれで現在の生活がなりたっているコンピューターゲームというものにたい して同じ考えをいだいています。

では、すべてのコンピューターゲームがそうなのでしょうか。

まず前提条件を整理しましょう。物理的な破壊と論理的な破壊について。本稿では物理な破壊については取りあつかいません。意思表示をおこなうのであれば、自分の所有しているものでやりましょう。また、筆者は一般人レベルの法的知識しかもちあわせておらず、本稿はあくまで私個人の意見を発信する目的で執筆しています。法的な判断が必要なケースでは、まず弁護士に相談すべきです。

 


コンシューマーゲームの場合

 

カセット横のスイッチを ON にした結果。
カセット横のスイッチを ON にした結果。

 

それでは本題にはいります。すくなくともメーカー、クリエイターの意見としては「破壊するのはやめてほしい」です。自分の創ったものが、破壊的な行 為にさらされることを喜ぶ人は少ないはずです。直情的であっても、考えた結果たどりついた行為であっても、嬉しくはありません。10 年ほど前、同僚のゲーム開発者とチートの話をしたときは「せめて最初ぐらいは普通に遊んでほしい、他の人がするはずだった体験をうばわないでほしい」と 語っていました。まだ『PlayStation2』の勢いがあり、『Xbox 360』や『PlayStation3』といった「次世代」ハードが出てくるぞ、という時代の話です。

オンラインを意識したゲームプレイは、オンラインゲーム以外では標準的なものではありませんでした。そもそも、『PlayStation2』に LANケーブルを接続するには追加でアダプターを購入する必要があります。『ニンテンドーゲームキューブ』についても同様です。携帯機の 『PlayStationPortable』、『ニンテンドーDS』には無線LANによる接続機能がありました。すれちがい通信については、この時期での 対応タイトルはほとんどなく、また「油断すると怪しいクエストを仕込まれる」などという行為は未来の話でした。無線 LAN で遠隔地と通信してプレイするタイトルもなかったため、アドホックによる通信プレイがメインとなります。自分が普通にプレイしようとしているゲームを目の前の相手に破壊されたら、トラブルはさけられないでしょう。

今思えば、当時は牧歌的ですらありました。インターネットが普及しはじめてまだ日も浅かったため、そういった行為は「知る人ぞ知る」行為だったので す。意図しないうちに他人にゲームを破壊されてしまう行為はまだ身近ではなく、おもに自分のゲームを好きなように破壊して楽しむというチートの使いかたが 成立していた時代でもあります。ゲームソフトとはパーソナルなものであり、とくにゲームの入っているカートリッジ内にデータを保存しないハードの場合、相 手とトラブルになるかどうかの境目は容易に理解しコントロールできる範囲におさまっていたのです。貸したゲームを正常にプレイできない状態にされたらトラブルになるというのは誰にでもわかる、当然のことです。ゲームメーカーが自社ゲームのチートデータをおまけディスクに入れていたケースもあるあたりが、当時のゆるさをうかがわせます。

では、現在はどうでしょう。現行のゲームハードはすべて何かしらのオンライン要素があります。しかし、残念ながらチート対策には各社かなりのばらつきがあります。『Xbox 360』の「本体ごとBANする」といった厳しいものから、UnFreeMan が遭遇したケースのように杜撰ととれるようなものまで。今までも「やめてね」という意思表示はされていました。しかしこの期に及んでも各社足並みをそろえて不正対策に乗り出す……という話は寡聞にして存じません。このようなかたちで各社足並みをそろえられないものでしょうか。難しいところもあるとは思いますが、避けては通れない道でしょう。

 


オンラインゲームの場合

 

オンラインゲームではどうでしょう。MMOのような、ゲーム内でプレイヤー同士による経済活動がおこなわれるタイプのゲームの場合、RMTとそれに 付随する行為、つまり比較的非正規な手法……BOTやマクロ、そしてチートによってゲーム内の経済活動が侵害され、ゲームが破壊される場合があります。そ のため、管理する者はゲームの世界から外に出て対策をおこなう必要がでてきます。非正規な手法を利用できなくするといった技術的なものから規約による制 限、地道なところでは啓蒙活動などです。

技術的な対策は一見スマートな解決策にみえますが、これを根本的な対策とするのは難しいのが現実です。サーバやクライアントの構成上技術的に可能か どうか、また開発・運営をおこなうためのリソースをチート対策にどこまでそそぎ込めるかです。筆者の周囲では、不具合を根本的に修正するにはゲームクライ アントをほぼすべて作りなおさないといけないため、根本的な対策が見送りになったという話もあります。

サービス事業者は営利企業であり、なんらかのかたちで収益を得る必要があります。収益があがる見込みのない・黒字化しないリソースの投入を続けていては生き残ることができません。そして収益をあげる要素のひとつとして、ゲームへの新要素の実装があげられます。このように収益と満足度がひもづけられてモデル化されるのも、「アップデートは収益に直結する」ことが一般的に認められているからです。

つまり、「収益をあげるために新要素を導入する」場合、チート対策と比較して社内的にもリソースを投入するハードルが低くなります。チート対策は ゲームが大きくなればなるほど影響の大きな問題となります。しかし、ゲームのサイズにリソースの増強がついてきていない場合、問題を抱えながらもアップ デートに追われることになります。急激に大きくなったコンテンツに「よし、明日から10人追加だ!」とはいかないものです。とはいえ、徐々にゲームが破壊 されていく行為に対しては、目の前のお金の問題と向きあいつつ戦わなければなりません。自分がサービスしている世界を「どうぞ破壊してください」などとい う者がどれだけいるでしょう。

デジタルデータの数字は、サービスが終了すれば消えてしまいます。そして、どのようなプレイで楽しむかはある程度自由の範疇にはいります。ダー ティーなプレイスタイルであろうと、そのゲームの枠組みのなかであれば致命的な問題ではないと私は考えます。しかし、他人が楽しんでいるゲームそのものを 破壊する行為に加担するのはいかがなものでしょう。「そもそもRMTが成立しない・する必要のないゲームデザインにすべき」というのはまったくもってその とおりですし、筆者も過去にそう思ったことが多々あります。しかし、本稿の主旨はそちらではありません。それはそれ、これはこれです。不正な手段にかか わっているものを利用しない、そういった基礎的なリテラシーがユーザーには求められています。「ゲームだから」ではなく、「ゲームだからこそ」なのです。

 


やっていいことダメなこと

 

上記のような行為のすえ、法によって裁かれたケースもあります。ニュースや新聞などで見られるのは「仮想通貨をだまし取ったなどして」「他人の会員 情報を使って不正なアクセスをしたとして」などといったフレーズです。これは、サービス事業者が手をだせる範疇を超えている、詐欺や不正アクセスによる事 案となります。現行法では RMT をおこなっただけで罪に問うことはできません。せいぜい利用を停止する程度です。2000 年台初頭からこの手の事例はみられましたが、2005 年 ~ 2006 年あたりから話題性をおびてきたように記憶しております。

また、非常に残念な事例として「サービスを行っている側の者がゲームを破壊していた」 というケースもあります。筆者も当時プレイしていましたが、さすがにこれには怒りを通りこして呆れて笑ってしまった記憶があります。8 年前のできごとですが、金額といい行為の内容といい、現時点でも日本のオンラインゲーム史上トップクラスの悪質な事件ではないでしょうか。

私はすべてのチートを掃除してクリーンな世界を、などとは毛ほども思っておりません。昔はゲームラボを読んだりしていましたし、怪しいスイッチのつ いた物体がいくつか実家に転がっているはずです。しかし、それは 2000 年台初頭までの牧歌的な状況下だからこその話であって、2014 年の今、このようなものが容易に手に入ることが適切とは思えません。そう、たとえばこのような展開になってしまうような状況を助長していた、 など。こういったところからも、現在のコンピューターゲームをとりまく環境は稚拙であり、インモラルであると言わざるをえないでしょう。あくまでそういっ た行為はアンダーグラウンドであるべきです。後ろ暗いことはわかりきっているのだから、せめて分をわきまえてほしいと願っております。

 

「あの」メーカー。 東京ゲームショウの会場から駅に戻るところに堂々と存在していいキャラではないでしょう。
「あの」メーカー。

東京ゲームショウの会場から駅に戻るところに堂々と存在していいキャラではないでしょう。

 

ゲームの世界につまっているのはゲームデータやキャラクターだけではありません。ゲームをプレイした思い出や、それが縁になった人とのかかわりは間 違いなく自分自身のものです。私が弊誌で執筆できているのもまたゲームのおかげです。私もいろいろなものをゲームの世界からもちだし、吸収して自分のもの にしてきました。コンピューターゲームは私という人間を構成する重要な要素のひとつですし、これからもそうありつづけるでしょう。

ゲームを所有し、プレイすることにより得ることができる「ゲームの世界での経験」は人それぞれです。しかし、その経験は自分の経験のひとつとして数 えることができるでしょう。私はその世界を大切にしたいと思っています。『ドラゴンクエスト3』のロトのテーマは数多の冒険をくぐりぬけてきたあの瞬間に 流れるからこそ感慨深いのではないでしょうか。世界を滅茶苦茶にして大笑いするのは結構ですが、それは自分の世界だけにとどめておくべきです。

ゲームをプレイすることは大半の方にとっては娯楽であり、暇つぶしです。娯楽だからこそモラルは重要なのです。2014 年現在、スマートフォンの普及によりさまざまな層のプレイヤーが存在し、それゆえプレイスタイルも多様化しています。また、Unity をはじめとする安価なミドルウェアの充実による参入ハードルの低下にともない、デベロッパーの方向性も多様化してきています。「法的に罰せられなければ他 人に迷惑をかけるプレイをしてもよい」「売上を立てるために売れているゲームの丸パクリを作ろう」などということがまかり通るようであれば、これ以上「コ ンピューターゲーム」というジャンルの成長は望めないでしょう。

Hirokazu Saito
Hirokazu Saito

アルコール・お茶・コーヒーなど、飲むのに面倒な飲み物全般に強い興味があります。30代前半、既婚。都内から電車で1時間ちょっとの僻地住まい。メガネの女の子が好きですが妻はメガネをかけてくれません。

最近ようやく足を洗い始めましたが、オンラインゲームで時間を消滅させていました。激しく動く系のゲームは酷使した目がついていかないのであまり得意ではありません。30台から感じる老化です。

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