日本GTA風オープンワールド経営ゲーム『プロミス・マスコットエージェンシー』、要素が多すぎる。一体どんなゲーム?「寂れた田舎町」の異常な作り込み

元極道の主人公がマスコットの人材派遣会社を経営する『プロミス・マスコットエージェンシー』のデモ版が、もうじき期間限定で公開される。本稿では先んじて体験したゲームプレイを通じて得たインプレッションをお届けしよう。

元極道の主人公がマスコットの人材派遣会社を経営する『プロミス・マスコットエージェンシー』のデモ版が、もうじき期間限定で公開される。弊誌は、今回配信されるデモ版を先行してプレイする機会を得た。本稿ではゲームプレイを通じて得たインプレッションをお届けしよう。なお、試遊には開発中のゲームデータが使用されているため、配信されるバージョンとは異なる場合がある点は留意してほしい。

“勘違い日本”と思いきや実は異常なほど作り込まれた街並み

本作を開発するKaizen Game Worksは、高評価オープンワールド推理ゲーム『パラダイスキラー』を世に送りだした気鋭のデベロッパーである。本作では、主人公が日本の田舎町でマスコットの人材派遣業を営む。設定はとてもシュールだが、『パラダイスキラー』開発元ならばやっても違和感のないストーリーともいえよう。本作にはとにかく日本っぽいものが多い。“勘違い日本”と化して興ざめになってしまってもおかしくないが、そうならないように開発陣は絶妙なバランス感覚で本作独自の世界観を築き上げている。

本作の舞台は寂れてしまった「過疎町」だ。名は体を表すという慣用句にふさわしく、町には活気がない。何十年にもわたって汚職を続ける町長によって、この地はかつての力を失ってしまった。そんな町では、いたるところに町長の顔が描かれた看板があり、主人公たちが軽トラで破壊すれば、それだけで主人公たちのファンが増える。町長、めちゃくちゃ嫌われている。現実にもありそうな腐敗を描きつつも、看板を破壊して自分の会社の人気を高めるという雰囲気は本作の世界観を示している。暗くなりすぎずに、ところどころでポップな明るさが存在するのがいい。

マスコットの人材派遣業を営むことで仕事をこなし、そこで出会った人々を通じて拠点や街を発展させていく。街を少しでも良くしようという思いが、主人公の動機の核として存在し、それを実現するために周囲のマスコットや新たに知り合う人間たちと強調していくのには好感がもてる。ポップなグラフィックのおかげで、そこまで陰惨としない雰囲気が保たれているのもいいところだ。そのぶん、地方交付金の横領など、現実でも発生してもおかしくない事件が巻き起こるため、ゲームをプレイしながらも現実社会が抱える問題点を考えさせられる。本作のユーモアを交えながらも、現実の問題に切り込んでいく姿勢は賞賛したい。

主人公は「学問の神様」として知られる菅原道真と同じ名を持つ。作中では愛称の「ミチ」として呼ばれることがほとんどだが、元極道と学問の神様が同じ名であることのギャップが本作の独特な雰囲気につながっている。主人公のボイスは、なんと『龍が如く』の桐生一馬役でお馴染みの黒田崇矢氏が担当。礼儀正しくはありながらも交渉事で狡猾な面も併せ持つ主人公は、黒田氏がこれまでに描いてこなかった新たな極道像となっている。その一方で、相棒となるマスコットの「ピンキー」は、かわいらしい外見に反して毒気のある台詞を吐く。裏では町長を「あのクソジジイ」呼ばわりすることはもちろん、営業許可証を得る町長に頭を下げなければならないときにもピンキーの謝罪には心がこもっていない。

この元極道でありながらも物腰柔らかな主人公と、かわいい見た目に反して毒のあるマスコットの“デコボココンビ”のやり取りは意外性があっておもしろい。メインストーリーでは膨大なボイスが収録されているという。製品版の2人のやり取りがいまから楽しみである。

また、各キャラクターの台詞に九州の方言が随時出てくるのは、田舎町で活動しているという気分を高揚させてくれた。意味がわからないほどのドギづい方言ではなく「〜ばい」や「~とや」のようなマイルドな表現だったため、本作のオリジナリティを担保つつもプレイヤーに余計な負担を強いることもないのもいいところだ。

軽トラによる快適な探索

主人公たちは軽トラで街を探索して、イベントを発生させていく。探索の目的は、新しいマスコットのスカウトと、町の有力者と交流してマスコットのジョブを紹介してもらうことだ。仲良くなった町の住人はバトルで助っ人として一緒に戦ってくれる。本作の世界では人間とマスコットが共存しており、両者は持ちつ持たれつの関係にあるのだ。

フィールドの移動はすべて軽トラでおこなう。移動手段として軽トラの通常スピードは決して早くないが、一時的に走行速度を上昇させるターボブーストを発動可能。また軽トラはジャンプさせることもできるので、慣れれば慣れるほど、軽トラが自分の体の延長線になって自由自在に街を駆け回ることが可能だ。比較対象が大きすぎるかもしれないが、軽トラでハチャメチャに運転して街のあちこちに行く感覚は『グランド・セフト・オート(Grand Theft Auto)』シリーズ(以下、GTA)に近い爽快感があった。

公道から外れてしまっても軽トラのパワーならある程度進んでいくことができるし、水中に落ちてしまっても即死とはならない。近くの浅瀬か陸地に上がって再び街を探索することができる。探索としてのリアリティにこだわりすぎずに、ゲームとしての快適さを追求しているところが好感触だ。フィールドにはスタンプラリーや神社の清掃によってバフが得られるなどのサイド要素が用意されており、それらをこなすことで街の背景を知ることができる。なかには特定のジョブのクリアに関わってくるものもあり、街でおこなうほとんどの行動が密接に結びついているような感覚が存在した。

デモ版では探索可能な範囲が限られていたものの、役場や商店街といった街の中心部のほか、郊外の高校にも行くことができた。主人公は過疎町では異邦人だが、仲間たちがこの過疎町でどのように暮らしてきたのかを知ることによって親近感がグッと高まる。マスコットをスカウトして仕事をこなしていくなかで、プレイヤーとしても過疎町の住民として少しだけ認められたような気がした。GTAなどのほかのオープンワールドのゲームと同じように、ゲームをやり込めばやり込むほど、作中の世界がプレイヤーにとっての第2の故郷ともいえる存在へと変わっていく。

止め時が見つからない中毒性の高さ

主人公が営む会社はやるべきことは多い。マスコットを勧誘し、依頼を受けたジョブにマスコットを派遣するのが基本的な業務だが、依頼中にはさまざまなトラブルが発生する。設備の不備やクレーマーなどがトラブルの原因となっており、それを解決しないと受け取ることのできる報酬金額が下げられてしまう。

困っているマスコットを助けるため、主人公自らが現場に赴くことが可能。トラブル解決の成否はカードバトルによって決まる。主人公に協力してくれる住民たちのヒーローカードを使って、定められたターンのうちに相手のHPをゼロにすれば、トラブルを解決に導くことができる。とはいえデモ版では所持しているヒーローカードも少ないためか、筆者はカードバトルに苦戦してしまった。製品版では、軽トラで街を探索して数多くの人に出会い、ヒーローカードとして協力してもらうことでバトルの戦い方にも幅が出てくるだろう。

マスコットがトラブルに遭遇しているシーンは、リアルタイムの動画配信のような形で表現される。視聴者のコメントが画面上に流れるほか、実況付きで状況が解説されるというドラマティックな表現方法だ。自分の会社のスタッフが辛い目にあっているのを見るのはやるせないが、上手く助けてくれるときは喜んでくれるのでこちらもうれしくなってくる。

デモ版のプレイでは、「トーフ」というマスコットがトラブルに遭遇することが多かった。書店のドアに挟まって動けなくなったり、インフルエンサーのクレームで炎上したりと、トーフトラブルメイカーといってもいいかもしれない。それでも毎回のようにトラブルに巻き込まれるトーフを助けることで、主人公とトーフには信頼関係が生まれたように感じた。親密度が高まると発生するイベント見ることで、もっと彼のことが知れるだろう。

ジョブにマスコットを送っている間は、作中時間で数時間がかかる。その間に街を探索し、新たなジョブの依頼人と知り合うのがいいだろう。その知り合った人からも新たなジョブを請け負い、別のマスコットを派遣して事業の回転率を上げていく。すぐに動けるマスコットの数を増やすことで回転率が上がる。とにかく新規のマスコットを探し続けることも重要だ。何をすればいいのかわからなくなったときは、相棒のピンキーに聞けばやるべきことを教えてくれるのでとても便利。こうしたちょっとした配慮も、本作を継続してプレイしたくなる理由の1つだろう。

新たな人と出会って、マスコットを雇い、ジョブにマスコットを派遣してお金を稼ぐという各要素は、ゲームの流れとしてちょうどいい塩梅につながっている。一度プレイしたら止め時を見失うほどだ。デモ版に1時間20分の時間制限がなければ、おそらくもっと長期間にわたって本作の世界に浸っていただろう。

本格的な経営要素は製品版に期待

会社を経営する以上、資金管理が重要となってくるのは間違いない。マスコットと契約する際には、報酬金額のマージンをはじめ、ボーナスや次回契約更改時の約束などを経営資金に盛り込む。デモ版では制限時間との兼ね合いから、マスコットと契約更新をするところまではプレイできなかったが、製品版では持続可能な会社の発展を目指した判断も求められるだろう。

作品名の『プロミス・マスコットエージェンシー』は主人公たちの会社名。廃業したラブホテルを拠点としているためか、混沌とした雰囲気が感じられた。松尾芭蕉が詠んだ俳句「兵どもが夢の跡」にあるように、廃業したラブホテルには歴史の無情さや儚さが漂う。そうした切ない雰囲気がある一方で、主人公たちは成り上がるという野心に満ちている。

主人公たちの野心を実現する方法として、拠点にはアップグレード要素が存在した。お金をかけてラブホテルを改装することで、会社をより有名にさせることができる。デモ版でラブホテルの看板を豪華なものへと変えたときは、専用のカットシーンが流れた。ラブホテルが、最終的にどこまで豪華になるのかも気になるところだ。

ちなみに拠点は従業員たちの憩いの場となっており、主人公とキャラクターたちの関係性が育まれれば、さまざまなことを話し合うようになる。場所が場所だけに変な雰囲気にならないかは心配ではあるが、そこは誠実な主人公によってそれぞれのキャラクターとの心温まる話を聞くことができて興味深い。

ゲームのボリュームとしては『GTA』といった超大作には及ばないかもしれないが、本作ならではの独特な世界観がたまらない。過疎化した田舎町を舞台にしているという新鮮さに惹きつけられるのをはじめ、ラブホテルを拠点にした元極道による会社経営や軽トラによる移動などの要素の数々が不思議と融合している。ぶっ飛んだ日本を舞台としたオープンワールドのゲームとして、本作は唯一無二の魅力にあふれている。

『プロミス・マスコットエージェンシー』の無料体験版は、もうじき期間限定で公開される。本作に興味がある方はSteamストアページのウィッシュリストに登録しておこう。なお、製品版は2025年発売予定となっている。

Ryuichi Kataoka
Ryuichi Kataoka

「ドラゴンクエストIII」でゲームに魅了されました。それ以来ずっとRPGを好んでいますが、おもしろそうなタイトルはジャンルを問わずにプレイします。

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