プレイバック東京ゲームショウ 安田・齋藤・有坂が視たTGS2014


本年度も昨年と同じく執筆陣数名で東京ゲームショウの取材にあたった。ただ日程の都合で一般日にしか参加できなかった。これはつまり人の波に飲まれて計画的な取材どころではなかったことを意味するのだが、それはさておき各員の観測したTGS、そして「これ1本」を紹介しよう。

 


安田伸毅が思う、ゲームショウの「姿」

 

人が多すぎてまともにゲームに触れなかった、などという恨み節は展開しない。だいたい、各タイトルをきちんと取材するのならば当然ビジネスデイに行くべきである(わざわざそのために2日間も用意されているのだ)。一般公開日はあくまでも"お祭"であり、その空気を満喫するために会場へ足を運ぶものだ。

だが「この展示会はなんのためにあるのだろう」と堂々めぐりの疑問にとらわれたことは告白しなければなるまい。とりたてて言うまでもないことだが、昨今ではゲームの体験版はすぐに配信されるし、きらびやかなデコレーションがほどこされたブースで流れる映像は当日か次の日くらいには動画サイトで視聴できる。もはや豪奢なムービーも一点突破のアイデアも、ものめずらしいものではなくなった。

であれば、出展者でもなければ、わざわざ千葉市海浜幕張駅徒歩10分までおもむく理由はそれほどないのではないか。耳をつんざかんばかりの大音量トークが会場の各所から聞こえてくるなか、あるひとつの悟りに至った。それは先日Epic Games Japanの河崎氏がおっしゃっていたことでもある。そう、「そこでしか体験できないもの」こそがTGSの――あるいはこうしたエキスポ全般の――存在理由であるはずだ。

そう考えると、ピックアップするべきタイトルはかなり限定される。じつのところ、プレイしてみて「おっ」となった作品はいくつかある。だが、それが(すくなくとも今後数年くらいの期間において)国際展示場で触らなければなければないものか?  となると、私がプレイしたかぎり挙げられるのはごく少数にしぼりこまれる。

まず、次点がインディーブースに展示されていた縦スクロールシューティング『LIGHTNING FIGHTER 2』だ。すでにiOS版がリリースされている本作だが、TGS展示バージョンではエアロバイク型コントローラーを採用しているのが目玉だった。がんばってこげばショットが強くなる、ただそれだけではあるがインパクトはあった。自転車好き目線からするといろいろと突っこみたい部分もあったものの、それはおいておこう。ついでに、左隣がTwo Tribesの『Toki Tori 2』Wii U版だったこともおいておこう。

 

せっかくのエアロバイク型コントローラーを活かしきれていない、そんな印象を受けた。 負荷が変わるだけでもずいぶん違ったはずだ。
せっかくのエアロバイク型コントローラーを活かしきれていない、そんな印象を受けた。負荷が変わるだけでもずいぶん違ったはずだ。

 

では本命はなにか、となるのだが紹介するのが難しい。なぜならタイトル不詳だからだ。今年の「安田賞」は、スウェーデン・パビリオンで展示されていた謎の体感ゲームである。ルールは単純明快だ。下掲写真の"歯"型のパーツを画面に指定どおり適切にはめこみ、そののちフタを閉め、開ける。そしてふたたび歯を入れ替える。制限時間内、えんえんと開け閉めを繰り返すだけ。いちおうスコアの要素もあるが、本作が持つ価値とはあまり関係ないだろう。ゲーム自体は単純極まりなく、 システムだけを切り出せば特筆すべき点は存在しない。

これはほぼ間違いなく、今年の東京ゲームショウでしか遊ぶことはできず、一般のご家庭に行き渡ることのない作品であり、その一点においてだけでも不動の地位を有する。だがその要素だけならばほかにも該当する出展は複数ある(専門学校のものなど)。ではなぜ本作なのか。

 

今年一番印象に残った作品。冗談や皮肉ではない。
今年一番印象に残った作品。冗談や皮肉ではない。

 

言葉を選ばずに評価すると、本作は日本のアーケードシーンのレベルからすれば三流以下の出来であり、とてもではないが商用にはできないだろう。筐体全体にただようお手製感からも、そもそも売るためのものではないことが伝わってくる。それでも、2014年度の東京ゲームショウで安田が最も注目した作品であることはたしかだ。理由はいくつかある。

まず第一に、先に述べたとおり「どう考えてもここでしか遊べない」こと。ゲーム体験があらゆる形で標準化され拡散される現代において、これは充分に評価される。仮に売る気がないから・TGSスウェーデン出展枠のオマケ扱いだから等の理由があったとしても、それは別の問題である。

第二に、質感だ。一見してチープなデザインだが、その実ディテールはかなり凝っている。"歯"コントローラーは意外な重みがあり、触感もそこはかとなく獣的なワイルドさがある(狙ったものかどうかはわからないが)。そして何よりも重要なのが"フタ"の重みだ。ゲームフローのうち半分以上、いや9割近くがこのフタによって成立しているといっても過言ではない。フタの開け閉めにはワニの咬合力を想起させる程度に腕力が求められる。この調整は、「大型筐体がどうあるべきか」をしめす一事例となるだろう。

第三、これが最も重要だ。ブースにいた担当者のノリが異常によかったこと。一切奇をてらうことなく(無理に日本語をしゃべろうとせず)、全力の英語で、かぎりなくシンプルに説明をしてくれた。単純なゲームルールを、このうえなく力強く、繰り返し繰り返し、しかもテンションはまったく下がらない。なにかキメているのではないかと疑ったほどだ。

そう、ゲームとはまったく関係ない。たしかにインストラクターはゲームの一部分たりうるが、それにしても本質からはかけはなれている。ゲームをどう定義するか、どこまでをゲームの範疇とみなすか、そうした問題にまで踏みこんでしまう。だが、断言できる。この『ワニゲー』(仮称)をプレイしていた瞬間こそ、安田が本年度の東京ゲームショウで一番「楽しかった」時間にほかならない。

 

「楽しさ」の中核にいた人物。 彼がいなければ『ワニゲー』(仮)は凡作ですらなかっただろう。
「楽しさ」の中核にいた人物。彼がいなければ『ワニゲー』(仮)は凡作ですらなかっただろう。

 

だから、どちらかといえば本当に評価すべきは本作そのものではなく、説明担当者である。商業的ではなく手抜き感すらあるゲームに対し、真摯というよりは全力で相対し、来客すべてを心から楽しませるべく尽力していたのだ。こうしたスタンスのスタッフは、私が観察したかぎりTGSではほとんどいない。

各パビリオンでは華やかなトークセッションがこれでもかと展開されていた。そしてそこに多くの来場者が集結していた。しかし、それはある種の"プロレス"なのだ。人気を出すべく、人気の出るものを、人気が出る手法で見せつける。それはそれで正しい。というよりビジネスである東京ゲームショウとしては大正解だ。

しかし、ツクリや台本のない、ナチュラルかつ迫真の「広報活動」にも私は価値を見出したい。きちんと整形されて筋道だった集客が悪いということではけっしてない。ただ、本気で客を楽しませようという気概を持った人間がブースに立っていること、その重大さを強調したいのだ。"お祭"かくあるべし。スカンジナビアの本気の片鱗がそこにあった。

これに気づけただけでも今年のTGSはおおむね満足だ。心残りは『PAYDAY 2』のAlmir発見できなかったことだけである。

 


齋藤 宏一が見たTGS 2014

 

TGS自体は以前にも何度か足を運んだことがあり、昨年は弊誌の前身であるGamer's Geographicとしても参加したのだが、それと比較すると今年は来場者数が歴代2位とのことで、非常に活況であった。要は混んでいたのだ。だが、行って後悔することはなかった。

まずはいちばん気になっていた『ALIENWARE Alpha』のブースへ。残念ながら現状ではOSがWindows8.1となっている。これがSteam OSであれば、血眼になってブースを眺めていただろう。 

サイズ感は画像のとおりで、Xbox 360のパッドと比較するとなかなかのコンパクトさだ。スペックは手ごろな価格のゲーミングノートPCと同程度ではあるのだが、ディスプレイとパッドが必要となるため、出先で持ち運んで遊ぶにはその部分をなんとかする必要があるだろう。8インチなどの持ち運びに難儀しない、かつHDMI接続可能なモニタが手元にあるのであれば、ある程度現実的な範囲で出先でもゲームプレイが可能だ。

テレビの横に置いてゲームをするために省スペースなWindows PCを新規に組むより安価だ。このサイズのPCを自作しようとするハードルは思いのほか高い。NUC等をゲーミング用途に利用しようにも、GPUがネックとなってしまう。グラフィックまわりの性能はどうしてもビデオカードに頼ることになるため、サイズが大きくなりがちなのだ。ロープロファイルとはいえ、ビデオカードを搭載する場合、このようなサイズにすることは難しい。

その点『ALIENWARE Alpha』はGPUもしっかり搭載し、さらにPC一台分の価格として常識的な範囲である。ゲームのために何かPCを買いたいという方は、チェックしてみてはいかがだろうか。

 

どこかで見たモニタ。
どこかで見たモニタ。

 

ところで、昨年のインディーブースは本会場から離れたところにあり、ゆっくりプレイすることができた。悪く言えば閑散としていた。しかし今年は本会場で人通りも多いためか、かなり多くの人がブースに滞留していた。プレイどころか写真撮影もままならないような状況ではあったが、いくつか気になるゲームもあったので紹介したい。

 

弊誌ライターが死亡した瞬間。oof.
弊誌ライターが死亡した瞬間。oof.

 

Vorpal Gamesの『Super Rude Bear Resurrection』。一言で言ってしまえば『Super Meat Boy』クローンなのだが、後ろに謎の球体がくっついてきてことあるごとに煽ってくる。独立して動作するため、ステージの先のほうを偵察することも可能だ。また、「自分の死体に乗っかることができる」ため、難所を何度かリトライしていると思わぬところで自分の死体が助けてくれることもある。

 

ゴールに向かってシュート。
ゴールに向かってシュート。

 

DigiPen Team Those Guysの『Chained』。ブースに付箋紙が2枚貼ってあるだけで「大丈夫か?」と思ったが、ゲーム自体はきちんとプレイすることができた。脚を鎖で鉄球につながれた男が、鉄球をどうにか活用して進んでいく2Dアドベンチャーだ。アート的なところに注力しているのだろう、操作説明が背景に描いてあり「なるほど!」とうなってしまった。ちなみにブースを離れる際、これまた付箋紙にURLを書いて渡していただいた。言うまでもないことだが、付箋紙は便利なアイテムだ。そしてもしブースにカードやフライヤーなどの用意がなければ、これでも十分なのだ。肝心なのは、手持ちのカードを活かすことである。

さて、今年の1本について。昨年と比較するとそもそもプレイできたゲームが少ないのだが、そのなかで今年は『Super Rude Bear Resurrection』をチョイスしたい。弊誌石元ほどではないが、こういった"グチャっとなる"ゲームは好きだ。また本作は安田や有坂ともプレイしていたが、ミスして死んだ後の表情や体から放たれる「ぐぬぬ」という感じのオーラをひしひしと感じることができた。2Dアクションゲームの持つ魅力は、われわれの体にしっかりと刻まれているのだということを再確認させられる一作であった。

 

superrudebear2

 


有坂十一 vs. パズルアクション

 

毎年「皆が降りる駅で降りればTGSの会場につくだろう」と考えてJR京葉線に乗っているため、毎年夢の国駅で降りそうになってしまう筆者だが、なんとか今年も会場へたどり着くことができた。どちらも東京と名を冠しつつも実際は千葉が所在地という点で酷似している、と方向音痴の筆者は主張したい。

今年のインディーゲームコーナーはなんとSCE、セガ、カプコン、スクウェア・エニックスコーナーの交点というなんだかパワースポット的になにか超自然的な恩恵にあやかれそうな場所に設営されており、本当に効果があったのか昨年と比べてかなりの盛況ぶりであった。冗談はさておき、去年のインディーコーナーは明確にそこへ足を運ぶ意志がある人以外はあまり訪れないような離れたホールに位置していたので、この配置は去年の反省をふまえてのものだろう。

さて、今回のTGSで気になったゲームはジェムドロップ株式会社の『ポポロコ』だ。本作は隣接する同色のパネルをなぞって消していくパズルゲームだ。ゲームを開始するとモンスターが左から汽車を追いかけてくるので、パネルを消すことで汽車のスピードを上げて逃げるのがプレイヤーの目的となる。

 

tgs2014_poppoloco_1

 

パネルを消していくと、パネルをすべて同じ色にするアイテムや、今出ているパネルを色別に整列させるアイテム、いったん駅に停まることでパネルの色をそろえる時間を稼ぐアイテムなどが出現し、これらをタイミングよく利用すればモンスターを一気に引き離すこともできる。……のだが、じつは駅に停まるアイテムを使うとゲームの難易度が(おそらく)レベルアップしてしまう。プレイヤーはいっとき脳と指を休めることができるが、そのかわりに休憩後はさらにパネル消しに忙しくなってしまう。

以下のプロモーション動画の宣伝文句は「スマートフォンの世界に数多くのパズルゲームあれど こんなにカラフルでそしてポップで… ここまで手に汗握るリアルタイムパズルゲームはいままで無かった!!」。失礼ながら筆者は「あ、アレのクローンってやつだ!」と思いながらプレイしたのだが、内容はまったく異なる。ガワこそ少々似通っているものの、リアルタイム性やアクション性において完全に別物であるため、クローンゲーのレッテルを貼ってスルーするにはもったいない。

面白さのあまり2回足を運んで試遊してしまった(安田も同じく何度かおとずれていたようだ)。ポップな音楽とパズルの軽快さが相まって夢中になれる。『ポポロコ』のプラットフォームはAndroid/iOS/Windows8およびWindows Phone、今年秋にリリース予定。

 

 


総括

 

安田賞: 『ワニゲー(仮称)』  (の現場担当者)

齋藤賞: 『Super Rude Bear Resurrection

有坂賞: 『ポポロコ