さらば我が強盗 1年の時を経た『PAYDAY 2』のゆるやかな死

Overkill『PAYDAY 2』はもとから完全無欠の作品だったわけではない。どちらかといえば「指名買い」であり、前作がすばらしかったからこそベータ以降熱中できたのだ。1年前の時点では変化を楽しめど不満はさほどなかった。

Overkill『PAYDAY 2』はもとから完全無欠の作品だったわけではない。どちらかといえば「指名買い」であり、前作がすばらしかったからこそベータ以降熱中できたのだ。1年前の時点では変化を楽しめど不満はさほどなかった。

そんな本作が正式リリースされてから1年ほどが経った。私は友達らとすくなからずプレイしてきた。オンラインプレイヤーもCo-opに事欠かないくらいの数は、まだいる。だが胸の内におだやかではない感情を秘めた者も少なくないはずだ。私はその一人である。なにかしら告知があるたびに胸を高鳴らせ、発表のたびにがっかりする。このローテーションに慣れてしまっていた。だが、何事にも沸点はある。

私は「2013年のマイ・GotYは『PAYDAY 2』だ」と述べた。その考えは変わらない。ただし、いうまでもなくそれは2013年末段階での話だ。そこから8か月、落胆するには十分すぎる時間である。そして失望は先日の「WHAT'S NEXT」ティーザー、つまりStarbreeze製『The Walking Dead』の発表で頂点に達した。

もはや『PAYDAY 2』など二度とプレイする価値はない、などと放言するつもりはない。なんだかんだと愚痴をたれながらまだいくらか遊ぶだろう。それに、新規参入するならば後半で述べる点(一番重要な部分)については無視すら可能だ。しかし本作が大きな欠陥を複数かかえたまま1歳の誕生日をむかえてしまったことは疑いようがない。

本稿はこれまでの『PAYDAY 2』のいったい何が問題だったのか。あるいはいままさに何が問題なのかを、私が気づく範囲内でつづるものである。恨み節にならないようまとめたい。

 


広げすぎた穴だらけの風呂敷

 

指摘するのもばかばかしいが、『2』のブリーフィングでは「Day 7」まで表示されている。そして14年8月段階で存在するのはDay 3までのJOBだけだ。Day 4以降まであるマップはリリース以降追加されていない。というかDay 3ミッションすら追加されていない。"ELECTION DAY"がDay 2だった以外、あらたにくわえられたマップはすべて単日だ("TRANSPORT"にはDay 2があるが確定ではない)。

1年かけてもこの体たらくなのだから、はなからDay 4以降はまともな計画がなかったのだろうと勘ぐられてもしかたなかろう。依頼者"THE DENTIST"の発言から推測するにつぎのターゲットはカジノだが、はたしてどうなるだろうか。賭場を数日もかけて襲撃するという絵図を私は思い描けない。ここは良い意味で裏切ってほしいところだが。

 

 

コミュニティグループの登録者数で"Old Hoxton"脱獄計画の「無料化」などと茶番を繰り広げているが(しかも「キャラクターパックは現在開発中」のおまけつき)、いま必要なのは無料だろうが有料だろうがまともに遊べるマップである。

というのも、そもそもゲーム内報酬を考慮するとプレイに値するJOBが片手で数えるほどしかないのだ。ロールプレイを楽しめると私は言った。だがそれは換言すれば「ロールプレイでもしなければ残り3/4ほどは死にマップ」ということでもある。べつに対戦するわけでもなし、有料コンテンツに経験値ブーストをかけるくらいのサービスはしてくれてもいいはずだ。結局同じマップばかり選択するはめになり、風呂敷をめいいっぱい使って遊ぶような状態にはほど遠い。

 

あまりにも力強い水増し。脳をかけめぐるは「ノーカン」の文字列。
あまりにも力強い水増し。脳をかけめぐるは「ノーカン」の文字列。

 

ところで思い出していただきたいものがある。2013年初頭に公開された、ホワイトハウス(風の建物かなにか)を背に"Wolf"がたたずむ不穏極まるティーザー画像だ。画像ファイル名"White-Wolf.jpg"だけから脳内物質がかけめぐった者も多数発生しただろう。だがそれ以来ホワイトハウスのホの字も出てこない。

現状、舞台がワシントンD.C.であることくらいしか明らかにはされていない。時勢の移り変わりとともに「許されない範囲」が広がってしまったのだろうか? だとしたら、この広がった風呂敷をどうたたむつもりなのだろうか? 結局ホワイトハウス(的な施設)はターゲットにならないのか? 現時点では公式には明言されていない。不満だ。

 

突きつけられたのが2013年。あの胸のときめきを返してほしい。
突きつけられたのが2013年。あの胸のときめきを返してほしい。

 

ちなみに真偽の程はともかく(というよりかぎりなく"疑"よりなのだが)リリース直後に追加マップの計画がリークされていた。いまとなっては一致しているところを見つけるほうが難しいのだが、次回追加されるはずのカジノはそのリストのなかにあった。"First World Bank"なんかもあった。そんなあやふやな情報に興奮したほうが悪いといわれてしまえばそれまでだ。それでも、思い出すたびにもやもやとした気分になる。「あれが本当だったなら」「あれを見たOverkillがなにかを感じとっていたならば」……。

かように表でも裏でも『PAYDAY 2』の強盗ロードマップは混迷をきわめている。期待されたものは追加されず、存在するものは遊ぶ動機にとぼしい。しかしこれらを元をたどるようにひとつひとつ容認していったとしても、根本的な問題にぶちあたる。初代からの"路線変更"だ。

 


再構築されたはずの『PAYDAY』に欠けたパーツ

 

『2』発表当初、同作のクリエイティブディレクターDavid Goldfarb氏は『Dark Souls』からインスピレーションをえたとPolygonに対し語っている。なお、同氏はちょうど1年後に同じくPolygonへ「やるべきことはすべてやったと感じている」「RPGが好きなのでたぶん製作する」などと述べ、Overkillを退職している。

強盗と『Dark Souls』のカクテル。奥深い『Dark Souls』のいったいどこを真に混ぜこみたかったのか、それはわからない。一介のファンにわかることといえば、『2』が初代と比較してシリアス・リアル・ダークな犯罪描写へとシフトしたことくらいだ。囚人をフルトンで救出・ギャングの金庫をヘリでまるごと強奪・病院からウイルスを回収……いささかコミカルですらある展開と演出は『2』では鳴りを潜めた。

物足りなさは感じたが進化を否定する材料もない。途中まではそう思っていた。だがいまはほぼ確信に至っている。あの面白おかしさは『PAYDAY』に必須の隠し味だったのだ。人によるのかもしれないが、とりあえず私は本当に犯罪に手を染めたいわけではない。"映画風"凶行をけらけら笑いながら満喫したいのであって、後味の悪いリアルさは素直に楽しめないのだ。こうした考えが多数派かどうかはわからないが、ネットの海では散見される。

ニーズに応えたのか、たんなる原点回帰なのか、ともあれ"The Big Bank"はアンリアル路線へと復帰している。中にドリルのパーツを詰め込んだ巨大な貯金箱を屋根から投下・隣のビルからバスを突っ込ませて脱出路確保・毒入りケーキを食わせて警備員を無効化、等など。だいぶ良い方向に頭が悪くなった。

『2』が最初から全部そうであるべきだったとは言わない。"Firestarter"の展開も、"Framing Frame"の物語性も大好きだ。しかしながら、どれもこれも似たような香りなのはあまり褒められたものではない。なにより、『PAYDAY』が構築した世界観をまるごと放棄するのはもったいなさすぎたのだ。

 

タイムラインに「『2』に欠けているものはミッションクリア時のBGMだ」という主旨のツイートが流れてきたことがある。そのとおりだ。あのひょうきんなノリこそが『PAYDAY』だったのである。
タイムラインに「『2』に欠けているものはミッションクリア時のBGMだ」という主旨のツイートが流れてきたことがある。そのとおりだ。あのひょうきんなノリこそが『PAYDAY』だったのである。

 

もうひとつ欠落した部位がある。BGM/SE周りだ。『PAYDAY』シリーズの価値はSimon Viklund氏の楽曲で半分を占めている! というと過剰に聞こえるかもしれない。だが、そう表現してしまうくらいには魅力的なのだ。にもかかわらず『2』は貴重な素材の調理法にミスがある。

なによりも致命的なのが、マップと楽曲が一対一対応になっていないことだ。『2』はJOBごとに決まった曲はなく、ランダムに再生される。悪いことにマルチプレイですら同期がとられておらず、フレンドとプレイしたらお互い別のBGMが流れており興ざめするケースがしばしばあった(最近確認していないのでもしかすると修正されているかもしれない)。

初代は魅力的な音楽がそれぞれの仕事と強烈に紐付いていた。プレイすればするほどそのつながりは強固になり、プレイヤーはそれぞれの楽曲を"『PAYDAY』のゲームミュージック"として認識するようになったはずだ。いったいなぜこのような仕様にしたのか理解に苦しむ。「繰り返しプレイするのだから飽きさせないように」な配慮ならば余計なお世話だ。

"The Big Bank"に関しては開いた口がふさがらなかった。「Ode to Greed」なる、まさしく完全無欠の銀行強盗曲を追加しておきながら流れる曲はランダムなのだ(いちおうOde to Greedが採用される確率は高いが)。ここまでくると理解不能を超えて拒絶反応すらおきる。

 

※ (本稿を書き終えた直後の8月19日にちょうどSimon Viklund氏がQ&Aを公開した

とどめがセリフの非同期だ。JOB開始時に発生するキャラクター同士のやりとりはプレイヤーに強い興奮をあたえる……はずだった。しかしじつはマルチでは聞こえている発言内容はバラバラである。ツンデレ指揮官Bainの指示から正しい行動を判断する"Rats"でも、正答は単一でも聞こえてくる話はプレイヤーごとにわかれてしまっている。だから「今なんて言った?」と質問しても成立しない。「正解は何々だ」という返事だけが成り立ち、聞きとれなかった場合は全員が無言になる。

じつのところ、これは初代でも"No Mercy"であった現象だ。ずいぶんと無粋な仕様だと感じたのだが、もしかすると救済措置の一種なのかもと自分をだました。だが『2』でも流れるセリフが徹底的にバラバラなところから察するに、実態はただの手抜きだったらしい。これを「演出」と言い張るのならば、またも理解に苦しむ。

個々のボイスやサウンドエフェクトのデキはファンタスティックですらある。スランギーな口上も死体をバッグに詰める音も発砲音もマスクをかぶる音も、すべて申し分ない。しかし『PAYDAY』世界を代表するはずの科白の取りあつかいに瑕疵があったのだ。これは擁護できない。

 

 


「引き延ばし」の極み

 

さて、ここまで書いたことはすべて余談である。『PAYDAY 2』が徐々に冷たくなりつつあることとは本質的には関係ない。「そんなの気にしないから」の一言で片づけられるかもしれない。しかしながら、そうはいかない点がひとつだけある。DLCの在り方だ。

断言しよう。もし私が個人的に「ワーストDLC10選」なんてものをおこがましくも作るならば、トップはぶっちぎりで『PAYDAY 2』だ。私の人生でプレイしてきたあらゆるゲームにおいて、追加コンテンツでこれほどまでに連続的に失望させられたのは本作をおいてほかにない。

なぜか。一、マップがおもしろくない(The Big Bank以外)。二、追加アイテムに意味がない。三、ティーザーが不愉快。プレイ済みのかたには説明不要だろう。

1つ目。そもそも追加されたJOBが絶望的に少ないのだが、やはり有料だった"TRANSPORT"系の水増し&使い回し感の強烈な悪印象はぬぐえない。だいたい、Day 3以上のものがひとつもないのはいったいどういうことなのか。つけくわえておくと、SAFEHOUSEを舞台としたJOBを昨年のハロウィンイベントで"浪費"してしまったのは完全な失策である。

すでに述べたとおり、もはやDay 4以降はなかば都市伝説めいたなにかになりつつある。みなが一番期待しており、それに応えてしかるべきのものが来ていないのだ。いっそのことブリーフィングにあるDay 4以降の表示を消してしまってはどうか。

2つ目。スナイパーライフルだのショットガンだので景気良くカネを吸い上げることはかまわない。対戦ゲームではないのだからPay to Winになることもない。リアルマネーを支払ってゲームの展開が多少有利になるくらいにしても、誰もとがめることはないはずだ。

『PAYDAY 2』の有料追加武器は存在意義のレベルで破綻している。一言でいえば弱いのだ。しいていえば限定的なシチュエーションで使えるスナイパーライフルがひとつだけある。つまりそれ以外は産廃だ。あいかわらずプライマリウェポンはCAR-4ことM4A1が実質的に最強だし、ステルス装備もかわりばえしない。およそ用語「ゲームバランス」から縁遠い調整ばかりだ。一番影響をあたえたのがMOD(武器パーツ)の追加だったのだから笑えない。

あわせて追加されてきたマスクや実績も、なにひとつ面白みがない。無理やり弱い武器を使わせる制約にすぎないし、マスク装備の強制にいたっては本作の醍醐味であるロールプレイを殺してしまう。

 

結局プライマリウェポンはこれ1本で大抵こと足りる。スナイパーライフルなんてなかった。ショットガンなんてなかった。セカンダリの選択肢も同じくせまい。というか差別化できていない。
結局プライマリウェポンはこれ1本で大抵こと足りる。スナイパーライフルなんてなかった。ショットガンなんてなかった。セカンダリの選択肢も同じくせまい。というか差別化できていない。

 

3つ目。これが最後だ。とにかくティーザーの見せ方が不快だった。『Killing Floor』や『Team Fortress 2』をリスペクトしたのはわかる。その手法自体はかまわない。やたら細かい文字が読めず、わざわざ画像を拡大してまで読むはめになったのは私の視力が低いからだろう。だがしかし、話はもっと低次元である。ようするに「こんな代物でじらせるな」だ。

ここまで書いたとおり、『PAYDAY 2』のDLCの大半は無価値である。にも関わらず、公式はSteam上でひたすらアナウンスを繰り返してきた。生み落とされたのは盛り上がりと落胆の連鎖だ。強盗協力FPSを愛するからこそ、どんなにあやしげ(=手抜き臭がする)な発表でも毎回期待してきた。そのたびに失望させられたのだ。"The Big Bank"は一服の清涼剤ではあったが、モルヒネだったのかもしれない。

だが最終的に私を沸騰させ本稿執筆に至らせた決定打はティーザー「WHAT'S NEXT」だ。35日前ものカウントダウンから始まったことから、小さくないなにかが発表されると期待した。流れる会話などから想像の翼ははばたいた。"No Mercy"に続くようなJOBだろうか? ゾンビミッションのようなものだろうか? ついにホワイトハウスを襲撃するのか? なにかとのコラボだろうか?カウントダウンタイマーの設計ミス(日本から閲覧していると予定より早くカウントが0になってしまった)を乗りこえ、深夜1時に待ち受けていたのは「新作の発表だった」。

 

私の心に致命傷を負わせたカウントダウン。思い出したくない。
私の心に致命傷を負わせたカウントダウン。思い出したくない。

 

……なぜこれを『PAYDAY 2』のコミュニティでやったのか? 一番拡散するから、くらいの短絡的な理由だったのならば決定的な事実を見逃していると指摘せざるをえない。こういう形が一番失望するのだ。「gamescomにあわせているのだから新作発表だろう」とみる向きもあったろうが、裏を返せば新作レベルの追加コンテンツを期待してしまう(私のような)者もいたということだ。せめてあらかじめ『PAYDAY 2』とは無関係――追加コンテンツには該当しないもの――であることを明言しておくのが誠意というものではないのか。

あげくのはてに『PAYDAY 2』フォーラムで『The Walking Dead』に関するQ&Aを公開し、「『PAYDAY 2』と『The Walking Dead』は別のゲームである」としたうえでクロスオーバーを示唆している(「ワシントンが陥落したら、ダラスはどうするだろうか?」"When Washington falls, what will Dallas do?")。そして動画の説明には「2016年、ワシントン陥落」(In 2016 Washington will fall.)とある。日本にはことわざ「来年のことを言うと鬼が笑う」があると世界に伝えたい気分だ。

 

 

うつむいてしまった頭を万力で無理やり前向きにさせるとするならば、2015年いっぱいかけて『PAYDAY 2』を拡張すると解釈できなくもない。だが今年の展開を振りかえると絶望的な気持ちになる。新作が出るのだ斬り捨て御免とばかりにとってつけたようなDay 7 JOBが実装されないことを祈るばかりだ。

 


冷や飯を食らうのも止め時だ

 

信じられないかもしれないが、私が『PAYDAY 2』をプレイする動機はあまりなかった。惰性に近い。初期バージョンからゲームがたいして変わったわけでもないのに、なんとなく起動してしまっていた。ただ淡々とレベルを上げるためだけに遊ぶがごとき心地だった。それもそろそろ終わりにしたい。

Overkillがゲーム『The Walking Dead』をどう調理してゆくつもりなのかには期待する。だがそれは『PAYDAY 2』なる極上の料理が監獄食になりはててしまった事実のフォローにならない。それに、2ライン走らせながらいままで以上のクオリティの追加コンテンツが出てくると望むほうがおかしいだろう。

私のなかのダラスたちは牢屋にたたきこまれてしまった。つぎのJOBがプレイアブルになるまで脱獄することはあるまい。私のゲーム貪食罪は、残念ながら味のおかしくなった冷や飯を食い続けるほど深くない。食べるべきゲームはほかにいくらでもある。

 

もうこの高揚は帰ってこないのだろうか……

Nobuki Yasuda
Nobuki Yasuda
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