「完コス」(完璧なコスプレ)を目指す布選び
二次元のコスチュームをリアルで作ってみるのは、思ったより面倒な作業と想像力が必要になります。そこでいわゆる「完コス」、つまり完璧なコスプレをするために筆者が心掛けている布選びのポイントをご紹介します。
コスプレイヤーとして大事な完コスのためには何が必要か、となるとまずなにはなくとも洋裁の技術です。これは個々人の差によるところが大きいのでい きなり完璧とはいきません。ではそれ以外の要素で「どこに注意すれば完コスを目指せるのか?」というと筆者は布選びこそが大事だと考えます。
まずはコスプレ衣装を構成する大きな要素、布を攻略すればいいのです。
スクリーンショットは前後左右上下+装飾部分を用意する
作りたい衣装の詳細な設定資料がある場合はいいのですが、あってもイラスト資料かつ衣装の前後絵だけだったりします。これでは資料として不足です。
まずはスクリーンショットをいろいろな角度から撮ります。基本的な前後左右の4枚とは別に、細かい装飾のある箇所の画像も集めておくと後で詳細部分だけ撮り直すといった手間が省けるのでおすすめです。
また、完コスを目指す方はぜひキャラを真下から見てください。下から見てみるとパンツやタイツ、ガーターベルトの有無にスカートの裏側の素材や構造 などイメージづくりを左右する発見が多くあります。ガーターベルトをしているとセクシー系、かぼちゃパンツならファンシー/ゴシックロリータ系、しまパン ならカジュアル系といった感じに印象が変わってきます。はいているのがストッキングなのか、タイツなのか、はたまた二―ソックスなのかも重要ですので必ず 確認してみます。
たとえ見せない・見えない部分でも、キャラと同じ下着・小物にこだわると完コスに一歩近づけます。
資料画像はネットに保存・どこでも見られるようにする
スクリーンショットや設定資料は、Dropbox、Skydriveなどのクラウドストレージサービスでネット上に保存しておくと格段に使いやすく なります。手芸用品店へ材料の調達に行くとき、休憩時間に資料を眺めてイメージを膨らませたいときなどスマートフォンやタブレットでも資料を見られて便利 です。作業中も、ミシン横に置いたタブレットでスクリーンショットを表示しておけば細部の確認がとても楽になります。
テクスチャを観察して素材を決める
さて、スクリーンショットは用意したけれどどんな布を用意すればいいかわからない、そんな場合もあります。ここでゲームコスプレならではの「テクスチャ」に着目します。テクスチャとは、質感や模様を出すためにゲームキャラの衣装や武器などに貼り付けられた画像のことです。
衣装に着目するとてかてかした光沢のある革や、繊維の荒いざっくりした織物、にぶい金属光沢をもった鎧など質感の違いに気づくことでしょう。この表 現を行っているのがテクスチャです。衣装のメインとなる生地はどんなテクスチャか、スクリーンショットを拡大してよく見てみましょう。
筆者はこういう場合、まず光沢の有無から観察します。 光沢が強いテカテカした布ならサテンやエナメル、光沢があり毛足が長い場合はベロアや別珍。光沢がない場合は縫いやすいアムンゼンやツイルにします。特殊 生地で考えると、透け感のある布ならシフォンやジョーゼット、体にぴたっとフィットした構造なら伸縮性のあるストレッチ生地、革のような風合いならオック スラミネート生地か薄手の合皮を使います。
ゲーム衣装ならこのようにテクスチャから生地が決められるので、それらをよく観察しておけば迷わずにすみます。
基本的な生地の質感を知る
質感の違いをより具体的にお伝えするために、筆者の手元にある生地見本の写真を撮ってみました。比較がしやすいように青系統を並べていますが、布と一口に言っても目の細かさや光沢、厚みにかなり違いがあります。
コスプレといってまず思い浮かべるきらきらしたサテン生地でも、ブライダルサテンとミラノサテンでは光沢に差があります。サテン生地は安いものほど 光沢が強く、生地が薄い舞台衣装向けのものが多いです。逆に生地の厚い光沢の大人しいものは1mあたりの価格がぽんと跳ね上がり、ドレス用生地になってき ます。
ビビッドな色合いと光沢を強調したい場合は安めのミラノサテン、フォーマルなドレスなど上品な雰囲気を強調しつつお財布に余裕があるならちょっと奮発してブライダルサテンといった風に使い分けができます。
ベルベットは上品な光沢のある毛足の長い生地です。アンティーク人形や貴族のドレスなど、高級感を強調したい場合に向いています。価格が高く、裁断 すると大量の糸くずが出たり、直接アイロンをかけてはいけないなど取扱上の注意点が多いためあまり初心者向けの生地ではありませんがサテンにはない重厚な 質感が楽しめます。
アムンゼンは表面に梨のような模様が加工された、いわゆる梨地です。どこか和風な細かい地模様と、柔らかさゆえのひだの入れやすさが特徴となってい ます。柔らかいという生地の特性をいかし、ギャザースカートやワンピースなどに使うと体にそった流れるようなラインを出せます。お値段は割と安い部類で す。
ポリエステルギャバは色数が豊富ではりのある生地です。軍服や制服、コートなどメリハリのある形を作りたいときによく使います。体のラインより服のラインを重視したいとき、期待に応えてくれる生地です。価格はアムンゼンと近く割安感があります。
布とは少し違ったカテゴリの合皮ですが、ほつれにくい性質から布の上に模様として貼り付けたり、ポーチやベルトなど小物を作るのに重宝します。薄手の合皮ならミシンで縫えますので、薄手の鎧などにも使えます。生地と同じく手芸用品店で買えますが、お値段は少々高めです。
実店舗へ行き、見て触ってから買う
前項でよく見かける生地の例を並べましたが、世の中には数えきれないほどたくさんの布があります。
たとえばサテン。サテンとは織り方の名称で、どんな素材を使った布かというのはこれだけでは判別できません。ですので綿サテン、ポリエステルサテ ン、シルクサテン等々素材によって全く質感が異なります。綿100%生地、ポリエステル100生地、絹100%の生地を触ってみれば質感の違いはすぐに実 感できるでしょう。
そう、「触ってみればわかる」のですが、インターネットの生地屋さんではそうもいきません。筆者も何度か生地のネット通販を試してみたのですが、た とえばアムンゼンと書いてあってもお店によって布の厚さが違ったり、地模様が違うことなどしばしばあります。生地に意外とハリがあり、思い通りのラインが 出ないので苦労したといった話も聞きます。
とくに完コスを目指す場合、生地の色合いや厚さ、ちょっとした雰囲気にもこりたいものです。生地屋さんのサイトを眺めながら悩むよりも、実際にお店まで足を運んだ方が見て触ってピンとくるのですぐに決められます。
これにかんしては本当に百聞は一見にしかず、最高の生地との一期一会を楽しみにぜひお店へどうぞ。
もし東京にお住まいで、とにかくたくさん生地をチェックしたい場合は日暮里繊維問屋街の「トマト」がおすすめです。1m100円の布・合皮から輸入物の高価な生地まで豊富にそろっています。ただし、問屋街なので安さの代わりに生地についての質問などは禁物なのでご注意ください。また、支払いは現金のみのところがほとんどです。現金を用意しておきましょう。
もっと手軽に生地に触れたい方は、ユザワヤやオカダヤ、Tokaiな ど手近な手芸用品店がおすすめです。。どの手芸用品店でも初めは端からざっと見るくらいの気合が必要となりなかなか大変ですが、見て触れた生地の数だけコ スプレ衣装のイメージがどんどん固まります。ゲームキャラの衣装テクスチャに一番近いものを見つける目はそれだけで養われていきます。
「布は必ず実店舗で買う」。これが完コスへの近道です。
あとはひたすら縫う
布選びは完璧、準備は万端となったら完コス達成は目の前です。
イメージぴったりの布を眺め「○○の衣装……どんどんできてきた○○の衣装」と資料を見ながらテンションを上げてもよいですし、チェックのために羽織りながらなりきりごっこをするのよいでしょう。そして上昇したモチベーションとともにとにかく縫うのです。
布は布のままでは衣装になりません。しかし布から衣装になった時、あなたのイメージは布を通して他の人にも見える形となります。完コスを作るのはイメージ通りの布と糸、そしてあなたの熱意です。
さあ一緒にミシンをカタカタまわしましょう。完コスはすぐそこです。