いかに『Cities: Skylines』は都市開発シミュレーションゲームの決定版となったのか?

『Cities: Skylines』は、海外メディア、さらに国内外のユーザーから高い評価を得ており、大袈裟な表現ではなく、"現代の都市開発シミュレーションゲームの決定版"になったと言えるだろう。

「Colossal Order」、建築用語。または、『Cities: Skylines』を開発した、フィンランドのデベロッパーの名前である。この名前を採用した理由は、「単純に響きが変で面白いから、というのが大きいですね」だという。

Cities: Skylines』は、このColossal Orderによって開発され、2015年3月10日にリリースされた都市建設シミュレーションゲームだ。Colossal Orderは、都市交通シミュレーションゲーム『Cities in Motion』シリーズを手がけてきたスタジオである。販売はParadox Interactiveが担当。現在はSteamにて販売されており、価格は2980円。5種類の建築物やオリジナルサウンドトラック、アートブックを収録したデラックス・エディションも存在する。

「私たちは常にシティビルダー(都市開発シミュレーションゲーム)を開発したいと思っていたわ」。AUTOMATONの取材に対し、本作のメインデザイナー、カロリーナ・コルポー氏はそう伝える。『Cities: Skylines』は、海外メディア、さらに国内外のユーザーから高い評価を得ており、大袈裟な表現ではなく、”現代の都市開発シミュレーションゲームの決定版”になったと言えるだろう。いかにして『Cities: Skylines』は、この頂きに到達することができのたのだろうか。完成形を生み出した『シムシティ』を改めて見つめ直しつつ、コルポー氏へのインタビューと共に、『Cities: Skylines』をひもとく。

 

 


『シムシティ』という”完成形”

 

初代『シムシティ』。1989年にリリース
初代『シムシティ』。1989年にリリース

『Cities: Skylines』の誕生を紐解く前に、まずその源流となった『シムシティ』を見なおさなければならない。ウィル・ライトが手がけた『Micropolis』の存在はひとまず忘れて、『シムシティ』の立ち位置と、その面白さを分析していこう。

新発売のオープンワールドRPGが、『The Elder Scrolls V: Skyrim』とばかり比較されていた時期があったのを覚えているだろうか。都市開発シミュレーションというジャンルにおいて、『シムシティ』はその頃の『The Elder Scrolls V: Skyrim』の立ち位置とほぼ同じだ。新作がリリースされれば、『シムシティ』とどこが違うのか、『シムシティ』の面白さに近づけたのかが、評価の基準となってきた。『シムシティ』は都市開発シミュレーションの元祖であり、唯一無二の存在として崇められてきた。

筆者から見ても、ウィル・ライトと、かつてのMaxisスタジオが生みだした都市開発シミュレーションのひな形は、美しい完成形であり、非の打ち所が無かったと言える。都市に臨場感を吹き込みつつ情報を可視化するアニメーション、絶妙な関係性を持った3種類の地区、条例や税制による都市の方向付けなど、『シムシティ』シリーズは都市開発シミュレーションのほぼ全てを築き上げてきたと言える。2003年に『シムシティ4』がリリースされて以降、目立ったフォロワーが登場しなかったことがその証明だろう。新しい都市開発シミュレーションゲームを作っても、結局は『シムシティ』のルールに従ってしまい、上手くいっても”悪くないフォロワー”の烙印を押されることになってしまう。

2003年にリリースされた『シムシティ 4』
2003年にリリースされた『シムシティ 4』

都市を自由自在にデザインできる創造性は『シムシティ』の魅力だが、その他の素晴らしさはどこにあるのか。端的に言えば、ほぼ全ての要素が、さまざまな階層で良い影響と悪い影響を持っていることにある。『シムシティ』をプレイすることとは、正負の効果を階層別に計算することだ。都市が計算通りに動き始めるシーンが『シムシティ』におけるハイライトであり、都市の成長と共にその計算式はテンポよく継続し、止めどころを見失う中毒性の高いゲームプレイへと変貌する。

例えば街なかに住宅地区を設定するとしよう。住み始めた人々は街の労働力となり、彼らから税金も入ってくる。だが、同時に水道施設や、電気を供給するための発電施設を用意しなければならない。生活排水やゴミも出すので、下水道やゴミ処理場も設置する必要がある。発電施設やゴミ処理場の公害に対処するために、植林したり公園を設置する。都市部への公害を防ぐため、工業地区は離れた場所に設定する。住宅地区と工業地区の間の交通量が増えれば、渋滞を防ぐために道路や交通機関を増設する。駅を設置したエリア周辺を、運営費用に見合うだけ発展させるため、また住宅地区や商業地区を設定してゆく……。

人口や公害や交通量といったさまざまな階層で、各地区や施設は良い影響と悪い影響をもたらす。それらの数値をアニメーションやユーザーインターフェイスから確認し、プレイヤーは正負の計算を延々と続ける。この連続するプレイ感覚が、『シムシティ』の驚異的な中毒性を生み出している。

 


新生『SimCity』への”絶望”と”失望”

シリーズが『シムシティ4』で休眠に入った後、前述したように、目立った都市開発シミュレーションゲームは登場しなかった。都市開発シミュレーションのファンは、『Cities XL』や『Cities XXL』、派生で生まれた都市開発”系”シミュレーションをプレイしては、『シムシティ4』を再インストールしてきたのではないだろうか。

その背景こそが、「Colossal Order」の設立に一役買ったのかもしれない。2009年に設立された同スタジオは、モバイルゲーム開発に疲れた開発者らによって設立された。「小規模のモバイルゲーム開発を離れて、PCタイトルを作りたいと願っていました」コルポー氏はそう伝える。スタジオ設立当初から、開発するのは都市開発シミュレーションと決めていたという。

 

Colossal Orderの面々。カロリーナ・コルポー氏は後方、右から2人目の女性に当たる(画像出典: Facebook)
Colossal Orderの面々。カロリーナ・コルポー氏は後方、右から2人目の女性に当たる(画像出典: Facebook

スタジオの現在の規模は、コルポー氏を含めて13人だ。とても大規模な都市開発シミュレーションゲームを開発できるとは思えない人数だ。もちろん、コルポー氏らもいきなり大規模なシティビルダーを開発することは無茶であると認識しており、その前に交通開発シミュレーションゲーム『Cities in Motion』を手がけることを考えたのだという。

「チームがどのように機能するか、一定規模のシミュレーションゲームをどの程度上手くやれるかを確認するために、より小さなプロジェクトから始めたかったのです。『Cities in Motion』は素晴らしいプロジェクトでした。私たちのチームが巨大なゲームを良い品質で完成させることが可能であると、証明したと思います」。彼らが『Cities in Motion』シリーズから学んだことは多い。パブリッシャーとの連携に、開発スケジュールの組み方といった開発体制について。道路ツールの作り方や、交通量のシミュレートなどの要素は、『Cities: Skylines』に引き継がれている。

だが、『Cities in Motion 2』がリリースされるおよそ1年前。2012年3月に、ドイツのゲーム雑誌GameStarから、『シムシティ』最新作が登場するとの情報がリークされた。そして同月5日から開催されたゲーム開発者向けカンファレンスGDC 2012にて、Electronic ArtsとMaxisスタジオは、シリーズ最新作『SimCity』を正式発表する。「(2013年の)『SimCity』が登場した時、私たちはみな絶望したんです」と、コルポー氏は当時の心境を説明する。

 

およそ10年の沈黙を経て突如として戻ってきた『シムシティ』
およそ10年の沈黙を経て突如として戻ってきた『シムシティ』

目立った最新作が登場しない見捨てられたジャンルを盛り上げる筈が、突如そのジャンルを生み出した創造主が戻ってきてしまった。シティビルダーゲームを作るために結成された「Colossal Order」、彼らの当時の心中は想像に難くない。コルポー氏は、「Maxisがシティビルダーゲームを作っているのなら、市場に私たちのバージョンが受け入れられる余地はもう無いと思いました」と述べる。

ところが、事は予想外の展開を見せる。『Cities in Motion 2』より一足早く、3月に発売された新生『SimCity』が、従来のシリーズプレイヤーから大きな不評を買ったのだ。

まず、プレイヤーがそもそもゲームをプレイできない事態となった。新生『SimCity』は、マルチプレイヤー要素により他のプレイヤーの都市と協力する要素が組み込まれており、そのために常時オンラインを強要される仕様となっていた。ローンチ時にアクセスが集中したため、多くのプレイヤーがサーバーへアクセスできず、いつまでたっても遊べない状況が続いた。またオンライン必須のため、『シムシティ4』で根付いていたユーザー制作コンテンツ「UGC」、つまりはModも使用できず、ユーザーが制作した建物や施設を導入することもできなかった。後にMaxisは、オンラインを強要する仕様を修正し、オフラインでUGCも使用できる環境を導入している。

だが、プレイヤーの不満はオンラインの強要やMod対応不可の姿勢だけではなかった。都市開発シミュレーションに新たなシミュレーションレベルを持ち込むはずであった”GlassBox Engine”も、本作の足を引っ張る結果となった。この物理シミュレーションエンジンは、新生『SimCity』のために一から開発されたものだ。過去の『シムシティ』シリーズで利用されてきた乱数ベースのシミュレートではなく、実際にビジュアル化されたリソース(資源)やユニット(人)がマップ上で動き、特定のルールによってやり取りされる。当初は真に都市の動きをシミュレート出来ると期待されていたが、その結果としてゲームを動作するマシンにパワーを要求することとなり、都市サイズが制限されるなどの問題に直結することになった。この問題については公式ブログでも触れられており、Maxisのゼネラルマネージャーが、都市サイズを拡大することはパフォーマンス的に不可能だと伝えている。

この都市サイズが狭いという問題は、都市を自由にデザインする創造性だけでなく、前述した足し算や引き算が早々に終わってしまうという、『シムシティ』の面白さの根幹を制限する結果となってしまった。従来のプレイヤーたちからは不評を買い、コルポー氏は失望したという。「個人的に、2013年の『SimCity』でもっとも失望したのはマップサイズです。新しい建物を建てるための建設用地が無くなった時、いままで積み重ねてきた面白さが失われてゆくんです」。

 

 

新作『SimCity』は、従来の『シムシティ』にはなかった要素……マルチプレイヤーや、より詳細なシミュレーションを取り入れようとした結果、過去の『シムシティ』を超えるどころか、その面白さを制限してしまう作品となってしまった。一方で、この創造主の過ちが、『Cities: Skylines』誕生へと繋がることになる。「私たちにとっては幸いなことに、『SimCity』はそれほど良い出来ではありませんでした。それで私たちは、自分たちのバージョンのシティービルダーへ挑戦することに自信を持ちました」。コルポー氏らが『Cities: Skylines』を誕生させることができた背景には、創造主の失敗も存在した。

その後、『SimCity』の開発を担当した老舗スタジオ「Maxis」は後に閉鎖された。『シムシティ』や『ザ・シムズ』などのシリーズの開発や、ブランド名は継続されるという。「我々はMaxisに尊敬の念を抱いていますし、スタジオが閉鎖することを知った時はとても悲しかったです。彼らの『シムシティ』シリーズへの尽力がなければ、『Cities: Skyline』は存在しなかったでしょう」とコルポー氏らは続ける。

 


最高のフォロワー

『Cities: Skylines』を開発するに当たって、まずインスピレーションの元となったのが”昔の『シムシティ』シリーズ”だ。「インスピレーション自体は、昔の『シムシティ』ゲームから来ています。『シムシティ 2000』のように独自の魅力がありつつ、最新のユーザーインターフェイスやグラフィックスタイルを持つゲームを作りたいと思いました」。特に『シムシティ4』からも強いインスピレーションを受けているという。「一部を調整したり新たな機能を追加しているけど、ゲームのコア部分の多くは『シムシティ4』からインスピレーションを得ていますよ。本当に素晴らしいゲームです」。

『Cities: Skylines』は2014年8月に正式発表され、当初から明らかに新生『SimCity』の失敗を意識してきたタイトルだ。「Play Offline」はもちろん、ModツールおよびModをオンライン上でシェアする機能などは、『シムシティ3000』や『シムシティ4』で育まれ、新生『SimCity』にて切り捨てられたUGC文化の流れを取り組んだと言える。オフラインプレイに関して聞いてみると、現在でも『Cities: Skylines』にCo-opモードを搭載する予定はないという。「現時点ではマルチプレイヤー要素は予定されていません。Co-opモードを搭載すれば、しばらくの間は楽しいでしょう。ただ、一般的にシミュレーションゲームには長時間のプレイセッションがあり、マルチプレイヤーモードは適していません。あなたの都市なんです。誰かに来られたり、変えられたりはしたくないでしょう」。

 

 

『Cities: Skylines』をプレイしてみると、彼らがいかに『シムシティ』が好きなのかがわかる。町の状況を逐一伝えるTwitterの存在などを筆頭に、ゲームデザインのほとんどどは『シムシティ』をまねている。だが、これは『シムシティ』を完全に模倣したというよりも、かつての『シムシティ』をまねつつ、使いづらい部分を修正したり、より便利な部分を追加したりしていると言える。例えば『Cities: Skylines』では、産業地区の区画の属性を決定することができる。農業地区や林業地区、鉱山地区や石油採掘地区などを制定することが可能で、環境に囚われることなく、都市デザインをより自由に決定することができる。また、区画がゲームの進行と共に解除されてゆく仕様も特徴的だ。解放された広大な土地は魅力的だが、デザインを綿密に決定しないと、散漫とした都市が構築されてしまうことが多い。市民数の増加に合わせ、新たな土地をアンロックしてゆくことで、町間の位置づけや方向性を決めやすくなっている。もちろん、これらの区画制限などは、公式Modを使用すれば解除することができる。

唯一感じた懸念は、『Cities: Skylines』はあまにりも自由すぎて、難易度の面では決して満足できる作品ではないということだろう。だがこれに対しても、Colossal Orderは高難易度化Modを用意するなどして対応している。「『Cities: Skylines』は、プレイヤーのスキルレベルに合わせてうまく難易度を調節することができるんです。腕のあるプレイヤーは素早くゲームを進められますが、よりガイダンスが必要な人には、全てのツールをどう使うのか学ぶ時間が与えられるんです。腕のあるプレイヤーなら、条例みたいなものを使用して、都市の仕上げを調整することができます。ゲームはそれほど難しくはありません。ただ、腕のあるプレイヤーが別の方法でプレイできるようにはしています」。

 

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「大事なのは、プレイヤーに耳を傾けることです。プレイヤーの一人ひとりがゲームを作り、最後には彼らがゲームの新境地を切り開くんです」。コルポー氏は我々にそう伝えてくれた。オールドクラシックな2Dアクションを愛した『Shovel Knight』のように、『Cities: Skylines』はジャンルに新たな要素をもたらしたわけではなく、『シムシティ』のフォロワーと言わざるを得ない。だが、都市開発シミュレーションファンの誰もが求めていた理想型に耳を傾けた結果、”最高品質のフォロワー”となった。現世代のグラフィックで、オフラインで、Modに対応しており、広大なマップでプレイできる都市開発シミュレーションだ。

都市開発シミュレーションの決定版『Cities: Skylines』を生み出したColossal Orderは、次にどこへ向かうのだろうか。『Cities in Motions』の経験が本作に活きたとはいえ、開発スタジオは両作は異なる作品だと認識している。「『Cities: Skylines』は、『Cities in Motions』とそれほど関係はないオリジナルのゲームだと思っているわ。スタジオとしては『Cities: Skylines』で学べることを過去作でたくさん学んだけど、同作のプレイヤーが『Cities in Motions』も楽しめるとは限らない。『Cities: Skylines』よりも、『Cities in Motions』はよりハードコアでテクニカルなの」。もうしばらく、Colossal Orderは『Cities: Skylines』のさらなるアップデートを進めなければならないが、『Cities in Motions』に戻るのも面白そうだと語る。コルポー氏は「未来は開けている」と締めくくった。どこまでも広がる本作のマップのように。

 

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Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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