ゲームは安い

子どもの遊び呼ばわりされ続けるゲームは、その実は「子ども”“遊べる」にほかなりません。本質的には複数の技巧や芸術が織り込まれた、立派な「大人向けの娯楽」です。この点については、ゲームを多くプレイしている方にならばおおむね同意いただけることでしょう。

では、なぜそのような誹りを受けるのか。いくつか考えられますが、最大の理由は価格です。ゲームは他の娯楽と比べるときわめて安価といえます。安い=子どもにも買い与えられる=子ども向け。この不適切な等式が誤解の発端ではないでしょうか。

ようやく KPI やらなんやらとマネジメント用語がそれなりの認知をともない飛び交い、DLC の売り方に喧々諤々の議論がなされるようになった「ゲーム」。つまり、それなりに、そしてようやくカネの匂いがするようになってきたということです。これ は悪いことではありません。潤えばこそ回転し、次なる名作が生まれるのですから。ただし、今回は DLC 商法の手法や是非については無視します。

ゲーム関連の企業が成立しゲームも商品として成立している以上、ソフト・ハードの単価については市場原理的に異論を唱えることはできません。現状がすべて適正価格だとは断言できず、労務者が潤っていないリスクがあるとしても、です。

それほど長くないゲームの歴史ではありますが、ファミリーコンピューター登場以降いわゆるフルプライスゲームは5000円~1万円程度の幅で推移し てきました。今後もこの価格感覚がそれほど急激かつドラスティックに変化することは考えにくいといえます。むしろ Steam をはじめとするダウンロード配信サービスの影響で下降することはありえるかもしれません。

2013年時点、フルプライスタイトルを発売日にほぼ定価購入した際の平均支払を便宜的に6000円としましょう。平均プレイ時間はまちまちでプレイヤーの態度にも依存しますが、「ボリューム面で罵詈雑言を投げかけられない」のラインは30時間程度でしょうか。

消費型のコンテンツを考えるうえで1つの指標になるのが単位時間あたりの価格です。ゲームの場合、先ほどの数字を採用すると200円/h。1時間遊 んで200円。ハードを購入する代金を5万円(耐用年数5年)として織り込み概算するとしても、驚くべき数字しか出てきません。たっぷり30時間は拘束・ プレイしてせいぜいが300円です。

ゲームはいわば”拘束型”の娯楽です。自分の時間を完全に投入する、趣味の主体とでも呼ぶべき行為です。拘束型のカテゴリで、1時間単価が300円を割るものは絶無と表現しても過言ではないでしょう。

以下、私の実体験をベースに比較します。

 


映画

 

なにかと引き合いに出される映画は、映画館まで観に足を運ぶとおおむね2000円で2時間。1000円/hです。「レンタルならもっと安いのでは?」という疑問については、ゲームも中古や廉価版ならば半額以下になるとお答えしておきます。

 


自転車

 

一度はまると抜け出せない沼として名高い自転車。それなりにきちんとしたロードバイクを買い、ヘルメットやウェア一式、その他雑貨類を買えば初期投 資だけで20万円は堅いところです。よく一生ものだなんて言われますが、現実的ではありません。壊れてしまうのではなく、趣味的に追加購入するケースが 多々あるのです。そこで、償却(?)をゲームのそれを鑑み5年と見積もりましょう。

週末ライダーが土日に5時間ずつ乗るとして、年間約100時間・5年で500時間。400円/hは最低限かかります。さらにここにランニングコスト が加算されることも忘れてはいけません。割合的に大部分を占めるのはメンテンナンスグッズではなく、「水分」です。1時間あたり100円はかかるでしょ う。

 

これ1台で完結するといえばするのだけれど。
これ1台で完結するといえばするのだけれど。

 


スキューバダイビング

 

宿泊費や交通費、さらには器材費までをあえて度外視します。安価なところを探したとしても、ビーチダイブ(浜辺から徒歩でエントリーする方式。身体 的負荷がやや大きい)では、国内では3本潜って1万円が限界でしょう。約3時間で1万円。3000円/hです。諸々の必要経費の存在も思い出すと、比較に 値しないことがすぐわかります。

 


素潜り

 

非常にリスクの高い趣味なので訓練にコストがかかるという重大な問題点があるのですが、ここでは(また)あえてスルーします。となるとかかるのは交 通費と器材費。私が知る限り、大阪市内からまともに潜れるポイントまで行こうすると電車代だけで往復1万円以上します。また、スキューバでは見なかったこ とにした器材も原則的に消耗品で、2~3年に1度はリプレイスする必要があるのです。

どれだけ気合を入れても1日に海に滞在できる時間は5時間程度。交通費だけで2000円/hを超過してしまいます。宿泊すればその分低減させること ができますが、ゲームの値に近づけるのは困難でしょう。限定的な条件として「目の前に潜れる綺麗な海がある」場合は圧倒的低コストですみますが、例外中の 例外です。

なお、ショップが開催するシュノーケリングツアーを利用する場合はキリでも数千円/hはかかります。高コスト体質ではありますが、もし素潜りに興味がある方はまずそちらをどうぞ。

 

妻が購入した特殊なフィン。カーボン製で価格10万超。 耐用年数は不明。
妻が購入した特殊なフィン。カーボン製で価格10万超。

耐用年数は不明。

 


麻雀

 

気軽に打とうとなると雀荘の存在を避けて通れません。チェーン店の価格を見てみると、通常料金では2000円/h、長時間レンタルプランでも1000円/hほど。そこに「必要経費」がくわえられることを考えると、やはりゲームには及びません。

ちなみに安田宅には手積み卓と牌はありますが稼働率が低く話になりません。自宅に雀卓を導入し雀士を呼ぶことができるなら話が変わりますが、なかな か難しいのではないでしょうか。ただ、それを実現した『天鳳』はじめネット麻雀「ゲーム」となれば安くつくというのはじつに示唆に富むところです。

人がいなければ雀卓もただの机と化す。
人がいなければ雀卓もただの机と化す。

 


 

漫画であれば1冊30分~1時間で500円~2000円。「漫画は繰り返し読むから」については、ゲームも同じです。

文字が主体の本については、読み終えるのは特殊な技術がないかぎり3時間~5時間くらいでしょう。価格を漫画と同程度と見積もって、濃密極まる古典 作品の文庫本を読むくらいでやっとゲームに比肩することができます。伝統と格式とそして難解ささえあればゲームも小説と同じポジションなのです。

 


自家用車

 

もはや加減乗除するのも馬鹿らしい気がします。駐車場台と税金だけで「ゲーム価格」を超過します。乗ることそのものを目的とするのならば、これほど高コストな趣味もないでしょう。そしてそれが基幹産業なのが日本という国です。

ただし、クルマ自体はそれ自体の拘束時間というよりは、他の趣味を支えるもの。日本ゲーム博物館に行くのもクルマさえあれば楽勝です。価格/時間だけで計算できない、趣味のための趣味・面白さの外の趣味とでも呼ぶべきでしょうか。

 


その他

 

昔やっていたがやめてしまった、というくくりではダーツと楽器があります。ダーツについては自宅にボードを設置すれば初期投資も含めても相当安上がりで、ゲームを下回ります。しかし、モチベーションを保つのが至難という問題点があります。対戦しなければ単調なのです。

 

壮絶な成れの果て。
壮絶な成れの果て。

 

楽器もほぼ同じなのですが、初期投資がダーツに比べて大きいことと、それなりの水準に達しようと思えばどうしても教則本やスクールに投資しなければ ならないという壁があります。私が止めてしまった理由は、とくにありませんでした。あえていうならばゲームのほうが楽しく感じられたから、でしょうか。電 子ドラムを売り払ってしまったのは今でも少し後悔しています。

 


非拘束型

 

ゲームとはやや性質の異なる、”非拘束型”の娯楽については本来であれば比較対象として評価すべきではありませんが、参考値としてご紹介します。定義はいろいろとこねくり回さず、ここでは言葉を選ばずシンプルに「ゲームしながらできること」とします。

植物栽培は安上がりというより、ほとんどコストがかかりません。水代くらいです。盆栽や生花くらいまでいけば(つまり拘束型に近づけば)多少カネも かかるでしょうが、自分で消費するハーブを栽培するくらいならば財布を確認する必要性はほぼ0です。ゲームのローディングの合間に水をあげて弱った葉を チェックするだけ。

 

ロード画面の友達。
ロード画面の友達。

 

次に飲料系、コーヒー。豆は1000円で買えます。ミルもたいした値段ではありません。100円/hは確実に切るでしょう。紅茶はコーヒー以上にピ ンの価格がすごいことになっていますが、それでも5000円出せば相当なものが買えます(相応の味を出せるかどうかは腕前次第)。時間単価はコーヒーと大 差ありません。

肝臓に定評のある筆者が好む酒は、拘束型になる外食ではなく自宅飲みではじつはかなり安上がりです。バーでロングカクテルが1000円以上する光景だけ見てきた方には違和感があるかもしれませんが、自分で作ってしまえば1杯100円くらいです。

アルコール中毒間際の人間として念のため厳密に計算しましょう。オールタイム・ベスト・酒であるカクテル『ギムレット』を作る場合、ジン (750ml1500円)とライムジュース(500ml500円)が材料です。王道レシピ通り作った場合、1杯あたりの価格は75円です。1時間2杯飲ん でも150円/h。いつも私が酒を飲みながらゲームをしている理由がおわかりいただけるかと思います。安上がりで合理的だからです。中毒ではありません。

 

飲みたいものをひと通りそろえても1万円足らず。
飲みたいものをひと通りそろえても1万円足らず。

 


ゲームはありがたい

 

かように、ゲームはとても安価に楽しめる趣味なのです。それでいて奥深さに劣るということはありえません。むしろ、上掲した私の実体験をすべて総括 していると評するべき偉大な存在です。それが1時間遊んで300円。法定最低賃金で1時間労働するだけで2時間はプレイしていられるのです。

ゲームの売り方・在り方が議論される昨今ではあります。たしかに、支払う額に値しないコンテンツをばらまく風潮はあります。それはたしかに問題です。

しかし、根本的にゲームは安いのです。安すぎると言ってもいいでしょう。この事実をふまえて「ゲーマーはどれだけ財布の紐をゆるめるべきか」を再考すべきではないでしょうか。無配慮に売り手の手法を批判するのは適切ではありません。

なお、時間単価を計算するにあたり30時間としましたが、ゲームクリアまでにかかる時間がこれに足りている必要性はまったくありません。「クリアま での時間が短すぎる」とする批判は往々にして的外れです。第一に、まず短いとしてもゲームが安いということ。第二に、おそらく「短い!」と不満をたれてい る人はそのゲームの深奥に到達していないということ。1周の尺をスリムにまとめたゲームほど、たいていはリプレイ性を高めるべく創りこまれているもので す。

最後に、安いゲームをさらに楽しむための秘訣を1つ。「非拘束型とまとめる」のです。筆者のように飲み物に頼るもよし、ほかの何かを見出すもよし。 近代放置型タイトル筆頭『なめこ栽培キット』に始まり、『艦隊これくしょん』で旋風を巻き起こしている”非拘束型ゲーム”とまとめるのもよいでしょう。

ゲームは、「面白く時間を過ごそう」という意志を受け入れる大いなる器です。

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