AUTOMATON 2015年ゲームメカニクス大賞『Sorcerer King』
「ゲームメカニクス」とはプレイを面白くする仕組みをさす。ゲームデザインの中核であり、5000年前のチグリス・ユーフラテスのほとりに存在したダイスゲームからつづく、ゲーム開発の歴史でもある。
特に、コンピュータの威力を発揮したビデオゲームが誕生してから、その多様化と発展は目覚ましいものだ。小島秀夫氏が新スタジオ設立で口にした「ホモ・ルーデンス」は、ゲームメカニクスとともにあるといっても過言ではない。
筆者はここに、2015年にプレイしたゲームでもっともすぐれたものとして、Stardockが7月16日に発売したWindows用ゲーム『Sorcerer King』の名をあげる。選考理由は弊誌レビューどおり、「4Xストラテジー」と「RPG」の融合だ。これは近年の多様性ゆたかなゲームシーンと、その根底にあるゲーム開発技術の進歩を印象づけるものである。欠点はこれまたレビューどおり数点ある。ユーザインタフェースは及第点で、ストーリー演出に難があり、登場人物の印象も魔術王「ソーサラーキング」をのぞけばないに等しい。ゲームは満点ではないが、根底にあるルール群とそのメカニズムから生まれる「新たな遊び」の輝きがくもることはない。ここにその栄誉をたたえ、表彰する。
以下に、大賞の選考にあたり検討した項目とノミネート作を記し、最後に2015年を総評する。その前に、ゲームメカニクスに着眼したいきさつを明かしておく。
2010年代のゲームレビュー
従来のゲームレビューは所感(インプレッション)に重きをおいたが、近年大きく発展した実況プレイ動画に屈した。筆者はここで、本来の批評(レビュー)にたちかえり、所感だけでなくメーカーが掲げるゲーム特徴の批評も努めて記した。本稿はその成果の発表でもある。
実況プレイ動画は、プレイの様子をそのまま伝える雄弁な表現力と、配信者の実況という感動の共有が魅力だ。アートワークやプレイフィールといった所感は、記事を読むよりYouTubeで検索した方が「確か」である。配信の敷居も低く、できあがりは早い。速報を求める人々の要望にも適している。
しかしながら、実況プレイ配信で伝えづらいゲームの魅力は存在する。芸術作品・社会現象への関連性といった造詣や、数十時間にもおよぶプレイをみちびく真の仲間、などがそうだ。「プレイを面白くする仕組み」すなわちゲームメカニクスもそのひとつである。筆者はここに着眼し、メーカーの工夫を通じてゲーム開発技術の進歩を紹介した。
その言葉を過去記事で避けてきた理由は3つある。ゲーム開発者やハードコアなストラテジーファンでなければ聞き慣れない。より広義のゲームデザインという言葉が広く知られており混同される。言葉がもつパワーでマジックワード化する。こういった懸念はあったが、意見を誠実に伝える弊誌の存在と、読者のゲームに対する好奇心・情熱で、言葉を使う機は熟した。近年のソーシャルゲームをにぎやかすゲームのマネタイズだけでなく、新たな遊びをつくるゲームメカニクスにも、未来があると筆者は信じている。
ゲームメカニクス大賞の選考にあたり
選考基準はつぎの3つ。「ルールとメカニズム」、「ユーザインタフェース」(以下、UI)、「イノベーション」。各項目のノミネート作と選考の所感を述べる。なお、選考作は2015年中に発売し、かつ弊誌でレビューしたビデオゲームのみとする。これは選考内容の精査を保証するためである。
Renowned Explorers
単純なルールセットでゆたかなプレイを生み出すメカニズムのすぐれた見本だ。どんな行動でも歯車がかみ合い、ゲーム全体がなめらかに駆動する。プレイ戦略の追求をうながす背景・アートワーク・UIも品質が高い。
スプラトゥーン
まさに、UIをゲームそのものとした。勝敗をわける「インク」がすべての行動に結びつく。このルールを実現したアートワークも見逃せない。マスターチーフがインクを投げる姿など想像できないだろう。
Star Ruler 2
上記2本とくらべ全体の完成度はおとる。しかしながら、4Xストラテジーの宿敵「マイクロマネジメント」をAIに代行させるという新しいゲーム設計は無視できない。ジャンル過去作がこれまで選んだ解決策よりスマートな手法だ。
これら3本をあげながらも『Sorcerer King』を大賞におくのは、プレイヤーとルールの相互作用「プレイ」に新たな体験をもたらしたからだ。4Xストラテジーが長年追い求めた聖杯「体験(eXperience)」を、RPGとの融合「4X-RPG」で実現した。シミュレーションRPGにおいても同様で、主人公とその徒党だけでなく、国全体、さらにはストーリーそのものを操作できるのは本作だけである。二つのジャンルを融合し手中に収めようとする魔術王「ソーサラーキング」こそが大賞にふさわしい。
選考結果、および2015年総評
以上をもって選考とし、ゲームメカニクス大賞を『Sorcerer King』とする。惜しむらくは、本作が満点ではない点だ。初回プレイの印象を占めるストーリー演出が弱く、キャラクターの生い立ちや人間関係に目を向けないのがもどかしい。リリース後、いくつかのアップデートを経てゲーム設計の粗をとりのぞいたが、RPG部の改良はロードマップでも予定がなく、佳作の域から脱することはなさそうだ。
本稿の立脚点で2015年を総評しよう。前章にあげた4作をのぞけば、名うてのゲームは似たようなプレイ体験で、倦怠を打開する風変わりな作品は練磨不足な代物だった。2008年『Sins of a SOLAR EMPIRE』、2014年『Endless Legend』のように、誰が見ても革新的で、かつ最高水準のゲームはそうそう登場するものではない。
人目をはばかることなく厳しい評価をくだしたので補注しておく。ゲームメカニクスはゲームそのものだが、ビデオゲームそのものではない。目を喜ばせる映像体験や、心を打つ物語体験も、ゆたかなプレイ体験と同様に重要だ。総合評価であれば『Rebel Galaxy』、『Blood Bowl 2』の名をあげている。また、弊誌未レビューだが『Armello』、『Pixel Galaxy』も選考対象としたい。拡張DLCも含めるなら『Age of Wonders 3: Eternal Lords』も加えたいところだ。もちろん、『Hunie Pop』と『Sakura Angels』を忘れてはならない。
上記のタイトルだけでなく、ゲームシーンをにぎやかせた「The Game Arwads」ノミネート作や、他誌ノミネート作など、誰もが選考に苦心する豊作の年であった。プレイヤーそれぞれのGotYがある、まさにビデオゲームの黄金期だ。本稿、弊誌ライター陣の各部門選考を参考に、読者自身でも選考してほしい。