『ゼルダの伝説』ファン垂涎の激アツ設定資料集「マスターワークス」をもとに、本気で『ティアーズ オブ ザ キングダム』の時系列特定を試みる


『ゼルダの伝説』は、あくまで遊びを優先し、あとからストーリーを構成するような作り方をしているシリーズだ。けれど、それでも作品間にはしっかりと前後関係があり、過去作の設定や物語もたびたび登場する。25周年記念書籍である「ハイラル・ヒストリア」で公式に作品間のつながりを記した年表が公開されて以降、時系列の考察はシリーズのメジャーな楽しみ方のひとつになった。

しかし、最新のシリーズである『ブレス オブ ザ ワイルド』および『ティアーズ オブ ザ キングダム』は、現状公式の年表には組み込まれておらず、ゼルダの伝説ポータルサイトの年表でも独立している。先日発売した設定資料集「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム マスターワークス」(以下、マスターワークス)でも、時系列の位置が具体的に明かされることはなかった。


けれど、それでも本書の内容はファンとして驚愕せざるをえないものばかりだった。ここにきて、ゼルダチームはシリーズの設定にバリバリとメスを入れ始めている。年表に『ブレス オブ ザ ワイルド』、『ティアーズ オブ ザ キングダム』の二作が組み込まれる日も近いのかもしれない。ということで、マスターワークスの記述を鑑みて、あらためて二作の時系列位置の特定を図ってみようと思う。本稿は、考察にあたっていくつかの『ゼルダ』作品のストーリーの内容に言及するためあらかじめ留意いただきたい。

マスターワークスで語られた重大な設定を解説

ディレクターの藤林氏は、『ティアーズ オブ ザ キングダム』発売後のファミ通のインタビューにて、“『ゼルダの伝説』シリーズは、破綻しないように物語と世界を考えています”とあらためて明言しており、ファンには破綻しないという前提でいろいろ考えてみてほしいとしている。そのため、ある種破綻した結果と言える「新たな時間軸」説や、「時間軸の収束」説などは本考察では取り扱わない。あくまで既存の時間軸での時系列位置特定を試みる。冒頭で述べた通り、本書には、シリーズの今までの設定をアップデートする驚愕の記述がいくつも存在している。まずは、本稿の時系列特定の前提となる重大な記述をいくつか紹介する。

“三大神、ハイラルを創生。秘石を生み出す”―370p

『ゼルダの伝説 時のオカリナ』(1998)。画像はNintendo Switch Online版。

三大神とは、記述のとおり、このハイラルの世界を創造した神であり、名はそれぞれディン、ネール、フロルという。『時のオカリナ』に登場する言い伝えでは、彼らはハイラルを創造したのち、この世界の礎となる万能の力「トライフォース」を残して去っていったとされている。そして、残されたトライフォースとハイラルの守護は女神ハイリアに一任された。ここまでが今までのシリーズの設定となる。

秘石とは、『ティアーズ オブ ザ キングダム』に登場するキーアイテムであり、ゾナウ族に代々伝わる、持つ者の力を倍加する秘宝である。その出自はゲーム内では不明だったが、今回のマスターワークスにて、秘石が三大神によって生み出されたものだと明かされた。三大神は、ただでさえ争いの種になっているトライフォースだけでなく、秘石まで残していったというのだ。

このページでは、ゾナウ族が女神ハイリアに秘石の守護を命じられたという新たな事実も発覚している。太古のゾナウ族は、女神ハイリアと直接の関わりがあったということだろう。

“ゾナウ族はハイリア人の祖?”―453p

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(2023)


『ゼルダ』シリーズにはもともと、「ハイリア人の大きな耳は神の声を聞くためのもの」という伝承が設定として存在している。この項では、神の使いと呼ばれるゾナウ族の耳がハイリア人以上に大きいことに言及。ハイリア人の種のルーツはゾナウ族にあるのではないかという考察がなされている。

「ハイラル・ヒストリア」および30周年記念書籍「ハイラル百科」には、ハイリア人のルーツは人間に転生した女神ハイリアだと記載されており、一見すると両者は矛盾している。しかし、人間に転生した女神ハイリアとは『スカイウォードソード』のゼルダのことであり、転生した当時すでに人間はスカイロフトに暮らしていた。つまり、これは当時はまだ彼らは「ハイリア人」と呼ばれていなかったという意味で、種としてのルーツというよりは民族としてのルーツというように取れる。ハイリア人の種としてのルーツはゾナウ族にあり、民族としてのルーツは女神ハイリアにあるということかもしれない。

なお、龍の泪の記憶でみられる建国期のハイリア人は、本書では「古代ハイリア人」と書かれており、『ブレス オブ ザ ワイルド』、『ティアーズ オブ ザ キングダム』のハイリア人よりも耳が大きく、 屈強な体つきであると記載されている。明確な意図をもって古代ハイリア人の耳や体躯を大きくデザインしていることがうかがえる記述であり、体系変更の指示に使われたと思われる設定画も掲載されている。

“シーカー族のシンボルマークは「目と雫」。これはゾナウ族に由来するのではないか”―452p

『ゼルダの伝説 スカイウォードソードHD』(2021)


龍の泪の記憶「ゲルド族の強襲」をみてもわかるとおり、ゾナウ族は額に第三の目を持っている。これは物を見るためのものではなく、特別な力を発揮するときに開眼するものだとされており、古代ハイリア人は、その目にあやかったペイントを身体に施していたという。そして、「シーカー族」のもつ「目と雫」のシンボルマークもこれに由来するのではないかという推測が書かれている。

シーカー族は『時のオカリナ』や『スカイウォードソード』にも登場していた種族であり、同様に目と雫のシンボルマークを持っている。特に、『スカイウォードソード』はシリーズの時系列でははじまりにあたる作品であり、インパというシーカー族の額にシンボルマークがペイントされている。この記述を信じるならば、ゾナウ族は『スカイウォードソード』よりも前に誕生していることになりそうだ。この他にも、マスターワークスにはさまざまな熱い設定が書かれているが、本稿において特に重要なものはこの3つだ。これ以外の記述は、以下の考察で必要になったタイミングで解説する。

3つの区分に分けられた「ゾナウ族」の歴史

『ティアーズ オブ ザ キングダム』のストーリーの鍵を握る種族である「ゾナウ族」。マスターワークスでは、ゾナウ族の歴史が「ゾナウ誕生期」、「ゾナウ天上期」、「ハイラル王国建国期」の3つに区分されている。これも時系列特定のために重要になるので、ざっと内容を紹介しよう。

ゾナウ誕生期

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(2023)

「ゾナウ誕生期」とは、その名の通りゾナウ族が誕生した時期のことを指しており、この時期に女神ハイリアから秘石の守護を任されたということが記載されている。ゾナウ族は人智を超えた不思議な力を扱う種族であり、秘石の力も駆使して繁栄を築いていったという。誕生期の時点で、ゾナウ族は地底へと進出し、ゾナニウムの採石を行っていた。ゾナニウムを利用した「ゴーレム」や「ゾナウギア」といった高い技術力を持つ発明もこの時期から存在していたということだ。

ゾナウ天上期

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(2023)

誕生期の時点では地上で栄えた種族だったゾナウ族だが、なんらかの理由で空に移り住むことになったという。ゾナウが空へ移住していた期間を本書では「ゾナウ天上期」と呼んでいる。ゾナウ族は飛行能力を有していなかったが、持ち前の技術力で重力を操り、大地を浮かせて「はじまりの空島」を作り、その後徐々に居住域を空に広げていったという。

天上期は長く続いたが、疫病か、資源の枯渇か、戦争か、といったなんらかの出来事によってその人口は激減していたという。種の滅亡の回避のため、そして秘石の守護という責務を果たすため、ゾナウ族は再び地上に降りることになった。

ハイラル王国建国期

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(2023)

ゾナウ族が空にいる間、地上ではハイリア人をはじめとした各部族がそれぞれの暮らしを形成していた。そこに、ゾナウ族が「はじまりの空島」とともに降りてきたのだ。長い天上期の中で、地上にはゾナウ族を知るものはいなくなっており、ゾナウ族の帰還は地上の人々に神の降臨ととらえられた。

この時、地上には多くのゾナウ族が降りてきたということだが、結局ゾナウ族の減少には歯止めがかからず、ラウルとミネルがゾナウ族最後の末裔とされるに至った。ラウルは、ハイリア人のソニアと出会い、各地の「邪」を浄化する「破魔の行脚」を行うなかで、人々からハイラルを統べることを熱望されるようになる。ラウルは人々の期待に応え、ハイラル王国を建国した。そこに、時を超えてゼルダ姫がやってきたのだ。

公式サイトの年表を元に作成した画像

現状の公式の年表を見てみよう。まず天地創造があり、その後に『スカイウォードソード』が位置している。『スカイウォードソード』後にハイラル王国が建国され、『ふしぎのぼうし』、『4つの剣』ときて、『時のオカリナ』で3つの時間軸に分かれる。

本考察では、「ゾナウ誕生期」の位置を、天地創造と『スカイウォードソード』の間に確定する。上述のとおり、『スカイウォードソード』にはインパというシーカー族が登場する。シーカー族のシンボルマークがゾナウ族に由来するという記述を鑑みるなら、当然ゾナウ族は『スカイウォードソード』よりも前に誕生していたことになる。ハイリア人の種としてのルーツがゾナウ族にあるという記述をみても、ゾナウ誕生期はこの位置でほぼ間違いないだろう。

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(2023)

『ブレス オブ ザ ワイルド』と『ティアーズ オブ ザ キングダム』の位置は『時のオカリナ』よりも後で確定とする。これは『ブレス オブ ザ ワイルド』、『ティアーズ オブ ザ キングダム』に登場するゾーラ里の石碑でみられる「ルト姫」に関する言及を根拠としており、「ルト姫が勇者と共にハイラルを救うために戦った」という事実が残る時間軸は「初代ルート(時の勇者敗北ルート)」と「大人時代ルート」のみであるためだ。また、プロデューサーの青沼英二氏は『ブレス オブ ザ ワイルド』の時系列について『時のオカリナ』よりも後だとGame Informerに回答しているほか、ファミ通のインタビューでは“いちばん最後”だと回答している。

ラウルによる建国はいつか?3つの説を紹介

二作の時系列位置の特定にあたってもっとも重要だと考えているのが、『ティアーズ オブ ザ キングダム』で語られる、ラウルとソニアによるハイラル王国建国のタイミング。これが年表のどこに位置しているのかで大きく話が変わってくる。

いままでの年表では、ハイラル王国建国は『スカイウォードソード』後『ふしぎのぼうし』前に位置しているが、その詳細は、女神ハイリアの生まれ変わりであるゼルダの血を引く者が建国したということしか語られていない。そのため、素直に考えれば、今までのハイラル王国建国は、じつはラウルとソニアによるものだったのだと捉えることもできる(この場合、ゼルダの血を引く者とはソニアだったということになる)。

しかし、ハイラルの歴史は長く、王国が衰退していた時期や、滅亡しているタイミングも存在しており、ラウルによるハイラル王国建国は、衰退したハイラルの地にあらためて再建国をしたものだと捉えることも可能だ。上述のインタビューでも、藤林氏は“あくまで可能性として話すとすれば、ハイラル建国の話があってもその前に一度滅んだ歴史がある可能性もあります”とあえてほのめかしている。

以下では、前者の「ハイラル王国建国を従来と同一視」する説をひとつと、「ハイラル王国再建国」と考える説をふたつ、計3つの説をお話する。

1.ラウルとソニアによるハイラル王国建国は従来と同一説


龍の泪の記憶でみられる古代ハイリア人は耳が大きい。これは、ハイリア人の種のルーツがゾナウ族にあるからであり、古代ハイリア人はその血が濃いのだと考えられる。だとすれば、ラウルによるハイラル王国建国は、ゾナウ誕生期から近いほど自然と言えそうだ。

そのため、この説では、素直にハイラル王国建国を従来と同一のものと考える。『スカイウォードソード』で地上に降り立った、のちにハイリア人と呼ばれる人間たちは、しばらく原始的な暮らしをしていたが、そこに、ゾナウ族が天上期を終え地上に降り立つ。そしてラウルとソニアによってハイラル王国が建国される。名実ともに、ラウルこそが初代ハイラル王であり、シリーズのハイラル王国の歴史はここからはじまったのだ。

しかし、ゲルド族の長「ガノンドロフ」によってソニアの秘石は奪われ、ハイラル王国は壊滅の危機に陥る。ラウルは自身を犠牲にし、ガノンドロフを封印し続ける選択をした。その後、ハイラルは束の間の平和を取り戻し、『ふしぎのぼうし』、『時のオカリナ』と時は流れていく。

この説では『ブレス オブ ザ ワイルド』および 『ティアーズ オブ ザ キングダム』は時の勇者敗北後の、いわゆる初代ルートの最後に位置している。上述の通り、「ルト姫が勇者と共にハイラルを救うために戦った」という事実が残る時間軸は初代ルートと大人時代ルートのみだ。大人時代ルートのハイラルは水没しているため、ハイラル王国再建国を考えないこの説では必然的に初代ルートになる。

『ゼルダの伝説 時のオカリナ』(1998)。画像はNintendo Switch Online版。


この説の場合、ラウルがガノンドロフを封印し続ける中、『時のオカリナ』の時代に別人のガノンドロフが誕生したということになる。しかし、これはマスターワークスの記載と大きく矛盾している。

ゲルド族は、100年に一度男子が生まれ、その子を王とするしきたりがある。これは『時のオカリナ』の時からある設定だ。マスターワークスには、『ティアーズ オブ ザ キングダム』のガノンドロフ以降、ゲルド族の男子が生まれ王位についたことを示す文献は残っていないとあえて記載されている。ハイラル王国建国が従来と同一である場合、『ティアーズ オブ ザ キングダム』のガノンドロフよりも後に生まれたはずの『時のオカリナ』のガノンドロフに関する文献が残っていないことになってしまう。

2.『リンクの冒険』よりも後にラウルとソニアが再建国した説


天上期は「長く続いた」という記載があるのみで、具体的な長さについては述べられていない。地上からゾナウ族を知るものがいなくなるほどの長さということは分かっており、他作品と平行してゾナウ族がずっと空で暮らしていた可能性は十分にある。存在を知られていないということは、地上との交流はほぼなかったということで、例えば『神々のトライフォース』の空に実はずっとゾナウ族がいたのだとしてもおかしくはない。

ちなみに、封印戦争ののち、ゼルダとミネルが各地の空島に対して「外界から見えなくする封印」を施すよう指示したとマスターワークスに記載されており、そのような技術がゾナウ族にあることは確かだ。天上期からのゾナウ族の帰還が地上の人々にとって神の降臨のように映ったということは、当然天上期の空島も地上からは見えなかったと考えるのが自然だろう。

『リンクの冒険』(1987)。画像はNintendo Switch Online版。


この説では、ラウルとソニアによるハイラル王国建国を『リンクの冒険』後に置いている。初代『ゼルダの伝説』の時点でハイラル王国は小王国にまで衰退していた。地続きの続編である『リンクの冒険』でリンクは完全体のトライフォースを手に入れ、古のゼルダ姫(初代『ゼルダの伝説』の前史で繁栄していたハイラル王国の姫)を目覚めさせたものの、その後ハイラル王国がどうなったかは不明だ。

そこから長い年月を経てか、もしくはその直後か、この説は、その後ハイラル王国が衰退し滅亡したと仮定したものになる。王政がなくなり、バラバラに暮らしていたハイリア人のもとに天上期を終えたゾナウ族が降り立ったということだ。そして、ラウルとソニアがあらためてハイラル王国を建国した形である。

しかし、次に紹介する説も含め、再建国時期のハイリア人の耳が大きい理由は不明だ。もしゾナウ族の血の濃さによるものなのだとしたら、再建国ではゾナウ誕生期から遠すぎるかもしれない。また、この説における、『リンクの冒険』後のハイラル王国滅亡という出来事は筆者が辻褄をあわせるために考えたものであることに留意したい。

3.『風のタクト』よりも後にラウルとソニアが再建国した説


『風のタクト』は、『時のオカリナ』のハイラル王国が神々によって海に沈められたあとの世界が舞台となっている。本作のラストにて、古の王ダフネス・ノハンセン・ハイラルは「古き地ハイラルの消滅」をトライフォースに願い、新たなハイラルの未来をリンクとゼルダに託すことになる。その後、リンクとゼルダは海を旅して新たな大陸を発見し、そこに新生ハイラル王国を築いた。

新生ハイラル王国は遠く離れた全く別の土地であり、残された旧ハイラルのあった海はどうなったのかという疑問が残っている。ハイラル王が古き地ハイラルの消滅を願ったあとも、海の上の島々は無事であり、リンクとゼルダとともに行かなかった人々も大勢いた。この説は、その後長い月日を経て海が干上がり、大地が生まれたあと、島々に残った人々が地上での生活を営みはじめたあたりで、ゾナウ族が天上期から帰還したという可能性を考えるものになっている。

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(2023)。左がリト族、右がコログ族。

『ブレス オブ ザ ワイルド』および『ティアーズ オブ ザ キングダム』に登場するリト族とコログ族は、『風のタクト』にて初登場した種族だ。彼らの種のルーツは『時のオカリナ』のゾーラ族とコキリ族にあり、生き物の住めない海に水没したハイラルで生き延びるために進化した姿という設定になっている。実際にゲーム内でも、リト族の賢者メドリの祖先がゾーラ族の姿で登場し、コログ族の賢者マコレの祖先がコキリ族の姿で登場している。

そのため、『ブレス オブ ザ ワイルド』の発売当時から、リト族やコログ族の存在を考慮し、『風のタクト』へと結びつける考察をしていたユーザーは多い。この説であれば、彼らが存在する理由に説明がつけられる。案外『ゼルダ』シリーズは種族の登場と時系列を関連付けて考えていることも多いので、ここにウェイトを置くならこの説の確度は高いと言える。

問題は、ハイラル王の願った「古き地ハイラルの消滅」とは結局なんだったのかということだ。ハイラル王が願ったことは確実にトライフォースが実行に移しており、ハイラル百科でも「ハイラル消滅」ははっきりと記載されている。そのため、仮に『風のタクト』の海が干上がったとしても、そこに人が住める大地が残っているのかという疑問が残る。とはいえ、上述したように海の上の島々は無事だったことから、あくまでハイラル王国の痕跡が消されるにとどまったと考えることもできるかもしれない。

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(2023)


以上が今回考えた3つの説だ。現状、ハイラル王国建国を従来と同一と考えるなら、「ゲルド族にその後男の王が生まれていない」という記述が矛盾するし、ハイラル王国再建国と考えるなら、「古代ハイリア人の耳の大きさ」にどう理由をつけるのかという問題が残る。

ただ、耳の大きさに関してはヒントになりそうな描写がある。それは、建国期のゲルド族はみな耳が尖っているのに対して、ガノンドロフだけ耳が尖っていないという部分だ。ゲームの時点で明確に描き分けがなされており、謎を残していた部分だが、これに関してマスターワークスでは、ガノンドロフだけが「神との戦いを宿命付けられていた」ことが理由ではないかと考察されている。

つまり、神の声に耳を傾ける意思や運命によって、耳の大きさは変化しうるということだろう。王国が崩壊し、王政がなくなったあとのハイリア人が原始的で神にすがるような生活をしていたことは想像に難くなく、そのために耳が大きかったと考えることは可能だ(現実の歴史を見ても、文化水準が低いほど人は信仰に頼ってきたと言える)。そのため、どちらかといえば確度が高いのは再建国かもしれない。その場合、より矛盾が少ないのは『リンクの冒険』後だと筆者は考えている。

『ブレス オブ ザ ワイルド』の設定資料集の時は、ここまで過去作の設定について明確な言及がなされることは少なかった。そのため、今回もあくまで『ティアーズ オブ ザ キングダム』の設定資料集であって、過去作の設定に触れることはほとんどないだろうと予想していた。しかし、いざ蓋を開けてみれば“これ”である。筆者は本書を読みながら、誰もいない部屋で数分おきに絶叫していた。そしていても立ってもいられなくなり筆を執った形だ。

本考察のいずれの説にしても、まだ解消しきれていない謎や問題点が残っている。本稿で取り上げなかった熱い記述もまだまだ散見されるマスターワークス。この記事やマスターワークスを読んで、自分で時系列を考えてみたり、上の説に反証してみたりと、38年の歴史を持つ『ゼルダ』シリーズの世界、歴史に思いを馳せてみてくれたら幸いだ。