『ホグワーツ・レガシー』は、「ハリー・ポッター」シリーズを象徴するホグワーツ魔法魔術学校を中心に、禁じられた森やホグズミードなど周辺地域をオープンワールドで表現したアクションRPGだ。
本作の特徴は、映画・小説版「ハリー・ポッター」とは異なり、1800年代のホグワーツを舞台としている点だ。とはいっても、ベースとなる技術や魔法などは確立されているので、古めかしさを感じることはほとんどない。箒で空は飛べるし、ホグワーツの基本的な施設や動く絵画、魔法の空が美しい大広間など象徴的なロケーションも既に健在だ。
美しく表現された魔法界や、アバダ・ケダブラなど“闇の魔術”を含む呪文を操る爽快でテンポの良いバトルを通じて、ホグワーツに隠された謎を明かすオリジナルストーリーが展開されるほか、しっかりとしたストーリーラインを持ったサイドクエストも豊富。その世界を存分に楽しめるとして好評を博している。2月10日にPC(Steam/Epic Gamesストア)/PS5/Xbox Series X|S向けに発売された本作は、Steamでの同時接続プレイヤー数がピーク時には約88万人を記録(SteamDB)。Twitchでもシングルプレイゲームとしては史上最高の同時視聴者数を記録するなど(Gamesight)、近年のAAAタイトルのなかでも特に注目を集めている作品だ。
高い注目を浴びる理由には、映画や小説で登場したシーンやシチュエーションがあったりと、映画・小説版「ハリー・ポッター」を知っていればいるほどその楽しさを増幅させる要素が数多く盛り込まれていることが挙げられるだろう。
そこで本稿では、小説・映画ファンの筆者が『ホグワーツ・レガシー』で思わず声が出るほど興奮した要素をピックアップしてお伝えしていく。いわばオタクの早口だが、大昔に映画を見た人の記憶を掘り起こしたり、本作をきっかけに映画や小説に興味を持ってもらえると嬉しい。
なお、『ホグワーツ・レガシー』のエンディングから、映画・小説までの重大なネタバレを盛大に含む。もしあなたが未プレイで「ファンが楽しめる要素があるならやっても良いかな」と少しでも思ったなら、ブラウザを閉じて一刻も早くプレイしてほしい。
ニュート・スキャマンダーにもなれる
いきなり「ファンタスティック・ビースト」の話かい!と思うかもしれないが、本作で筆者が箒で飛び回る次に感動した要素だったので、最初に紹介したい。映画「ファンタスティック・ビースト」の主人公であるニュートは魔法生物学者であり、彼が魔法生物を保護・飼育するために使う魔法のトランクが象徴的だ。トランクのなかには魔法生物が自由に暮らすための自然環境が再現されていて、ハチャメチャな魔法生物を相手にニュートが手を焼きながらトランクに押し込む様子は、一度視聴したら忘れられないものだろう。
『ホグワーツ・レガシー』では、ニュートと同じように野生の魔法生物を魔法のトランクに捕獲することができるほか、物語を進めることで解放される「必要の部屋」において、魔法生物のオアシスを自らの手で作り上げることができる。
捕獲できるのは、「ファンタビ」にも登場した、光るものに目のないニフラーなどの可愛い系だけでなく、ヴォルデモートが肉体を維持するためにその血を飲んだユニコーン、“死”を目撃した人にしか見えない天馬・セストラルといったお馴染みの生物も含まれる。登場する数自体は多いとは言えないが、必要の部屋で自由に放し飼いができ、餌を与えたり愛でたりすることで、プレイヤーキャラの装備を強化するためのアイテムを入手できる。また、つがいを捕獲することで、驚くことに魔法生物を「繁殖」させることも可能だ。
「賢者の石」では、森の番人・ハグリッドのドラゴンが孵化する様子をハリーたちが目撃するシーンがあった。魔法界には我々の世界で想像もできないような生物が生息していて、我々と同じように生命の誕生を尊ぶことを理解するシーンだ。それと同じような感動を、ニュートやハリーと同じような体験を通じて得ることができるのだ。
“死の秘宝”も登場する
原作小説7巻のサブタイトルでもある“死の秘宝”は、魔法界に伝わる物語に登場する三種の神器のようなものであり、覆う者の姿を完全に隠す「透明マント」もそのひとつだ。そのほかに、圧倒的な力を持つ「ニワトコの杖」と、死者を復活させる「蘇りの石」がある。これらは『ホグワーツ・レガシー』にしっかりと登場する。
ただこれらは、プレイヤーが直接手にするわけでなく、憂いの篩(ふるい)を通じて追体験する記憶のなかで触れることになる。物語に欠かせない要素として組み込まれてはいるものの、登場自体はファンサービスのような印象を受ける。この追体験は、映画「死の秘宝」でハリーたちが秘宝とはどのようなものであるのかを知る時に用いられた、絵本のなかのようなグラフィックをもって表現されていて、特にニワトコの杖が持つ凄まじい力を使って無双していくのは、特別なグラフィックが相まって爽快だ。
世界設定を考慮すると“死の秘宝”をプレイヤーキャラクターが直接入手することは難しいが、魔法界のアイテムを通じてプレイヤーに体験だけでも提供するアイデアには脱帽だ。
なお、透明マントは追体験のなかでしか触れられないものの、敵から身を隠す「目くらまし術」は存在し、プレイヤーはある程度のステルスプレイを選択することもできる。ステルスで敵の背後に近寄ることで相手を一時的に麻痺させる呪文「ペトリフィカス・トタルス」をかけることもできる。
“秘密の部屋”はもうひとつあった
原作小説2巻「秘密の部屋」で描かれたハリーとバジリスクの戦いや、トム・リドルとの邂逅は記憶に残っている読者も多いのではないだろうか。サブタイトルでもあり舞台でもある“秘密の部屋”は、ホグワーツ創設者のひとりであるサラザール・スリザリンが密かに作っていたものだ。しかし、隠された部屋はもうひとつあったようだ。
とあるサイドクエストでは、スリザリン寮の生徒と共に闇の魔術をテーマにした物語が展開される。そのストーリーラインを通じて、かつてサラザール・スリザリンが使っていた書斎を目にすることになるのだ。
サラザール・スリザリンはホグワーツ創設者のひとりでありながら、徹底した純血主義(魔法使いの血統のみを重んじること)でほかの創設者とは決別している。書斎にはその心情や思想を綴った手記も残されていて、彼がどんな考えを持ち、どんな場所で過ごしていたのかを垣間見ることができる。
なお、このストーリーラインでは許されざる呪文(クルーシオ、インペリオ、アバダ・ケダブラ)を習得することができる。だが、その道のりは決して甘いものではなく、許されざる呪文を使った者、囚われた者の苦悩や後悔を描いている。
余談だが、許されざる呪文のひとつである磔の呪文(クルーシオ)は、原作小説5巻「不死鳥の騎士団」でハリーが、シリウス・ブラックを殺害したベラトリックス・レストレンジに対して使用している。しかしその効果は十分に得られていない。この理由について原作では「相手に苦痛を与えることを楽しむほど」の気概が必要であり、ハリーにはそれがなかったからとされている。すると、本作でクルーシオを唱えまくって呪いを振りまく主人公は、かなりの悪者であると言えるだろう。
物語は「死の秘宝」並みのアツさ
個性豊かな教員陣も本作の魅力のひとつだ。魔法薬学や薬草学、闇の魔術に対する防衛術など、それぞれの教授の授業に出席して課題をクリアすると呪文を習得できるだけでなく、彼、彼女らがどのような出で立ちで、どのようにホグワーツの教授となっていったかなども明かされていく。授業のなかでは、天文学の教授が占い学をこき下ろしているなど、個性豊かで興味がそそられるエピソードがたくさん詰まっているので、余すことなく楽しんでほしい。メインストーリーの最後では「死の秘宝Part2」で描かれる最後の戦いを彷彿とさせる展開も待っているので、会話に耳を傾けておくと良い。
なお、メインストーリーでは物語の鍵を握る人物らがなかなか情報を寄越さない。ダンブルドアがハリーに情報を遺さなかったことが重なるのは筆者だけではないはずだ。ダンブルドアの「年寄りの方が知恵は多く価値は少ない」という台詞をなんとなく思い出す。だがその分、納得のいく答えは用意されている。
そして、本作のホグワーツ校長は「死の秘宝」で肖像画としても登場するフィニアス・ブラックだ。シリウス・ブラックの高祖父にあたり、決断力がなく保守的で情けない人柄が特徴である。原作でシリウスが忌み嫌っていた「純血よ永遠なれ」という家訓を高々とかざす様子が見られるほか、校長の座にふさわしくない様子がたんと描かれている。
対照的に、副校長であるマチルダ・ウィーズリー(そう、あのウィーズリー家の魔女だ)はしっかり者であり、5年生から転入してきたプレイヤーを優しく導いてくれる存在である。原作でいうミネルバ・マクゴナガルのポジションというとわかりやすい。マチルダ・ウィーズリーは「死の秘宝」でマクゴナガルが見せたように、ホグワーツを、そして主人公を守る頼もしい存在だ。
このほかにも、ホグワーツにあるトロフィールームなど随所で、原作や映画で聞いたことのあるファミリーネームが多くみられる。『ホグワーツ・レガシー』という作品が、映画や小説と地続きのものであることを強く感じさせる要素のひとつだ。
圧倒的な“アドベンチャー”体験
述べてきた通り、ホグワーツの再現度はさることながら、原作や映画などと関連付く要素が多く盛り込まれ、「ハリー・ポッター」を起点とした世界観のひとつとしてしっかり描かれていることがよくわかる。
そして、世界をしっかりと描くことによって、好奇心くすぐる“アドベンチャー”としての側面を強く感じる。ちょっとした廊下でも、その先にはポルターガイストがいるかもしれない、地下の空き教室ではゴーストたちが舞踏会を開いているかもしれないなど、ワクワクする世界になっている。
また、この建造物にはどのような背景があるのか、そこに込められた意味はなんなのかを、フィールドガイド(要素に関する情報がコレクタブルアイテムとして文書で手に入る)を通じて知ることもできる。
「魔法ワールド」フランチャイズは、小説や映画、本作含むゲームタイトルもそうだが、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」や、としまえん跡地に開業予定の体験型施設など、メディアを問わず多角的な展開を見せている。それゆえに世界に関する設定はインターネットで多く情報が手に入ることも特徴のひとつかもしれない。
「なんか聞いたことある名前だな」と思って調べると、小説で登場したキャラクターだったり、例え聞いたことがない名字でも、その一族に関する情報が事細かに出てきたりと、ひとつの学問として成り立つレベルだ。
筆者は原作・映画ファンゆえに『ホグワーツ・レガシー』が「魔法ワールド」への入り口として適しているか評価するのは難しい。だが、原作や映画で想像し体験したアドベンチャーへのワクワク感や魔法への感動と同様に、本作を通じて新たな気持ちで「魔法ワールド」に触れることができた。そして、ゲームというメディアが持つインタラクティブ性によって、自分の物語として世界に足を踏み入れているように強く感じた。もし、本稿を読んで少しでもピンと来たのなら、是非プレイしてほしい。
『ホグワーツ・レガシー』は、PC(Steam/Epic Gamesストア)/PS5/Xbox Series X|S向けに発売中。PS4/Xbox One向けには2023年4月4日発売予定。Nintendo Switch向けには7月25日発売予定だ。