Cygames新作『リトル ノア 楽園の後継者』は、既存のローグライトアクション研究成果が詰まっている。良い部分から学び独自性をもたらす

『リトル ノア 楽園の後継者』は、既存のローグライトアクション研究成果が詰まっている。2Dのローグライトアクションゲーム好きとしての感想を綴る。

株式会社Cygamesは6月28日、ローグライトアクションゲーム『リトル ノア 楽園の後継者』を配信した。対応プラットフォームはNintendo Switch/PS4/PC(Steam)で、価格は1500円(税込)。

ローグライクあるいはローグライトアクションというと、近年人気のゲームジャンルだ。一方で、大手メーカーの存在感が比較的薄いジャンルでもある。Cygamesは、『グランブルーファンタジー』や『ウマ娘 プリティーダービー』『Shadowverse』などで知られる日本の大手メーカー。同社は開発会社グランディングとタッグを組み、『リトル ノア 楽園の後継者』をもって、このジャンルに挑戦する格好となる。

今回Cygamesから本作を提供いただき、先行プレイする機会を得た。筆者は、特に2Dのローグライトアクションゲームが好きで、さまざまな作品に触れてきた。結論からいうと、本作は独自の魅力を放つことに成功していると感じた。もっとも、先駆者ともいえる人気インディーゲームからの影響が感じられることも事実。本稿では、そうした影響がどう料理され本作でのゲーム体験に組み込まれたのか、また本作ならではといえる特徴を見ていきたい。

基本の要素

まずは『リトル ノア 楽園の後継者』の概要を紹介しておこう。本作は、Cygamesがかつて運営していたモバイル向けRTS『リトル ノア』の世界観を用いた2.5Dアクションゲームだ。主人公である錬金術師の少女ノアの前日譚を描く。本作にて彼女は、方舟に乗って大空を旅していたところ、嵐に見舞われ謎の天空遺跡に不時着。そして、壊れた方舟を修理するため、また未知の技術を求めて、ノアは遺跡の探索に乗り出す。

本作のゲームプレイの流れとしては、方舟から遺跡に降り立ち、敵と戦い報酬を得てノアを強化しながら、ランダム生成されるステージを進んでいく。そして死んだら方舟に戻され、道中で得たアイテムなどをすべて失い、最初からやり直しだ。ただし、恒久的なアップグレード要素が用意されており、繰り返しプレイすることで徐々に攻略しやすくなっていく。多くのローグライトアクションゲームでみられるゲームプレイのサイクルを踏襲しているといえるだろう。

一方、本作の大きな特徴のひとつとしては、アストラルと呼ばれる存在が挙げられる。アストラルは、ノアが錬金術によって生み出すキャラクターであり、彼女の武器でもある。実は、ノアはプレイヤーキャラクターであるものの、基本アクションとして彼女自身は攻撃しない。ステージ内で獲得したアストラルに、敵を攻撃させるシステムとなっているのだ。詳しくは後述する。


さて、冒頭で『リトル ノア 楽園の後継者』からは人気インディーゲームからの影響が感じられると述べた。ここからは、そうした部分について見ていこう。なお、いくつか具体的なタイトル名を挙げるが、それは本作の開発陣が影響を受けた作品だと断定しているわけではなく、あくまで当該要素をもつ一例である。

『Neon Abyss』のようなインフレ感

まず、本作の魅力のひとつには“インフレしていく強さ”が挙げられる。装備枠が設けられ強化の取捨選択が求められる作品も多いなか、本作は強化を重ね続けていくシステムを採用。たとえば『Neon Abyss』も、武器の強化やスキルなどを際限なく追加でき、ド派手なオーバーキル感が楽しい作品だ。本作は、見た目の派手さアップはそこそこであるものの、やはりどんどん強くなっていく楽しさがある。

本作で面白いのは、「総戦力」というステータスの存在だ。特定の強さを表しているわけではなく、強化にかかわるあらゆるものを入手するたびに加算されていく数値である。現状のトータルでの強さを、分かりやすく可視化したシステムだといえる。また本作では、先述したアストラルと結びついた強化要素が多い。アストラルも強化アイテムもバリエーション豊富で、いずれもランダムで出現。インフレしていくとはいっても、プレイするたびに異なる強化の方向性を探ることになる。

(掲載画像は開発中のビルドのもの)

いくつもの部屋で構成された本作のステージには、ちょっとした探索要素がある。つまり、出口の部屋を見つけたらすぐに次のステージに行けるが、その前にまだ訪れていない部屋に立ち寄ってみるのも自由ということ。もちろん、ほとんどの部屋には敵が待ち受けているためリスクはある。ただ、報酬が存在することが分かっているため、隅々まで探索したくなるのである。

『Enter the Gungeon』のようなステージ探索

本作のステージ構成は、『Enter the Gungeon』や先に挙げた『Neon Abyss』に似ているといえるが、探索要素自体はたとえば『Dead Cells』などほかの多くの作品にも通じる。本作の場合、部屋の数や構成はランダムで変わるものの、探索できる範囲がどちらかというと狭い。物足りなく感じる人もいるかもしれないが、気楽に臨めるともいえる。

なかには強敵が現れたり、トラップが敷き詰められていたりといった特別な部屋があったり、通常の敵が出現する部屋でも、追加報酬を得られるチャレンジがランダムで発生したりすることがある。制限時間内にすべての敵を倒したり、ノーダメージクリアしたりといったものだ。狭いながらも、こうした要素が良いメリハリになっている。余談ではあるが、主人公の背の丈を超えるほどの巨大な宝箱に出会えるあたりも、『Dead Cells』を彷彿とさせる。


『Skul』のようなボス戦

ステージに関していうと、本作では中ボス・ボス戦以外のステージは、2つから選択して進むことになり、行き先によってメインとなる報酬が異なる。これもローグライトアクションでは、よくみられる要素だ。たとえば『Skul: The Hero Slayer』では、お金・強化アイテム・スカル(武器)から次のステージでの報酬を選択して進む。ただ本作の場合は、報酬のバリエーションが多くランダムなうえ、ステージ内ではほかの報酬もさまざま入手可能。行き先選択で後々後悔することがあまりないのは、やや特徴的だといえる。

ここで本作の敵についても触れておこう。多数の敵が収録され、ステージを進むに従ってより手強いキャラが登場。遠距離・近距離や物理・魔法など、それぞれ攻撃アクションの特徴付けがしっかりしている。攻撃パターンを把握しさえすれば基本的には怖くはないが、高低差のあるステージレイアウトに加え、同時に多数の敵を相手にすることから油断は禁物。先ほど、強さがインフレしていくと述べたが、必ずしも無双できるという意味ではない。敵の攻撃動作などを見極めてしっかり立ち回らないと、足をすくわれることになるだろう。

ボスについては、複数の攻撃パターンをもつ巨大なキャラクターが登場。これまでに挙げた『Dead Cells』や『Skul: The Hero Slayer』なども同様であり、迫力あるバトルは、これまたローグライトアクションに期待される要素のひとつだろう。高機動タイプが中心となる中ボスを含め、事前動作から繰り出す攻撃を見極め、的確にかわしていかないと苦戦は必至だ。


『Rogue Legacy』のような拠点要素

恒久的なアップグレード要素について、本作では方舟での建築で表現されている。壊れた方舟の修理に見立てており、各施設にてスキルツリー形式で強化をおこなうことで、方舟の修復度も進んでいく格好だ。あえて似た作品を挙げるなら『Rogue Legacy』シリーズだろうか。同作も、拠点となる建物がアップグレード要素のツリーとなっており、ステージから持ち帰ったリソースを消費し増築していく。

本作の強化ツリーのルートはかなりシンプル。ただし項目が多く、最初から幅広い強化要素にアクセスできる。ノアのHPアップや攻撃力アップなど分かりやすい要素も含まれ、優先順位はつけやすいので安心だ。また強化途上でも、強化内容を入れ替えてカスタマイズできるユニークなシステムも用意されている。なお強化のリソースとなるマナは、前回プレイで入手した各種アイテムやアストラル、つまり次回プレイに引き継げない要素から変換される。

このように、本作ではローグライトアクションの人気作が採用している多くの要素を取り入れつつ、基本システムに合わせてアレンジしたり、本作なりの味付けをおこなったりしている。このジャンルのファンであれば、迷うことなくプレイできるはずだ。


「アストラル」によって生まれる独自性

では、この『リトル ノア 楽園の後継者』は、同ジャンルの作品の良いとこ取りをしているだけなのかというと、決してそうではない。ここからは、本作ならではの魅力に迫っていきたい。まずは冒頭でも触れた、ノアの武器となるアストラルについてである。

プレイヤーは、ステージ開始時に基本となるアストラル3種を獲得。そしてステージを探索するなかで、バトル報酬や宝箱、あるいはショップにて、さらなるアストラルをランダムで入手できる。アストラルを錬成できる専用の部屋もあり、ここではランダムで選ばれた3種類からひとつを選択可能だ。ランダムドロップする武器を吟味しながらゲームを進めていくことは、ローグライトアクションではおなじみの要素。本作では、ここに面白いひねりを加えている。

アストラルは、アタックあるいはスキル用のスロットに割り当てて使用する。攻撃ボタンを押すと、割り当てたアストラルが攻撃するという仕組みだ。実はアタックスロットは最大で5つあり、5体までのアストラルを同時に割り当てることが可能。そして攻撃ボタンを連打すると、スロットの並び順にアストラルたちが次々に攻撃し、コンボを繰り出すことができる。

獲得したアストラルはすべてストックされ、スロットに自由に割り当てたり入れ替えたりできる。すなわち、自分だけのオリジナルコンボを作ることができるのだ。本稿執筆時点で、本作には計40体のアストラルが存在。それぞれ異なる攻撃手段や属性をもっている。たとえば素早い斬撃から、風属性の魔法で敵を浮かせ、重い振り下ろしで追撃し、最後に貫通系の遠距離魔法を撃ち込む、などといったコンボを自由にデザインできるわけだ。ほかにも、アイテムで強化した属性のアストラルを中心に起用したり、お気に入りのアストラルを複数並べるなど、工夫の余地は多い。

複数の武器を同時に扱える作品はよくあるが、スロットにて武器の並びを編成しコンボを作るというのはユニークであり、本作を特徴付ける要素だといえる。編成によっては、強力ではあるがコンボを繋げづらかったり、それをカバーする立ち回りを求められたりし、単にアストラルの順番を入れ替えるだけではない奥深さもある。組み合わせパターンは膨大にあるため、プレイヤーごとの個性が現れそうだ。ちなみに、スキルスロットに割り当てたアストラルは、クールダウン制で別のアクションを発動できる。


“明るい”ローグライト

本作の世界観も魅力のひとつだ。描かれる物語自体はシリアスな内容であるものの、快活でかわいいノアのキャラクター性が表しているように、全体的なトーンは明るい。敵もかわいいキャラクターが多く、ステージは鮮やかなデザインが目を引く。またメインキャラクターはボイス対応され、カットシーンでは笑えるやり取りも。特にノアは、プレイ中もよく喋る。海外作品を中心にダークな世界観が比較的多いローグライトアクションジャンルにおいて、本作の明るく楽しげな雰囲気は目新しさを感じる。多数のカットシーンを通じて物語がしっかり描かれるという点も、やはり目新しい部分である。

また、本作はカメラがキャラクターに近い。同ジャンルの作品のなかではやや珍しい距離感といえるが、ノアやアストラル、あるいは敵の姿を大きく見ることができ、キャラクターの魅力を堪能できる。隊列を組むアストラルたちのワチャワチャ感も楽しい。この辺りのディレクションは、日本の作品ならではといえるかもしれない。

ただ、このカメラの近さにはやや弊害があるようにも感じた。というのは、ステージの各部屋は数段の足場が並ぶ構成がほとんど。実際にはいくつものレイアウトが存在するものの、カメラが近いせいで似たような足場の景色が続く印象を受ける。なお、カメラが近いぶん周囲を見渡せる範囲も狭くなるが、敵のいる方向や攻撃動作に入ったことを示す表示があるため、ゲームプレイに支障をきたすことはない。


既存のローグライトアクションを学んで作られたゲーム

このように本作は、ローグライトアクションでおなじみの要素をふんだんに取り入れながら、独自の味付けを施している。この独自要素の背景には、世界観のベースとして前作『リトル ノア』が存在することも大きいのかもしれない。ノアをはじめとしたかわいいキャラクターたちや、錬金術で生み出し戦わせるアストラルなど、ゲームジャンルは違えど、前作での魅力を最大限活かすことを意識して開発されたように映るのだ。

また、本作はステージ構成がシンプルであったり、チュートリアルがかなり充実していたりと、ローグライトアクションの初心者にもやさしい作りになっている。難易度選択も可能だ。RTSだった前作のファンに、本作を試してみてほしいという狙いもあるのかもしれない。もちろん、前作のファンでなくとも、かわいいキャラクターに惹かれて手に取ってみるのもアリだ。

とはいえ、基本的に死んではやり直すことを繰り返すサイクルが前提のゲームデザインになっているため、易しいゲームでは必ずしもない。特に逃げ場のないボス戦では、プレイヤーのスキルをもって立ち向かうほかない。本作は、アクションゲームの上級者にとっても、注目すべき作品だといえる。また、先述したアストラルの編成やアップグレード要素、カットシーンなど、価格以上のコンテンツがみっちり詰まっていることにも触れておきたい。

『リトル ノア 楽園の後継者』は、Nintendo Switch/PS4/PC(Steam)向けに配信中だ。

Taijiro Yamanaka
Taijiro Yamanaka

国内外のゲームニュースを好物としています。購入するゲームとプレイできる時間のバランス感覚が悪く、積みゲーを崩しつつさらに積んでいく日々。

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