中世ヨーロッパ田舎シム『Medieval Dynasty』で、「働くこと」を楽しんでみる。現場と管理職を往復する素敵な自転車操業ライフ

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子供の将来の夢としてプロゲーマーが上位に挙げられたり、仕事や勉強にゲーム要素を取り入れることで楽しくしようとする、そんな時代である。他方、ゲーム業界では「シミュレーター」ブームが長く続いており、農家やメカニック、果てはYouTuberに至るまで、さまざまな職業を仮想体験する作品が生み出されている。「働くこと」と「ゲームすること」は真逆のようで、その実は表裏をなしているのだ。 

『Medieval Dynasty』は、中世ヨーロッパ風の片田舎に裸一貫で流れてきた青年となって、作物を育てたり獣を狩ったりして生計を立てながら人を集め、世代を越えて村を大きくしていくゲームだ。PC向け(Steam/Epic Games Store/GOG.com/Xbox)に発売中である。販売元であるドイツのパブリッシャー・Toplitz Productionsは『Hotel Giant』や『Farmer’s Dynasty』などのシミュレーションゲームを数多くリリースしている会社で、本作もその色を受け継いだ作品といえるだろう。 

中世を舞台に繁栄を目指すゲームとしては、国土を俯瞰で見下ろしながら人や資源を動かして国を発展させていく「戦略シミュレーション」、あるいは「ストラテジー」と呼ばれるジャンルが主流となっている。本作も同様、仲間にしたNPCに仕事を割り振ったり必要な資源を管理したりするシミュレーション要素を備えているが、そうしておこなうのが政治や戦争ではなく「農耕と牧畜」である点が、このゲームの大きな特徴である。また、このゲームは一人称視点(三人称に切替可能)で主人公キャラクターを動かすアクションであり、『The Elder Scrolls V: Skyrim』や『Kingdom Come: Deliverance』のような海外製アクションRPGをよくプレイする人にとっては、おなじみのプレイ感となっている。しかし、プレイヤーが振るうのは騎士の剣ではなく、あくまで農作業用の斧や鋤だ。 

こう書くとシミュレーションなのかRPGなのか判然としないゲームのようだが、ふたつの要素がうまく連鎖するのが、このゲームの醍醐味なのである。 
 

アクションとシミュレーションの連鎖  

本作は現実時間の約30分でゲーム内の1日が経過し、3日ごとに「シーズン(季節)」が移り変わるシステムとなっている(1シーズンの日数は設定で変更可能である)。シーズンの間には時間経過の演出が挟まり、商店のラインナップや人々の状況が変化したり、植えたり収穫したりできる作物の種類が変わったりする。移動の間はもちろんのこと、木の伐採や道具の作成などのアクションの間にも時間が経過するため、ひとつのシーズンの間にできるだけ効率よく必要な作業をこなしていくことが、ひとまず短期的な目標となる。 
 

 
スタート時の主人公は物品を生産するスキルが貧弱なうえ、材料を購入する所持金もない。タダで畑にできる土地や狩猟できる動物はたくさん存在するものの、生計を立てられるほどの農業や狩猟をするために必要な道具や施設を準備することができない。そのため、拾った石や枝で粗末な道具を作っては地元民に売るという、細々とした商売からはじめることとなる。 

毎年春には税金の取り立てがあるが、道具作成にはひとつあたり数秒を要するため、ひたすら働き続けなければ納税のための貯金もできない。ようやく元手となる資金を得て農業を始めても、畑を耕す、肥料を撒く、収穫などの作業は主人公、つまりプレイヤーがひとつひとつおこなう必要があり、やはり時はどんどん過ぎていく。まさに体ひとつが資本の自転車操業である。 

しかし、他の流浪民たちを勧誘して家と仕事を与えはじめると、それまでのあくせくと動き回るゲームから、ひとつ上の視点で村人を管理するシミュレーションへと変貌する。村人はそれぞれ「農業」「生産」「外交」などのパラメータをもち、能力に合った仕事ほど効率よくこなすことができるため、村人を適材適所に配置することがプレイヤーのもっとも重要な仕事となる。
 

 
従業員や国民を働かせる経営シミュレーションは珍しくないが、文字としてしか存在しないキャラ、あるいは画面上で小さく動く「コマ」に対して命令を与える感覚であることが多い。それに対して『Medieval Dynasty』の場合、働かせるのは自分と同じサイズのキャラクターであり、朝起きて家から働きに出て、夜は帰って寝るという、それぞれの生活サイクルを実際の動きとして見ることができる。普段から道ですれ違ったり会話したりすることができる相手である分、なにやら仕事の采配に妙な責任感すら感じてしまうほどである。 

村人はプレイヤーより作業がはるかに遅い上、物資や道具が足りなくなるとすぐ勝手にサボるので、「もう全部自分でやる!」と憤ることもしばしばだが、調整に成功して勝手に倉庫に製品や現金が貯まりはじめると思わず笑みが浮かぶ。 

この「アクション」から「シミュレーション」の切り替えを上手く導くことができた瞬間が、このゲームでもっとも達成感を得られるポイントとなっている。
  

「現場」と「管理職」を往復する楽しさ 

このアクションからシミュレーションへの切り替えを現実にたとえるならば、個人事業主から零細企業の社長へのステップアップといえるかもしれない。もっとも、フィクションにしか存在しないような大社長よろしく、後は椅子にふんぞり返って命令だけ、とはいかないのは本作の中でも同じである。 

たとえば、農地を耕す際に必須の「肥料」は、街で買うにも高額な上に流通量が限られているため、農作物の生産量を増大させようとすると自前で生産する必要がある。そのためには、肥料の原料を生産してくれる豚の飼育を先におこなわねばならず、プレイヤーは再び家畜小屋の建設や動物の購入に東奔西走することになる。また、労働者に丈夫な道具を提供するには、金属を生産する鉱山を、自らの足で山々をめぐり歩いて発見せねばならない。ひとつの製品の自動生産に成功したからといって、アクションの必要性がなくなるわけではないのだ。 

このように「自分で働く」と「NPCを働かせる」を繰り返しながら、より価値の高い製品の自動生産を目指して村を発展させるのが、このゲームの要となっている。この切り替わりのタイミングが実に絶妙で、単純作業に疲れた頃にちょうど自動生産が軌道に乗るため、周期的に達成感が得られるようになっているのである。 

村の成長とともに食糧不足や働き手の増減など次々と課題が増えるので、アクションとシミュレーションの比重は変動しても、いずれかが途切れることはない。さらに、経済が発展してお金が貯まれば、クマのような危険な動物とも十分戦える性能の良い弓や、高速移動が可能になる馬などが購入でき、アクション部分の幅も広がっていくようになっている。肉体と頭脳に交互に適度な刺激を与え続けてくれるため、建物用の木を伐採しながら次シーズンにどの作物を植えるか計画を練っていると、上手く進んでいる仕事の合間に散歩して考えを整理する時のような、心地よい疲労感さえ覚える。 
 

 
本作をプレイしていると、現実の仕事もこうあってくれればなぁ、とつい思ってしまう。手を動かすにも頭を動かすにも適度に、仕事の采配も完璧に決まり、常に次につなげることを意識した成果を上げる……なんて理想的な働き方、そう簡単に実現はしないことはわかっている。けれども、本作がもたらす冒険の旅でもほのぼのライフでもない「ただ日々を懸命に暮らす」体験の後には、この現実世界で働くことも楽しんでみようという心の余裕が、ほんの少しくらいは生まれるかもしれない。 
 

 
ただ本作、現状(ver.1.1.1.1)ではストレスフリーなゲームとはやや言い難い完成度である。クエストや設置物の種類が少なく、何世代も新鮮にプレイするにはコンテンツ不足が否めない。ローカライズもかなり杜撰で、誤訳や珍訳を「含まない」センテンスがひとつもない、といっていいほどであり、なかには選択肢がまるまるすべて翻訳用の指示書きのまま放置されているところまである。それゆえ手放しですべての人にお勧めとはいい難い作品だが、これらの珍妙さも「味」と割り切れば、この世界を第二の故郷のように感じることができるはずだ。 

なお、Toplits Productionsからは既に「Dynasty」を冠する作品がいくつか発売されているが、日本の戦国時代を舞台にした『Sengoku Dynasty』の2022年内リリースが発表されている。とかく労働の意欲や環境で特徴的といわれがちなこの国だが、果たして舞台や風景のみならずワークスタイルにも日本っぽさが反映されているのか、今から期待しておきたい。 

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