プレデターと人間、強いのはどちらか。『Predator: Hunting Grounds』は、理解が深まるに連れて手のひらをクルクル返すことになるゲームだった

プレデターと人間、強いのはどちらか。『Predator: Hunting Grounds』は、理解が深まるに連れて手のひらをクルクル返すことになるゲームだった。『Predator: Hunting Grounds』は、PS4/PC向けに配信中の非対称マルチプレイゲーム。

プレデターと人間、強いのはどちらか。筆者はここ数日の間、そう自問自答しながら『Predator: Hunting Grounds』を遊んでいる。そして、その問いに対する答えは絶えず変化している。ひとつの結論に辿りついたと思った矢先、新しい戦術を閃き、考えを改めるというサイクルを繰り返しているからだ。

「プレデターの方が強い」という第一印象から始まるも、数時間後には「いや、人間の方が強い」という立場に変わり、しばらくすると「やっぱりプレデターの方が強い」という意見に戻る。そうして、手のひらをクルクルと返しながら遊んでいる。理解が深まるにつれて意見が変わるというのは、対戦ゲームとして良い傾向ではある。

では、最初の数十時間のうちにマッチ体感はどう変わっていったのか。手のひらの返し具合を振り返りながら、『Predator: Hunting Grounds』について考えていく。

*本稿はPC版でのプレイをもとに執筆

ゲーム概要

『Predator: Hunting Grounds』は、映画「プレデター」シリーズでおなじみの異星人プレデターと、4人1組の精鋭部隊ファイアチームに分かれて戦う、非対称マルチプレイゲームだ。舞台となるのは、人里離れたジャングル。プレデターは異世界のテクノロジーと高い身体能力を活かして人間たちを追い詰め、ファイアチームは現代武器と連携力で対抗する。対応プラットフォームはPlayStation 4/PC(Epic Gamesストア)。いずれもソニー・インタラクティブエンタテインメントが販売を担当し、『Friday the 13th: The Game』で知られるゲームスタジオIllFonicが開発を担当している。

人気映画シリーズを原作とした非対称マルチプレイゲーム。このフォーマットによる作品づくりにおいて実績を残してきたIllFonicが、20th Century FOXの協力を得ながら、「プレデター」の世界観に忠実なゲーム体験を目指した『Predator: Hunting Grounds』。原作のテーマソングを筆頭に、シリーズファンを喜ばせる演出が盛りだくさんとなっている。とはいえ、対戦ゲームであるからには、プレイヤー間でどのような駆け引きがあるのか、どのような戦術を取りうるのか。奥の深さやバランス具合も重要となってくる。

右も左も分からないうちは、プレデター優勢

マッチ開始後、まずはアイソレーション・パルスでファイアチームのおおよその居場所を把握

ゲームを始めたばかりのころは、プレデターの方が有利であると思っていた。初心者のファイアチームは、どういった視聴覚情報に注目すればよいのか把握していない。また、チームメイトが襲われたらすぐに助けにいかないと、一気に崩されるということを、身をもって理解していない。ゆえに本当の意味でのチームとして機能しづらい。単独行動に走ったチームメイトたちが、新米プレデターになすすべなく屠られていった。1対1の真っ向勝負で、人間がプレデターに勝つのは不可能なのだ。

対するプレデター側は、基本となる光学迷彩、サーマルビジョン、アイソレーション・パルス(ファイアチームの居場所を探知して画面上で示す機能。クールダウンあり)の使い方を最低限覚えてさえいれば、ファイアチームを圧倒できる。何も考えずに特攻し、初期装備のリスト・ブレイドを振り回しているだけでも勝ててしまう。低レベル帯においては、そうした底の浅いマッチ展開が続いた。

力を合わせて戦うことを覚えた人間は強い

プレデターの自爆を止めるためのミニゲーム

人間側であるファイアチームとして遊んでいくと、1対1でプレデターに遭遇することは死を意味するのだと、割と早い段階で理解する。すると単身で動くことを恐れ、仲間とかたまって行動するようになる。また、プレデターを好敵手として認知すると、身体に泥を塗りたくりサーマルビジョンの探知機能から逃れることの重要性を知る。他者と手を組み、身を汚すことを厭わなくなった人間は強い。いくらプレデターといえど、4対1の近距離戦に挑むのは自殺行為に近い。安易に突撃してきたプレデターは返り討ちにあうようになり、ファイアチームの勝率が上がっていった。

距離を置いて戦うことを学ぶプレデター

人間が知恵を働かせ始めたことを受けて、プレデター側は何も考えずに突っ込んでいくだけでは勝てないことを悟る。ちょうどゲームを遊び始めてから数時間もすると、レベル上昇によりネットランチャーという武器がアンロックされる。さらに遊んでいくと、ベアトラップというギアが解除される。これらは、ファイアチームの攻撃または移動能力を一時的に無力化する手段である。こうした道具の使い道を覚えると、無鉄砲に突撃するのではなく、相手の手を封じてから斬りかかるというステップを踏むようになる。4対1ではなく、実質上の2対1や1対1にしてから、ひとりずつ狩り倒すのだ。

真っ向勝負では勝てなくなったプレデターは、遠隔操作可能なスマートディスクを試してみたりと、距離を置いて戦うこと、そして敵を無力化することを学び、実践するようになる。こうなってくると、再びプレデター側が安定して勝つようになる。

驚異的な火力と移動速度を手にする超人たち

プレデターが恐れるのは、グレネードランチャーでもショットガンでもなく、ナイフとパリィで迫ってくる勇士だ

だがしばらくすると、ファイアチームは新しいクラスやパーク(補正効果)を手に入れ、気づけば異星人の体力を一瞬で溶かす火力と、逃げるプレデターを軽々追えるだけの身体能力、そして視界から逃れても易々と見つけ出すトラッキング能力を保有するようになる。ジャングルでの死闘が、精鋭部隊をさらなる高みへと押し上げた。多少不利な状況に陥っても、十分に押し返せるだけの力を手に入れたのだ。

ファイアチームには、アサルト、リコン、スカウト、サポートという4種類のクラスがある。最初のうちはバランス型のアサルトしか選べないが、ゲームを遊んでレベルを上げていくと、他のクラスがアンロックされていく。マーク表示時間や移動速度の優れたリコン、サブ武器攻撃力の高いスカウト、爆発ダメージ耐久のあるサポート。スナイパーライフル、ショットガン、グレネードランチャーなど、各クラスと相性の良い武器を揃えたり、ダメージ上昇パークをつけることで、プレデターの体力を一気に削れるようになっていく。また、このころになるとパリィの使い方を覚え、初期装備のナイフが思いのほか強いことにも気づき始める。「ナイフはライフルよりも強し」と悟った人間は強い。

*5月1日のパッチ1.06によって、パリィとナイフが下方修正された

マーキングして追えば、セカンドウィンド状態のプレデターは高確率で仕留められる

特にマーク表示時間や移動速度の優れたリコンは、いまのところ使用率が高いという印象だ。プレデターを見つけてマーキングすれば、長時間位置を把握できる。プレデターが木の上をどれだけ動きまわろうと、居場所がバレバレになる。なおプレデターは、体力が無くなるとセカンドウィンドという猶予期間に突入する。時間経過により減っていくシールドゲージが底をつく前に退避し、どこかに隠れて体力を回復すれば戦線復帰が可能。だが、移動速度の速いファイアチームであれば、セカンドウィンド状態のプレデターをマーキングしながら軽々と追いかけられる。俊敏なファイアチーム相手にセカンドウィンド状態になると、プレデター側はほぼ詰みである。

プレデターがギブアップして自爆装置を発動しても、すでに爆弾停止のミニゲームに慣れたプレイヤーが多いため、爆発は高確率で止められ、死体を回収されておしまいとなる。もはやゲームを始めたころに抱いた、異星人に対する恐怖心はなくなっている。マッチ開始とともに目標地点に向かうのではなく、プレデターを探しにいく狩人パーティーにも遭遇するようになった。いつの間にか、プレデターがファイアチームを狩るのではなく、ファイアチームがプレデターを狩りに出向くゲームになった。

戦闘種族の真価が問われる時

光学迷彩は、立ち止まっているときにこそ効果を発揮する。近くから攻撃しても位置を特定されるまで時間がかかる

プレデター側としては、ここからが本番だ。現状、クラスやパークのアンロックで超人化したファイアチームに勝てるだけの力を蓄えた、熟練のプレデターが少ない。ゆえに海外フォーラムでは「プレデターが弱すぎる」という論調が強まっている。だが、実際にはプレデター側で遊ぶプレイヤーの成長が追いついていないだけかと思われる。

こうした非対称マルチプレイゲームにおいては、いわゆる生存者側とキラー側とでマッチング時間に差が出ることが多い。本作も例外ではなく、プレデター側で遊ぼうとすると、マッチ成立まで5分~20分かかる(ファイアチームは数十秒~2分)。単純にプレデターとして遊べる時間の方が短く、学習するのに時間がかかる。そうした事情もあって、「プレデターが弱すぎる」と結論づけるにはまだ早すぎると個人的には考えている。今はプレデターの成長を待つターンなのだと。

装備品をアンロックし、道具をちゃんと使えば、プレデターとして普通に勝てる

高威力の武器コンビスティック、居場所を知らせずに体力を削るヤウージャ・ボウ、高体力のバーサーカークラスをアンロックすると、プレデターは大分強くなる。さらに強者のファイアチームに立ち向かう際には、与えられた武器・ギアをフルに活用し、消耗戦に持ち込まなくてはならない。プラズマキャノンもしくは音を立てないヤウージャ・ボウで遠くから体力を削り、見つかったらすぐに逃げるという遠隔ハラスメント。オーディオデコイによる情報撹乱。ベアトラップの先まわり配置。モーションセンサーの有効活用。

プレデターらしくジワジワと攻め込み、ファイアチームの位置関係を注視し、2対1や1対1に持ち込める勝機を見つけたら、最高クラスの近接武器であるコンビスティックで殴り込む。そして人数差が生まれそうになったら、早急に離脱する。そうしたネチネチとしたヒット&アウェイ戦法に慣れると、超人化したファイアチームと張り合えるようになる。プレデターが優位に立つための道具は十分に揃っている。あとはプレイヤーの上達次第だ。

どちらが強いか、すぐには答えを出せない

手のひらをクルクル返してきた筆者は、いまのところ「プレデターの方が強い」という意見に傾いている。ただ先述したように、本作はまだリリースされてから日が浅いため、熟練のプレデターと遭遇する機会は少ない。ほとんどのマッチはほんの数分で決着がついてしまう。ゆえに「プレデターは弱すぎる」「プレデターは原作のように圧倒的な強さを誇るべき」といった主張が出てくるのは理解できる(PCGamer)。厳密に言うと、「プレデター(として遊ぶプレイヤー)は弱すぎる」と論じるのが、現時点でのゲーム体験を伝える上で適しているだろう。だがプレイヤーの成長に伴い、状況が変わっていく可能性は高いと思っている。

通常、メディアのライターがレビューや感想系の記事を執筆するにあたっては、ローンチ初期の数日間のうちに何十時間と集中的にプレイすることになる。それは大半のプレイヤーとは異なる遊び方である。ゆえに、本作のように類似タイトルの少ないゲームにおいては、プレイヤー層の自然な成長にともなうマッチ展開の変化を読み取りにくいという難点がある。ファイアチームとプレデターのどちらが強いのか、限られた日数で判断するのは難しい。筆者も、仮に「ローンチから48時間以内に結論を出して記事を執筆せよ」と言われていれば、「プレデターは弱い」と書いていただろう。

IllFonicが手がけた『Friday the 13th: The Game』においては、発売当初、人間側がキラー側であるジェイソンを倒すのは至難の技であった。しかしながら時間が経ちプレイヤー層が熟練の域に達すると、生半端なジェイソンはいともたやすく倒せるようになっていった。「どちらが強いのか」と言う問いの答えは、プレイヤー層の成長次第で変わる

なお上述したPCGamerの記事では、「プレデターは音を立てすぎる」と記載されているが、普段音を立てるからこそオーディオデコイが活きてくる。また光学迷彩をオンにしても居場所がバレバレだと述べているが、立ち止まっていれば姿は見えない。音を発さないヤウージャ・ボウとの相性は抜群。光学迷彩は、使い道次第では十分に有効だ。

プレデターが人間を圧倒するゲームにすべきなのか

「プレデターは原作のように圧倒的な強さを誇るべき」という意見も出回っているが、現実問題として、非対称マルチプレイゲームにて片方のチームが強くなりすぎると、ゲームとしての張り合いがなくなる。片方に人気が集中し、マッチング時間がさらに長くなってしまう。それに、もしもプレデターを極端に強くすると、狩りの喜びが損なわれてしまうだろう。強き戦士を倒すことこそ、プレデター/ヤウージャにとって至極の名誉なのだから。

補足:
5月1日のパッチ1.06により、マップ上の弾薬クレートおよび回復ステーションの数が減少。パリィ時に消費されるスタミナ量増加、ファイアチームが装備できるギア数の下方修正、救急キットと弾薬ポーチの所持数減、一部武器の与ダメージ減少など、ファイアチーム側がわかりやすく弱体化された(パッチノート)。一方、プレデター側はナイフとショットガンの耐性強化、野豚を食すことでの体力回復量増加など、概ね上方修正。プレデターとして戦いやすくなっている。

手のひらを返し続けているうちが華

プレイヤーがいる限り、ゲームのバランスは変わり続ける。「プレイヤーがいる限り」という点において気になるのは、『Predator: Hunting Grounds』は消費し切りやすいゲームであること。20~30時間もあれば主要な装備品はアンロックし終えられるし、コスメティクスアイテム用のゲーム内無償通貨の配布量も気前良い。新規プレイヤーにとって親切な設計ではあるが、ゲームの寿命を考えると、懸念材料ではある。

マップは現状3種類のみ。ファイアチーム側はマッチごとに異なるタスクを与えられるものの、マッチ展開の大筋を変えるものではない。技術的な問題点としては、地形にスタックしたり、一定の操作を受け付けなくなったりといったフラストレーションのたまる不具合が散見される。両チームのスキルが均衡する、白熱したマッチ展開になりにくいという難点も抱えている。PS4通常版は5390円、PC通常版は4180円という高めの価格帯を加味すると、気軽にオススメできるゲームではない。

とはいえ、プレデターになりきるゲームプレイや、原作に即したビジュアル・演出など、原作ファンに向けたサービスは充実している。原作ファンに向けた作品という観点からは魅力的なゲームである。対戦ゲームという観点から考えると、このさき戦略・戦術がどこまで発展していくのかが、ゲーム寿命のカギを握る。プレイヤー間の駆け引きが高度化すればするほど、味わい深くなっていく。巧みなプレデターが増えれば増えるほど、ファイアチームは対策を迫られ、さらなる高みへと導かれる。いまはプレデターが弱いと言われているが、形勢逆転するための道具は豊富に用意されている。

プレデターと人間のどちらが強いのか。その議論に決着がつかず、手のひらを返し続けているうちが華なのだ。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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