先月7月26日、海外向けに発売された『Wolfenstein: Youngblood』。国内向けには8月8日に発売される『Wolfenstein』シリーズ最新作である。前作から19年後の1980年、英雄B.J.ブラスコヴィッチがひっそりと消息を絶った。そんなB.J.の双子の娘ジェスとソフは、父の行方を追ってナチス部隊に占拠されたニュー・パリを訪れ、二人仲良くナチス狩りを開始する。B.J.ブラスコヴィッチではない新主人公の導入、全編Co-op対応、RPG化、一本道ではなく進め方をプレイヤーに委ねるセミオープンワールド化、サイドクエストやデイリークエストによる再訪性強化。『Wolfenstein』らしさにとらわれず、新境地に挑戦した老舗IPのスピンオフ作品だ。
レビュー集積サイトMetacriticで同作の評価を確認してみると、メタスコアは72点(8月7日時点)。それなりの点数を維持している。GameSpot、Game Informer、PC Gamerといった著名な海外メディアの多くは、70点台後半から80点台の好レビュースコアを出している。だがユーザースコアの方に目を向けると、「10点中2.1点」という驚きの低スコアが付いていることに気づく。これがどれほど低い数字なのかというと、たとえば今年メディアおよびユーザーから大きく批判された『Anthem』は4.1点。『No Man’s Sky』(2.9点)よりも、Bethesda Softworksの最近のパブリッシュ作品『Rage 2』(5.4点)や『Fallout 76』(2.8点)よりも低いことになる(いずれもPC版)。
ユーザースコアは、商品の品質と必ずしも結びつくものではない。『フォートナイト』(2.8点)が良い例だろう。PC版『Wolfenstein: Youngblood』について見ていくと、一部メディアから好評価を得ているように、『Wolfenstein II: The New Colossus』から引き継いだグラフィックスやナチス兵たちのデザインは変わらず魅力的であるし、PC版のパフォーマンスも良い。グラフィック設定の項目も豊富だ。『Wolfenstein』を名乗るだけあって銃器の撃ち心地は前作に劣らず、銃器のカスタマイズやスキルツリーなど深みを帯びた部分だってある。
『Dishonored』シリーズで知られるArkane Studiosとの共同開発の成果と思われる、垂直的な広がりのある巧妙なマップ構造も、部分的ながら確認できる。デラックス・エディションを購入すると、ゲームを持っていないフレンドともCo-opが楽しめるという消費者フレンドリーな販売方法を採用しているし、褒めるべきところはいくつもある。では、何がプレイヤーたちを失望させたのだろうか。主な不満点としては、『Wolfenstein』らしからぬRPGシステムの導入と、それによるゲームプレイへの影響。薄味な物語とキャラクター、マイクロトランザクションについて多く言及されている。
銃撃の爽快感を阻害するRPG化
『Wolfenstein』シリーズのファンが、『Wolfenstein』新作に求めていることとは何だろうか。まず浮かぶのは、FPSとしての銃撃の爽快感であろう。『Castle Wolfenstein』から始まったシリーズのルーツとしては、ステルスアクションも「Wolfensteinらしさ」の構成要素に含まれる重要な側面に違いないが、最優先事項は何といっても銃撃である。しかしながら『Wolfenstein: Youngblood』においては、シリーズの要とも言える銃撃が過去作と比べて低調気味である。
主な要因としては、従来の『Wolfenstein』と相容れないRPG要素の導入と、ゲームデザインとしての調整不足が挙げられる。歴史あるフランチャイズのRPG化、特にキャラクターレベルの導入にともなうサイドアクティビティの半強制化は、『アサシンクリード』新作群や『ファークライ ニュードーン』といった、近年のUbisoftタイトルでも見受けられる。『Wolfenstein: Youngblood』もその流れを踏襲するものであり、操作キャラクターが敵より数レベル低いだけで、瞬殺されるようになるだけの力差が生まれる。ストーリーの進行速度を制御する仕組みであり、コンテンツの充実化にリソースをかけられないスピンオフ作品でも長く遊べるよう施した工夫であるとも言える。
レベル制がゲームプレイを阻害しないのであれば、受け入れる余地はある。実際、適正レベルに到達しているときには、与ダメージ・被ダメージともにそれほど違和感のない塩梅での撃ち合いを味わえる。ただ本作の場合、適正レベルに到達するためにこなすサイドクエストが単調であり、フラストレーションにつながるほか、意図せず危険レベル帯の敵地に入り込んでしまったり、意図せず不相応なアクティビティをこなそうとしてしまいがちな作りとなっている。ゆえに、適正レベルではない状態での撃ち合いに発展し、後述する弱点システムや銃弾不足の問題と合わさり、満足な銃撃体験を得られなくなっていく。
クエスト進行の流れを説明しておくと、まず主人公である双子のブラスコヴィッチ姉妹は、ハブエリアとなる地下墓地にてクエストを受領したのち、ニュー・パリにある3つのマップへと自由にファストトラベル。各マップはひらけたデザインとなっており、目的地に直行してもよいし、探索のために寄り道したり、途中で他のクエストに切り替えたりしてもよい。各種クエストには、目的地にいる敵レベルに応じた推奨レベルが記載されているため、それを参考にしながら次の目標を定めることができる。
だがマップ探索中に発生するランダムアクティビティ(アクション)についてはその限りではない。現在のキャラクターレベルを考慮してランダムアクティビティをアサインしてくれるだろうと油断していると危険だ。またストーリー後半では、次のクエスト地点まで自動的に遷移させられる箇所がある。推奨レベルがひとつ手前のクエストから離れているため、それまで推奨レベルを目安にして進めてきたプレイヤーが、流れにまかせて攻略していくと、推奨レベル未達のままラストボスに挑むことになる。推奨レベル未達の方が歯ごたえがあるという見方もできるが、やや不親切なクエスト進行と思える。
また先述したように、キャラクターレベルを上げるには敵を倒し、サイドクエストを攻略することで経験値を稼ぐ必要がある。一定数のサイドクエストをこなすことは、半ば必須条件となっており、プレイ時間の多くを費やすことになる。しかしながら、本作におけるサイドクエストは使い回しが多く、短いプレイ時間中に同じマップの同じロケーション、同じ敵配置での戦闘を何度も繰り返すことになる。各マップは決して広くなく、クエストのバックストーリーを含めて単調さは否めない。単にリプレイ性を高めるための任意クエストであれば、もしくはクエストの内容に適度なバリエーションがあれば付加価値として認められるかもしれないが、本作においてはプレイ時間の水増しを目的とした単調作業の域を超えていない。
サイドクエストの半強制化がともなうクエスト構造からは、同じくBethesda Softworksが今年パブリッシュした『Rage 2』との類似性が見られる。そちらでも各種アクティビティの単調さは見られたものの、過度なRPG化を推し進めたりはしておらず、銃撃そのものの爽快感は失われていない。
頻繁な武器変更と弾薬不足の問題
そのほか、本作のガンアクションから爽快感を奪っている要因としては、頻繁な武器変更が求められる弱点システムと、そこから起因する弾薬不足が挙げられる。敵対するナチス兵の多くはアーマーを着込んでおり、弱点となる弾薬の種類が決まっている。弱点の種類は、敵の頭上にある体力ゲージにて、「白塗りつぶし無しの四角形」「白塗りつぶし有りの長方形」で示されている。色と形の両方を使って分けている点は、アクセシビリティの観点からも好ましい配慮だろう。だが、いかんせん形状が似ている上に、表示が小さい。上の画像のように中距離戦になると厄介。激しい銃撃戦の最中で瞬時に判断するには慣れが必要だ。プレイ中、何度も「あれは正方形と長方形のどっちだ?」「今自分はどの弾薬を装備しているんだ?」と頭を悩ませることになった。片方を四角形以外の形状にしたり、別の色を使ったりと、もうひと工夫欲しいところである。
弱点に合っているかどうかで与ダメージ量が大きく変わる上に、ゲーム全体として弾薬が不足しがちな配分となっているため、面倒だからといって無視できるシステムではない。ゆえに武器変更が頻繁に求められ、アクションの流れを何度も止めることになる。敵が多いエリアでは数秒単位で武器を変更せねばならず、もどかしさは拭えない。なお弱点を意識しながら遊んだ場合でも、相手のレベルが高すぎると弾薬不足になりやすい。
ときに有害なAIパートナー
筆者はソロプレイでゲームをクリアしたのち、クイックプレイでオンラインCo-opを試すという遊び方をした。ほとんどの時間をAI操作のパートナーと過ごした感触として、ソロプレイ時のAIパートナーは概ね無害であった。ただし本作で導入された蘇生システムとの相性は、最適とは言えない。
蘇生システムの仕組みを説明しておくと、本作ではパートナーがダウンした際、一定時間内であれば蘇生することができる。蘇生が間に合わず死んでしまった場合、最大3つまでストックできる共有ライフをひとつ消費して復活。残ライフがゼロの状態でどちらかが死亡するとゲームオーバーとなる。ゆえにパートナーの蘇生に失敗し続けていると、自身が死んでいなくてもゲームオーバー。そして厄介なことに、ボス戦などで時折AIパートナーが広間のど真ん中で棒立ちすることがあり、何度も繰り返しダウンし続ける。オープンな場所でダウンされると蘇生しにいくのも危険。不要なストレスを抱えながら戦うことになる。
なおゲームオーバーになると、現在いるマップのスタート地点にまで戻される。ボス戦中のゲームオーバーも例外ではなく、最初からやり直しとなる。かといって銃器の残弾数はリセットされず、ゲームオーバー時の状態が引き継がれるため、弾薬を集め直すところから始めねばならない。リスタート地点の設定がもう少し慈悲深ければ、AIパートナーの果敢な愚行も「しょうがない、やり直せばいいか」と許せたであろう。あるいは、危険地帯にとどまらないよう、AIパートナーに簡単な指示を出せれば、より快適にソロプレイを楽しめただろう。
薄味のストーリー
『Wolfenstein: The New Order』『Wolfenstein II: The New Colossus』とは異なり、物語はかなり薄味となっている。このあたりは、フルプライスではないスピンオフ作品であると理解していれば、ある程度は許容できるだろう。人物描写や台詞、話の展開を含めて、前作までの品質から大きく落ちるが、そもそも物語には明らかに重きが置かれていない。だからこそ、RPG化が招いた弊害による作品評価への影響は大きい。
主人公であるブラスコヴィッチ姉妹の言動や幼さについては、賛否が分かれるところだろう。ただ、ちょっぴりおバカなスピンオフストーリーとして期待値を下げていれば、二人の掛け合いを微笑ましく見守れるのではないだろうか。とくに各地でのエレベーター移動時に挟まれるロード画面では、ソフがジェスの仕草を真似してからかったり、二人仲良くダンスを踊ったりと、敵地のど真ん中に潜入するシリアスな状況下での緊張緩和剤として機能している。
とはいえ、尺の短さも影響してか、新主人公の魅力を十分に伝えきれてはおらず、物語としての満足度も低いことは明白であり、ユーザーから不満点として挙げられるのは納得できる。
自らの歴史に中指を立てるリスク
『Wolfenstein』フランチャイズには40年近い歴史があり、『Wolfenstein 3D』にてFPSをジャンルとして確立したという偉大な功績を残している。古典的FPSの象徴ともいえるIPだ。MachineGamesが開発した『Wolfenstein: The New Order』以降の作品が評価されている理由のひとつには、そうした『Wolfenstein』らしさを残しつつ現代化を図った点が挙げられる。
『Wolfenstein』の歴史およびMachineGamesの功績から、シリーズファンが望んでいる『Wolfenstein』像はある程度決まっている。ゆえにスピンオフ作品とはいえ、方向転換するには特段の配慮が求められるのではないだろうか。古き良きFPSとしての面影を残しつつの現代化。そこから大幅に脱線するからには、ファンが納得できるだけの内容と品質をもって着地させなければ、批判は免れない。『Wolfenstein: Youngbood』は、脱線した後、新しい線路がしっかりできあがらないまま完成品のラベルを付けてしまったように思える。そこから生じる「求めていない」「余計なことをした」という感覚は、プレイヤーやファンとして本来以上の減点対象となり得るのではないだろうか。
『Wolfenstein: Youngblood』は、自らの歴史に中指を立て、新たな血を注入する試みであった。『Wolfenstein』らしさに固執しない新要素のオンパレード。スピンオフ作品だからこそ敢行できた大胆な挑戦ではあったが、新しい『Wolfenstein』の創造という試みが成就したとは思えない。シリーズファンに求められていない方向性に舵を切った上で、完成形からは程遠い仕上がりのまま出荷されてしまった。新要素の完成度がもう少し高ければ、新たな『Wolfenstein』の可能性を見出したとして、異なる評価を受けていたであろう。だが、そうはならなかった。Bethesda Softworksに対する落胆の連鎖は『Fallout 76』『Rage 2』から続いており、それは『Wolfenstein: Youngblood』においても断ち切られることなく、11月に発売される『DOOM Eternal』へと繋がれていくこととなった。