全世界の格闘ゲーマーがラスベガスに集結する、世界最大かつ最重要の格闘ゲーム大会Evolution Championship Series(EVO)。今年2019年にEVOで競い合うメインタイトルとなる9つのゲームが、先日EVO運営によるライブ配信にて発表された。『STREET FIGHTER V ARCADE EDITION』や『ドラゴンボールファイターズ』などの有名タイトルが並ぶ中、そこには2D格闘ゲーム『UNDER NIGHT IN-BIRTH Exe:Late[st] (以下UNI)』の名前があった。2015年に稼働を開始したこのタイトルが、2019年になって初めてEVOのメインタイトルとして選出されたことになる。

『Guilty Gear Xrd』シリーズや『大乱闘スマッシュブラザーズDX』のようなEVO常連タイトルを差し置いての電撃的な選出は、2019年初夏に発売される最新作『サムライスピリッツ(2019)』とともに、格闘ゲーマーに驚きを持って迎えられた。格闘ゲームの中でも知名度が高いとは言えない『UNDER NIGHT IN-BIRTH』。このタイトルはどんなゲームで、なぜEVOに選ばれることになったのだろうか。

 

『UNI』とはなんぞや

まず、ゲームを知らない方に向けて作品紹介をしておこう。『UNDER NIGHT IN-BIRTH Exe:Late[st]』は、『MELTY BLOOD』シリーズや『電撃文庫 FIGHTING CLIMAX』で知られるゲームスタジオフランスパンが開発する、完全オリジナル2D格闘ゲーム。 超常能力EXS<イグジス>に目覚めた少年少女をめぐる伝奇ライトノベル風の世界観と、HD解像度で描かれた極めて緻密なドットグラフィックを特色とする。2012年に初代『UNDER NIGHT IN-BIRTH』が稼働を開始し、2つの新作を経て今年で7年目となるタイトルだ。 現在アーケード(ALL.Net P-ras MULTI)でver3.20が稼働中のほか、同バーションの家庭用移植版がPS3、PS4、Steamにて配信されている。また、EVO選出を記念して、PS4ダウンロード版が3月14日から4月3日まで50%オフの2900円で購入できるそうだ。

『UNI』は格ゲーのセオリーから外れたな独自システムを多数持つのが特徴だ。複雑ではあるがいずれも非常に強力であり、それらのシステムを中心に回る本作ならではの読み合いが楽しめるゲームである。『UNI』のゲーム性は『MELTYBLOOD』譲りのいわゆる「コンボゲー」だが、空中ガードや空中ダッシュが基本的に存在しないため、空中戦のリスクが高く地上戦の比重が高くなっている。崩しや起き攻めも意図的に弱めに調整されており、『GG』シリーズのような熾烈なものはあまり無いと言えるだろう。

『UNI』特有のシステムで特に知ってもらいたいものが「グラインドグリッド(GRD)」と「チェインシフト(CS)」。 GRDは一言で言えば試合の優勢度を表すもので、画面中央にひし形のゲージで表されており、ゲーム中のさまざまな行動で増減する。 GRDをより多く持っているプレイヤーは、一定時間の周期ごとにチェインシフトを使う権利を得られる。

「人権」というあんまりな愛称のあるチェインシフト。しかしそのくらい重要なシステムなのである。

このCSが極めて強力で、発生は1Fで完全無敵、約1秒の暗転、通常技/必殺技のキャンセル、ゲージの増加など、数々の恩恵を一度に得ることができる。 割り込み、崩し、状況確認、攻め継続、何にでも使えるシステムなのだ。 CS権を持ったプレイヤーは、攻撃においても防御においても圧倒的な有利となるため、CS権をどちらが獲得するかは試合の展開を大きく左右する。

コンボを途中でやめる、有利な状況で何もしない、など一見奇妙な立ち回りがしばしば見られる本作だが、これらもCSの獲得につながる強行動である。いかにCS権を獲得するか、これが本作における読み合いの中心となっているのだ。また、詳細は割愛するがGRD優位を生み出せる「投げ」や「シールド」にも深い読み合いある。GRDとCSを巡る駆け引きの中で、投げやシールドを交えた独特の立ち回りが生まれているのが『UNI』という格闘ゲームだ。

※『UNI』を開発したゲームデザイナー芹沢鴨音氏による基本システム/チュートリアル解説。本作の家庭用は非常に深い内容まで掘り下げられた丁寧なチュートリアルでも知られる。

稼働当初はGRD関連のシステムが洗練されておらず、コンボが繋がりすぎるピーキーなバランスだったが、2つの新作を経て現在ではバランスも円熟されている。アーケードを中心とした日本のコミュニティも活発で、毎年公式の全国大会や大規模なコミュニティ大会が開かれている。また、2018年に発売された、さまざまな格闘ゲームがコラボする『BLAZBLUE CROSS TAG BATTLE』に参戦したことも話題となった。

それでも、『UNI』がマニアックな格闘ゲームであることは間違いなく、プレイヤー数が特別多いわけでもない。例えば2018年の格闘ゲーム大会KSBの参加人数を見ても、300名以上の参加者を集めた『GGxrd』に対して『UNI』の参加者は64名と少ない。では、そんな『UNI』がEVOに選出された理由はどこにあるのだろうか。EVOのタイトルが発表された公式配信(Twitch)で、その理由が明かされている。

 

EVOを動かした海外コミュニティの熱意

キーワードは“海外『UNI』コミュニティの情熱”だ。EVO運営は配信で繰り返し海外のコミュニティについて言及している。実は、この日本で生まれた『UNI』という格闘ゲームは、近年海外で大きな盛り上がりを見せているのだ。

前作『UNDER NIGHT IN-BIRTH EXE:late』では、PS3/Steamにおいて本作の北米版家庭用版が販売されており、小規模ではあるが当時から熱心な海外ファンが付いていた。しかし、2015年にアーケードで先行して発売された最新作『EXE:late[st]』は、北米版が長い間存在せず、海外ではプレイすることが困難だった。『UNDER NIGHT IN-BIRTH Exe:Late』時代から海外で『UNI』の大会を主催し、コミュニティの構築に大きく貢献してきたJuushichi氏は、『UNI』がEVOに選出された理由について尋ねた弊誌の質問に対して以下にコメントしてくれた。

“『UNIELst』の家庭用が日本でリリースされたとき、多くの海外プレイヤーが我慢できずに海外から日本版を購入していました。最新版を手に入れてからは、日本のアーケードでの対戦動画を見るのさえもっと面白くなりました。私達はこのゲームをすごく楽しんできました。だから北米版やSteam版が発売されたとき、私達はもっとこのゲームをシェアして、情熱を見せ続けなければならないと気付かされたんです。その熱意がEVO2018のサイドトーナメントでEVO運営に伝わったことが、今回のEVO選出の理由だと思います。”

『UNIELst』家庭用が日本で発売されてから半年後の2018年2月、ついに北米版家庭用が発売され、8月にはSteam版が発売された。これが海外の『UNI』コミュニティに火を着けた。“『UNI』の面白さをもっと知ってもらいたい”という思いから、Juushichi氏を始めとする熱意のある海外プレイヤーたちは、大会を開き、ゲームガイドを作り、初心者をサポートするイベントを行い、『UNI』を盛り上げる努力をしてきたのだ。

※ フランスパン関連のゲームをフィーチャーした大会「Climax of Night」での『UNI』トーナメント決勝戦。日本から強豪プレイヤーのらんぽ氏とせなる氏が招待され、熱く歓迎されたそうだ。

その努力が実り、海外『UNI』コミュニティはどんどん規模が大きくなっていった。海外の格闘ゲーム大会CEOtaku 2018では、『GGxrd』や『BB』を抜いて大会最大となる273人が『UNI』のトーナメントに参加。コミュニティの非公式Discordサーバーの1つは、今や2000人以上ものプレイヤーが参加するまでになった。日本のコミュニティとの繋がりも強く、北米版の発売前の2017年には、『UNI』の全国大会が開かれるゲームセンター「クラブセガ新宿西口」に海外プレイヤーが遠征して、そのレベルの高さで国内のプレイヤーを驚かせるということもあった。

EVO2018ではサイドトーナメント「AnimEVO 2018」にて大会が開かれたが、そこでも『UNI』は最大規模の210人を集めるタイトルとなった。決勝戦はアメリカ人プレイヤーSquish氏と、日本人プレイヤーへいほぉ氏の戦いとなり、激戦の末にSquish氏が勝利。両者に熱い声援が送られた。海外で『UNI』がこれほど愛される理由について、Juushichi氏はこう述べている。

“海外のUNIコミュニティは、とてもつながりが密接なんです。トーナメントはまるでお祭りのようで、遊ぶこと、観戦すること、応援すること、そのすべてをみんなが楽しんでいます。それぞれの地域のコミュニティに強豪プレイヤーがいて、レベルの高い対戦することができます。そうでない国の人もインターネットでのTwitchChatや動画配信でつながっています。すごく結束したコミュニティであることが、人気の理由なのではないかと思います。”

EVO運営は配信で、「2018年のEVOサイドトーナメントにおける『UNI』コミュニティの情熱を見て、このコミュニティを支援したい、努力に応えたい、という思いで『UNI』をEVOメインタイトルとして選出した」としている。また、「EVOは企業からの支援を受けて開催されるトーナメントではない。クールで面白いゲーム、そして素晴らしいトーナメントにしてくれるであろう熱意のあるコミュニティのためのゲームを選んだ。」とも述べている。

メイントーナメントに選ばれたゲームのための大会ではなく、サイドトーナメントも重視していく、というのが最大級の格闘ゲーム大会であるEVOの姿勢だ。今回の『UNI』の選出は、コミュニティが熱意を見せ続けていれば、それはしっかりと評価されるということを示すいい例となるだろう。

この選出を受けて、Steam版のプレイヤー数は大きく上昇し、SonicFox氏を始めとする有名プレイヤーも、EVO2019で『UNI』へ参戦することを公表している(Polygon)。8月のトーナメントに、今から期待が高まる限りだ。