Valveの新作DTCG『Artifact』、配信から約2か月で97%のプレイヤーを失う。その原因を考える

Valveの新作デジタルカードゲーム『Artifact』が苦境に立たされている。1月24日時点で、『Artifact』は配信からわずか2か月弱で約97%ものプレイヤーを失ったことになる。なぜこのような状態に陥っているのか、考察していきたい。

Valveの新作デジタルカードゲーム『Artifact』が苦境に立たされている。1月24日時点で、プレイヤーの最大同時接続数は配信直後の6万740人から約2000人(SteamChartsより)にまで減少している。すなわち、配信からわずか2か月弱で約97%ものプレイヤーを失ったことになる。一般的に、配信直後のピークタイムとその後のピークタイムを比較すれば大きな落差が生まれがちであるが、それでも97%という数字はなかなか衝撃的だ。

『Artifact』は『DOTA2』の世界観に基づき、MOBAの要素を取り入れた挑戦的なデジタル・トレーディングカードゲーム(DTCG)だ。MOBAのレーンに見立てた3つのボードや、ユニークな特徴を持つヒーローユニットなど、斬新なアイデアが随所にちりばめられたゲームであり、発売前から大きな注目を集めることとなった。また、老舗メーカーであるValveの久方ぶりの新作であることも話題を呼んだ。しかし、配信後の本作の評価は振るわず、Steamレビューの最近レビューが「ほぼ不評」になっているほか、個々のレビューを見ていっても不評~賛否両論の評価が目立つ。その結果が冒頭で説明した苦境である。プレイヤーの心を繋ぎ止めることができなった『Artifact』、その原因はどこにあるか、本稿にて考察していきたい。

 

ランダム性の高さ

まず挙げられるのがゲーム性の不評だ。特に問題として挙げられているのが「ランダム性の高さ」。Steamレビューにおいても、この点を槍玉に挙げるプレイヤーは多い。『Hearthstone』など既存のDTCGでも、運によって戦況がガラッと変わってしまうようなピーキーなカードが数多く存在し、賛否の議論を巻き起こしてきた。特に、戦略をじっくり練りたいハードコアなゲーマーから否よりの意見を集める傾向がみられる。複雑で斬新なルールを持ち、ハードコアゲーマーをターゲットとしていた『Artifact』は、その例外になり得たはずだった。

しかしその期待と裏腹に、『Artifact』においてもランダム性はゲームに強く影響を与えていた。その程度という面でも、他のDTCGと比べてむしろ多くなっているといえる。なぜなら、ランダムに決定される要素が、カードの効果だけでなく、ゲームのルール/システム中にも多々あるためだ。たとえば、ゲーム開始時のヒーローの配置や、ミニオン(ターン開始時に自動的に召喚されるクリーチャー)の配置/攻撃方向など、戦略を作るにあたってキモになる要素までもがランダムに決定されてしまうのである。特にミニオンに関するランダム性は不評が大きい。毎ターン勝手に配置されボードコントロールに大きく影響を与えるため、ランダム性を嫌でも意識させられてしまう。

もちろん、カードゲームにおいてランダム性は必要不可欠なものであり、ドラマと駆け引きを生み出す重要な要素であることは疑いようもない。実際、『Artifact』においてもプレイングによってその影響を抑えることは十分に可能である。しかし、戦況を決定づけるランダム性が毎ターンのように現れる本作が、他のDTCGと比べて、「プレイングではなく運によってゲームが決まってしまう」、「ゲームプランが運によって台無しになる」といったフィードバックを強く与えてしまっていることは確かだ。

 

購入型ゲームとしてのマネタイズ

次に問題点として挙げられるのが、『Artifact』の販売形態、マネタイズモデルだ。DTCGの多くは、プレイするだけなら料金がかからない「Free to Play(基本プレイ無料)」の販売形態を取っている。プレイするだけなら非常に手軽で、ゲームを気に入ったプレイヤーにパックを買ってもらうことで収益を得るスタイルだ。一方で『Artifact』はというと、20$のパッケージを購入しなければプレイができない、いわば「Pay to Play」なゲームであり、プレイするための障壁はやや高い。とはいえ、DTCGとして珍しいというだけで、対戦型ゲームという広い範囲で見ればこのような販売形態は全く珍しいものではない。

ここでの問題は、配信直後の『Artifact』には、追加の課金をする以外に新しいカードを手に入れる手段が存在しなかった点である。『カルドセプト』のようにストーリーを進めながらカードを手に入れることも、『Hearthstone』のようにデイリークエストをこなしてパックを集めることもできなかった。課金しない限り、プレイヤーが手に入れられるのはパッケージに付属する15枚入りのパック10個と、ドラフトに参加するためのイベントチケット5枚だけだった。当然、それだけの資本で構築戦をまともにプレイするのは極めて厳しい。そのため、『Artifact』は、「Pay to Play」のゲームであるにもかかわらず「Pay to Win」のゲームでもあるという印象を与えてしまい、それは多くのプレイヤーに敬遠される理由として十分だった。

Valveもこの問題は理解しているようで、2018年末のアップデートによりプレイヤーのアカウントレベルが追加され、レベルアップによってカードパックやイベントチケットが手に入れられるようになった。無課金でも一応はカードを手に入れられるようになったというわけだ。しかし、得られるカードの量は「Free to Play」型のDTCGと同じ程度であり、「Pay to Play」の『Artifact』において十分かどうかは微妙なところである。

トレード自体は非常に快適で便利

もちろん、『Artifact』の販売形態にも利点はある。というのも、Steamのマーケットプレイスを通じて、現金で他のプレイヤーとカードを売買することが可能なのだ。そのため本作では、トレードを活用することによって理想のデッキを構築することが他のDTCGと比べて容易である、という大きなアドバンテージがある。カードの引きによっては利益を出すことすら可能で、配信直後は一部の強カードに1000円以上の値がつけられるなど、新規IPとしては十分すぎるほどに活気のある市場が生まれていた。

しかし、プレイヤーがいなければ当然トレード市場は盛り上がらない。プレイヤー数の減少に従い、カードのトレード価格も次第に低下していった。また、ゲーム内通貨によるトレードは実装されておらず、クラフトなどのシステムも存在しないため、カードを入手するためにリアルマネーを用いなければならないという問題点は変わらない。

では、なぜ『Artifact』はこのようなマネタイズモデルを採用したのだろうか?実は、この『Artifact』の販売形態に非常に近いシステムを持つDTCGが今でも存在している。世界的に有名なカードゲーム『Magic: The Gathering(MTG)』を忠実に再現したPC向けオンラインゲーム『Magic Online』(2002年~)である。有料(10$)のアカウント作成、有料でのパックの購入およびドラフト参加などのシステムを持つ「Pay to Play」かつ「Pay to Win」の販売形態をとりながら、なおかつ成功を収めている。リアルマネーでのトレードもサポートしており、その市場はかつて大きな賑わいを見せた。『Artifact』は、この『Magic Online』のマネタイズモデルを成功例として参考にしているものと推測される。

『Artifact』と異なり、『Magic Online』においてそのマネタイズモデルはすんなりと受け入れられることに成功した。なぜなら、既にトレーディングカードゲームとして圧倒的なブランド力を持っていた『MTG』を、オンラインで、気軽にプレイできるというだけで『Magic Online』には十分な価値があったからだ。課金システム自体も見方を変えれば現実世界のカードゲームと同じであり、その視点で見れば『Magic Online』はむしろ低い投資額で『MTG』をプレイする手段とも言える。そのため、『Magic Online』は重たい課金システムを持ちながらも、これまで環境的に『MTG』をプレイできなかった新たなプレイヤー層に広く受け入れられたのである。

一方で、『Artifact』は、Valve/『DOTA2』というブランドこそあれ、DTCGとしては全くの新作だ。しかも斬新なシステムをこれでもかと詰め込んでおり、ゲームとしての評価はまだ固まっていない。ただオンラインでプレイできるだけで価値があった『Magic Online』と比べて、状況はおおいに異なっている。プレイヤーの信頼が十分に得られていない状況で、基本有料+追加課金という販売形態は、ややチャレンジングすぎたように思われる。

 

失われたカジュアルさ

『MTG』を開発するウィザーズ・オブ・ザ・コースト社も、『Magic Online』だけでなく「Free to Play」の『Magic: The Gathering Arena(MTGA)』を公開し、新たなオンライン展開を始めている(現在オープンβテスト中)。複雑な『MTG』のシステムをそのままにDTCGとして馴染みやすい形に落とし込むことで、ハードゲーマーだけでなくカジュアルなプレイヤーを獲得し、大きな人気を集めている。激戦区となっているDTCG界隈において、カジュアルさ、親しみやすさが如何に重要であるかがわかる例と言えるだろう。

実際、新規プレイヤーにとっての敷居が高いのも、『Artifact』のプレイヤー数の減少を後押ししている。ハードコアなゲーマー向けのゲームデザインは、代償としてこれまでのDTCGが持っていた「手軽さ」を大きく失わせてしまった。たとえば、本作はターン制を廃しアクションごとに手番を入れ替えるシステムを採用しており、これによって奥深い読み合いが生まれているが、反面として試合時間は長くなりがちだ。配信当初はレートシステムが存在しなかったのも初心者にとっては辛い部分だった(2018年12月20日に追加)。また、これはゲーム自体の問題ではないが、プレイヤー人口の減少によってプレイングが上手い/カード資産が豊富なプレイヤーしかゲームに残っていないというのも新規プレイヤーの参入しづらい状況を生んでいる。

ここまで欠点のみを挙げてきたが、その上でも『Artifact』は間違いなく高いポテンシャルを持ったゲームである。複数のレーンとヒーローの存在は、カードゲームというジャンルに新たな駆け引きの軸を作り出すことに成功しているし、ターン制を廃したことによってDTCGという枠の中でも対戦相手とのインタラクションを強く感じさせるデザインを作り上げている。

Valveは『Artifact』の今後について、Twitterで「長い目で見ていく(We’re in this for the long haul.)」と述べており、長期的な視点でアップデートを重ねていく予定であることが示唆されている。実際、配信から2か月程度の現在までに、アップデートによって強すぎるカードの修正、レート、アカウントレベルの追加、冗長なアニメーションの調整などが行われており、ゆっくりとではあるがプレイヤーの要望に答えてきている。Valveにはかつて、ローンチに失敗した『Counter-Strike: Global Offensive』(2012年)を数年がかりで大きく立て直した実績もある。『Artifact』においても今後への期待は十分に持てると言えるだろう。

Takumi Kuriki
Takumi Kuriki

気になった国内外のゲームをつまみ食いしながら過ごしています。LoLとハクスラは一生の友達。

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