ゲームメディアはリークを扱ってもよいのか?E3を騒がせた「リーク情報」について、あらためて考える

昨今のゲーム業界では、「噂」や「海外報道」という冠をつけて海外のリーク情報を流す文化が蔓延し始めている。E3 2018は特にそれが顕著だっただろう。あらためて、リークのあり方について考えるべきではないだろうか。

ニンテンドー・オブ・アメリカのレジー・フィザメイ社長は6月15日、英国IGNに「リーク」について問われた際に、以下のような回答をしている。

[perfectpullquote align=”full” bordertop=”false” cite=”” link=”” color=”” class=”” size=””]会社は、ファンを喜ばせたいと思っています。そのためにやってきています。なので、リークがあるととてもがっかりしますね。情報はできるだけ機密にしようとしているのですが、誰しもがカメラを持っており、みんながつかのまのインターネットの名声を求めている時代なので、難しいんです。それでも、情報をできるだけ機密の状態にしようと努力していますよ。[/perfectpullquote]

あくまでこの発言はフィザメイ氏のものであるが、多くの関係者が同じ気持ちを持っているだろう。Bethesda SoftworksのPete Hines氏も「関係者はE3に向けて信じられないほどハードにストレスを抱えて準備をしている(今年はそれも楽しいとも)」と話していた(Twitter)。そうした準備の中でも特に力を入れているサプライズ演出が事前に漏れてしまったとすれば、その失望ははかりしれない。リークについては、国内のゲーム業界においても無関係ではないだろう。海外ほど活発ではないにせよ、グローバル化に伴い海外から国内タイトルの情報が漏れることも多くなってきた。無視できない事象であるといえるだろう。話題にあがることも多くなった今、あらためてリークについて考慮してみたい。

まず、本題に入る前にリークについて定義する必要がある。英単語としては「leak」の自動詞の「(情報が)漏れる」という定義で使われるが、そうなると会社側が誤って情報を出してしまうことも含まれる。そうしたものもリークの一部だと考えられるとは思うが、本稿においては誰かが作為的に情報を流すという点で他動詞「(情報を)漏らす」の意味で統一しよう。

 

E3を騒がせたリークたち

Image Credit : Reddit

 

それでは、今年のE3 2018ではどのようなリークが流れていたのだろうか。もっともセンセーショナルなリークだったのは、ウォルマート・カナダ店の未発表タイトルの大量開示であるが、こちらは漏らしたのではなく漏れたというのが正しいと思われるので、除外させていただく。もうひとつSNS上で広まったのは、ソニー・インタラクティブエンタテインメントのカンファレンス内容をリークする画像だ。リストには既出タイトルに加えて『Bloodborne 2』や『PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS』といった“それっぽい”作品を掲載しているが、結果的にはフェイクであると判明している。

そのほか、個人ユーザーがFacebookに投稿した画像として『Metroid Prime: Renegade』『F-ZERO SX』といった未発表作品を含む任天堂の出展タイトルを示す画像が世界中で広まった(PowerUP)。こちらも最終的にはフェイクであることが発覚している。またロシア発のリークとしては、『Destiny 2: Ghost of Nagasaki』といったなかなか“飛ばした”リストを掲載するものも確認されており、こちらものちにフェイクであると判明。ほとんどのリークがユーザーたちの妄想であったが、ひとつ本物が混じっていた。それこそが、フィザメイ社長を悲しませたリーク画像だ。『フォートナイト』や『ドラゴンボール ファイターズ』『Paladins』といった作品が並んでおり、結果的にはこの4chanに投稿された画像はまさしくリークであった。すべての情報が明かされたリークではなかったものの、冒頭の失望はこの件について指しているのだろう。

Image Credit : TechTimes

リークによって失われるものは、やはりフィザメイ氏が強調する“驚き”という面が大きいだろう。サプライズが失われるというのは企業にとっても苦しいが、ユーザーにとっても公式ではないところからそういった情報を得てしまうのは落胆につながる。繰り返し述べるサプライズの興奮が薄まってしまう点、そして不正確な情報を得ることになるからだ。会社の公式による発信に期待しているファンならば、なおさらだろう。また大型タイトルの情報露出が小出しになっている点も、リークの影響が大きいと考えられる。『Assassin’s Creed Odyssey』も『Fallout 76』もまずはE3前にティザー公開をしたのち、E3にて正式なお披露目をしている。段階的な情報公開を決断したわけだ。もちろん、この形式を好むユーザーもいるかと思うが、正式発表と同時に多くの情報が公開される、従来の形式を恋しく思う方も多いのではないか。『Assassin’s Creed Odyssey』に至っては、リーク情報が出たその日の夜に発表されるなど、リークの影響を感じさせる。業界全体の情報公開のタイミングを変えるほど、リークには大きな影響力があるのだ。

 

リークという文化

欧米のゲーム文化においては、リークすることはジャーナリズムのひとつとされる傾向にある。たとえばKotakuのJason Schreier氏はこれまでに多くのビッグタイトルの機密情報をすっぱ抜いてきた。独自の情報網により極秘の情報を正確に深掘りし、Kotakuにて公表する氏は多くのファンを抱えており、「真のジャーナリズム」と絶賛する声も少なくない。一般的には、独自情報を入手することは、取材力があるものとして評される傾向にある。こうした傾向が、欧米コミュニティの間では素直に反映されているのだろう。もちろん、Schreier氏の手腕は氏の実績を考えればジャーナリストとしての力量があることは疑いないが、取材対象となるのはいち会社の製品情報であり、情報の先出しをすることで“アクセス稼ぎ”をしていると考えれば、易易とは応援しづらい側面もあるだろう。

*ちなみにSchreier氏は、『Fallout 76』にオンライン要素があることをリークした。その理由として「どんなゲームかを言わずに予約の受付を開始したこと」をあげている。闇雲にリークをしているわけではないようだ。

そして、こうしたリーク文化が国内にも流れてきつつある。国内メディアで「噂」「海外報道」の冠を題してこうしたリークを見ることも増えてきた。問題となるのは、タイトルにてそうした情報が目に入る点だ。タイトルに入れればリークを望まぬ人々の目にも入ることになる。拡散をすればするほどそうした被害は拡大していく。もちろん、リークという言葉でなければ信憑性も落ち、真実性を取捨選択できる余裕が生まれる。しかし「噂」「海外報道」は形を変えたリークでしかない。もちろん、弊誌もそれは例外ではない。弊誌でも不慮によってネタバレ事故を起こした記事はいくつもあり、最近でも『Fallout 76』の初報記事にて前出のSchreier氏の報告を引用している。リーク情報については積極的には取り扱わない編集方針であるが、リークを扱っていないといえば嘘になる。そうした記事によって不快になった人々も多くいるはず。リークについては、今後真剣に考えていかなければならない身だ。

 

誰のためのリークなのか?

リークにより情報を先行入手できるというのは、魅力的だ。情報社会の発達により、内部情報もワンクリックで見えるようになった。情報のリークや内部事情を知れる好奇心に胸をときめかせる人もいるだろう。また『Fallout 76』のように、オンライン対応ということがリークされたことにより、結果的に覚悟をもって正式発表を直視できた人もいるのではないだろうか。そして、いまだにリークがなくならないということは、一定の需要があることを意味している。明日発表されることであっても、今日知っておきたいと思う人々は多くいるのではないだろうか。

リーク自体にもさまざまな形態が存在することは留意すべきだろう。リーク自体を記号化して伝えるもの、リーク自体を目的とせず問題提起を意図するもの、そしてリークの情報元のメディアであるか、そしてそれを拡散するメディアであるか。リークひとつをとってもさまざまな形態が存在するが、少なくとも驚きを失わせるという点では同じだろう。またリークのデメリットのひとつ「驚きが失われる」という意味では、商標登録やドメイン取得を大きく報じることもリークに近しい性質を持つ。公式の情報ではあるものの、会社自体が公表していなければ、意図したものではない。つまり、同じくサプライズの醍醐味を削ぐ行為のひとつであるといえる。厳密にはリークではないものの、情報を発信するメディアはそうした影響力を考えて報じる必要があるのではないだろうか。

みなさんはリークについてどうお考えだろうか。リークをすることで喜ぶ人もよりも悲しむ人が多いと思われる点で、筆者はリークについては基本的に否定的だ。現在AUTOMATONの公式Twitterにてリークについてのアンケートを実施しているので、意見のある方はそちらに投じてみてほしい。

 

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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