AUTOMATON Awards 2016
「相棒型・指令型ストーリーテリング賞」
「狂言回し」という言葉がある。ストーリーの理解を手助けするために進行役を務めるキャラクターのことだ。小説や映画といった作品と同じく、ビデオゲームにおいてもストーリーを豊かに語ろうとする場合、この手法は極めて有効である。ビデオゲームにおける狂言回しは現代のビデオゲームにおいて確立されており、大まかに言って2つの分類に分けられるだろう。
・相棒型ストーリーテリング
『ポートピア連続殺人事件』が初期の代表作。さらにいえば「モルグ街の殺人」以来の探偵小説のスタイルに起源が求められる。主人公に付っきりの相棒・助手・恋人・家族・仲間などがストーリーの解説・進行・主導役を務める。一度は廃れてしまったこの手法は、『アウターワールド』を経た上で、アクション・アドベンチャーゲームである『ICO』と『Half-Life 2』にて決定的な形となって再発見される。
・指令型ストーリーテリング
『メタルギア』が初期の代表作。『ポートピア』では主人公(=プレイヤー)は助手に命令する側だったが、この手法では主人公は命令される側として存在する。アクションゲームにおけるストーリー表現は、ブリーフィングで冒頭に目標が示される程度だったが、「指令型」はストーリー進行によって司令官が介入し、その時々で命令が変化し、目標が更新されることが特徴。FPS/TPSで広く取り入れられている。
なお、この2つが両立している「相棒型+指令型」のゲームも存在している。この「相棒型」「指令型」「相棒型+指令型」という観点に立って、AUTOMATON Awards 2016 「相棒型・指令型ストーリーテリング賞」として2016年最高のゲームを決めたいと思う。その選考の前に、近年の「相棒型」「指令型」の再発見について触れておきたい。これ抜きには現代のゲームを理解できないからである。
近年の「相棒型」「指令型」の再発見
『ポートピア連続殺人事件』にて登場し、その後の他のアドベンチャーゲームでも模倣された進行・主導役を務める狂言回しの手法「相棒型」。その「相棒型」とは異なる価値観を提示したのが、上田文人氏の『ICO』である。上田氏は『アウターワールド』の大ファンであることを公言しているが、上田氏が『アウターワールド』で描かれた言葉が通じない相棒の異星人に見たものは、ストーリーを主導してくれたり解説してくれる狂言回しとしての相棒ではなく、共にパズルを解いてくれる存在としての相棒である。これは言い換えれば、一緒に世界で遊んでくれたり、同じ空間を共有する存在そのものに重きを置いた、ストーリー進行に必ずしも従事しない「相棒型」といえるだろう。
従来通りストーリーを主導したりプレイヤーに先駆けて先行する相棒を、アドベンチャーではなくアクション・アドベンチャーで登場させた点が革新的だったのが『Half-Life 2』だ。特に顕著だったのが、その続編の『Half-Life 2: Episode One』である。初代『Half-Life』においても、キャラクターが主人公に付き従うという仕掛けはすでにあったが、そのキャラクターが率先してストーリーを引っ張ることはなかった。『Half-Life 2: Episode One』に登場する相棒は、一緒に敵と共に戦い、見るべき場所を指し示し、危機が迫ると「危ない!」と知らせて、ストーリーを盛り上げる。『Half-Life 2』にて狂言回しとしての相棒がアクション・アドベンチャーに登場した意義は、現代ゲームにおいて極めて大きい。
この『ICO』と『Half-Life 2: Episode One』の影響を受けたゲームが『BioShock Infinite』と『The Last of Us』である。特に『The Last of Us』は『ICO』的な価値観に重点を置いている。ストーリーDLCの『The Last of Us Left Behind』になると、相棒と廃墟になったゲームセンターで共に戯れるだけというのをゲームとして成立させおり、稀有な美しさを表現していた。そういう意味では、『Left Behind』は本編を上回る傑作である。
『BioShock』では「指令型」の再発見がなされている。『メタルギア』シリーズの「指令型」の延長線上にある作品だが、「指令型」にビデオゲームのストーリー批評的なテーマを盛り込ませることに成功した。これはいわばビデオゲームのストーリーの欺瞞性を暴露したり、告発するような内容といえるものだ。『BioShock』のあと、口火を切ったように『Call of Duty : Black Ops』『Hotline Miami』『The Stanley Parable』『Spec Ops:The Line』『Far Cry4』のような、ビデオゲーム批評的な「指令型」のゲームが続々と登場してきたのは偶然ではないだろう。
2016年の相棒型・指令型ストーリーテリング賞選考
それでは選考に移ろう。2016年を振り返っても「相棒型」と「指令型」を採用しているゲームは確認できる。たとえば「相棒型」としては『ライフ イズ ストレンジ』『ペルソナ 5』『人喰いの大鷲トリコ』『ファイナルファンタジー XV』、「指令型」としては『Replica』『ドラゴンクエストビルダーズ』『Call of Duty: Infinite Warfare』『ウォッチドッグス2』、「相棒型」と「指令型」を組み合わせたものとしては『Firewatch』『タイタンフォール 2』が挙げられる。このなかから「相棒型・指令型ストーリーテリング賞」として、もっとも優れたゲームを独断で選んでみたい。
最優秀 相棒型ストーリーテリング賞 『ファイナルファンタジー XV』
「最優秀 相棒型ストーリーテリング賞」は、『ファイナルファンタジー XV』を選ぶ。この選考の理由だが、『ライフ イズ ストレンジ』は「相棒型」としてみた場合、最後までそれが貫徹していないのが惜しく、『Left Behind』と比較すると戯れという部分が弱い。『ペルソナ 5』のモルガナは『ポートピア』直系のしゃべらない主人公に対する相棒だが、モルガナの記憶喪失の部分も含めて「相棒型」の手法が上手く活かされていたとは思えなかった。『人喰いの大鷲トリコ』は相棒を人間ではない大鷲トリコという設定することによって、逞しさと頼りなさを共存させる相棒を表現していたとはいえ、『ICO』の延長線上にあるものだった。もしトリコと戯れることが出来て、それだけで時間を忘れてしまうような体験ができたら、『人喰いの大鷲トリコ』を最優秀作品として選んでいたかもしれない。
その点、『ファイナルファンタジー XV』はRPGの伝統的な要素を「旅」という切り口でもって刷新しており、古くて新しい奇妙な新感覚のゲームになっていた。連れ添う相棒が複数人にいたことや、仲間が撮る写真、仲間が運転する車、キャンプといったギミックも利いている。おそらく『The Last of Us』を参考にしたのか、狂言回しとしてのストーリー主導の「相棒型」だけではなく、『ICO』以後の存在としての「相棒型」にも目配せしていた。メインストーリーの描写不足などは目に付く部分ではあるが、あくまで「相棒型」という観点の場合、今年はこれ以上のゲームはなかったと思う。
最優秀 指令型ストーリーテリング賞 『Replica』
「最優秀 指令型ストーリーテリング賞」は『Replica』を選ぶ。対抗馬の『Call of Duty: Infinite Warfare』は従来のビデオゲームでは扱われてなかったテーマを持ち込んだ点で、もっと評価されてもいいと思っているゲームだが、「指令型」として評価するのは違うだろう。というのも『Call of Duty: Infinite Warfare』の主人公は指令される側ではなく指令する側になってしまったからだ。『ウォッチドッグス2』はハッカーのチームが主人公を監視しており、指令するキャラたちの掛け合いが楽しく、しゃべっているときはその顔グラフィックが表示されるので、少しだけ新規性は感じさせたが、そこだけである。本当は対抗馬に大作FPSがもっと入るべきなのだろうが、『Far Cry PRIMAL』は原始時代が舞台になり、『Battlefield 1』は第一次世界大戦が舞台になったことで、「指令型」ではなくなり対象外になってしまった。
だが仮に対抗馬が揃っていても『Replica』を選んでいただろう。他人のスマートフォンから個人情報を詮索するゲームだが、主人公を脅して指令してくる相手の顔の見えない不気味さや、指令がSNSで飛んでくるなど、内容とスタイルが一致したものとして高度な「指令型」を実現していた。実は『ドラゴンクエストビルダーズ』が『Replica』といい勝負なのである。『ドラゴンクエストビルダーズ』は『BioShock』以後のストーリー批評的な要素を持っており、指令側に立つ精霊ルビスが主人公に「あなたの役目は終わりました」として、まるで『ポートピア』のようにゲームプレイの放棄を求めてくるギミックはなかなか利いている。だが「指令型」という全体的なところを見て『Replica』を選んだ。
最優秀 相棒型+指令型ストーリーテリング賞 『Firewatch』
「最優秀 相棒型+指令型ストーリーテリング賞」は『Firewatch』を選ぶ。対抗馬が『タイタンフォール 2』しかなかったが、こちらも優れたゲームで悩むところではあった。分類すると『タイタンフォール 2』は『Half-Life 2: Episode One』の系譜であるストーリー主導の「相棒型」をベースに、既存のミリタリーFPS的な「指令型」が加わったスタイルといえるだろう。間違いなく『タイタンフォール 2』のタイタンBTは『Half-Life 2』に登場する相棒ロボットDOGの子孫だ。タイタンBTとのユーモラスな掛け合い、次第に芽生えていく絆、返答の選択肢のギミック、見せ場たっぷりのアクション、非常に高水準のゲームなのは間違いない。
だが、『Firewatch』は「相棒型+指令型」が渾然一体となって離れがたいものとして成り立っている点において評価したい。ウォーキング・シミュレーターという体裁をとりつつ、その退屈で引き伸ばされた空間に、トランシーバーから発せられる声だけの存在に注意を向けさせるゲームデザイン。『メタルギア』の無線通信の「指令型」の系譜ではあるが、膨大な会話を通すことにって、対立や絆を描き「相棒型」として成り立たせた。ウォーキング・シミュレーターでは『Dear Esther』以降、内的独白などの画面外の声を重要な要素として扱われてきたが、これを単純にトランシーバーでの通信に置き換えたのは古くて新しい。またこのトランシーバーからの通信を無視できるという点が『メタルギア』の伝統を踏まえていることでも評価できる。
特別賞『That Dragon, Cancer』
最後に特別賞を『That Dragon, Cancer』に贈りたい。分類をするならば、狂言回しではなく、『ICO』が先陣を切り『Left Behind』で可能性を拡張させた相棒の存在そのものを重視する「相棒型」といえる。だが、本作はほとんどビデオゲームの歴史は踏まえていないと思える。ゲームのスタイルはポイント&クリックアドベンチャーだが、ひたすら前に移動する感覚や画面外からささやかれる声はウォーキング・シミュレーターのようでもあるし、視点の主体もコロコロ変わる。つまりスタイルだけ見ると、洗練されていない雑多な印象を受ける実験作なのだ。
ただ本作は、癌に侵されて5歳の息子を亡くした夫婦が、その思い出のために制作したゲームなのである。つまりストーリーはその息子を中心として語られることになるが、赤ん坊なので進行役を務めるわけでもなく、何かプレイヤーに働きかけてくるわけでもない。ただそこに存在している点において、『Left Behind』の方法論がさらに強力な形となってミニマルに表現されていると言える。ゲームの中でゲームを遊ぶところは『Left Behind』と共通するところで興味深いところだ。実際のところ、その赤ん坊を中心とした手法が貫徹されているので、その雑多なゲームスタイルは幻想的なアートワークと共に気にならないどころか、むしろ新しいとさえ思えた。もはやエッセイ的な領域に踏み込んだ本作は特別賞に相応しい。
冒頭で述べたとおり、相棒型・指令型ストーリーテリングは80年代から存在しているが、2016年だけでもこれだけ新しいものが登場している。2017年でもどんな相棒型・指令型のゲームが登場するのか、そしてそれがどう変化していくかを注目していきたい。