『Battlefield Hardline Beta』 そんな混ぜ方で大丈夫か
兵は神速を尊ぶ。プレイ開始後4時間段階でのファーストインプレッションをお届けするのが[4 Hours Impression]です。第6回の今回はクローズドベータ(ただし実質的にはほぼ完全オープン)中の『Battlefield Hardline』(以下『Hardline ベータ』)。プラットフォームはPC/PS4。本作は文字通り説明不要の『Battlefield』フランチャイズの作品で、ベータ期間は6月27日まで。参加登録はすでに締め切られています。
なお、本稿はPC版(Origin版)をプレイし執筆しました。
いったい何がしたいのか
私はゲームを批判するのがじつはあまり好きではありません。不特定多数へ公言するかたちでならばなおさらです。しかし、『Hardline ベータ』はほめるべき点よりもあまりに問題点が多く、とてもではありませんが持ち上げる気にはなれません。
このゲームをプレイしての第一印象は私の口をついて出ました。「いったいこのゲームは何がやりたいんだ?」。いつわらざる本音であり、われながらすべてを集約したコメントです。
すでに海外のゲーマーによりさんざんいじくり倒されているのをご存知の方もいらっしゃるでしょうが、本作はいわば「おどろくべき志の低さ」を内に秘めています。"Call of Battle Day 2 Hardline"とはよく言ったもので、とりあえず混ぜればいいんじゃないか? くらいの安易さですべてが設計されたのではないかとすら疑ってしまいます。
悪魔合体の素材になったのは、もちろん『Battlefield 4』、そして『PAYDAY 2』シリーズ、『Call of Duty』シリーズ(一部の説では『Grand Theft Auto』シリーズも)あたり。そしてこれは合体事故を起こしています。できあがったものは……
完成度の低いCTF
ゲームのコアには『Battlefield 4』が採用されており、また全体的な動作も(『4』とくらべれば)軽く、その点においてはけっして悪くありません。逆にいうと、それ以外のほとんどすべてが破綻寸前です。
本作は、旗が札束にすげかわっただけのキャプチャー・ザ・フラッグルールにすぎません。しかしながら、それならそれで『BF』的におもしろくなる可能性もありうるでしょう。ただ、ベータでプレイできたマップのデザインが悪かっただけなのかもしれないと前向きに考えるにしても、あまりにも退屈な現生争奪戦でした。
現金のあるたった1つのポイントへ向けて向けられる銃座・スナイパーライフル・RPG。合間をぬって――というよりも事実上「運よく」――カネを回収して自陣へ戻る。ただそれだけです。いちおう敵陣からカネを奪い返すこともできるのですが、時間的コストと殺傷リスクが高すぎるため、そうとう統率がとれていなければ現実的ではありません。
こう書けば「よくあるCTFじゃないか」と感じられるFPSゲーマーも多いことでしょう。問題は、『Hardline ベータ』にあった純粋な手触りの悪さ・つまらなさにあります。移動もカネの回収も戦闘も、すべてが偶発的で、テクニックや知識が介入する部分がとぼしく、あまりにもランダムなのです。
たとえば、どれだけクリアリングを丁寧にしたところでビルの屋上にこもって現ナマポイントへ銃口を向けているスナイパーを排除することは至難であり、突然「カネなんてゴミクズ同然よ」とばかりに回収ポイントへ飛んでくるRPGを避けることもほぼ不可能です。
結果どうなるかというと、無心に回収ポイントへ向かい、殺されても殺されても向かい、回収すれば自陣へ戻り、以下回遊魚のごとく繰り返し。乗り物は、戦術よりもすばやい移動手段としておもに機能します。いえ、たしかにそれも楽しいといえば楽しいのですが、面白いゲームといえるのでしょうか?
本作のゲームシステムについて評価すべきところといえば、「ゲーム内通貨でアイテムをアンロックできる」というシリーズ新要素くらいのものです。これは試合の勝利とプレイヤーのインセンティブが連結しており、悪くありません。とはいえ正式リリース後数か月もたてばまた「すべての装備を解禁するにはこれだけお支払いください!」戦法が飛んでくるのかと思うと、拍手の手も止まってしまいます。
空気作りに失敗している
しかし、上述したように「未完成のゲーム」であること自体はじつのところさほど問題ではありません。しょせんオープンベータだからです。マップだってレベルデザイナーが3日で作ったものかもしれません。そこを改善するだけでゲームとして面白くなる可能性は低くない、むしろ高いとすらいえるでしょう。
問題は空気作り、世界観です。なぜ警察とテロリストが街中の現金を奪い合っているのか? なぜ端金を詰めたカバンのために兵士たちは命を賭けるのか? なぜこんなところに大量の現金が置いてあるのか? なぜ警察までカネを集めるのか? なぜ500万ドルぽっちで戦争に決着がつくのか?
フィクションに細かい現実で突っ込むのは無粋、そのとおり。ただ、そんな「常識」をふまえてすら『Hardline ベータ』の世界観は目に余るのです。アメリカ・ロシア・中国が各地で入り乱れ交戦する『4』にあった、言外の説得力は絶無とすらいえます。ここでつまずいているという事実はけっして軽くありません。
本作にあるのは、魅力ではなく大量の突っ込みどころからくる「笑い」です。それを狙っているというのなら、『Battlefield』がそういう進化をしようとするのなら、しかたがありません。ただ、誰が得をするのでしょうか。あと、どこが「筋金入り」("hardline")なのでしょうか。
そもそもなぜ今テストするのか
『Battlefield 4』はまだ終わったコンテンツであはりません。夏には追加コンテンツが予定されています。このタイミングでオープンベータをするということは、『4』のデジタルデラックスエディション購入者がその権利を喪失するころ、『Hardline』が出ると邪推せざるをえません。
Eurogamerの取材にたいしDICEは『4』のサポート継続を公言していますが、サポートの有無は実際のところ問題ではありません。プレイヤーとコミュニティの分断こそが問題なのです。
フルプライスゲームを定期的に出して利益を獲得したいという経営上の動機は当然理解します。ただ、こうしたロードマップを今後も展開しつづければ、ユーザーの"成熟"を前に利益だけを刈り取るような結果をまねきかねません。続編は、あくまでもコミュニティ(の大半)が総意として望んだときに創られるのが理想です。
人間が1日にゲームに接する時間にはかぎりがあります。五月雨的にフランチャイズを展開することのリスクを、コミュニティ内の各プレイヤーに「ゲームの所有」という格差を生み出しかねないことを、はたしてEAとDICEは認識しているのでしょうか……いいえ、認識しているに違いありません。なればこそ、けっして愉快な話ではありません。
【ご参考】
Choke Point | DICEが『Hardline』発売後の『Battlefield』フランチャイズに言及、サポート継続の明言と年刊化の否定
「お祭り」でかたづけざるをえない状況だったのか
さて、空気がどうのフランチャイズがどうのと、そういう七面倒なところは締めにふさわしくありません。もちろん重要なのは、本作の正式版がきちんと面白くなるかどうかです。
よく『Battlefield』シリーズは「お祭りゲー」などと表現されます。シリアスになってコンマ一秒を取りあうようなシビアなFPSではなく、多数のプレイヤーが入り乱れてドンパチする、すなわちお祭り状態的な精神性でプレイするもの、ということです。
ですが、「お祭りゲー」というのは免罪符ではありません。「お祭りゲー」だから不出来で雑な設計が容認されるということではありえず、あくまでもきちんと用意された舞台のうえでプレイヤーらが狂喜乱舞するからこそ「お祭り」なのです。
すべてをそぎ落としゲームプレイだけにフォーカスした場合、『Hardline ベータ』へ浮かび上がる疑問はこうです。「なぜこれでテストしたのか」。もう少し創りこんでから公開すれば、前向きな評価も意見もより多く集まったでしょう。私が一番心配するのは、こんな状態でベータテストを展開しなければなかったという「事態」そのものです。