『Pro Cycling Manager 2014』 ロードレースファン「だけ」への灼熱ラブレター

Pro Cycling Manager 2014』(以下『PCM2014』)は、サイクルロードレースとそのチーム運営をテーマとしたタイトルです。プラットフォームはXbox 360/PS3/PS4/PCのマルチ。Steam版は前作・前々作から引き続き、自転車レースの最高峰「Le Tour de France(ツール・ド・フランス)」の開幕直前のリリースとなりました。これ以上ないタイミングです。

 


徹底的な「シミュレーション」

 

「Simulator」とタイトルにつけただけの凡作またはゲーム以外のなにかが跳梁跋扈するこのご時世、『PCM2014』は真の意味でのシミュ レーター路線を採用しています。メインモードにあたる"CAREER"ではタイトルのとおりプロロードレースチームを運営することが目的となります。その 緻密さや尋常ではなく、チームメンバーのコンディション管理からトレーニング計画、チーム構成計画・契約、機材の研究開発等など、生なかな覚悟では頭が沸騰するにちがいありません。

レース本番にあたる"STAGE RACE"と"STAGE"についても、山盛りの情報量から適切な戦略を選出しなければなりません。最初にプレイしたとき、思わず「プロチームの監督って こんなにいろんなこと考えてたのか」などと口走ってしまいました。ロードレースがただ自転車をこぐだけのスポーツではないことくらい知っていましたが、これほど追究されるとさすがに頭がさがります。

細かいところでは、レースシーンを観戦するさいに複数のカメラアングルが用意されていること、そしてそのなかのひとつに「バイクカメラ」があるこ と。ロードレースの中継といえばたしかにオートバイからの映像です。それにバイク走行音がかさなり、まさしくレースを観ている気分にさせてくれます。さらに細かい、もはや細かすぎてどこに向かっているのかわからない部分では、カメラの色味を変更するという要素の存在を指摘せざるをえません。これまたたしか に各国の撮影機材により異なるため、単一色では"リアルさ"に欠けるという判断があったことも推察できます。しかし、ここまでやるとは……。

とにもかくにも、本作は徹底的にロードレースとそれをとりまく環境をシミュレートしたタイトルである、それを究極の目標としている、そう断言してかまわないでしょう。

 

膨大なデータの洗礼。この時点で半端者はふるいにかけられるでしょう。
膨大なデータの洗礼。この時点で半端者はふるいにかけられるでしょう。

 


どこに向けた作品なのか

 

シティサイクル(いわゆるママチャリ)が歩道を支配し、道路交通法の周知徹底すらなされない日本ではあまりメジャーではありませんが、そもそもロー ドレースは海外、とくにヨーロッパやアメリカでは大変人気の高いスポーツです。なかでもツール・ド・フランスの観客動員数は1000万人を超えており、世 界的な知名度を獲得しています。ちなみにコミックマーケットは50万人ほどです(それはそれですさまじいことなのですが)。

さて、では本作がツールにかけつけた1000万人、さらにはそれを視聴した数十億人に照準を合わせた作品なのか? となると、すこしばかり疑問がのこります。ゲーム内容があまりにも複雑すぎるからです。そこそこゲームをかじってきた私でも、このゲームの全体像を即座に つかむことはできず、手探りでひとつひとつ理解していくしかありませんでした。チュートリアルもなくはないのですが、非常に質素です。

とにかく、本作はゲーム中にロードレースのなんたるかを説明するようなことはほとんどありません。知っていて当然と作品全体がいわんばかりのたたずまいです。そのうえで、ゲーム的な難しさ、たとえば複雑に入り組んだパラメーターなどがあるわけです。

こうなると、本作のターゲットはただひとつです。そう「サイクルロードレースファン」かつ「ゲーム好き」。両者を満たす者だけが本作をプレイする有資格者であり、そうでないなら買うべきではありません。

 

初日のタイムトライアルを観戦中。 エース出走直前に天候悪化。
初日のタイムトライアルを観戦中。

エース出走直前に天候悪化。

 


そもそも複雑怪奇な「ロードレース」

 

一般的な日本人は、サイクルロードレースといえばグランツール(ロードレースにおいて最も有名なものの3つ)のニュースをちらりとテレビで見かけるくらいのものであり、「ようするに一番速い選手が勝ちなんだろう?」くらいのイメージしかないものと推測されます。

もちろんそれは大部分において誤解です。ロードレースは説明にチェスがひきあいに出されるほど戦術的・戦略的なスポーツであり、一筋縄ではいきません。たしかに「一番速い選手」を決めるのですが、その過程は混沌をきわめます。

『PCM2014』は、そしてロードレースの妙味を伝える努力をほとんど放棄しています。あくまでも本作はシミュレーターなのだから、最初から興味のない者・ついてこれない者のケアなど知ったことではない、という剛直ぶりがあることを覚悟しなければなりません。

 

この絵面になにか感じるところがなければなりません。
この絵面になにか感じるところがなければなりません。

 


具体的なゲーム内容について

 

さて、この項だけはロードレースをご存じの方向けに本作を解説します。

"CAREER"モードは、各プロチーム(一部プロコンチネンタルチーム)のなかからいずれかひとつ選択し、日単位でチームを運営していきます。先 述したとおりの各意思決定はもちろん、レースモードでのリアルタイムのオーダー出しなど、およそロードレースファンが知りうる、そして望みうる多くをゲー ムとして織りこんでいます。個人的には、各選手の契約金と来年度の契約の要素になにか熱いものがこみあげてきました。

チームのエースを一位に放りこむため、ローテーションはもちろん、「防御」(風よけ)、ボトル運び、その他もろもろアシスト勢に求められる多種多様な指令を適宜出す必要があります。そうしなければ勝利はおぼつきません。

"CAREER"では、地方局くらいしか中継しないのではないかというくらいのレースですら参戦の対象になるため、そうした重要度の低いレースはスキップして結果だけ見るということもできます(もちろんグランツールでもスキップできますが、意味はないでしょう)。

また、ロードレースにありがちな偶発的な事象、代表的なものでは天候の変化や落車などの要素ももちろんあります。チームスカイで意気揚々と参戦した パリ・ニースの初日にChris Froome(フルーム)がプロトン内でいきなり落車したときなど、あらためてロードレースのおそろしさを認識するはめになりました。ちなみにその後、フ ルームは意地を見せつけ最終結果は7位。さすがは(現実の)2013年ツール総合優勝のエースです。

シミュレーターとして文句なしの『PCM2014』ですが、それゆえにすこし気になる点もいくつかあります。まず、各選手の造形。いちいち全員分モ デリングできるはずがないことも理解できますが、せめてエース級くらいはきちんと個性を出すべきだったのではないでしょうか。つぎに、メンバーがどうもチーム所属選手全員ではないらしきこと。一部日本人選手が不在でした。そして、なぜか"CAREER"モードには存在するのに"STAGE RACE"と"STAGE"モードでは選択できないコースがあること。まっさきにジャパンカップにチームスカイを送りこんでやろうとしたのですが、できま せんでした。このあたりは存在理由がよくわからない「不満点」です。

なお、本作を攻略しようとしている日本人は数少ないながらも存在するようで、いくつか日本語テキストがあります。なかでも一番ちからが入っているのはニコニコ大百科。あなどることなかれ、ゲームの進行を把握するのに必要な要素がひととおり網羅されています。

 

レースパート自体は8倍速モードの存在のおかげでそれほど中だるみはしません。
レースパート自体は8倍速モードの存在のおかげでそれほど中だるみはしません。

 


ロードレースを知りたい?

 

もし本稿や本作(の広告)をご覧になって「なんかツール・ド・フランスってのを今やってるらしいし、ロードレースっておもしろそうだ!」と、なにか のスイッチがバチンと入った方向けに、シビアですが一言アドバイスさせていただきます。このゲームでロードのなんたるかを学ぶのは無理です。

繰り返しますが、『PCM2014』はロードレース好きのゲーマーへ届けられるべきゲームです。どちらの要素が欠けていてもゲームを楽しめません。弊誌をお読みの方はほぼ全員がゲーマーでしょうから、ロードレース・ロードバイクに興味があるか否かが分水嶺です。

スイッチが入った場合、ゲームを買うのは後回しです。まずロードバイクを購入し、街を走り回り、J SPORTSを契約し主要なロードレースを視聴し、さらに各自転車系ニュースサイトを巡回する。マンガでは『弱虫ペダル』が有名ですが、個人的には『かもめ☆チャンス』と『のりりん』『ツール!』あたりがおすすめです。

そうして愛を丹念に愛を育んだのち、『PCM2014』を手に入れる。それがきっと本作を楽しむための最短距離です。

 

華やかなロードレースを題材としたゲーム、敷居はけっして低くありません。 テレビの実況中継ならばただ観戦するだけで楽しいのですけれども……
華やかなロードレースを題材としたゲーム、敷居はけっして低くありません。テレビの実況中継ならばただ観戦するだけで楽しいのですけれども……
Nobuki Yasuda
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