『メタルスラッグディフェンス』 Ver.1.5.0 堅実なアップデートと残る不満

iOS/Android『メタルスラッグディフェンス』(以下『MSD』)は、刑事告訴表明のPDFのなかで広告を打つという稀代の戦略で一部のゲーマーをおどろかせた。あまりにも斬新なその手法から逆に中身の不在を疑ってしまったかたもいらっしゃるかもしれない。だが、本作は間違いなく堅実に歩を進めている。本稿は前回のインプレッションから3か月経過した現段階であらためて『MSD』をふりかえり、そしていまなにが不足しているかを考えるものだ。

 


誠実な売り切り課金

 

この手のモバイル端末ゲームといえば、ありとあらゆる課金導線が埋設されているものだ。だが『MSD』は剛直なスタンスをつらぬいている。カネをつっこめるのはショップでユニット購入くらいだ。しかも任意選択からの売り切りであり、ガチャではない。アップデートで一部色気を出している感はあるが(ミッション失敗時のコンティニューに課金導線が増設された)、たいした問題ではない。

やや鬱陶しい広告が出るようになったことも、慣れれば気にならない。右上の×ボタンを押せばすぐに引っ込む。なにより、対戦中には(当然といわれるかもしれないが)いっさい登場しない。広告バナーへのミスクリックを誘発させんとの意志が見え隠れする作品が多々あるのだから、これは誠実な部類だ。

おどろくべきことに、『MSD』の課金要素はこれでほぼすべてである。ミッション補助アイテムはなくてもかまわないし、MSPはダダ余りになるし、スタミナは不足するケースがそもそも少ない。ログインボーナスで獲得できるアイテムを駆使すれば、本当に「課金はユニット購入だけ」でなんの不満も感じずプレイできる。

セールのタイミングがわかりやすいのも良い。無闇矢鱈と「祝!何万ダウンロード!」をやらない。リセマラもなにもない。本質的には対戦ゲームなのだから当然といえば当然なのだが、こうした公平性は昨今失われつつある。

また、ここまでで明確なメルクマールとなった2回しか、全体値下げにあたるキャンペーンを実施していない。だからタッチの差でセールをのがして歯噛みした人もそうはいるまい。万が一悲劇にに遭遇したのなら、つぎからは風の息づかいを感じよう。

これだけダウンロードされているのだから、もうちょっと商売気を出してもよさそうなものだ。しかしいまのところSNKプレイモアは一線を踏み越えず、踏みとどまっている。偉大である。

 

誠実さが光る。
誠実さが光る。

 


Pay to Winのようななにか

 

『MSD』のエンドコンテンツにして中核にあたる対戦で勝利をもぎとるとなると、たしかに課金は必須だ。上位ランカーどころか、適当にマッチングして遭遇する対手でも十中八九、デッキの過半が有料ユニットで占められている。これは事実だ。

だが、上述したとおり本作にはそれ以外の"搾取"要素はほぼない。1回何百円もかかるガチャを回す必要もない。ユニットはせいぜい1つあたり500~600円ほどだ。必要な戦力をそろえるのに1万円もかからない。ほしいユニットをかたっぱしから買った私ですら(セールを狙い撃ちしたとはいえ)、諭吉を2人も3人も失ったりはしていないのだ。

しかるに、本作はプレイヤーの精神と財政を極限状態に追いこむようなピュアPay to Winではない。数回も対戦すれば強い構成はわかる。そして強力な対戦相手のデッキををトレースすればいい。財布へのダメージはフルプライスゲーム1本程度ですむはずだ。

ここでSNKプレイモア『MSD』チームの絶妙なバランス感覚が光る。無差別に有料キャラを買いあさる必要はない。だが、新キャラが"微妙に"強いのだ。このわずかなさじ加減は当然ながら対戦結果を左右しうるものだ。

「いつもトレンドのユニットを買っていなければならない」ではない。しかし徐々にパワーバランスはインフレ方向へシフトしている。そこで、まれに来るセールが強烈に効く。私の場合、先日まで実施されていた半額セールで5000円ほど課金してまとめ買いした。こうしたカネの吸いあげかたはけっして売り手側からすれば有利ではないだろう。つねに小銭をたれながさせたいはずだ。だが本作ではいまのところそうした手法は採用されていない。

カネの支払いかたにも『MSD』の妙味はある。「払ってもいいし、払わなくてもいい。だが払ったほうがどうやら楽しめるし勝てるらしい、しかも青天井ではない」……存外理想的ではなかろうか。

 

一例。それなりに勝てる。数千円でそろうだろう。
一例。それなりに勝てる。数千円でそろうだろう。

 


いささか不満の残る2on2

 

バージョン1.5.0への(公式いわく「大型」)アップデートで追加された最大の要素は2on2対戦だ。読んで字のごとく、2対2でのオンライン対戦である。

ルール自体はまったく複雑でない。ただ、ワンラインに存在するのが2人から4人になっただけだ。意思疎通用に定型文がいくつか用意された程度で、あとは通常のルールと大差ない。資源(AP)の交換なども存在しない。しかしこの対戦には独特の味わいがある。すくなくとも私がたっぷり数時間2on2に没頭してしまうほどには。

もちろん、一対一対戦での正着どおりに展開して勝つこともできる。だがやはり2on2ならではの独特の機微、内政を強めに張った味方の決まり手(多くの場合はジュピターキング)を待つため盾になり、押し返しに成功したときなどは本当に興奮する。逆のパターンでも興奮する。

そうした美点があるだけに、不満も目立つ。まず、プリメイドチームを構成できないことだ。「『Titanfall』のようにしろ」などとはいわないが、せめてフレンドと組んで野良にくりだすくらいはさせてほしかった。

敵味方のデッキが見えないのも不服だ。試合開始前に伏せられているのは"ゲーム性"のたぐいだとするとしても、せめて対戦終了後に開帳してほしい。乱戦になりがちだから相手のユニットをいちいち把握していられないし、2人いる対戦者のうちどちらが放ったユニットなのかもわからない。味方のデッキがわからないのも「空気読め」で片付けるのは難がある。重ユニット重視なのか、速攻なのか、それすら対戦が始まらないとわからない。もったいないところだ。

マッチングも正常に機能しているとはいいがたい。プレイヤー人口の都合上「全ランクと対戦」を選ばざるをえないのだが、明確に実力差のついたチームがしばしば構築されてしまう。勝利数やシングルのレートなど参照できる値はいくつかあるはずだ。

『MSD』の2on2はじつによくできている。なればこそ「あと一歩洗練されれば」の想いは強まる。人気はまだまだ健在のようなので、今後のアップデートに心から期待したい。モバイル端末で唯一無二の"対戦ツール"になるポテンシャルを秘めている。

 

あと一歩、改善がすすめば……
あと一歩、改善がすすめば……

 


メタスラ健在

 

『MSD』は一言で語りつくせない。『メタスラ』の良さ・手触りの良さ・対戦の面白さ・今後の可能性、等など。既存のキャラクターを「新ユニット」として追加するとしても、まだまだ弾は残っている。

ウルトラC級の刑事告訴マーケティングにより未プレイの層が変な印象を受けてしまったかもしれない。だが、まぎれもなく『MSD』は"本物"である。とにかくプレイしてみてほしい。いまから始めてキャンペーンをひと通り終わらせるころには、つぎのセールのタイミングが見えているだろう。もちろんセールを待たずに課金するのが一番良い。面白いゲームなのだから。

 

Nobuki Yasuda
Nobuki Yasuda
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