『SILENT SCOPE BONE-EATER』 狙撃手、10年ぶりの再来

SILENT SCOPE BONE-EATER』(以下『ボーンイーター』)はコナミによるアーケード向けガンシューティングゲーム。狙撃を題材とした『サイレントスコープ』シリーズの、じつに12年ぶりとなる新作です。稼働開始日は7月31日。ものがものだけに設置店舗はあまりありませんが、ラウンドワンなどには比較的多く導入されているようです。

本稿執筆段階での筆者の腕前は、NORMALモードワンクレジットクリアのみ。ただしスコアを完全に度外視したクリア重視プレイで、しかもラスボスへのヘッドショットはほぼまぐれ当たりでした。なお、ゲームの難易度に影響をおよぼす筐体設定の有無は不明。プレイしたのはラウンドワン北心斎橋店、8月1日です。

 


現代的大型筐体ギミックの成功

 

スティールクロニクル』の流れをくむ筐体には、いくつかの現代的なギミックがしこまれています。まず、多層レイヤー状のモニタ。HUDや通知などが手前側に表示されるというだけで、意外なほど立体感を感じます。3DSの登場以来、こうした視覚的アプローチそのものはめずらしい部類には入りません。『ボーンイーター』の演出は「ゲームの世界」と「ゲーム世界の通知」を切り離す、これまたレアリティがあるとはよべない使い方をしていますが、それゆえに堅実な安定感と没入感があります。

送風ギミックも、もはや夢を売る国の専売特許ではなくなりずいぶん経ちます。ですが、『ボーンイーター』のそれはゲーム進行とあわせて絶妙なマッチングをみせてくれます。後述しますが、本作は過去作品とは異なり(中二)SFチックな世界観であり、狙撃地点の移動にはいわゆるグラップリングフックが多用されます。その際に適宜流れこむ風は意外なほどプレイヤーを『ボーンイーター』世界へと連れ込みます。「とりあえず風吹きこんでおけばいいだろ」ではなく、メリハリのある"体感機"に仕上げられているのです。

ゲームの根幹にかかわる部分、すなわち狙撃・ガンシューティングとしてのギミックには大きな変更はありません。解像度の増加、センシティビティの変更など、順当に進化しています。スコープ内モニタにライフなどが表示されるのは、地味ですが悪くない改善です。

ただし、ひとつだけ重大なリニューアルがあります。それは、ガンコンの手触りです。旧作はすべてとくに手応えのない固定銃座タイプが採用されていましたが、『ボーンイーター』には「中心部は軽く、外側にいけばいくほど重くなる」という物理的な制約がもうけられており、これが操作に妙味をくわえてました。また、このことはラスボス戦においてゲーム・演出両面で非常に面白いシチュエーションを作り出しています。おそらく初見突破はほとんど不可能なラスボスの予想外の一撃、それは回避不可能な攻撃です。これを「楽しめる」ガンシューはけっして多くありません。

ガンシュー日照りが続くアーケード界隈にあって、『ボーンイーター』は古きを温めて新しきを知る高品質な筐体デザインを採用してきたといえます。強烈なインパクトやイノベーションこそないものの、10年以上ぶりの新作として十二分です。

 

モニタ上部に位置する送風口。ゲームを盛り上げるのに一役買っています。ちなみにオフにすることも可能。
モニタ上部に位置する送風口。ゲームを盛り上げるのに一役買っています。ちなみにオフにすることも可能。

 


意外に先祖返りしたゲームシステム

 

『サイレントスコープ』は『1』から『2』、そして3作目にあたる『SOGEKI』へと歩を進めてきました。そして、『ボーンイーター』をプレイしてまっさきに思い浮かんだのが初代のフィーリングです。

細かく説明しはじめるときりがないのですが、限界までそぎ落として説明すると「簡単」なのです。いうまでもなく、「クリアするだけならば簡単」の意であり、スコアを稼いだり高難度モードをプレイしたりするとなると話が変わってきます。が、ともあれワンクレジットクリアの敷居は高くなく、ある程度敵の出現場所さえ覚えてしまえばおそらくガンシューに興味ない層でも十分に達成可能です。

確実に低い難度を入口用に設けつつ、慣れたプレイヤーには「弾薬数有限」というガンシューとしては斬新な制約のEXPERT MODE、一発外したら捨てゲー待ったなしなスコアシステムなどでお出迎えしてくれます。『ボーンイーター』は、どんなプレイヤーも見捨てていません。

 

ルート分岐や隠しオブジェクトなどもふんだんに用意されています。普通にプレイしただけではまず気づけません。
ルート分岐や隠しオブジェクトなどもふんだんに用意されています。普通にプレイしただけではまず気づけません。

 


ライト・中二な世界観の成功

 

おそらく『ボーンイーター』を見た過去作ファンの最初の印象は「なんだこの中二くさい絵は」が過半だったと推測します。私もそのうちのひとりです。『サイレントスコープ』シリーズといえば、微妙にリアルな世界を舞台とした狙撃(狙撃戦または銃撃戦)だったはず。それがなんだこの少年兵たちは……! あからさまなバトルスーツは! 露骨過ぎて個性を感じないセリフ回しは……!

その感想自体を否定する要素はどこにもありません。しかしながら、『ボーンイーター』はそうした「中二設定」をあますところなく活かしきり、シリーズファンをふくむプレイヤーへ不満をあたえさせません。「スナイピングなのに偏差射撃もなければ全部ゼロインかよ」といった向きもありましょうが、『ボーンイーター』はそのあたりをすべて「未来技術だから」で説得してしまえるくらいの迫力があります。

はっきり言葉を選ばずに言えば、私はこの手のキャラクターイラストのタッチや、世界観は好きではありません。いえ、嫌いと言ってもいいでしょう。しかし、そんな私の趣味趣向を乗り越えて脳に刺さる程度には、『ボーンイーター』の演出は"かっこいい"のです。中二めいた演出に胸をときめかす……いったい何年ぶりのことでしょう。

 

そもそもこのガンコンの形状からして。
そもそもこのガンコンの形状からして。

 


もはや入門用ですらないが

 

ガンシュー冬の時代にあっては、門戸を開放した本作をして「入門用」とするのは不適切です。なにせほかにまともな門がないのですから。狙撃をテーマとしたゲームということなら、本当に『ボーンイーター』以外ないでしょう。

ガンシューに興味のないゲーマーの割合は着実に増えていると推測されます。モバイルだのコンシューマだの不毛な議論のさらに下の次元で、まさしく論外。一世を風靡したIPの続編がとんと出ていないことがその証明です。

『ボーンイーター』が、そんな現状を打破する革命的存在になりうるか。それは残念ながらあまり期待できません。いくら難度が低いとはいえ、簡単にワンクレジットクリアできるとはいえ、ほかにシリアスに取りくめるガンシューはそれほど多くありません。だから、「ボーンイーターでレールシューターに興味を持った、他をやってみたい」という高い意識を汲みあげられるかというと、「場所によるかな……」と自信なさげに応えざるをえません。

が、それでも、です。12年ぶりに、今日びめずらしい直球ど真ん中なガンシューが世に放たれたことの価値は小さくありません。『ボーンイーター』はガンシューの入口たりえません。しかし、消えかけたガンシューの炎を再燃させるだけのポテンシャルは文句なく秘めています。

不満点がないわけではありません。ハデなエフェクトのシーンでは処理落ちが強烈に発生しゲームを阻害すること、合間合間に挿入されるムービーのスキップが快適でないことなど。ただ、そのあたりは揚げ足取りです。前者は本気のスコアラーにとっては致命的かもしれませんが、ゆったり楽しむ私からすると「これを書くまで忘れてた」くらいのことです。直ればそれにこしたことはありません。そして、これらの瑕疵が本作に決定的な打撃をあたえることもまた、ありません。

本作についてのインプレッションを締めるにあたり、もっとも適切な言葉はこうです。「興味のない人にこそプレイしてみてほしい」。この陳腐なクリシエがしっくりくるほどアーケードガンシューは茫漠の大地と化しているということであり、そして同時に『ボーンイーター』は現代のガンシューの、いや大型筐体作品の手本として適切ということでもあります。

 

PC向けFPSとは一味違う、狙撃手気分が味わえる。アーケードでは2014年現在、実質的に唯一無二のタイトル。
PC向けFPSとは一味違う、狙撃手気分が味わえる。アーケードでは2014年現在、実質的に唯一無二のタイトル。

 


[余談] 初心者向け攻略

 

『サイレントスコープ』シリーズはおろかガンシューそのものをほとんどプレイしたことのない方向けへの簡単な攻略Tipsです。

まず、ヘッドショット・ウイークポイントショット(対ドローンなど)にこだわりすぎないこと。一般兵はどこを撃っても即死です。どうせ伸びないスコアのために無理に頭部を狙うくらいなら、即ターゲットをスコープにおさめてボディショットするほうが安全ですし、なによりストレスがたまりません。

1面のボス選択は左、ヘリ戦を選択します。地上戦は異様に難度が高く、おすすめできません。一方ヘリは距離も近く動きも単調なため、慣れれば最初か2回目の旋回時にはキャノピーにおさまった脳天をぶち抜けることでしょう。

2面では初見殺しが目立ちます。ポップ後数秒で攻撃してくる敵が複数います。まず、2台目のトラックの左右から出てくる敵。つぎに、同じトラック後部から登場する敵。これらはスピード重視のノースコープで射撃するか、あらかじめ敵の位置に照準をあわせておくかしなければまず間に合いません。

事故後、左手から出てくる敵もすさまじい攻撃能力をほこるため、こちらは1、2発もらうのを覚悟したほうがよいかもしれません。あのシーンでスコープでのヘッドショット狙撃が安定する人がいれば、まず間違いなく上級者でしょう。

3面以降はクリアするだけならばなぜか道中がやたら簡単で、4面ラスボスまでとくに死ぬ場所はありません。ラスボスは……まあ、死んで覚えましょう。じつはそれほどパターンはありません。あきらかに狙撃しやすい着地点がいくつかあるので、それをコンティニューのちからで覚えておくと楽です(そうしました)。

Nobuki Yasuda
Nobuki Yasuda
記事本文: 133