『Broforce』 誠実な開発によるネジの外れたゲーム

 
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4-Hour Impressionは、ゲーム開始後4時間段階での印象をお伝えするファーストインプレッション企画です。第10回は、Steamなどで販売中の『Broforce』。定価は約15ドルです。プラットフォームはWin/Mac/Linux。

 


南アフリカ産

 

本作の開発をてがけるFree Livesは、南アフリカはケープタウンに本拠をかまえるインディーゲームスタジオです。『Broforce』はもともと、Ludum Dareなるゲーム開発イベントにおいて、2012年にゲームジャム形式で産声をあげた作品です。当時獲得したアワードは「ユーモア」1位、「ファン(楽しさ)」2位、「グラフィック」4位。この段階で相当なポテンシャルを感じさせていたことが見て取れます。

その後プロトタイプ(公式名称"Brototype")を2012年10月にリリースし、数々のフィードバックを取り込んだのち、2013年7月にSteem Greenlightを通過します。Steam上での配信開始の記述が2014年4月7日のためまるで新作であるかのようですが、その実は2年近くもかけて練りこまれてきたゲームなのです。

 

このセンスも光る。
このセンスも光る。

 


アクションからパズル、そして味方殺しへ

 

『Broforce』をシンプルに説明すると、オンライン4人プレイ可能な2Dアクションゲームです。しかし、細かい、あるいは雑な味わいが本作を上の領域へと高めています。

その面白さ語るうえで重要なのは「ほとんどの攻撃で地形を破壊できる」という要素です。これにより、無理やり地面を掘ってゴール地点を目指したり、敵キャラをなかば"暗殺"のような形で倒したりできます。

そして「地形破壊は連鎖的に発生しすべてを巻き込んでいく」というのがポイントです。たとえば広範囲のスプラッシュダメージをまき散らすショットで引火したドラム缶が、さらにべつのドラム缶に引火し、それが上方に吹っ飛んでいったあげく天井が崩落し、敵味方区別なく押しつぶす、といったシチュエーションがあります。むしろ多発するとしたほうがよいかもしれません。

本作はありがちなアクションに『Minecraft』のような進行の自由度をあたえた結果、パズルとしての性質をおびるようになったのです。ただし、ここでも絶妙のさじ加減が光ります。たしかにパズル"っぽい"のですが、パズルではないのです。なぜなら、ほぼ制御不可能だから。マップは自動生成でないため理屈のうえではすべてを計算に入れたプレイングもできるのでしょうが、それは『Broforce』の本質的な楽しさからはやや乖離しています。

つまるところ、秘められた最大の魅力というのは、「むちゃくちゃさ」にあります。とりあえず攻撃、とりあえず崩壊、とりあえず死亡またはクリア。そうした大雑把さこそが『Broforce』であり、そしてその価値はマルチプレイで一気に高まります。なにせただでさえアンコントローラブルなステージ構成を、ほかの誰かがさらに混沌とさせるのですから。

『Broforce』は複数名で、できればボイスチャットをつけてプレイすべきです。かつてゲーマーがとおった道、たとえば『バルーンファイト』で風船を蹴りつける・『マリオブラザーズ』で敵を押しつける・『アイスクライマー』でスクロール殺しする……そういった破天荒な、場合によっては笑いをとおりこして物理攻撃が飛んできかねないような性質。ながらく忘れていたような面白おかしさ、笑いを確実に本作はもたらしてくれます。ネジの外れたゲームを、プレイヤーも頭のネジを外して楽しむ、それがおそらくただしいスタイルです。

そして、それを受け入れるだけの器もととのっています。ゲームスピードは適度に速く、リトライの演出も簡にして要を得たもの。自分が死んでも味方が死んでもすべてを笑い飛ばせるようにしくまれています。ゲームのコンセプトをささえる骨子はきわめて堅牢です。

 

ゴリ押し上等。壁は穴をあけるもの。
ゴリ押し上等。壁は穴をあけるもの。

 


危険な演出

 

一見したところでは、インディーゲームにありがちとすらいえるミニマルなグラフィックであるかのようなイメージを持ちますが、それだけでは決定的な欠落があります。本作の演出は、徹頭徹尾"バカ"なのです。

訴えられないのか? というくらいにド真ん中豪速球なオマージュ群で構築されたプレイヤーキャラクターたちは、すべてがどこかでみたアレです。プレイを繰り返しキャラをアンロックするたびに「あっこいつはあの!」となることでしょう。なお、それぞれのキャラクターの能力に特性がある(コンパチキャラがほぼいない)というのも評価に値します。

また、タイトル画面だけでなく、ステージ開始からミッション失敗、ステージクリア、そしてもちろん道中、すべてにおいて入念にネジが外されています。慣れてくると、面クリア時に表示される"AREA LIBERATED"だけでも笑えるようになるでしょう。

どうせパクるなら正々堂々と、それでいて丁寧に、リスペクトをこめて。そうしたマインドが『Broforce』にはあるように思えてなりません。すくなくとも、元ネタの作品を開発者らが愛していないということはなさそうです。

 

なぜか笑ってしまう、"LIBERATED"の文字列。
なぜか笑ってしまう、"LIBERATED"の文字列。

 


早期アクセスの成功

 

Early Accessのリスクは以前弊誌石元が語ったばかりです。本作も早期アクセスあつかいです。しかし、どうやらこれは時限爆弾ではなさそうです。根拠は2つ。まず、そもそも現段階でほぼ完成と評してもかまわないくらいの出来栄えであること。つぎに、Steam配信以来、コンスタントにアップデートがきていることです。

ただ逃げを打つためだけにEarly Accessにしているだけという邪推もできなくはありませんが、それはいくらなんでもうがちすぎです。『Brofoce』は2年の時を経て、胸を張った「完成版」へと歩を進めていると解釈するのが妥当です。公式が予告しているフルゲームのフィーチャーも、着実に実装が進んでいるように見受けられます。

具体名をさらすのはやめておきますが、つい先日同じく早期アクセスの肩書を持つとあるゲームで筆者は愕然としたところです。そういう残念な実態があるゆえに、本作の誠実さはいっそう引き立ちます。

 

 

 


悪いな、このゲーム(実質的に)マルチ用なんだ

 

『Broforce』に問題があるとすれば、それはただひとつ。マルチプレイをしなければ真価を発揮しえないという点です。それも野良は望ましくありません。顔見知りを集める必要があるのです。これはじつに厄介です。あたりまえですが、プレイする時間帯をたった数名であわせるのすら普通はままなりません。

であれば答は明快。とにかく布教するのです。単品15ドル、4-Pack45ドル。1ドル未満で叩き売られるゲームすらあるご時世、たしかにそれほど安くはない出費になるでしょう。私とて、軽々と"ADD TO CART"するほど裕福ではありません。しかし、もし次のセールが来たらためらいなく布教用に4本購入するでしょう。それくらい『Broforce』には腹の底から笑わせてもらいました。

ただ、フレンドの半数ほどがすでに本作を持っているという事実に今まさに気づきました。まあ、インベントリの肥やしにするのも一興でしょう。それをためらわせない秀作なのですから。

 

3人よらば制御不能。
3人よらば制御不能。