UE4で日本全体の技術レベルを底上げしていきたい。Indie-us Games 中村 匡彦氏【GTMF 2019】

ゲーム開発ツール&ミドルウェアの祭典「GTMF」展示者もしくはMeet-Ups登壇者を対象にインタビューする本企画。今回、新大阪に拠点を構えるIndie-us Gamesの中村 匡彦氏にお話を伺う。

ゲーム開発ツール&ミドルウェアの祭典「GTMF(Game Tools & Middleware Forum)」展示者もしくはMeet-Ups登壇者を対象にインタビューする本企画。

新大阪にIndie-us Games(インディアス ゲームズ)というUnreal Engine(以下、UEと表記)専門の製作会社がある。先日公開されたフジロックをバーチャル体験できるアプリ「FUJI ROCK’19 EXPerience」では開発に協力しており、後述する3DCGパートの一部にUEが採用されているアニメでも技術開発で協力している会社だ。そうした企業としての活動の一方で、SNS上ではalweiという名前で活動している代表取締役の中村匡彦氏は、自身が検証したUE4に関する内容をはてなブログで公開したり、UE4用のポストプロセス セルシェーダーをGitHubで公開している。ノウハウの公開を行っている中村氏本人や、ゲームエンジンであるUE4をゲーム以外で活用しているIndie-us Gamesの裏側には何があるのだろうか。「GTMF2019」大阪会場で、中村氏にお話を伺ってきた。

―――自己紹介をお願いします。

中村氏:
Indie-us Gamesの代表をやっています、中村です。社長をやりながらいろんな現場へ行って現場作業をしたり、専門学校の講師をしたり、ディレクションやマネージメントまで何でもやっています。今はちょっと開発寄り―――技術的に難易度の高く人手の足りないテクニカルアーティストの仕事を担当することも多いです。

―――テクニカルアーティストを担当できるのは、元々プログラマーをされていたことが大きいんでしょうか。

中村氏:
あまり関係ないですね。そこは興味がどれだけ広いかだと思います。最初はプログラマーから始めたんですけど、どちらかというと今は画作りとか、どうすれば良いモノができるかに興味があります。良いモノを作るにはいろんな事を知らないといけないので、今はプログラムに限らず3DCGツールに触れたり、内部構造を理解したりとか、実際にモデリングしたり、自分で絵を描いてみたり、多方面に興味を持つことで出来るのかなと思っています。

―――最初にUEに触れられたのはいつでしたか。

中村氏:
元々はUE自体が無料ではなくて、UE3の頃には企業同士のライセンスだけで販売されていて。UE4になったタイミングでEpic Gamesが誰でも使えるようにしますと宣言したタイミングで触りました。当時数千万円すると言われていたライセンスが、誰でも19ドルで使えるようになったと聞いて、飛びついたのが2014年のGDCの時でした。そこから使い続けて、もう5年ぐらいですね。UE4が公開された日からずっと使っていることになります。

元からゲームエンジン自体が好きで、ゲームエンジンを20から30個程度―――聞いたことのないようなエンジンもいっぱい触ってまして、そういったところで何か良いエンジンがないかなと個人的に検証していたんですね。そこに突然登場したUE4が驚愕するぐらいすごい機能をたくさん搭載していて、これはもう触るしか無いと思って。これを触らないとどんどん置いていかれるのがわかったので、すぐに触って勉強して、それからずっとやっています。UEを使ったおかげで、結果的にいろんなものが広がったという感じではありますね。

※ Unreal Engine4は、:2014年3月に月額19ドルで誰でも使用可能になった後、2015年3月に無料化している

―――今はゲーム開発のお手伝いをしている以外に、具体的には何をされているんでしょうか。

中村氏:
最近だと劇場版「ガールズ&パンツァー最終章 第2話」の一部CGパートを担当させていただきました。すごく動きのあるシーンがあるんですが、そのCGパートはUE4で作られています。普通の映像屋さんでは使えないようなところにも結構手を入れていて、UEをどうやったら映像に使えるかを、現実的な範囲に落とし込むところまで担当させていただきました。好評を頂いているので、他の映像屋さんにも続いていただきたいなと思っています。

それと、公表はできないんですがそれ以外にも、今まで別のエンジンが使われていた建築のビジュアライゼーションを、もっとハイエンドなクオリティでやりたいという方と仕事をしています。UEにリアルタイムレイトレーシングというすごい写実的な絵を出すための技術があり、それをぜひ使いたいとかもっと綺麗に出したいとか、とにかく現実のフォトリアルに近い絵で顧客にプレゼンしたいとか、そういった需要が今年は更に加速していまして、そこの需要がすごく伸びているのがあります。

ほかにも、車や精密分野などの製造業の分野でもUEが使われ出して、うちにもそうした案件が今もきています。それはゲームと関係ないんですけど、やっていることはゲームの延長ぐらいの感じです。UEを使えばもっとハイクオリティなものが作れるという認識が広がっているので、関西でUEを使いたいなにかがあれば、まずIndie-us Gamesに相談がくるというような感じになっています。非常にありがたいです。

―――中村さんは、Web上で躊躇なく自分の知識を提供したりされていますが、なぜそのようなことをされるのでしょうか。

中村氏:
何も隠す理由がないんです(笑)。仕事をしていると、嫌というほどいろんな情報が入ってくるんですよ。でも、その情報をアウトプットしようと思っても機会がなくて、アウトプットしたところでごく一部で大した量ではないので、出すことに躊躇することもないですし、出すデメリットもない。情報を出していくことで注目されるし、それを見て助かる人もいるし、結果的にどんどん情報が広がっていって、広がった情報が更に相乗効果を生んでいく。情報を隠すメリットはないんです。勿論NDAは絶対守りますが、隠さなくていいところはどんどん出さないと、もったいない。隠していればいるほど置いていかれると思っているので、積極的に、情報は出せる時に出そうとしています。

―――今でも多くの仕事を請けられていると思いますが、どういうクライアントさんに来てほしいですか?

中村氏:
今あるものをより良くしたい―――今の”まあまあ”では満足できない、モノをもっと良くしたいと思っている方とお仕事したいと思っています。同じモノを作るんだったら何でもいいんですよ。そうではなく、UEを使ってもっともっといいモノを作りたいと思っている方ですね。

UEを使うことによって個人的にメリットがあったと思っているのは、国内全体のいろんなCGやゲームプログラムの技術を向上させるということがあります。スマートフォンのゲームとかを作っている人たちを見ていると、あまり技術の進歩がなかったように見えたんですよ。ただ、今UEが入ってきて、最先端のレンダリング技術などに触れる事ができるようになって、そっちを勉強する人が増えてきた。

エンジンを自分たちで作っているような特化した人たちは居て、そういう人たちは問題なかったんですが、ゲームエンジンによって日本全体の技術レベルが向上して、全体のレベルを底上げする意味で、UEがいろんなところに使われていることによるメリットになっているかなと。それによって日本から出るゲームやコンテンツなどがハイクオリティだなと思われるようになってきた。その流れを加速したいので、今あるものをより良くするためのいろんなところとお仕事をしたいと思っています。

―――ミクロではなくマクロを見ていられている。

中村氏:
日本全体で、世界に対してもアピールしていきたいという目的があります。

―――ちなみにindie-us Gamesの強みについて、改めてお願いできますか

中村氏:
Indie-us Gamesには、作るのが好きで、いろんなことを発信していきたいと思っている人を中心に、10人のメンバーがいます。自分でどんどんやろうとする人たちが多く、皆で率先してやっていくので全体の技術が高くなりますし、モチベーションも上がっていくので、いろんなことができるようになるというのが、社内での全体を通しの強みになっています。いろんなことができる結果いろんな仕事が来て、UEを使ったものならどんな業種でも大体なんでも対応できることが強みです。

―――最後に読者にむけてメッセージをお願いします。

中村氏:
UE4は無料なので、まずは触って楽しんでみてほしいです。そうするとどんどん作ってみたい気持ちややりたい気持ちも出てくるので、そうした結果新しい可能性も生まれてくるので、まずは触ってみてください。

―――ありがとうございました。

 

[執筆: Keiichi Yokoyama]
[聞き手/撮影: Minoru Umise]

Keiichi Yokoyama
Keiichi Yokoyama

なんでもやる雑食ゲーマー。作家性のある作品が好き。AUTOMATONでは国内インディーなどを担当します。

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