『ウォッチドッグス レギオン』ユーザー参加型のゲーム内楽曲制作企画が発表。一方、報酬の支払いを巡り「スペックワーク」との懸念も

Ubisoftは7月12日、『ウォッチドッグス レギオン』において「HITRECORD」とコラボレーションすると発表した。今回発表されたコラボの目的は、『ウォッチドッグス レギオン』のゲーム内で使用する楽曲10曲をファンに制作してもらうため。

Ubisoftは7月12日、『WATCH DOGS LEGION(ウォッチドッグス レギオン)』において「HITRECORD」とのコラボレーションを実施すると発表した。HITRECORDは、映画「スノーデン」のエドワード・スノーデン役などで知られるアメリカの俳優Joseph Gordon-Levitt氏が設立したクリエイティブ・コミュニティサイトで、音楽や映画、テレビ番組、書籍などあらゆるアート・メディア作品のコラボレーションの場となっている。

今回発表されたコラボレーションの目的は、『ウォッチドッグス レギオン』のゲーム内で使用する楽曲10曲をファンに制作してもらうため。参加するクリエイターは、HITRECORDのサイトにて楽曲のコンセプトを提示し、ボーカルや作詞家、演奏家など必要なメンバーを世界中から募集。そして今年9月まで共同制作をおこない、完成した楽曲をHITRECORDに提出する。その後、Ubisoftによる審査を経て選ばれた10曲がゲーム内で使用される、というのが大まかな流れだ。

選ばれた各楽曲の制作チームにはそれぞれ2000ドル(約22万円)が報酬として支払われ、ゲーム内でのクレジット表記もおこなわれる。楽曲は、たとえばプレイヤーが乗る車のラジオで流すことなどを想定しているとのこと。現時点では、メタルやファンクポップなど5曲のコンセプトがHITRECORDに投稿されている。いずれも本作の開発チームによるもので、ファンと開発者のコラボもおこなわれるようだ。

UbisoftとHITRECORDとのコラボは、『ビヨンド グッド アンド イービル 2』でも実施されており、同作の場合は楽曲だけでなく、ゲーム内で使用するアートワークなどもファンに制作してもらうという内容だった。同作はまだ発売されていないためその成果は不明だが、ふたたびコラボするということは、ゲーム開発にファンに参加してもらうこの取り組みに良い感触を得ているということなのだろう。また、街のあらゆる住民を仲間にできるという『ウォッチドッグス レギオン』のコンセプトにも相応しいように思える。

ただ、UbisoftとHITRECORDの一連のコラボに対しては、クリエイターに「スペックワーク(speculative work)」を求めているという批判や懸念の声もあがっている。スペックワークとは、クライアントに採用された場合にだけ報酬が発生する仕組みの中で仕事をすること。クライアントとしては、多数の提案の中から気に入ったものを選ぶことができ都合が良いが、一方のクリエイター側は選ばれなければタダ働きとなってしまう。両者の力関係の格差から搾取的な手法だという見方もあり、海外では一部で反対運動も起こっている。

https://twitter.com/mikeBithell/status/1150014344081629186

今回の件では、上のツイートで見られるBithell GamesのMike Bithell氏や、VlambeerのRami Ismail氏など、インディー開発者を中心にUbisoftに対する不満が寄せられている。また、2000ドルという報酬について、AAAタイトルに使用する楽曲の制作を依頼すると考えた場合、安すぎるという意見もある。なおこの2000ドルは、制作への貢献度に応じてチーム内で分配することになるため、1人あたりが受け取る金額はさらに少なくなる。

こうした批判は、『ビヨンド グッド アンド イービル 2』でのコラボが発表された昨年にもあり、HITRECORDの設立者Joseph Gordon-Levitt氏は、両社の取り組みはスペックワークとは異なるものだと反論していた。同氏の主張としては、Ubisoftはお金や時間を節約するためにおこなっているわけではなく、あくまで追加的な要素として、ゲーム開発に参加したいファンにその機会を提供しているというもの。ウォッチドッグス公式Twitterアカウントも、今回の発表への意見に対して同様の返信をおこなっている。

コラボへの参加者は、最終的に採用された場合にのみ報酬が支払われるという条件を理解した上で、個人の判断で制作に参加するため問題ないという見方もできる。それぞれのゲームの熱心なファンであれば、報酬など関係なく参加したいという人も多そうだ。また、これに参加することが実績となり、さらに大きなチャンスを掴むきっかけになるかもしれない。

ただ、業界を代表する会社のひとつであるUbisoftが、スペックワークとも受け取れる手法を利用することの懸念にも頷ける部分はある。なお、前出のMike Bithell氏はより良いアプローチとして、既存の楽曲にてコンペをおこなう方法を提案している。報酬が約束されない中で新たに制作するわけではないため、スペックワークにはならない。もっとも、これではHITRECORDを通じて世界中のファンを巻き込むというコンセプトは崩れてしまう。ほかには、ポートフォリオにて選考をおこなって制作してもらうという方法も提示されている。

ともあれ、Ubisoftとしては一連のコラボはスペックワークではないという立場のもと企画を進めていくようだ。『ウォッチドッグス レギオン』は、PC/PS4/Xbox One向けに2020年3月6日に発売される。

【UPDATE 2019/7/16 12:35】

Ubisoftは7月16日、『ウォッチドッグス』シリーズの公式Twitterアカウントを通じて、HITRECORDとの今回のコラボレーションについて説明した。その内容はというと、まず『ウォッチドッグス レギオン』の開発における世界中のオーディオチームは、プロのアーティストや作曲家と協力しており、140以上の楽曲についてライセンスを受け、またオリジナルの楽曲の制作もおこなっているとコメント。その上で、HITRECORDが持つコミュニティからの追加的な貢献を得るとし、参加者は完全に自主的な判断のもと、この企画のために楽曲を制作するとした。そしてこの取り組みは、アーティストに対して、そのクリエイティブな表現を本作に登場させるチャンスを与えるものであるとしている。

明言はされていないが、これはスペックワークとの懸念への回答だろう。前段については、今回の企画によってお金や時間を節約しようという意図はないこと、また代わりに仕事を失う人がいないことを明確にしている。そして後段は、参加者の自主的な判断を強調した形である。ただ自主的な参加であれ、同社がスペックワークを求めているという構図に変わりはないという意見は根強い(Amanda Farough)。上のツイートにもそうした返信が多数寄せられており、懸念を解消させるものとはなっていないようだ。

Taijiro Yamanaka
Taijiro Yamanaka

国内外のゲームニュースを好物としています。購入するゲームとプレイできる時間のバランス感覚が悪く、積みゲーを崩しつつさらに積んでいく日々。

Articles: 6794