『No Man’s Sky』開発元スタジオの近くに「感謝の看板」が設置される。かつては厳しく批判されたコミュニティからの贈り物
『No Man’s Sky』開発元のHello Gamesのスタジオが存在するイギリスのギルフォード。同スタジオのオフィスから歩いていける近隣に、同スタジオに感謝の意を表する「看板」が立てられるようだ。スタジオの代表であるSean Murray氏は、このキャンペーンに対し喜びと感謝の声をTwitterに投稿している。
our community has bought the billboard outside our office to say Thank You
Oh. My. God.https://t.co/oGTjFI4WWG
— Sean Murray (@NoMansSky) June 13, 2019
ありがとう
キャンペーンを計画しているのは、Redditのr/NoMansSkyTheGameのコミュニティだ。発起人となるweedwhizardが、『No Man’s Sky』の開発を続けるHello Gamesに、感謝の意を表するために看板を設置したい。そう考えコミュニティに相談。多くの賛同を得られたことをきっかけに、本プロジェクトは始まった。まずはデザインを考案。コストを計算し、今月13日に看板設置の資金を募るチャリティをGoFundMeにて開始した。結果、目標額である1750ドル(約19万円)を14時間以内に突破し、14日の10時30分時点で2600ドル(約28万円)以上が集まっており、看板設置が実現することが確定的となった。
看板のデザインはシンプルで、顔文字と共にHello Gamesへの感謝が記されている。すでに看板の設置は予約されており、最短で今年の8月12日より2週間にわたって掲示されるそうだ。得た資金の一部は、スタッフへのビールとランチ代に使われる。さらに余剰資金については、病気の子供達に『No Man’s Sky』を贈るために使われるという。このキャンペーンには160人以上が参加しており、275ドル(3万円)近くお金を出しているユーザーも。あらためて、コミュニティから愛されていることがわかるだろう。
『No Man’s Sky』は、2017年7月にPS4/PC向けに発売された宇宙オープンワールドゲーム。のちにはXbox One向けにも発売された。宇宙飛行士であるプレイヤーは、謎の声に導かれ、宇宙の中心を目指して数々の惑星を渡り歩く。本作の舞台は広大な大宇宙。数々の惑星と宇宙がシームレスにつながっており、ローディングなしで惑星と宇宙を行き来できる。惑星は1800京以上存在しており、それぞれの惑星には全く異なる生命体が生息しており、気候も惑星によって異なる。
壮大なテーマの作品とあって、発売前から大きな期待を集めていた『No Man’s Sky』。しかしながら発売直後は、価格の高さとそれに見合うコンテンツが存在しないと批判を受けた。具体的には、どの惑星も代わり映えがなく、イベントも少なく、お金や素材を集める動機を欠いていた。つまるところ、コンテンツ不足により期待外れと評されていたのだ。またマルチプレイが存在していないにも関わらず、Murray氏が、マルチプレイが存在しないとの明言を避けていたことによりファンの心象は悪化。批判は徐々にエスカレートし、Steamレビューは赤く染まり「不評」に定着。さらには、大規模な返金騒動に発展し、批判の嵐が巻き起こっていた。
※『No Man’s Sky』が注目を集めるきっかけとなり、のちに批判の対象となったE3 2014のトレイラー。この映像からすべてが始まった
ファンからの不信とメディアからの総叩き。投下され続ける低評価。絶望的な状態に陥りながらも、このゲームは終わらなかった。Hello Gamesは改めてゲームを見直し無料の大型アップデートを敢行。建築要素を導入する「Foundation」、乗り物を導入し建築要素を拡張する「Pathfinder」、ミッションやストーリーを拡大する「Atlas Rises」。マルチプレイを本格導入する「NEXT」。水中を拡大する「The Abyss」。さらに多彩な環境を導入する「VISIONS」。そしてまだアップデートは続いていくと告知されている。6度に及ぶ大規模無料アップデートにより、友人と遊べるようになったほか、遊びやすくも奥深いゲームとして評されるようになった。コミュニティは、こうしたHello Gamesの姿勢を評価および感謝するために、今回の活動が始まったわけだ。
かつては批判が集まる場所だった
興味深いのは、r/NoMansSkyTheGameはかつて『No Man’s Sky』への批判がもっとも集まっていた場所であるということ。たとえば、『No Man’s Sky』がリリースされた際には、事前に聞いていた情報とゲーム内容が異なるとし、Sean Murray氏がインタビューで話した内容と実際のゲーム内容を照らし合わせる、「実装されなかった要素」リストが作成された。多大なエネルギーを要するこの検証は、まさしくr/NoMansSkyTheGameでおこなわれたわけだ(削除されたことにより、のちにr/Gamesへと移動)。誇大広告に対する批判などもこの場所で実施された。批判が集まる場所であったが、一方で応援する声も集まる場所でもあった。無料アップデートが続くにつれ好意的な声が増え始め、今では絶大な信頼が寄せられている。またHello Gamesも、アップデートにより売上が伸び、多大な利益を得ているとも報じられている(関連記事)。
r/NoMansSkyTheGameはRedditにおける『No Man’s Sky』専用コミュニティであり、ユーザーの声が集積される場所。ゲームの状況にあわせて、コミュニティの雰囲気は変化していくだろう。また批判していたユーザーと、今支持しているユーザーがどこまで被っているかもわからない。そもそも、発売前の誇大広告とその後のアップデートの頑張りは評価軸が別。相反するものではない。しかしながら、開発元の取り組み次第ではコミュニティの声はここまで変化する。総叩きから大絶賛にまで変わり得る。そう感じられる一例であるといえそうだ。
発売直後の騒動とその後の盛り返し。ドラマのようなアップダウンであるが、どちらもサービス運営においては身近なことでもある。『No Man’s Sky』の事例からは、さまざまな人々が多くのことを学ぶことができるかもしれない。