Kickstarterで1200万円を集めたインディーゲーム、チーム崩壊により開発難航。主要メンバーが去り、ゲーム開発未経験者が指揮を執る

Kickstarterで1200万円を集めた『Barkley 2』というインディーゲームが、チーム崩壊により開発難航。Kickstarterキャンペーンに出資するリスクを示す一例となっている。『Barkley 2』は主要メンバーが去り、現在はゲーム開発未経験のプロデューサーが指揮を執っている。

Kickstarterキャンペーンにて12万ドルの出資を募ることに成功した『Barkley 2』というプロジェクトが、開発継続の危機に瀕していると、元スタッフの匿名告発により発覚。開発チームがその内容を認めたことで話題となり、海外メディアのPCGamerKotakuに取り上げられていった。主要メンバーが全員去り、今ではゲーム開発未経験者とパートタイムのプログラマーだけで開発を続けているという。

まず『Barkley 2』がどのようなプロジェクトなのか説明しておこう。1993年に発売されたバスケットボールゲーム『バークレーのパワーダンク(Barkley, Shut Up and Jam)』および1996年に海外リリースされた『Space Jam』の外伝として、2008年に『Barkley, Shut Up and Jam: Gaiden』というコンピュータRPGが誕生した。2041年、元NBA選手のCharles Barkleyが試合中に放った強烈なダンクシュートにより、会場にいた人間の大多数が死亡。これを機に世界中のバスケットボール選手が処刑され始めたという、近未来を舞台に繰り広げられるサイバーパンク・バスケットボールJRPGだ。バスケットボールをこの世から葬り去ろうとする組織のリーダーであるマイケル・ジョーダンに追われる身となったCharles Barkleyを筆頭とした著名選手が複数登場し、地球の命運をかけた壮大な物語が描かれるという、奇怪な作品であった。

その奇作を手がけたTales of Game’s Studioは2012年に『Barkley, Shut Up and Jam: Gaiden』の続編を発表。正式タイトルは『The Magical Realms of Tír na nÓg: Escape from Necron 7 – Revenge of Cuchulainn: The Official Game of the Movie – Chapter 2 of the Hoopz Barkley SaGa』だが、あまりに長いので通称『TMRoTnnEfN7RoCTOGotMC2otHBS』、それでも長いので結局のところ『Barkley 2』と呼ばれている。前作のはるか未来、666X年のポストサイバーアポカリプス世界を舞台に描かれるオープンワールドRPGとして発表された。2012年のKickstarterキャンペーンでは4636人のバッカーから12万ドル(約1295万円)を募ることに成功。当初のローンチ予定時期は2013年12月であったが、開発がずるずると長引き、2017年以降は進捗報告が途絶えていた。

※2013年から2014年にかけてはゲームプレイ映像も公開されていた

だが6月3日、Tales of Games’の元スタッフを名乗る人物(投稿名Hiratio)が海外フォーラムSomething Awfulに登場。『Barkley 2』の開発が難航していることを複数の投稿に分けて記した。前作の開発メンバーのひとりとして、Kickstarterキャンペーンの3年後にプロジェクトに参加したというHiratio氏は、当時から資金も開発体制も苦しい状況にあったと語っている。なんとかゲームを完成させようとがんばったが、ゲーム開発未経験者がチームを率いるひどいマネジメント体制により開発が進まず、Eric Shumaker氏やBrian Raum氏といった主要メンバーも次々と去り、数か月前に退職。ゲームの技術面を把握している人間は、彼が最後だったという。なお主要メンバーのひとりであったShumaker氏はのちに『Katana Zero』の脚本を担当している。

https://twitter.com/whoisJoshBossie/status/1135253417146822658

Hiratio氏が在籍していた間はスタッフの入れ替わりが激しく、情報共有手段が無数に分かれていたため、人によってゲームに対する理解や認識が違った。また開発が進んだところで別案が浮かんだという理由で開発がやり直しになることも多く、マンパワーが明らかに足りないのに取捨選択しないため工数が膨れ上がっていったという。こうした告発を受けて、『Barkley 2』の公式ツイッターが、プロジェクトはまだ生きているが、投稿内容はほぼ全て事実であると認めた。なおKickstarterキャンペーンで募った資金は、スタッフの人件費およびイベント参加費として使われたと補足されている。

その後Tales of Games’はKickstarterキャンペーンページを約2年ぶりに更新。現在本作のプロデューサーを担当しているLiam Raum氏は、開発が長引くにつれて、スタッフが次々と抜けていったと説明。興味を失ったり、他のオファーがあったりと辞めていった理由はさまざまだ。Liam氏は、前作の主要メンバーであったBort Raum氏の兄弟ではあるが、ゲーム開発経験はない。そうした事情もあり開発は難航したという。

また今年1月まで戦闘やメインクエスト、ボス戦といったゲームの根幹部分に関わるフルタイムのスタッフがいなかったことも、開発が長引く一因となった。前作に関わった最後のメンバーも、不満が溜まった結果、今年1月に離脱してしまったという(匿名告発したHiratio氏が、その最後のメンバーであり、前作に関わったGZ StormことJesse Caranowicz氏であると、のちに明かされている)。Raum氏は、バッカーに向けた連絡が途絶えてしまったことを謝罪。批判を恐れ、良い知らせを届けられるようになるまで待とうとした結果、2年間の沈黙につながったという。

なおプロジェクトは中止されたわけではなく、現在はパートタイムのプログラマー「paperjack」氏とともに少しずつ開発を進めているとのこと。近いうちには、どうしてこのような事態になってしまったのか、より詳しく説明すると同時に、ゲームが現在どのような状態にあるのか報告するつもりだという。前作の開発メンバーが全員去り、ゲーム開発未経験のRaum氏と、パートタイムのプログラマーだけで開発が継続されている『Barkley 2』。Kickstarterバッカーの期待に沿うような作品に仕上げられるのかという懸念は残る。

Kickstarterキャンペーンによるクラウドファンディングの成功率は約37%。キャンペーン自体の成功事例を耳にする機会は多いが、完成したゲームの品質がバッカーの期待した水準に届いておらず非難の的となったり、そもそも完成することなくフェードアウトしていく場合もある。昨年10月には、『Barkley 2』と同じ2012年にKickstarterキャンペーンを実施し約2000万円の出資を募ることに成功した『Limit Theory』の開発者が、開発中止を発表した事例もある(関連記事)。

Kickstarterの成功と悲劇。野心的なアイデアを掲げて注目を集めるも、開発途中でリソースが足りないことがわかったり、開発者自身が疲弊していったりするケースは多い。とくにKickstarterが活性化し始めた2012年ごろのプロジェクトはそうだ。『Barkley』や『Limit Theory』はわかりやすい例と言えるだろう。ただ現在のKickstarterでは、ある程度開発および資金面での目途が立ち、補助資金的な役割としてキャンペーンが実施される傾向にある。

Kickstarterのビデオゲーム分野の勢いが控えめになる中(成功プロジェクト数・出資額は3年連続で下降傾向にある)、テーブルトークRPGなどのアナログゲーム分野は勢いを伸ばしつつある(Gamasutra)。数々の失敗例を生み出してきたビデオゲーム分野よりも、ユーザー目線では信頼性の高い分野なのかもしれない。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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