「GWにゆるくオススメしたいインディーゲーム」第六弾、ハッキングをテーマにしたノベルゲーム『CyberRebeat』
編集部より:
ゴールデンウィーク向けとして、各ライターに好きなインディーゲームに紹介してもらうという本企画。発売時期やプラットフォーム、価格など問わず、ただ好きなインディーゲームを紹介する。非常にゆるい企画なので、ゆるい気持ちで読んでいただければ幸いだ。第六弾『CyberRebeat』をお届けする。筆者はMizuki Kashiwagi氏である。
CTF(Capture The Flag)という競技をご存知だろうか。ゲームに慣れ親しんだAUTOMATONの読者ならば、FPSの対戦ルールのことを思い浮かべるかもしれない。『Unreal Tournament』シリーズなどで定番の、相手の陣地にある旗に触れて持ち帰ると勝利というルールである。しかし、実はコンピューターセキュリティの世界にもCTFと呼ばれる競技が存在し、こちらは世界的にも認知度が高い。その内容は、言ってしまえば「ハッキングコンテスト」とでも呼ぶべきものである。
コンピューターセキュリティにおけるCTFには大きく2つの種類があるが、そのうちの一つが攻防戦と呼ばれるものである。攻防戦では、例えば各チームにひとつずつ、脆弱性を持つサービスが動いているサーバーが与えられる。各チームは、他チームのサーバーに侵入してフラッグの奪取を試みながらも、同時に他チームによる自サーバーへの攻撃を防ぐ、といった形式である。ルールを聞いただけで少しワクワクしてしまうような、まさに「ハッカー同士がその腕を競い合う」競技である。
『CyberRebeat』はそんなCTFの攻防戦や、ハッキングをテーマにしたノベルゲームである。Steamにて販売されているが、公式ページからフリーでダウンロードすることもできる。Steam版は英語に公式対応している他、CG追加とシステムのブラッシュアップがなされている。(元々は)フリーゲームであるため、Unityで製作されたゲーム本体には必要最低限の機能しか用意されていないが、それが気にならないほどの圧倒的な熱量を感じさせてくれるゲームである。
先程述べたように本作はハッキングをテーマにしたゲームであるが、同時にいわゆる「陰謀論」を扱ったゲームでもある。『Steins;Gate』のような、「国や政府といった巨大な仕組みの裏で蠢く巨悪に、主人公たちが少数精鋭で立ち向かう」物語が好きな人にはたまらないだろう。多くの人にとって身近でありながらブラックボックスでもあり、どこか得体のしれなさを秘めているインターネットやWeb。これらと陰謀論の組み合わせは非常に相性がよく、そこにハッキングというテーマを加えて見事に仕上げている。
そして最初に長々とCTFについて説明したのにはわけがある。このゲームの最大の魅力であり特徴でもあるのはそのハッキングシーンである。作中にCTFの攻防戦が描かれているシーンがあるのだが、その描写は圧巻であり、専門用語が飛び交うにも関わらずセキュリティやPCの知識がない人が読んでも思わず引き込まれてしまうような臨場感のあるテキストとなっている。作品の本筋プロットにはある意味関係のないシーンでありながら非常に密度の濃い描写がされていて、冲方丁氏の小説「マルドゥック・スクランブル」のカジノシーンにかなり近いものがある。もちろんCTF以外のハッキングシーンもきっちりと描写されており、このゲームをきっかけにハッキング/CTFに興味を持ったという人も多いようだ。
また、ハッキング描写も素晴らしいが、全体的にテンポがよく構成されていて伏線回収も含めてグイグイと読ませる作りになっている。最序盤(オープニングまで)がちょっと癖のあるテキストとなっているが、第二部とハッキングシーンに入ってからはエンディングまで一気に読み切らせるほどの魅力と勢いがある。物語の緩急もしっかりしていて、読んでいてダレる部分はほとんどない。
全体としては「作者が、やりたかったことをやりきった」印象を受けるゲームである。前述のようにシステム面が貧相であったり、また最終盤からエンディング、後日談にかけて若干ご都合主義で駆け足気味であったりとフリーゲームならではの粗ももちろんあるが、作者がこのゲームでやりたかったことや、このゲームならではの魅力をなんら損なうものではない。6,7時間で終わる分量であるため、「一晩熱中できるような小粒のノベルゲームを探している」方には問答無用で勧めることができるゲームといえるだろう。