『SEKIRO』没になった竜咳の別仕様や未使用台詞が発掘される。回生の力と引き換えに薬をつくる狼

『SEKIRO』の未使用データから、竜咳の別仕様や未使用の台詞が発掘された。『SEKIRO』の竜咳は当初、回生の力と引き換えに薬をつくり、個別に治療するという仕組みであった。

SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』(以下、SEKIRO)のデータ解析により、未使用のまま終わった、竜咳システムの別仕様に関する情報が発掘された。発見者であるLance McDonald氏は、『ダークソウル』シリーズや『ブラッドボーン』にて、未使用のまま眠っていたボスやマルチプレイ機能を掘り出してきた人物である。『SEKIRO』においても同様の発掘作業を始めているようだ。

※以下の文章・動画には本作の竜咳システムに関する仕様説明が含まれる

まず『SEKIRO』の竜咳システムについて説明しておく。本作では死亡すると所持金とスキルポイントのペナルティが課されるのだが、一定確率でペナルティ発生を回避する「冥助」が発動する。だが何度も死を繰り返していると、道中で出会うNPCたちが「竜咳」という病にかかる。すると発症人数に応じて「冥助」の発動確率が下がっていく。製品版では、休息地点となる鬼仏にて消費アイテム「竜胤の雫」を使うことで発症者をまとめて治療可能。冥助発動確率を元に戻すことができる。

そして今回McDonald氏が発掘した未使用データには、竜胤の雫により発症者をまとめて治療するのではなく、発症者のもとに直に出向いて個別に治療していく別仕様が含まれていた。エマから治療法を教わる際の台詞や、NPCを治療した際の専用の台詞まで見つかっている(日本語音声付き)。多くは感謝の言葉を述べるまでにとどまっているが、薬に対し懐疑的な態度を示す道順の場合は、薬を受け取るよう説得させるための会話の選択肢がいくつか表示される。また治癒後にあらためて彼のもとを訪れると、「あの道玄様ですら治せなかったものを……エマ、いつもお前はそうだ」という新しい台詞も聞ける。

Lance McDonald氏の上述した動画よりキャプチャー

専用の台詞が用意されていたのは、治療した相手だけではない。たとえば野上伊之助を治療した際には、その様子を見ていた野上のおばばが「あそこのお方の咳、治ったようじゃな」と反応する。なお未使用のロード画面テキストによると、別仕様の竜咳では、治療せず放置された発症者はいずれ死を迎える予定だったようだ。そして竜咳の治療薬としては、竜胤の雫ではなく「竜咳の薬」というアイテムが紹介されている。エマの説明によると、竜咳の薬は、回生の力と引き換えに作ることができる。この「回生の力と引き換え」が具体的に何を意味する予定だったのかは判明していない。

新しい台詞、回生の力と引き換えにつくる薬、NPCの病死。非常に興味深いコンセプトではあるが、ファストトラベル(仏渡り)を使いながら、ひとりひとり発症者のもとへ訪れるのはやや億劫。とくに本作における冥助は救済要素として十分に機能しているとはいいがたく、冥助発動確率の回復のために繰り返し各地を巡るのは不要なストレスにつながりかねない(もちろん、竜咳だけでなく冥助やペナルティについても別案が存在した可能性もある)。おもしろいアイデアながら、開発を進めていくなかで不都合が見つかりお蔵入りとなった一例なのかもしれない。『SEKIRO』における未使用データの発掘作業は始まったばかり。今後も意外な没案が掘り起こされていくのだろう。

なお動画を投稿したMcDonald氏は今年4月、『ブラッドボーン』のガスコイン神父とはボス戦として対峙する前に、まず味方NPCとして共闘する案があったことをデータマイニングにより発見している。製品版では聖職者の獣とのボス戦でガスコイン神父を召喚することが可能だが、それとは別途、神父と一緒にヤーナム市街を巡れたのだ。獣狩りの時間を楽しむ、もうひとりの狩人として。

序盤の大橋で出会う彼には「人は狩人として去り、獣として戻る」といった、彼の変異を予期させる専用の台詞まで残っており、こちらもある程度作り込まれていたアイデアであったことがうかがえる。敵対する前ながらすでに狂気を感じさせる未使用の音声はファン必聴ものだ。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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