翻訳だけでなくゲームへの組み込みまで完結させる。アクティブゲーミングメディアが今進めるローカライズとは
弊社アクティブゲーミングメディアは、ゲームを含むエンターテインメントコンテンツのローカライズを主力事業にしている。弊社に在籍するスタッフの60%以上が外国人スタッフであり、他言語から日本語へのローカライズはもちろんのこと、日本語から他言語へのローカライズにも定評がある。しかしながら、徐々に業界のローカライズのレベルは向上している。
そんな中、アクティブゲーミングメディアは、どのような点において他社と差別化できるのだろうか。その答えのひとつは、組み込みだ。現在は翻訳とLQA(※)を主な事業としているが、弊社はローカライズされたテキストをコンテンツに組み込む分野にも注力している。なぜ弊社が組み込みを積極的に進めているのか。そしてそのメリットはなんだろうか。取締役社長のイバイ・アメストイと、ローカライズ事業の統括責任者である樋口雅敏に、組み込みの重要性と、意気込みを語ってもらった。
※ Language Quality Assurance
ローカライズした内容に、誤りがないかなどをチェックするプロセス。言語デバッグとも表現される。
――今日は自社PRということで、あらためて弊社アクティブゲーミングメディア(AGM)のローカライズ部門の仕事について話していただきますね。樋口さん、よろしくお願いします。
樋口:
よろしくお願いします。
――改めて樋口さん自身の紹介をお願いします。
樋口:
AGMのサービス部で、ローカライズディレクターをしている樋口雅敏です。ローカライズの統括をする立場になります。実はAGMが7社目の会社になります。最初はデータイーストという国産のゲームメーカーで海外営業をやっていて、そこで初めてローカライズというものに出会いました。その当時は、ローカライズという言葉もなかったんですよ。「ゲームの翻訳ができる人」という形で作業に関わったのが最初です。その後は、海外のパブリッシャーの日本法人でローカライズマネージャーやっていました。正確に数えたことはないですが、おそらく1000タイトル以上、ゲームのローカライズの監修をしていますね。
――この業界ではベテランですね。
樋口:
そうなりますね。
日本語から他言語へ
――AGMはローカライズをしている会社として知られていると思いますが、改めてローカライズの実績であったり、対応言語であったり概要を紹介していただけますか。
樋口:
対応言語は、もともと創業時にはヨーロッパ出身のメンバーが多かったので、ヨーロッパで使われている言語からスタートしているんです。今11期目で、10年前はコンシューマーゲームのローカライズというのがほとんどでした。その当時は、日本語から、英語を含めたヨーロッパ言語、EFIGSと呼ばれる言語にローカライズされることが多かったんですが、最近はPCゲームだったり、スマートフォンのアプリだったりも増えてきました。言語としては、アジア言語のローカライズが非常に増えています。具体的には、韓国語だったり、中国語、台湾繁体字だったり、中国本土の簡体字などが増えていますね。
後はロシア語やブラジルポルトガル語なども増えています。直近で扱ったタイトルの中で、言語数が多かったのは、レベルファイブさんの『二ノ国II レヴァナントキングダム』になりますね。英語から6言語、LQAは英語も含めた7言語でやりました。翻訳の段階ではスタートするときに70万ワードと言われていたんですけど、リライトしていくうちに100万ワードを超えていました。直近だと、それが言語数もワード数も非常に多いタイトルでしたね。嬉しいことに、先月スペインのゲームメディアさんで、スペイン語の翻訳がすぐれているタイトルのトップファイブに選ばれました。それは非常に喜ばしいことかなと思います。
――小さいプロジェクトから、大きいプロジェクトまで、いろんな言語をローカライズしていますよね。
樋口:
そうですね。ただ単に翻訳をするだけではなく、ゲームの中で使われている音声、ボイスレコーディングなどもやっています。実際英語で話していること、日本語で話していることを翻訳してから、ネイティブの声優さんによる音声収録も行っていますね。後はそういったテキストとか音声がゲームに組み込まれたあとに、それをユーザー視点でプレイして、エラーをひろっていくというようなローカライズQAという作業も展開しています。翻訳する際には、エクセルファイルとかのデータベース上でやることが多いので、どうしても誰が喋っているとか、どういうシーンで表示されるのかっていうのがわかりにくいケースが多々あります。そうした意味でも、ローカライズQAというのは必ず必要かなと思っています。文字化けしている時もありますし、はみだしている時もあります。男性のセリフなのに女性言葉になっていることがあるし、そういったところはローカライズQAをしないと分からないところなので、必要な工程ですね。
それと、強調したいのは、ただその言語をできる人に翻訳してもらっているだけではないということです。たとえば、アメリカ人だとしても日本にきてしまうと日本に染まりすぎてしまい、“現地の文化”がうまく出ない翻訳になってしまうこともあります。住んでいる場所やジャンル、そして文化など、多角的に検討して他言語にローカライズしている点は、うちが気をつけていることのひとつですね。
イバイ:
その国の言語ができるから、そのスタッフが翻訳やLQAをしっかりできると考えるのは、ありがちな誤解ですね。たとえば16人ぐらいがLQAをやっているとして、みんな同じ腕をもっているとは限らないんです。翻訳は良かったのに、それを直したつもりが、ダメにしてしまったケースさえあります。
――ローカライズして終わりではなく、そこでちゃんと質がどうなっているか確かめるプロセスっていうのが今の時代いると。
樋口:
絶対に必要ですね。
――ローカライズとLQAはセットだけでなく、単体のサービスとしても選択できますか。
樋口:
もちろんです。他社さんが翻訳した文章が組み込まれたものをLQAだけするケースもありますし、またその逆もあります。
その言語ができるスタッフが組み込みも監修
――あえてAGMを選ぶ強みはなんでしょうか。
樋口:
うちは、日本語能力の高い翻訳者が多いんです。
――社内には外国人スタッフが多いですよね。
樋口:
はい。通常の翻訳会社だと1度日本語から英語にして、英語からヨーロッパ言語にするっていうのが普通なんですが、うちの場合だと日本語からヨーロッパ言語へ直で翻訳できるので、単純に納期が半分になる。1度英語に翻訳したものを他言語にローカライズするとなると、英語のフィルターがかかって、そもそも日本語に含まれていたニュアンスがなくなってしまいがちなんです。日本語から対象言語に直接翻訳することで、自然な形というか、日本語がもっていたニュアンスのままヨーロッパ言語に翻訳できるところが強みかなと思います。
――ありがとうございます。では本題にいきましょう。今、力を入れている「ローカライズ言語のゲームへの組み込み」について教えてください。組み込みはゲーム開発上、どこのプロセスに入りますか。また、どういった効果があるのかを説明してもらえますか。
樋口:
ローカライズ言語のゲームへの組み込みは、われわれローカライズをやっているメンバーにとっては夢で、翻訳やLQAとセットでこれができると作業の効率化もできるし、品質もアップすると思っています。工程的には、翻訳の作業とLQAの作業の間に入ります。厳密にいうと、並列するイメージですね。翻訳が仕上がったところから、組み込みを行うエンジニアに渡していって、組み込まれたところからLQAをしていく。そんなサイクルが続いていくイメージです。
これまでだと、翻訳が終わった後に、それをクライアントに渡して、クライアントの方でゲームに組み込んで、組み込みが終わったビルドを渡してもらって、ローカライズQAをスタートする形になるので、どうしてもスケジュール的に長くなってしまいがちでした。ただ、さっき言ったように、翻訳したものから組み込んで、組み込まれたものからLQAをしていくというサイクルを続けていくことで、全体の工数、納期も短縮できるし、コストも下げられるので、うちにとってもお客さんにとってもメリットがあるのかなと思います。
あとは、ローカライズQAが必要な理由として、「実際に組み込んでみないと内容が分からない」というところがあったんですが、自分たちで組み込みができれば、割とその場で確認ができる。ゲームのどこで使われているテキストか分からないですが、とりあえず組み込んでみるとします。それで確認をしてみたら、長すぎる、もしくは短すぎるという結果が出た。その場合、そのまま翻訳の方に反映して、短くしてもう一回組み込んでいくという確認がすぐできます。品質のアップもできますし、LQAの効率もあがると思っています。
――発注した会社さんにとっては、翻訳・LQA・組み込みをセットにすることで、こちらに任せっきりにできるということですね。
樋口:
最初にソースコードをもらわないといけないのと、解析がちゃんとできていて、そのプログラミングの中のどこに組み込んだらいいかという情報を、最初にクライアントからもらわないといけないという条件はあります。ただし、その後はクライアント側にマスター提出するまで、全部手放しで任せていただくことになるので、楽になるのではないかなと思います。
イバイ:
弊社には開発部署があるのですが、そもそもこの開発部を作ろうと思ったのは、質の高いローカライズを実現するために、組み込みまでできるようになりたいと思ったのがきっかけでした。もちろん我々は言語専門家であるという意識は持っていますし、それは多分どのローカライズ業者ももっていると思います。その上で我々は、組み込みも社内でやるということです。組み込みまでやれば、品質が良くなるだけではなく、先方の工数もやっぱり減ります。ラインが空き、スピードが上がります。LQAのコストは半分とまではいかないにしても、やっぱり2、3割ぐらいはカットできると思っています。そして、その組み込みにはその言語の専門家が関わります。
――言語ができる人が社内にいるから、組み込みのプロセスまでローカライズを監修できるというわけですね。
イバイ:
正しく、そうです。開発部にも今8か国、それぞれ出身の違うスタッフがいるので、監修とは別に、彼ら自身が組み込みをしながらチェックすることもできますよね。こうした体制を持つのは、ヨーロッパとか北米欧州の会社では当たり前なんです。自国の人達のみでゲーム開発し、分からない言語をゲームに組み込んで、指示に合わせてテキストを直しているのは日本と中国だけなんです。やはり、その言語がわかる人の監修のもと、組み込みをすることが重要だと思います。
――それが、(今の段階で)AGMが力をいれていこうとしている事ですね。
樋口:
これまでにもこういう構想はあったんですが、やっと実現できる段階になってきました。
――ローカライズのコストは、なるべくなら削りたいと思っているゲーム会社さんが多いと思うのですが、組み込みを含んだパッケージを選択するメリットはなんでしょうか。
樋口:
組み込みを一緒に発注していただくことによって開発の手があくので、次のプロジェクトの準備や、他のことができるようになるといったメリットがありますね。まだまだローカライズという作業に詳しくない開発会社の方も多いので、そこも含めてお手伝いできるかなと。
――より包括的なローカライズが可能になるんですね。ありがとうございました。
本稿を読み、アクティブゲーミングメディアのローカライズに興味を抱いた方は、こちらから気兼ねなく問い合わせてみてほしい。