同人弾幕シューティング『Hellsinker.』突如ダウンロード版配信開始。12年の時を経て愛される名作が手軽に購入できるように

2007年のコミックマーケットC72で販売されたのち、カルト的な人気を集め、入手う困難だった同人シューティング『Hellsinker.』が突如としてダウンロード販売された。傑作と名高い作品が、1000円で購入可能だ。

2007年のコミックマーケットC72で販売され、カルト的な人気を集めた同人シューティング『Hellsinker.』。難解なシステムと世界観を持ちながら、奥深いゲーム性と演出 は今でも色褪せない魅力を放つ。そんな『Hellsinker.』のダウンロード版が、2019年1月20日、12年の時を経て突如配信された。現在作者のBOOTH(https://tonnor.booth.pm/items/1187721)から購入することが可能で、価格は1000円となっている。幾度も再版が繰り返されてきた本作だが、近年は品切れ状態であることが多かった。手軽に入手できるという意味でも、ダウンロード版の公開は嬉しい限りだ。

『Hellsinker.(ヘルシンカー)』は、ひらにょん氏の個人サークル「RUMINANT’S WHISPER」によって制作された縦スクロール弾幕シューティングである。ひらにょん氏(TONNOR、とんのり丸などの名義もある)は、覚えゲー要素が強く高難易度ながら、独特のセンスとSTGの枠を壊すような演出で注目を集めたフリーゲーム『らじおぞんで』(2002年)を制作した人物としても知られる。『Hellsinker.』は、そんな『らじおぞんで』に続いて開発されたSTGであり、2007年に発売された。『東方Project』だけにとどまらず、すでにバラエティに富んだ良作がいくつも製作されていた同人シューティング界隈にあっても、本作は異様な存在感を放っていた。断片的かつ独特の言語センスで描かれる難解な世界観、まるでRTSのようなパラメーターの多さ、クセの強い自機と操作体系、そしてそれらに迷うプレイヤーを絶望させるマニュアルの分かりづらさ……。とっつきづらい要素が多々ある本作だが、それでもなお、このゲームは数多くのシューターを惹き付け、以降のインディーSTGにも大きな影響を与えることになった。2017年には発売10周年を記念してオンリーイベント「銘憶の霊廟」が開催されており、ファンから長く愛されるゲームでもある。

個人で制作されたゲームでありながら、『Hellsinker.』はゲーム性、ストーリー、演出、BGMのどれもが隙なく作り込まれており、極めて完成度が高い。複雑なシステムはいずれも使いこなせば非常に強力だ。敵の激しい弾幕に対する対処は「避ける」以外の解答がいくつもあり、常識にとらわれないアグレッシブなパターン構築が楽しい。キャラクターはどれも非常に個性的かつ強力で、ショットとボムだけでは厳しい場面も、サブウェポンや溜め撃ちを活用すればゴリゴリ攻略できたりする。また、見た目に反して本作の難易度は実際のところそこまで高くない。非常にエクステンド数が多く、また能動的にランクを下げることができるため、初心者でも十分にクリアを目指すことができる。クリアを目指す過程で少しずつ稼ぎを意識させていくレベルデザインも逸品。ステージや敵には隠されたギミックが大量にあり、稼ぎを意識し始めると『Hellsinker.』は全く違う顔を見せてくる。

主人公たちの目標は、孤島に浮かぶ「カーディナルシャフト」の制圧。SD画質のグラフィックは現代のゲームと比べるとさすがに劣るが、敵戦艦を攻略しながらはるか遠くに見える孤島へ接近する3面、迷路のような地形をくぐり抜け地下の中枢を破壊する5面、上層に鎮座する目標を目指して塔を駆け上がる7面と、そのステージ構成は今プレイしても非常に熱い。音楽とステージ進行が同期する演出も素晴らしく、ラストステージの演出は圧倒的な高揚感を与えてくれる。エレクトロニカなBGM群も高クオリティで、ライトモチーフを活用する手法は同じく個人制作の『Undertale』に近いかもしれない。全8面構成だが、ルートが選択できるステージが複数あり、ラスボスも3種類用意されていて、おまけにエクストラステージも2つあるためとてもボリューミー。ストーリーは複雑だが、ステージ間にサウンドノベルがしばしば挟まれるという独特の構成によって、STGとしては非常に文章量が多い。断片的な情報をかき集めながらストーリーを自分の中でまとめ上げる感覚は、『Demon’s Souls』のストーリーテリングを彷彿とさせる。

とっつきづらくはあるが、手に取ったものを魅了して離さない『Hellsinker.』。そのとっつきづらさは、ダウンロード版の公開による入手難易度の低下で、多少やわらいだのではないか……と思う。これを機会に、是非一度プレイしてほしいゲームである。

Takumi Kuriki
Takumi Kuriki

気になった国内外のゲームをつまみ食いしながら過ごしています。LoLとハクスラは一生の友達。

Articles: 35