『キングダムハーツ III』にも登場する「くまのプーさん」は、中国では画像から“消される”
近代社会が成立する前、まだ王様がいた時代、王の実名をそのまま口にしたり、文字として書くことが禁止されていた。それはいわゆる「諱」、つまり実名を敬避する(敬って避ける)習俗である。それが、現代になったいまの中国社会には、別な形として残されている。中国のインターネットでは、国家主席などの名前はよく「敏感詞」と分類され、ときに検索不可になるか、ときにSNSにてその名前を含むつぶやきを投稿できなくなる(投稿しようとするとエラーが表示される)。
この新たな形の諱には、偉い人達の愛称、あるいはシンボルも含まれている。たとえば、中国の国家主席習近平氏は、2013年米国に訪問する際、当時の大統領オバマと一緒に歩く姿がくまのプーさんと似ているとネットで話題になり、以後、くまのプーさんが、中国のネット民にとって時々習近平氏を指す固有名詞になっていた。
2013年、米国大統領との面会のあとの習近平氏を映した画像が話題を呼んだ。当時は「くまのプーさんに似ている」ということがネットでミームになっており、2013年当時中国のSNSにてくまのプーさんの写真投稿が全面的に禁じされた。その後、海外のメディアに報道されたことで、この規制は緩んだ。
この影響は、ゲームにもまた及んでいるようだ。11月10日、スクウェア・エニックスが『キングダムハーツ III』の最新トレーラーを公開した。注目されているゲームタイトルのため、中国のゲームメディアおよびコミュニティもまた、この最新のトレーラーを中国向けに転載した。『キングダムハーツ III』の最新映像はすぐ中国ゲーマーの話題になったが、その理由は『キングダムハーツ III』そのものの話題性だけではない。くまのプーさんがこのトレーラーに登場したこともまた、注目を集めたのである。
ゲーマーたちはすぐこのニュースに関するくまのプーさん(および習近平主席を示唆する)関連のミームとネタをコメントし始めた。そして間もなく、影響力があるいくつかのゲームアカウントに関連するWeiboの投稿が消えた。
Weiboにてくまのプーさんに関連するコメントを投稿したからといって、習近平氏との直接な関連がない限りは、Weibo管理者から削除されることはおそらくないだろう。実際、いまでもトレーラーに関する当時の投稿がいくつか検索できる。問題のポイントは、くまのプーさんが出演する動画、写真、画像などにゲーマーたちが「危険な」コメントを残しかねないことだ。影響力あるゲームアカウントは、そういった問題から逃れ、自分のアカウントを保護するために、自主規制で自ら削除するという道を選ぶわけだ。
いまWeiboにて「キングダムハーツ」(中国語:王国之心)というワードを検索をしてみると、フォロワー数81万のゲームコミュニティA9VGの投稿が上位に見つかるだろう。こちらの投稿も、自主規制でくまのプーさんが隠れる加工が施されている。
そうせざるを得ない理由として、前述したように自主規制を行わないとアカウントが永久に使えなくなる恐れがある。筆者が某Weiboのゲームアカウントの管理者に問い合わせをしたところ、「万が一のことを防ぐために、最初から投稿しないか、早めに削除したほうが身のためです。このことでアカウントが潰されたら、話にならないでしょう。」との返事をくれた。
くまのプーさんが含まれたトレーラーの投稿は、個人のアカウントにも影響を及ぼした。下記のユーザーは、くまのプーさんに関して「くまのプーさんがありえないことをした」というコメントを残したことで、アカウントが使えなくなったという。
『キングダムハーツ III』のみではなく、今年8月にディズニーが公開した、くまのプーさんの実写版『プーと大人になった僕』も中国国内では上映されず、話題になった。こちらもおそらく今回の事件と同じく、映画産業での自主規制の一環であると考えられるだろう。